『奈落の鑑賞記録と、創造主の逆鱗』
深夜、午前2時。
静まり返った神界中央創造局で、ソウゾウの目はギラリと鋭い眼光を放っていた。
彼はデスクのマルチモニターに向かい、いつものように鉄壁の隠蔽を施しながら、4つ目の奇抜な世界『空しかない世界』を美しくメンテナンスしていた。
だが、今夜の彼の目的はそれだけではなかった。
ソウゾウは周囲に神々がいないことを劇画調の鋭い視線で確認すると、懐から、昼間の現場検証のドタバタの最中に誰にも気づかれぬようエレガントに全て確保しておいた「証拠の複製」を静かに取り出した。それを端末へと接続し、凄まじいタイピングスピードで並列ハッキングでの精査を開始する。
パーティションから顔を出したカイゾウが、画面を覗き込みながらふと疑問を口にした。
「なぁソウゾウ。あいつら、あれだけ巧妙に不正を隠せる頭がありながら、なんであんなに大量の証拠をその場に残したまま逃げたんだろ?」
ソウゾウのスマートな指が一瞬止まり、眼鏡をクイと押し上げ、冷徹な眼光をモニターに向けた。
「フッ……簡単なことだ。奴らは優秀に見せかける天才。だからこそ、すでに自分たちの悪事がジャス先輩や周囲に露見し始めている(バレている)と、瞬時に察知したのだ。奴らにとって、今さら小手先の証拠隠滅(データ消去)に時間を費やすことなど、1ビットの価値もない愚行。それよりも、すべてを置き去りにしてでも今すぐこの場を去る(逃亡する)ことこそが、最も生存確率を高める『最適解』だと演算したのさ。実に見事な合理性の放棄……!」
敵の冷徹なまでの頭の良さを分析し、ソウゾウは額から冷や汗を流しながらも、極上の知的悦びに深く浸っていた。
「だが、その完璧な計算が、この私をも欺けると思ったら大間違いだ。公式の捜査は監査グループに委ねられたが、あ奴らが残していったこの証拠の数々……。今からその『目的』を、私のパッション(情熱)を以て精査させてもらう」
ソウゾウの天才的な能力により、取り出した複製暗号データが次々とエレガントに解読されていく。
しかし、暴かれた彼らの「真の目的(悪事の全貌)」を目にした瞬間、ソウゾウの思考が完全に停止した。
そこにあったのは、言葉を失うほどの悪逆非道の数々。神界の歴史の闇に葬られた、凄惨極まる「世界の鑑賞記録」であった。
『ファイル01:魔力抽出による緩やかな衰退の観測ログ』
とある世界から魔力を少しずつ吸い出し、そこに生きる生命たちがじわじわと衰え、絶望していく様を、データとして愉しげに観察・記録したファイル。
『ファイル02:反転コピー魔法による自滅スペクタクル』
またある世界では、住人たちの「反転したコピー」を作り出す魔法を人為的に暴走させていた。姿形は同じでありながら、オリジナルを憎悪し、殺し合うように設定された鏡像の軍勢。自分と同じ顔をした存在と血みどろの殺し合いを演じさせられ、最終的に世界が絶滅へと発展していく様を、冷徹に記録した兇行のログ。
『ファイル03:魔法科学の臨界突破――天上の花火』
正式にある世界では、魔法科学を意図的に限界まで発達させ、最期に惑星ごと大爆発して消滅していく様を、まるで『花火』でも観るかのように楽しげに特等席で鑑賞していた最悪のエンタメ記録……。
一体いつから、どのくらいの期間に及んでいたのか。並び立つ悪逆非道の数々に、ソウゾウの浅薄な中二病の笑みが完全に消え去った。
彼の顔面が、血管の浮き出るほどの劇画調の「真のブチ切れ顔」へと変貌する。額からはドロッとした大粒の冷や汗、しかしその瞳には、世界のクリエイターとしての絶対の怒りの炎が滾っていた。
(世界を……生命の輝きを……! 己の退屈を紛らわすためのただの使い捨ての玩具として消費していたなど……っ!! 許さん……! この私のパッション(情熱)を以て、この歪んだ虚無の悪を決して赦しはしない……っ!!)
横でデータを覗き込んでいたカイゾウも、いつもの軽いノリを完全に消し去り、拳を血が出るほど強く握りしめていた。
「あいつら……最高に胸糞悪いバグだな。ソウゾウ、上層部の監査グループのスピードじゃ、この悪の根減には間に合わねえ。俺たちの手で、一刻も早く奴らを追い詰めるぞ」
ソウゾウは無言で深く頷いた。
眼鏡の奥の目を怒りに燃え上がらせ、キーボードを破壊せんばかりの猛烈なキータッチで、取り出した「非道のログ」から、次なる移動の痕跡を狂ったように辿り始めるのであった。




