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第十二話

 昼の光が森の間から差し込み、葉の影が地面に揺れる。

 ルシアは胸元の光を抱え、川沿いの小道を慎重に進む。

 風は穏やかだが、どこか重苦しい空気が混じる。

 神界――アウレアの圧が、肌にじんわりと触れるように感じられた。

 「……ルシア、大丈夫?」

 ミカが隣で声をかける。

 肩までの茶色い髪が光を受け、柔らかく揺れる。

 瞳は光に映り、真剣な色を帯びる。

 小さな手を少し前に出すが、触れずに光を見守る。

 ルシアはうなずく。

 胸の奥で、痛みと覚悟が絡み合う。

 光は手の中で微かに震え、守るべきものとして存在感を放つ。

 握れば痛みが走る。緩めれば消えてしまう。

 川向こうにヴァルの影。

 姿勢を崩さず、距離を保ったまま視線を送り続ける。

 声はなく、存在感だけで二人の動きを制御するようだ。

 突然、光が手の中で激しく震えた。

 ――神界の圧だ。

 冷たく理屈のない力が、世界の端から押し付けられる。

 ルシアは呼吸を整え、手を閉じて光を抱え続ける。

 痛みが胸の奥で燃え上がる。けれど、手を離すことはできない。

 ミカは少し距離を縮める。

 触れない。視線で光を追うだけだ。

 恐怖はない。純粋な共感と信頼がそこにある。

 「……信じてるよ、ルシア」

 小さな声。

 震えも力もなく、ただ事実として、ルシアを信じている言葉だった。

 ルシアは答えず、光を胸に抱え、歩みを止めない。

 川面に映る昼の光が二人の影を長く伸ばす。

 歩幅を揃え、互いの存在を確かめるように進むその一歩一歩が、世界に小さな波紋を広げる。

 ――光と祈りが、今日も世界を少しずつ変えていく。

 胸の奥で痛みと覚悟が絡み合い、確かな手応えを感じた瞬間だった。

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