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夢想少女  作者: *amin*
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12/20

12 少しずつ近づいて

「春哉、ラーメン食べに来た」

「お!よぉ幸」


夏休みに入って1週間、そろそろ夏期講習も始まる間、俺は暇な日全てバイトを入れていた。

幸は結構頻繁に通ってて、今ではもう皆と顔なじみだ。



12 少しずつ近づいて



あの日以来、俺は幸に何かを求めるのは極力控えた。

幸にとってそれは重荷になってるって理解したから。ただ一緒に入れるだけで幸せだ、そう自分に言い聞かせた。

それで上手く行ってるんだ。何も悪い事なんて起きてない。

今のままで大丈夫、大丈夫なんだ。

すっかりバイト先の先輩たちと仲良くなった幸はラーメンを持ってきてもらうついでに仲よさそうに喋っている。

それをポケーっと見てたら他の先輩に働けって怒られた。

だって彼女が他の男と仲よさそうにしてたら気が気じゃないっつーの。

少しだけもやもやしながら、俺はラーメンに乗せるためのネギを切る作業に戻った。


「春哉、いつ終わるの?」

「え?バイト自体はあと1時間かな」


ラーメンを食べ終わって少しのんびりしてた幸が俺に話しかけてきた。

今の時間は19時。16時から20時までのシフトだから後1時間でバイト自体は終わる。

まぁまかない食って帰る準備したら20時30くらいになるんだけど。

客にラーメンを持って行った後に幸に質問の答えを告げれば、幸は少し考えて俺に振り向いた。


「あと1時間いていい?一緒帰ろうよ」

「え、いいけど」

「夜道は危ないからね、ボディーガード必要じゃん」

「あ……ですよねー」


何だよ。そういう意味かよ……物凄い恋人同士の会話じゃんって舞い上がったのに。

でもまぁ幸はツンデレだからな。きっと心の中では俺と帰りたいって思ってんだなこれが。

超プラス思考な事を考えて、今日はまかないを食うのを止めようと心の決めた。

だって幸待たせちゃ可哀そうだもんな。今日は我慢だ。家に帰ったら何か適当にあるだろうからカップ麺でも食えばいいか。

あー幸を待たせるのは悪いなぁ。早く時間たたねぇかな。


時間が早くたてーと思えば思うほどたたないのはお約束って言うやつだろうか。

1時間が経過するのに気持ち的には1時間30くらい我慢した様な気がする。

客足も少しずつ途絶えていくけど、今日は金曜日。23時くらいから飲み帰りのサラリーマンで賑わってくる。

そんなのに巻き込まれるのはマジで勘弁だ。

俺は先輩立ちに頭を下げて着替えができる荷物置き場に向かう。

チラッと幸を見てみると、幸はケータイをポチポチといじっていた。暇そうな顔してるな。マジで申し訳ない。

できるだけ急いで服を着替えて幸の元に向かう。俺に気づいた幸は立ち上がってカバンを持った。


「お疲れ」

「ごめん、暇そうだったな」

「まぁね。ケータイいじってたら電池無くなった」


そう言って笑う幸を可愛いなぁと思いながら幸がラーメン代を払って店を出る。

外は蒸し暑くて、入り口のドアを開けた瞬間、生ぬるい風が俺達を包み込んだ。

俺はバイトの時に使ってるタオルを首に巻いてチャリを動かす。


「春哉それおっさんみたい」

「うっせー。だって暑いんだよ」


幸を後ろに乗せて二人漕ぎ。最近これが日課だから脚力ついてきた気がする。

幸は俺の後ろで大人しくしてる。このまま家の近所まで毎回送る訳。

その間にぽつぽつ会話しながらチャリを漕ぐ。

でも今日は少し違った。


「春哉、今日このあと少し時間ある?」

「えー30分程度なら。一応21時には帰りたいからさ」

「じゃあ30分どっか寄ろうよ」

「どこに?」

「近くの公園」


あ、あそこか。いつも幸送る時に通る公園か。

俺は頷いて、その公園に向けてチャリを飛ばす。

幸からどこかに寄ろうなんて滅多に言わないから少し心の中で舞い上がってた。

俺の背中にしがみつく力が少し強くなった気がした。


「幸、くすぐってぇって。もうちょい緩めてよ」

「ちょっとぐらい我慢しなよ」


そうピシャリと告げられて、俺は軽く笑った。

相変わらず口は悪いけど、やる事は可愛らしい。これが幸のデレって奴だ。

そのまま黙ってチャリを漕いでると、幸がぽつりと言葉を口にした。


「春哉、ありがとね」

「んー?」

「あんたもあたしなんかじゃ不満じゃない?ままごとの様な恋人でさ」

「何だよ。そんなん思った事ねぇよ」

「……そっか」


幸は軽く笑ったけど、そのまま黙りこんでしまった。

何かあったのか?急にどうしたんだろ。

じわじわと暑さが俺を襲い、頬を伝う汗をタオルで拭いた。

幸は何も喋らない。ただ黙って俺にしがみついてる。


「なぁ幸」

「ん?」

「俺、少しは幸を満足させてる?」

「全然」


あ、さいですか。分かっちゃいるけど少し傷つく。

あからさまに項垂れた俺が可笑しかったのか、幸がクスクス笑ってる。

いや、ここ笑う場所じゃない。

ジト目で振り返れば危ないから前を向けと怒られて渋々前を向いた。


「春哉、ちょっとずつ近づいてね」

「は?何に?」

「あたしに。あたし以上にあたしの事理解して」


難しい事言ってくれるじゃないか。

でもやってやろうじゃないか。それで幸が満足できるって言うのなら。


「……上等」


全て理解してやるよ。悲しい事も嬉しい事も。

だからもっと俺に全てを見せてくれ。



君の体温を感じる金曜日、

 全てを理解するからもっと近づいてくれ。


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