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神崎の流儀 ①

昼過ぎの喧騒に満たされた街並み、その3階にあるファストフード店から眼下の通路を見ている若い男がいる。

ピンクよりの金に染めた短髪と複数空いたピアスにタトゥーが目立つ風貌から周囲の席に客が寄り付かないでいる男は無頼連合からアンリの監視を任された寺内と呼ばれている者だ。


寺内は1時間程前にアンリと名称不明の付き人が入ってビル型のカラオケ店舗の入口を見ながらストローを口に運び思案していた


神崎夫妻の監視を強めるって話だけどなんの為なんだ?

向こうは新興組織とはいえ、有り有り無しのディープなアングラの戦いで派手な戦勝を飾ったサラがいる。

抗争となれば簡単に潰せる筈がないんだが・・・。


カラオケ店舗を見ていた目を僅かに上に向けた寺内は、ガラスの反射に映った者の姿を視界に収めると一息で飲み物を空にし隣に座った者に口を開く。


「・・・なんでここが?」

「聖書に神は汝の行いを常に見てくださる。ってあんだろ。聖職者の目は千里眼さ。」

「ふざけてんっ!?」


ブチンっ、と音がし数拍の遅れで爪が剥がされた痛みだと気付き、絶叫を口から放とうとした喉にカイネの手刀が入り口元を覆うように飲み終えた紙コップが口に押し込められる。


「公共の場で騒ぐんじゃねぇよ。馬鹿みてぇな頭に似合う奇行をしたいってんなら私が帰ってからにしな。」

「っっぅ〜〜!。ふっごおふぞっほへめぇ!?」

「お前程度じゃ無理だよ。人語を喋れるまで成長してから凄むんだな。」


口元を押さえていた手が撫でるように上に動くとベキッと軟骨が潰れる音と共に鼻が横に曲がり血が横溢した。


「おいおい店内を汚すとは躾がなってない奴だな。これ以上迷惑をかけないよう外へ行こうか。」

「ふぁれがひぃくか。ひへ。」

「オーライ。素直になれるよう指導してやる。下を漏らさない事だけ頑張りな。」


脇腹を穿つナイフの柄と激痛にくぐもった声を作る寺内は髪を掴んだカイネの机への振り下ろしで意識を飛ばした。




寺内が監視をしていたカラオケ店の3階奥の突き当たりの部屋は十名以上が使用出来る大部屋だが常に予約が入っている異質な部屋だ。

アルバイトも店員も部屋への清掃や飲食の運搬、室内架電による連絡もしないよう店長から伝達がされており、部屋を監視するカメラも落とされていた。


そんな異質な部屋でベッドに寝転び通話をしていたアンリは扉が開く音に視線を向けた。


「うん、そうそう。多分数日内に返答出来ると思う。そっちに送る際に何かほしいものあればついでに積めるから。」

「〜〜〜〜〜。」

「あぁ、いいよいいよ。サービスさ。友人への見栄ってね。」

「〜〜〜〜〜。」

「あぁ、気候がね。暑いのはこっちと変わらないけどそっちは今雨季でしょ?水害とマラリアに気を付けてね。」

「〜〜〜〜〜。」

「オッケー。じゃあまた。」


スマホをテーブルに放り投げたアンリは気絶した寺内をおんぶしているカイネに手を挙げる。


「お疲れ、やっぱ向かいにいたでしょ。」

「あぁ、アホが騒ぐから軽く刺しちまったが大丈夫かこれ?」

「うーんまぁ俺の身体じゃないしホッチキスでパチンと止めとこうか。」


ベッドから立ち上がり、後ろ手に拘束した寺内の脇腹の刺し傷をホッチキスでバチバチ止めてからバーナーで焼いて止血したアンリは絶叫をあげ悶える声に微笑む。


「治療中だから暴れちゃ駄目だよ〜。後は・・・まぁトイレットペーパーでぐるぐる巻いとこ。」

「オーライ。じゃあさっさと済ませな。私は寝てるから静かにな。」


先程までアンリがいたベッドを占領したカイネはノイズキャンセリング機能のあるイヤホンを耳に布団を被った。

その姿に苦笑し部屋の明かりを少し落とし薄暗くしたアンリは怯えの表情を浮かべこちらを伺う寺内を見る。


「こんにちは。君は確か・・・寺内君だったかな?災難だったね。」

「あ、あ・・・?」

「状況がわかっていないんだね?大丈夫ちゃんと答えるよ。

君は俺が管理している監禁部屋に捕らえられた哀れな人さ。」


ね?と室内を見渡せるように横にズレたアンリは言葉を続ける。


「普段は敵対関係者の追い込みや洗脳、そっち方面から保護といった用途で使っているんだ。

室内シャワーも完備しているし防音だから素敵な歌声はもちろん絶叫しても構わない。」


寺内をボディチェックし取り出したスマホの電源を切ると充電器に差し込み頷く。


「他に質問があるなら答えるよ。」

「か、神崎君・・・俺死ぬんすか?」

「ん~~ふふ、それはまぁ君が友好的かによるんじゃない?ほら、一応俺って土屋さんとは揉めてる立場だし。」


部屋の隅に転がっていたゴミ袋と中の青いビニールシートを手に広げたアンリは強い異臭と赤黒いシミがこびりついた面を上にし指さす。


「ったく。汚したら買い替えろって言ってあるのに・・・あぁすまないね。小汚いシートで悪いんだがここに移動してくれるかな?」

「か、神崎君・・・待ってくれっ!?」

「重ね重ねすまないが話をするにはここに移動してもらってからだ。

ほら、床が絨毯だから体液で汚れると掃除が大変なんだよ。このシートの上なら血も嘔吐も糞尿でも漏らしてもらって構わないからお客様はここって決まってるんだ。」


テーブルの上に置かれたハサミやバーナーを手にしたアンリを前に大人しく移動した寺内は浅く短い呼吸を繰り返し俯いた姿勢で頭を下げる。


「待ってくれ・・・何をすりゃ助かるんだ?」

「助かるって・・・困ったさんだね君は。

いいかい寺内さん。俺は君に毛ほども期待しちゃいない。君程度に出来る事に不自由はないし君程度が持ち得る情報にも興味ない。

土屋さんへの欺瞞報告はスマホで済むし今の君では俺と交渉出来る価値はないんだ。」

「神崎君・・・そこを・・・なんとか・・・。」

「わかるよ。俺もガキの頃似た境遇にあった事がある。ストレス解消代わりにサンドバッグのような扱いをされながら必死に媚び売ってリマ症候群に陥らせるまで耐えたんだ。

辛く厳しい日だった。今でもあの日をフラッシュバックし、今の俺なら上手く立ち回れたと反省しきりな日々だよ。」

「リマ・・・?」

「・・・君はそれでも日本人か?

いやそもそも悪党ならストックホルム症候群とリマ症候群は心理学上の対策として必須知識だろ。」

「す、すいません・・・。」


無知を装うのではなく偽りなく落ち込む声に、マジかよ。と項垂れたアンリは手にしていたハサミとバーナーを置く。


俺が人間として扱う知的水準にまったく届いていない・・・こんな人語を解するだけのサルを追い込んで土屋さんに届けた所で意味あるのか?

動物虐待の誹りは週一でアニマルカフェに通い癒されている身としては避けたいんだが・・・。


「うぅ・・・何故サルを相手にしなくちゃいけないんだ。」

「さ、猿?」

「君がせめて人間の水準であれば土屋さんへのメッセージ役として使えたが、ここまで教養が足りないと紙切れ一枚の価値すら見出せない・・・困った。」


項垂れたままのアンリはオロオロしながら数秒考え手を叩く。


「君に人間性を求めるのは酷だ。だが保有資産は今の社会を回している人間が作った偉大な産物だろう。

金融、物資、人的、知的、種別は問わないから保有資産を開示しなさい。

その中から使えるモノがあるか判断する。無いなら・・・動物虐待の誹りを受ける事を覚悟して処置するよ。」


割り箸の先に短く割ったカッターの替刃を挟みテグスで固定した棒を手にしたアンリは微笑む。


「安心したまえ。どんな人見知りでも小粋なトークがしたくなるよう状況を整える位は手伝おう。」


寺内の曲がった鼻に棒を突っ込むと絶叫を無視して刃先を回しながら位置を整えていく。

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