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対極の日々

新東名のSAにて茜色が夕闇に変わる空を見上げていた土屋は遠くから聞こえてきたエンジン音に振り返り一度伸びをする。


ん~~。あぁクソ面倒な時間が始まるか。


SAの駐車スペースの端に停めてある愛車から1スペース分空け並ぶ幹部達の車列に手を挙げ近づく。


「神崎夫妻と組織の動きは?」

「サラの方はセーフハウス近くのコンビニオーナーと会食してます。

アンリは高層マンションから動き無し、派閥の有力者の何人か県外にでましたが下の者に生活ペースに乱れ無しっす。」

「俺に気取れているのにか?」

「・・・ですね。」


目を覆うように手で顔を掴み、帳を降ろしつつある空に笑う土屋は口端を歪める。


「神崎に属する幹部を洗い出せ。住居、仕事、生活習慣、知人と全てだ。」

「目立った奴らは既に進めてんですけど前情報と特に変化無しっすね。ただ・・・。」

「何か気になる事でも会ったか?」

「最近、神崎の所で女?小柄な男の可能性もある奴が目撃されてんですけど・・・張らせてるガキ共曰くなんかわからないけどヤバいって話っす。」

「・・・画はあるか?」


ドライブレコーダーの映像を再生するスマホを受け取った土屋は、買い物袋をアンリに持たせアイスを齧る人物を見る。

同時に目が合ったか気がし、その歪に笑う表情と何かしらの会話で制止しているアンリとのやりとりを終え画角から外れるまでの短い動画を3度程しっかり観察し自身のスマホを取り出した。


「ハハ、こりゃ確かにやべぇ奴だな。んで多分こいつだ。」


幹部達が顔を突き合わせ見るのはボーリング場で行われた粛清動画だ。

数分の短い時間に流れ作業さながら殺す雨合羽の者と対峙した6人の動きは、台本でもあったのか?と疑う程に手慣れた動きである事に恐怖を覚えた。


「数日前に海外サーバーのエログロ系のアングラサイトに上がったスナッフビデオだ。

隠蔽されているがサイトの管理者はケンとマナ。神崎のネットビジネスの1つだ。」


口に咥えたタバコを近くの者が差し出す火を受け紫煙を肺に取り込む。


「リュウ・・・だったか?斉村を嵌めた馬鹿の名は?」

「リョウっすよリョウ。今は俺が飼ってる女の家で匿ってます。」

「・・・神崎との交渉に使えるかもしれないから逃がすなよ。」

「っす。何かあれば対処出来るよう躾した女も置いときますんで。」


任せる。と言葉と紫煙を吐き出した土屋は神崎からどれほどの譲歩を引き出せるかを思案する。






「だからなぁ。コンビニ飯は美味いんだ。酒にも合う。そうだろ?誇れる仕事じゃないか。」

「そうかなぁ?ただ、本部とアルバイトに板挟みになってるだけで・・・誰にでも・・・。」

「誰にでもって私は出来ないぞ。ほら、よく見ろ私を。

粗暴だから接客なんざ出来ないし、美味そうなもんがあったら食っちまう。酒も断てない金勘定も苦手だ。

そしてそんな私が最高に好きだから直す気もない。」


ケラケラ笑いながらピッチャーで頼んだビールをそのまま飲むサラは向かいでおどおどした中年の男、森田の目を見る。


「誕生日なんだろ?今までの自分が頑張ってきたから今日を迎えられたんだ。

そんなお前の仕事も生き方も私は好きだ。偶にくれる廃棄弁当やイートインスペースでお昼寝してても怒らないのも気に入っている。

いいか?他人に優しく出来るのは凄い事なんだぞ。もっと誇れ。今日位は胸を張って偉そうにしろ。私が許すし文句は言わせん。」


他のお客と隔離された個室と机に並ぶ高そうなコース料理を見ながら苦笑した森田は頷き背筋を伸ばす。


「歳もあるし、仕事が忙しくて誕生日とか疎かだったけど久しぶりに誰かに祝ってもらうと凄く照れくさいね。」

「そうだろそうだろ。なぁに、今日は私の奢りだ。プレゼントもあるからまだまだ照れされるぞ。赤面が恥ずかしいなら先に酔っておけば言い訳になる。」

「そうするよ。ありがとう。」


満開の笑顔で差し出された注文用のタブレットを受け取った森田は、魅力的な人だ。と思う。

目を引く程に美しい容姿、がでは無い。

他人を尊重出来る余裕を持ち、欠点ではなく長所として褒められる人。

それでありながら自身と他の者の価値観に差異がある事を認め、それならそれでいい。と認識に影響を受けないと感じさせる自信に満ちた生き方が堪らなく魅力的だと思う。


「共にいられる神崎君が羨ましいよ。」

「ん?なんだなんだ一緒にいたいのか?いいぞ朝まで飲むか。」

「嬉しいけどサラさんのペースでは飲めないからなぁ。後、明日もシフトが・・・。」

「そうなのか・・・ちょっと待ってろアンリに相談する。」


少ししょんぼりとしながらスマホを恐る恐る触れるサラはワンコールで出た相手と話しながら少しの時間でピッチャーを飲み干し空にした頃、森田にスマホを差し出した。


「アンリからだ。誕生日を祝いたいってさ。」

「神崎君もかい?いや、本当にありがたいなぁ。」


受け取り、もしもし、と言葉を置き、スマホから届く顔馴染みの聞き慣れた声を聞く。


「森田さんお誕生日おめでとうございます。

直接お祝いしたい気持ちもありましたが祝い酒の席に他の男がいるのは面白く無いだろうと遠慮させて頂きました。

サラが迷惑をかけたら後で教えてくれればこちらで対処しますので今日を目一杯楽しんで貰えれば幸いです。」

「あぁ、ありがとう。神崎君の誕生日はささやかでもお祝いさせて貰うよ。店のケーキ位しかあげられないんだけどね。」

「大変恐縮です。普段のお礼ですのでお気遣いなくとも構いませんよ。

あ、それと明日のシフトはアルバイトの方達と連絡が付きましたのでお休みされて大丈夫です。多分彼等から連絡が届いているんじゃ・・・。」


ポケットのスマホからLINEの着信音が鳴り見た文字列は、朝、昼、夕、夜間のアルバイト達からの誕生日を祝う言葉とシフトに不備も不足もないから休む事を促す文面だ。


「・・・神崎君。」

「店前のホテルに神崎の名前で宿泊の予約を入れてあります。

部屋に世話役としてデリヘル嬢も用意してありますので心置き無く楽しんで下さい。」


それでは失礼します。と切られたスマホをサラに返した森田は一度頬を搔く。


少し前に店の駐車場で若者が迷惑行為をして困っていた事を神崎君に話したら、数日後にはいなくなった事があった・・・。


「もしかして神崎君やサラさんって怖い人?」


つい口に出した言葉に、しまった。と思う森田は、肯定されたどうしよう。背筋に鈍い汗を感じながら恐る恐るサラを見る。


「ん?怖い人っていうと組員とかの事か?なら私達は違う。

偶にヤンチャな奴らとも喧嘩や遊ぶ事はあるが概ね平和的に過ごしているしな。」

「ほ、本当に?なんか神崎君が、店前のホテルにデリ・・・その女性を待たせているとか言ってたんだけど?」

「あぁ、友人が経営している風俗店の店員か。私とサシで飲むとペースを乱されて急性アルコール中毒になる馬鹿が偶にいるんだ。

ぶっ倒れたままほっとくと危ないが落ち着くまで看病するのも手間だろ?それで呼んでる女さ。」


扉が開かれ追加の酒類とコース料理を運んできた女給に会釈をした森田は、なんともないような気軽な口調で続く声を聞く。


「代金は支払ってあるから手を出してもいいぞ。大抵は酔いすぎて添い寝で朝を迎えて後日嘆いているって聞いてるけどな。」

「ん~~っと。ふふ、いや、深くは考えないよ考えない事にする。今日みたいな祝いの席は今後無いかもしれないし。」

「おいおい寂しい事言うなよ。私は来年も祝う予定でいるんだぞ。」

「それは・・・うん。嬉しいなぁ。期待して良いの?」

「お前が独身ならだ。嫁さんと不仲にさせる趣味はないからな。」


ケラケラと笑うサラを前に、釣られて笑う森田は一時の確かな幸せと充足感に一抹の不安を隠すようにグラスを傾けるペースを速めていく。

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