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アマネの価値

月が空を照らし星が空を飾る時刻、店内の喧騒から扉一枚挟んだ個室居酒屋にて女子会と称した会合中のアマネは、酒の勢いも借り愚痴を止め処なく溢し続け、それをにこやかに受け止めるマナがいた。


「あ〜それは災難でしたね。」


喜色を声に乗せた慰めの言葉に俯いたまま頷くアマネは椅子を挟んだ対面で微笑むマナの続く言葉を聞く。


「神崎夫妻はどっちも頭プッツンだから怖いですよね〜。ずっと一緒にいるとか気が触れそう。」

「そうなんです。手に触れ、目に見え、感じるモノ全てを明確に損得の線引きして損となれば容赦無く人的資源扱いですよ・・・。」

「知ってます知ってます。その癖、業務外ではある程度の法や倫理、公序良俗は守る二面性とか知れば知るほど気味が悪いのも。」


楽しげに笑うマナはタッチパネルで追加の注文を選びながら、頼りにはなるんですけどね。と笑う。


「まぁまぁ今日は上司もいませんし、陰口でも肴に呑みましょう。」

「後でチクリとかしませんよね・・・?」

「まっさかぁ。アレですアレ、私が諸々捨てて逃げる時が来たら少しの間でも意識を逸らすように利用する程度です。」

「クズ・・・最近会う人、皆クズなんですけどっ!?」

「ふふ、この業界じゃあそっちの方が真っ当です。アマネちゃんもすぐ毒されるから大丈夫大丈夫。」


それって大丈夫なの?と思うが口にせず、本来の目的である会合の議題を言葉にした。


「マナさんの所の従業員にスカウトかけた人の制裁映像確認しましたか?」

「もっちろん。未編集も販売用にモザイク処理した方も堪能しました。

アマネちゃんも手伝ってくれたみたいでありがとね〜。」

「いえ、私はほとんど・・・隅でアワアワしてただけです。」

「それが普通だよ〜。私もケンも組織加入時に共犯意識構築で似た事やらされたけどバケツ抱えてマーライオンのモノマネしてただけよ。」


大ジョッキを顎下に抱え舌を伸ばしてその時の様子を再現するマナに苦笑したアマネも同じだった事をジェスチャーで示す。


「だから気にしないで大丈夫。まぁ陳の所なんかもっとグロいけど制裁とはまた違う職人作業だから関わる事もないだろうし、そっちが苦手なら部下にやらせればいいんだからね。」


扉が開き、注文した酒類とつまみを受け取り会釈をした2人は扉が閉まり気配が遠ざかるのを確認し会話を続ける。


「マナさんはその、スナッフビデオの販売もしてるんですか?」

「そうだよ〜。本業の教職と副業で風俗管理と殺人、制裁系動画のネット販売の3つ。

教職は副業禁止だからどっちも別名義でね。アマネちゃんは神崎さんの下で何始める予定?」

「それがまだ未定で・・・。」

「元々特殊詐欺系だもんね・・・使い捨てのゴミ人材はSNSで幾らでも集まるけど統括やシステム管理は地頭が欲しいかぁ。」

「後、国内で活動するのは斉村さんの失墜を見て少し・・・。」


あぁ、と頷いたマナは串物を口に運びつつ苦笑する。


特殊詐欺系の多くが使い捨てのゴミ人材を多様する反面、足切りに失敗すると芋蔓式になる危険性が常にあるのよね。

本来なら上役まで届かないシステムを組んでいた筈が時代の革新と捜査技術の向上、そして末端や幹部の関係性等の綻びからその背を掴まれる可能性もまた常にあるし・・・神崎夫妻は警察関係にも情報網を持っているって噂だけどそれは捜査撹乱出来る程では無いか。


「決まるまでうちの仕事手伝う?主にエログロ系だけど報酬高いよ?車運転出来るでしょ?」

「グロはちょっと・・・本当、先日の件から肉類が食べられなくなってまして。」

「繊細ね〜。その制裁したスカウトマンは入院って聞いたけど生きてるの?」

「一応は・・・ザキさんいわく退院しても向こうのケツモチさんに回収されて口の中の金歯摘出後に保険等の手続きを終え事故で処理されるって話しです。」

「あら〜人生で二度も口を裂かれて抜歯するなんて気の毒な人。」


楽しげに笑みを濃くし、つまみと酒を煽り飲む。


「ん〜〜っ!?やっぱり不幸な人を肴に飲むと格別に美味しいわ。自分が安地にいるっていうのがまた甘露よね〜。

ほらほらアマネちゃんも飲んで飲んで。トラウマなんてこの業界アホ程抱えるから適度に酒で忘れないと。」

「ネガティブな現実に前向きに向き合う考え・・・器用ですね。」

「そうじゃなきゃやってられないって。私が毎年何人の教え子を風俗に沈めてると思ってるの。」


ケラケラと笑うマナは苦笑するアマネを値踏みするかのように流し見て思う。


神崎夫妻はなぜこの娘を幹部候補にしてるのかなぁ。

前にケン達と会った時からの疑問も直接話せばわかるかもって期待したんだけど・・・軽く話した感じも過去の実績も平凡、むしろこの業界向きじゃない気がする。


組織運営に深く関わっていないマナは、それでも進言の形でアンリに所見を伝えるか迷うが、つまみを口に運ぶ動作で切り替える。


下手な事して面倒抱えるのもアホらしいかな。神崎さんなりに考えがあるんでしょうけどあの2人は条理も道理も無視出来る『悪魔』みたいなモノ。

労働者と経営者では経済やお金に対する視点が違うように、組織運営や人材に対するそもそもの視野が私にはわからないもの。


「アマネちゃんがなんのお仕事始めるかわからないけど手伝いが欲しかったら連絡してね。

ほら、部下を纏めるのに性接待要員が必要ならうちの売れ残り連中持ってていいから。」

「あ、ありがとうございます。やっぱりそっちも必要ですよね?」

「そりゃあ三大欲求は強いし簡単だもの。女って性別を利用出来るようになって初めて一人前。他者も自分も必要なら・・・ね。」


勉強になります。と消え入りそうな小声での感謝に苦笑したマナは、胸に抱いた不可解の回答として、そして上司の行動を知る情報源としての癒着を強める為に交友関係を強化していこうと決めた。







「アマネさんの価値?」

「あぁ、お前はそれなりに遇すると決めているようだから聞いとこうと思ってな。」


高層マンション内のセーフハウスの一室をバーカウンターに設えたプライベート空間でカクテルを作るアンリは、シェイカーを振る手を止めカクテルグラスを用意する。


「サラが他人を気にするのは珍しいね。」

「私の目では少し頼り無くおどおどしている小物って感じだからな。良い奴だとは思うが長けたモノがわからん。」

「確かにアマネさんには意思も覚悟も足りないし、それに目を瞑れる程の武力や知識、財力や交友関係を持っている訳でも無いからその評価は間違ってないよ。」


でも、と続けながらシェイカーからグラスに注いだアンリはバースプーンを伝わせ炭酸を注ぎ叩いたミントを上に飾りサラに差し出す。


「彼女は他人の脅威を正確に測る肌感覚を持っている。

普段頼りないのは俺達に恐怖を感じ自信を持って行動出来ないからだ。

そして、他人の力量を測る感覚も侮らない精神もとても大事な才覚だ。この業界では軽口一つで吹き飛ぶ命もある。そうだろ?」

「臆病者は土壇場で逃げ出すぞ。使いものになるか?」

「本来の俺達がどういう人間で何をするかキチンと教えてやればいい。

そうすれば眼前の難題と俺達、どっちを敵に回すと厄介かを彼女は決して間違えない。

で、こういった思考誘導には当然カイネやラズ達の情報開示が必要になる。」

「なら直接合わせてやれば肌で感じるだろ。私とアンリが人権主義で穏健派な悪党って事も深く理解出来る。」

「そ、彼女に実績と経験を与え、後ろ盾の存在を理解させれば立派な悪党になるよ。俺のスキルがそう判断している。」


納得したように頷いたサラはグラスを傾け飲み干し、楽しげに笑うアンリは新作のカクテルのレシピをタブレットで調べながら不慣れな手付きで計量しシェイカーに投入していく。


「楽しそうだな。」

「何を作ってもサラは美味しく飲んでくれるから張り切っちゃうよ。」

「そっちじゃない。アマネの方だ。」

「あ〜、経営者は事業を託せる後進を育てて初めて一人前だからね。

挑戦出来る適した人材が来た幸運を思えば晴れやかな気分でいられるさ。」


シェイカーを振りながら口端を吊り上げたアンリは喉を鳴らす柔らかな笑みを浮かべた。

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