閑話休題19『我が家の結婚問題』
その日は僕も第三者として参加している。一応、こういう場だからね。お見合い相手の親として参加している。エリアナも昨日とは違うフォーマルドレスで同席。タケミカヅチからすると義父と義母の僕らだからね。ただ、僕らは観戦者ポジション。そこにはリヴァイアサンのメリアさんもお酒片手に見ている。
タケミカヅチの嫁候補は2人来ている。風龍族の活発そうな印象の女性で、体つきは女性らしいが男性用の軍人礼装。腰に細剣を佩き、軍帽に軍靴、勲章も忘れていない。コスプレかと思いきや、風龍の一族はとある国で魔法兵団のトップを代々受け継ぐ家系らしい。しかし、タケミカヅチと婚姻を結ぶとなれば、その国からこちらに鞍替えするという。ベルトールさんの奥さんが今回は出席していて、カルディーナさんというらしい。
もう一人はメリアさんの娘さん。メリアさんには複数の旦那さんが居て、その内、東方出身の龍族との娘さんとのこと。見た目は儚く大人しい感じ。行動もどちらかと言うと奥手で、順番待ちをしている感じがする。メリアさんは呆れているが、タケミカヅチはどちらもちゃんと観察しているようだ。
「乙姫さんはどうかな? 料理とお酒は気に入ってもらえました?」
「え、あ、はい。とても」
「ニンニルさんも気に入ってくれているし、今日は場を用意した者としては嬉しいよ」
いつものタケミカヅチとキャラが違う……。余所行き用のスタイルだろう。それに傍には必ずテュポーンも居る。テュポーンも2人を観察しているのだ。
しかし、最初に不満を口にしたのは風龍のお嬢さん、ニンニルさん。この子もタケミカヅチの余所行き風の対応が見えていたようで、いつものように接してくれという。口調も男みたいだね。中性的なお父さんに似たのか、ニンニルさんの顔立ちは短めの髪も相まって柔らかい感じの美男子と言った感じだ。ただ体形はお母さんのカルディーナさんに似たのか女性的。軍服だからか凄く主張している。
その隣で胸の前で手を組んでいる独特な装束で可憐な印象の乙姫さんもコクコク頷いている。かなり小柄だから可愛らしい。年齢的には乙姫さんの方がニンニルさんより年上らしいが、外観はどう見ても乙姫さんの方が幼い。龍や魔人のように年齢不詳の生物群は本当に困る。外観から年齢が把握できないから。
余談だけど、ツェーヴェから聞いたらガトールさんは、見た目をいじってお爺さん風にしているだけで6000歳くらいの古龍。ここにもいらっゃるがリヴァイアサンのメリアさんは18000歳の最長老。女性の年齢関係の話を口に出してもいいことは無いので、この話題は胸に秘めることにしている。
「ははは、ばれてーら」
「そうじゃのう。さすがじゃ」
「そりゃこれからも長い付き合いになるんだ。夫婦として。テュポーンさんもよろしく。僕は順番は気にしないし」
「そうかえ? ふ~む、ならば妾も特に否を付けることはない。乙姫殿はどうじゃ?」
「わ、私も……順番はどうでもいい……というか、優しい旦那様が良いなって……。まだ、会ったばかりだから解らないことも多い……けど。一緒に仲良くなりたい……です」
「ほうほう、ならば妾からは特にいう事は無いぞ? どうするのじゃ? 旦那様」
「テュポーンも言うようになったね~。まぁ、俺も断る気はね~よ。乙姫さんの言う通りだし。ゆっくり仲良くなればいいし」
途端に2人の表情とその母親2人の表情が晴れやかになる。娘の結婚相手が決まったことはもちろん、この2家族は最初に僕の派閥に渡りをつけたのだ。人間でも政略結婚の結婚同盟は普通に取られる行動だからね。まぁ、この縁談は本人達の意志が最重要のセッティングだし僕も文句はない。
当人達も安心と喜びから酒量や食べる量が増えていく。
それはこちらのご婦人達も同様。……というか、メリアさんは似たような女性を見つけるとメンチ切るんですか。ツェーヴェだけではなく、お隣でお酒を楽しんでいるこれまたグラマラスなカルディーナさんへも喧嘩腰。そこにエリアナが仲裁に入ろうとするが……。どう考えてもカルディーナさんが圧勝するだろうから止めておく。
娘の方を見ていたから解るが、ニンニルさんは笊だ。蟒蛇である。お父上もそれなりの量の白葡萄酒を飲んでいたが、一切酔ってなかった。お母様のカルディーナさんも少しは不安があったのか、酒量はかなり多かったのだ。それなのに顔色一つ変わらない。怖すぎる。
対して乙姫さんは下戸っぽい。ニンニルさんに勧められ、かなり薄い果実ジュース割を飲んだだけで酔っ払っている。テュポーンに氷水を渡されて何とか公の場での粗相を抑えている感じだと思う。その親のメリアさんだが、多少は年の功で強かろうが……ツェーヴェに負けてたからね。ちなみに、ツェーヴェはハーマさんに負けてた。
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「今回はいい結果になったわね。タケミカヅチに2人お嫁さんが増えてよかったわ~」
「まぁね。それに関してはいいん人数も常識的な範囲だと思うからね。僕のお見合いが明日だから気が重いよ」
「いいじゃない。もう20も30も変わらないわ。貴方なら何人娶って孕ませても問題ないと思うし」
「……」
ツェーヴェの発言は聞き流した。……けど、その後に繋がった言葉は気になる。
息子には順調に縁談が来ているが、スルトをはじめとした娘の1人として浮いた話が一つもないのが気にはなる。最近魔人化したジオゼルグとヨルムンガンドはまだいいとしても、スルトとゲンブはそろそろいい相手の一人や2人は居ても良い頃だ。2人居るのは少し不安にはなるが、この土地でも一妻多夫は許可されているから、別に拒否はするつもりはない。僕が言えたギリではないので。
とは言っても僕が彼女ら2人に聞くのは……。僕も礼に漏れず、娘に嫌われたくはないんです。
最近だとスルトはよく会うが、ゲンブは蛇神神殿に詰めているので会うことはない。近況報告も兼ねて聞くべきか? あ、一応報告しなくちゃいけないことはある。一応セレモニーとしてタケミカヅチの結婚式はやるんだよ。テュポーンとのも今回一緒に。場所は一応神殿施設である蛇神神殿。予定やらなんやらが神殿側へ伝えられてるし、披露宴などは移動して水源の迷宮で行われるからヴュッカもゲンブも知ってるはず。……その他の娘は知らないだろうな~。近況報告も兼ねて呼んでおこう。ちゃんとコミュニケーションを取るのは大切だし。
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タケミカヅチ以外のメンバーを集めて報告。カリーナも知ってはいる。けれど女性はこういう話好きだよね~。スルトは興味なさそう。この子は魔人で寿命の枷が外れてなかったら間違いなく仕事にかまけて婚期を逃すパターンだろう。ゲンブはなんだかんだ上手くやりそうな気もするが、笑顔でタケミカズチの結婚を祝福するだけでそういう雰囲気はない。ちなみに、ジオゼルグとヨルムンガンドはスルトの横で揃ってお茶を飲んでいるし、魔人化以前のイオやユミル、アポロンとシェイドは話を聞いているだけ。
どうせその内考えなくとも来る問題なんだ。僕が考え込むことでもないのだろう。
そうやって考えていると、セリアナさんが笑顔で僕の隣に座り、意味深な言葉を告げる。スルトとゲンブは僕の魔物としての眷属ではあるが、血の繋がりはない。『最悪、彼女らを娶ることも有りだよ?』と、小悪魔フェイスで僕に耳打ちしながら耳を舐めて来た。僕は手加減はしたが、28歳1児の母、現在妊娠中の耳を引っ張る。この人は2度目の結婚をしても全く変わらない。ハーマさんも溜息ついてるし。我が家の結婚問題はこの辺りから正さなくちゃいけないのかもしれない。本当に。
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ニンニル
メス 年齢不詳
婚約 タケミカヅチ
取得称号
・風龍のお嬢様 ・活発系女子
ウィンドドラゴン族 モデル=エンシェントドラゴン
身長165㎝
古龍族に属する風龍族の娘。家内では次女。上に兄2人と姉1人、弟が三人と妹が2人。活発で快活な体育会系少女。何事にも真摯に向き合うまっすぐなところもある。人間の中に混じって生活している古龍の中でも珍しい部類の家系出身。人の文化に理解があり、美味しいスイーツに目が無い。趣味は魔道具屋巡りと魔道具収集。カレッサの大ファン
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乙姫
メス 年齢不詳
婚約 タケミカヅチ
取得称号
・海龍妃の末娘(現状) ・箱入り娘
神代龍族派生リヴァイアサン族 モデル=和龍
身長150㎝
神代より血筋の繋がる古龍族の末娘である少女。引っ込み思案なこととあまり争いが好きではないことから母のメリアの縄張りから出た事のない生粋のお嬢様龍。父は既に死別している。奥ゆかしい性格でとにかく控えめ。低身長を気にしているが母由来の体系はそのままであり、アンバランスなところもコンプレックス。
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