表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/322

僕は別に戦闘は好きじゃないんです

 ど~も~。クロで~す。現在、これまでにない相手と戦っております。おそらく、『月を食らう者』の魂か何かだと思うけれど、これがかなり強い。サイズが小さいというか獣人との戦闘だけど、これは魔人と戦っているのと似た感覚だ。まぁ正直それ程強敵という訳でもない。まだ興奮(ボルテージ)が最上ではないのかもしれないけど、それにしてもヴュッカの方が近接戦としては強い。武器も違うから一概には言えないけども。

 半月刀の二刀流に柔らかい体を利用した体術で翻弄してくる様は、美しいとさえ言える。けれど、実力としてはそれ程でもないね。ヴュッカの攻撃は遠心力がマシマシだから、一撃が超重い。しかも手首の返しが凄く器用で同じ方向に手を振りかざしているのに、ガードの挙動を予測して斬撃の挙動を変えて来る。今の相手はそういうフェイントは無い。それにツェーヴェのようにパワーもない。力は確かにある。一度模擬戦をしたセラさんよりもはるかに筋力としても、瞬発力としても数段上回る。それでも魔人と比べると一段か二段は……言い過ぎか? それくらい下だ。近い相手と言うならツェーヴェのお母さんのリャエドさんだと思う。リャエドさんは軽やかで妖艶な太刀筋が売りの魔法剣士。パワーも魔人だから同程度か、リャエドさんが上。いくら相手が『月を食らう者』でも完全体ではなく、魂のままであるならば僕の相手ではない。ついている人物の遺体基準なのかも。

 ククリ刀をわざと大きく振り抜き、右手の半月刀の柄近くを殴りつける。腕を殴るよりもこっちの方が手へのダメージが直に行き、かなり痛いだろう。僕もリャエドさんにやられた。そこに左からの半月刀が閃くが、手首を返して反らしたククリ刀の背で受ける。アダマンタイトの刀身で跳ね返すように受ければ相手の刃の刃が負ける。それだけ硬いんだよ。アダマンタイトは……。ミスリルの剣でも切るには相当の腕が必要だからね。


「グッゥ…ウアァァァァァ!!」

「そうだよな。痛いよな~。でも、チェックメイト」


 右手の半月刀を捨て、その鋭い爪で僕へ一撃を向けてきた。それも予想できている。獣人ではよくある戦法みたいだから。獣人が人よりも単純に強いのは、体が武器であるか無いかと言う差だ。獣人族の筋力に人よりもかなり強度の高い爪。十分に剣などよりもいい武器だ。そればかりか素質が違う。筋力はもちろん瞬発力や動体視力だって人とは比べ物にならない。魔素で伸ばした爪へ、威力を調整した爆裂弾を撃ち込む。

 それだけで右手は大火傷に加え、ご自慢の爪はもう役に立たない。爆裂に巻き込まれて吹っ飛ばされ、巨大な頭蓋骨に衝突し……頭骸骨の位置がずれる。すると……、面白い物が見えた。僕と戦っていた剣士と同じ毛並みの獣人が……白骨化した死体だ。喉に今まで持っていたのと同じ半月刀を突きさしたような形だったのだろう。遺骸の中でミイラ化、白骨と化しても剣を放さないとはあっぱれだよ。

 僕らがその遺体の存在を見たのと同じくして、剣士の様子がおかしくなる。剣士は急に頭を抱えて発狂し……少しの間のたうち回ると、急に動きを止めてから自身が入っていた棺桶に腰掛けた。

 先ほどまでの獣じみた好戦的な雰囲気は消え去り、理知的な人間の感性が見受けられる豪快な女性だ。鎧がごつ過ぎて性別すら解らなかったが、女性だったのか。獣人族は男性も女性も高身長な割合が高く、人などよりもよっぽど筋肉質。女性だとしても人族の男性戦士と同じくらいの体格だからね。


「ッか~!! 負けだ負け!! つ~か、魔人がこんなとこまで何の用だよ。アタイはもう何の力もない魂だけだってのに」

「あ~。あんたの遺骸を引き取りに来た。あんたの骨や牙、毛皮を有効活用しようかと思って」

「ちょ……」

「…………お前さ、本人を前によくそんな開けっ広げに言えるよな? これでも一応アタイ女なんだぜ? その体を好き勝手されるとか……」

「その誤解のある表現はやめてくれません? それから、おそらく悪用されてた貴女の牙は回収して既に加工してあります。貴女の子孫の許可も取ってますよ『月を食らう者』さん」


 豪放磊落という感じの女性は、それこそ一頻り豪快に笑う。そのことはどうでもいいとばかりに遺骸は好きにしろと言われた。それよりも問題なのは折角死んでまで一族の安住の地を作ったというのに、まんまと乗っ取られている現状に腹が立っていたとのこと。獅子獣人が乗っ取ったと彼女は呟く。

 僕も気になってたんだよね~。これほど緻密な魔法建築を獣人が用意した? 仮にこれが迷宮だとして、『月を食らう者』の迷宮核を作れても倒した存在が主になれるかは怪しい。どう考えても魂だけでも『月を食らう者』の方が強いからだ。どの世代で獅子族の乗っ取りが起こったかは解らないけれど、ちゃんと調べればこの国が機能不全に陥り始めた時期と符合すると思う。財務省にあったあの魔道具で、あの牙を利用して迷宮を間接的に管理する方法が……。代々の王にのみ伝えられる口伝制でつないだんだろうけど。

 けれど、一族の繁栄のために用意した地盤を奪われて利用されたこの人……名前が無いと言いにくい。いつまでも『月を食らう者』だと長ったらしいし。


「あん? 名か……、懐かしい言葉だね。アタイはセフィラ。フェンリルを統べる女王だった。あの女蛇……ツェーヴェとか言ったかな? アイツに負けて……もう瀕死だった。最後に魂を切り離してこうして迷宮核を作り出し、動いてたんだけどね」

「ははは。やっぱり。ツェーヴェは僕の妻だよ。君の話も聞いている」

「は~……蛟が付き従うオスね……。ならぼろ負けもうなづけら~。おっし、ならこの核も持ってきな。アタイの役目は終わってる。一族の繁栄はもうあり得ない夢だからな」

「了解。お休み。セフィラ」

「おう、また会えたらいいな。お休み」


 ご丁寧に棺桶の中に戻って行ったセフィラの気配が霧散した。その直後、『月を食らう者』に半月刀を突きたてていた死体が崩れ去り、霧のように消えていってしまった。最後に灯っていた白球も光が途絶え、迷宮の停止を確認。僕は魔法の鞄に巨大な遺骸の全てと迷宮核を鞄に突っ込んで出ていく。

 それ以外には特にここには要件はないし。ケイラに仇を取りたいかと聞いてみたが……どうでもいいと言われたので僕は返事だけしてブラックナイト号に乗り、王祖の迷宮に帰って来た。

 エリアナに迷宮核をどうするか聞くことと、これからはジオゼルグとヨルムンガンドに監視してもらう事で自動的に解決すると思われる。フェンリルの王セフィラの魂が還るべき場所に還った今、その加護は失われていた。獅子王を名乗る者が狼王の王朝を簒奪し、どこからか歪んだ国……例の意味の解らない種族の身分を固定する法なども納得のいくところだ。エリアナの領地も似たようにならないようにせねばならない。

 国ごとにいろいろあるけれど、僕らもこれからどうしていくかを考えなくてはならない。

 あともう一つ、当事者というかと微妙だけど報告しなくてはいけない人物がいる。ツェーヴェだ。相手の狼王セフィラはちゃんとツェーヴェのことを認識しており、ツェーヴェは撃退したと言っていたが、実際はツェーヴェの判定勝ちだった。腹にあった大きな切り裂き傷を気にしていたツェーヴェだけど、それを聞いて傷のあったばしょをなでていた。何をツェーヴェが思ったかは解らないが……。


「んおッ?!」

「はいッ?!」


 そんな時、僕とツェーヴェの頭の中に例の声が響いた。


『迷宮と迷宮主、登録されている血族の位階上昇を確認しました。これより機能向上(アップデート)及び、秘奥技能(レジェンドスキル)解放(アクティベート)を開始できます。また、秘奥技能の解放については該当者の休眠中に自動で随時更新されます』


 とのこと……。よく意味が解らないが、最初の機能向上の時と同様にエリアナは躊躇なく開始を選択。後半のことはよくわからないが、僕とツェーヴェも迷宮の位階上昇と共に位階が上がり、固有スキルの威力が上がったり……。なんか、また新しくスキルが生えてきてるんですけど。しかも固有スキル。僕、この前の黒焔のことがあってからちょっと警戒してるんだよね。これが使いやすいスキルならいいんだけど、今度も名前からして嫌な予感がするんだよ。僕自身は特に戦闘が好きな訳ではない。なのに初期と異なり、増えたり生えたりするのは戦闘系スキルばかりだ。

 スキルは当該行動の経験と、その個体の適性で生える生えない、生え易い生え難いが変わるとツェーヴェに教えてもらっている。また、その経験というのにもいろいろあり、ただ本を読むだけではなく感情移入したり、速く読むことを意識するとかでスキルの傾向も異なる。

 久しぶりにそんな話をしながら、ツェーヴェや僕の執務室に大集合した魔人や魔物の皆で変化を共有した。どうも迷宮の位階上昇で魔人の位階が上がる時は、エリアナの従魔扱いである必要があるらしい。エリーカだけ位階の上昇が確認できず、しょぼんとしている。


「迷宮が防衛系統を充実させたいようですね。もしくは、その段階に来たと考えているのか」

「迷宮というか国家を防衛するための力を拡充させる段階。つまり、それだけ大きな国であると認識してるってことか?」

「はい。そのとおりかと。迷宮は器物でありながら生き物です。迷宮も生き延びねばなりませんからね。父上や我々のような強者が居れば安泰ですから」

「そうね~。私が迷宮でも考えは同じかしら」

「ちょっと過剰戦力気味ですけどね~。ツェーヴェ姉様と旦那様が居るだけで世界を併合できる気もしますし」


 のほほんとしながらヴュッカから爆弾発言が飛び出す。

 僕は別に戦うのが好きなわけじゃないんだけど……。ツェーヴェも苦笑いしているし、そういう事より物作りに傾倒していたいスルトなどは、興味ないとばかりに茶菓子を食べている。その横に並ぶヨルムンガンドとジオゼルグもお茶を飲んでほんわか。タケミカヅチも僕の意見と同じで保守的だから、ツェーヴェと同じように苦笑いしている。

 この場で喜んでるのは少々過激なゲンブと、なんでかゲンブ推しのユミルだけだ。だから、僕はそんなに戦うのが好きなわけじゃないんだよ?


~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後125日~130日

主人 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長9.5㎝

取得称号

~省略~


取得スキル

~省略~


 ~=~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ