砂漠の猛威
ヨルムンガンドから面白い物が見れると言うので、先日もらった騎竜に乗っかって空から向かう。ヨルムンガンドは紅宮の前で手を振っていたので、着陸してから騎竜『ブラックナイト号』も人化した僕の大きさに合わせて大きくする。後ろにヨルムンガンドを乗せて、ジオゼルグの縄張りと防衛用に構築した山の境を空から見ている。ヨルムンガンドの話では昨日の夜に大量の獣人らしき者が『吸血樹』の餌食になったようなので、それを見に行ったらしい。害獣が罠に引っ掛かったみたいに言ってるよね……。
冒険者だった。その冒険者の持ち物からグランデールの財務大臣の署名がある発注書と、冒険者ギルドへの同じ発注者からの依頼書が出て来たそうだ。
完全に証拠を押さえた上で、わざと逃がした冒険者にとり付いた吸血樹の分体で追跡、盗聴したらしい。これはヨルムンガンドやエルフにしかできないが、樹魔法で植物の意志を読み取れるとのこと。獣人国の認定冒険者ギルドと、財務大臣と軍務大臣がグルなことは解ったらしい。すげーなヨルムンガンド。もう、僕がスパイアクションする必要ないんじゃない?
「そんなことはない。僕の力だと、直接証拠を奪うのには限界がある。それから、話がそれちゃったけど、今真下に獣人国の軍隊が来てる。その先頭のヤツがセラの旦那さんを殺したヤツ。王弟って言ってた」
「実の兄を殺したか」
「アイツの口ぶりからして腹違いの兄みたい。相当恨んでるね」
「どのみち解りあえそうにはないね」
「それは同意」
僕らが真下を見ながら旋回していると、何だろう。戦闘の立派な鬣で片目に傷がある男が何かの牙のような物を振り上げる。それもヨルムンガンドからの説明が来た。ホントに有能だよね。この子。ドヤ顔サムズアップまで忘れないところもいいね。
アレは『獅子王の牙』という名前の国宝らしい。
グランデール獣人国は獅子王グランデールがこの周辺を縄張りにしていた『月を食らう者』という魔物を討伐して開拓し、建国した国とのこと。……なんかその名前聞いたことあるんですけど。うん。ツェーヴェがボロボロになりながら追い払ったという魔物だね。ツェーヴェが言うには相手にもかなりの痛手を負わせたけど、ツェーヴェ自身もかなり酷い怪我をしたらしい。実際、ツェーヴェが人に肌を見せないのはその時の傷跡が残っていたからなんだけども。……エリクサーで消してた。
その牙で作ったというか、加工できないのでそれに柄を付けただけの牙棍棒って感じの物だ。
武器の加工もする僕としてはかなり悲しい事だ。……あれ持ってっちゃダメかな? 僕やスルト、ゴードンさんなら加工できるし。目の色変えてくれると思う。
「いいと思う。僕も錬金柄杓を作って欲しいから」
「お~。いいね~。でも、ちゃっかりおねだりまで覚えたか。やるなヨルムンガンド」
「ふッふッふッ……。僕も日々成長している」
そんなおバカな会話をしていると、その牙に雷だろう熱量が収束していく。……これならタケミカヅチの『手加減雷ブレス』の方が威力高いと思うが。言っちゃダメなんだろうな~。
その牙から雷が放出され、ヨルムンガンドの造り出した山(壁)が切り裂かれる。獣人族の軍隊は沸き立つけど、僕とヨルムンガンドは落胆している。獣人族とは言えあんな魔力の練り方では宝の持ち腐れだ。あれならセラさんの方が強いと思うし。ケイラの方が魔法だけなら数段高レベルだ。後ろでヨルムンガンドもうんうん頷いている。……ブラックナイト号も頷いている。えッ?
あ~、学習機能ついてるのね。解った。
とりあえず、人が並んで4人くらい歩ける幅の道ができてる。ヨルムンガンドならすぐに閉じれるのだろうけど、僕らの位置からなら解る……絶望へのカウントダウンが既に始まっていた。のんびり屋のジオゼルグだから遅刻くらいするかと思うが、そんなことはない。ジオゼルグは確かに時間にルーズだし、前倒しするような計画性や準備の周到さは無い。ジオゼルグは必ずタイムリーにことを運ぶ。獣人の軍隊がオアシスの魔境へ向かうため、改めて士気を高めている最中にそれは見えて来た。
砂の津波だ。ヨルムンガンドが山を作れるなら、ジオゼルグは砂を持ち運べるのだ。いや、これは間違い。砂漠を持ち運べる。獣人の兵士達は我先にと亀裂の中に入って行くが、それだけで逃げ切れたわけが無かろう。亀裂に入って急いで逃げていた連中で、直線状に居た連中はジオゼルグの砂津波に飲み込まれた。そのまま、二度と姿を見せることはない。ジオゼルグの砂は、砂になるまで水分を吸いつくし、砂を増やす。それが生き物であっても。
「あ~あ~……。本当に頭が悪い。直線上にはさすがに残らないでしょ~」
下でジオゼルグが何か言ってるな。まぁ、いいけど。
ジオゼルグの莫大な魔素が彼女の巨大な武器、ケペシュから放出される。足元を掠め、砂を巻き上げたその斬撃は先ほどの雷撃の刃など比にならない幅を抉り貫き、さらに獣人の軍人を干からびさせながら地面すら干上がらせていく。ヨルムンガンドが几帳面だからね。完全に砂漠から抜ける場所に山(壁)を敷設してあったから、砂漠の領域が拡大したことになる。その辺どうなのかヨルムンガンドに聞いてみたが、自分の縄張りでもないからどうでもいいとのこと。
この辺りは2人とも魔物由来の魔人らしい感性だ。妖精由来の魔人であるエリーカは割と感情的で僕らよりも人間味のある面倒くささがあるのだけど。僕らにはこの辺りはない。例外的にツェーヴェにはあるけど。文学魔人は違うらしい。
僕らはジオゼルグがこの先どうするのか見ていると、ジオゼルグは踵を返して帰って行く。追い払えば正直どうでもいいのだという。
それに僕とヨルムンガンドが空にいることに気づいていたジオゼルグが、ヨルムンガンドに華を持たせてくれたのだとヨルムンガンドは苦笑い。むにゃむにゃと長い詠唱をするヨルムンガンド。そのヨルムンガンドが親指、人差し指、中指を揃えて真横一文字に振るう。最後に、ヨルムンガンドからあの遠鳴のような声が響き、先程の山(壁)がどんどん後退していくのが見える。それと同時にジオゼルグが貫いた部分も修復され、新たな防衛用の疑似魔物を設置していた。そつないというか、隙が無いというか……。ジオゼルグとヨルムンガンドはいい具合に名コンビと言えるのかもしれない。
「これでこっち側はしばらくは攻撃できない。ちなみに、今回の壁は特別製。あの牙ごときじゃ貫けない」
「何したの?」
「うっすらミスリル質の地層を混ぜたの。スルお姉ちゃんみたいにその金属だけを構築は無理だけど、ある程度はできる」
「ほ~、魔法無効化なわけね。本当に力技以外は無理と」
「ある程度はね。お父さんの黒い焔は無理だと思うけど」
それからはヨルムンガンドの希望で、ジオゼルグの縄張りまで行くことにした。ジオゼルグの縄張りへ行くと、大きなサボテンが生えていて、そこが刳り貫かれている。その前にはヤシの葉で作られたパラソルの下でバカンスしているジオゼルグが居た。
ご丁寧にビーチチェアまで用意して南国フルーツのミックスジュースを飲んでるし。
よく見ると奥に村のような物があり、そこからラザーク人らしい若い女性達が出て来た。さすがのヨルムンガンドでもこの子の縄張りの事を全て知っている訳ではない。ジオゼルグに視線を投げかけると、ジオゼルグは隣に佇んだ15歳~16歳だと思われる女の子へ視線を投げる。
一礼した後にその女の子が答えてくれた。この子達は例の『超巨大サンドワーム』の被害で口減らしに遭った少女とのこと。全員だ。男手は労働力として必要となりえるが、女性はラザークの奴隷制が廃止されてから価値が落ちた。以前までなら愛玩奴隷として買い手が付く場合もあったが、今ではそれもなく砂漠の真ん中へ捨てられてしまうとのこと。それをジオゼルグが拾い集め、使用人として雇っているとのこと。労働対価は三食と住居。少女達は住む場所と食べ物があるだけでも十分だという。
複雑な話だ。僕らがしたことでの一面もあるのだから。
けど、愛玩奴隷として買われた人間の末路はほとんど死だ。まぁ、ここでいうべきではないとは解るけど。それにジオゼルグは砂漠の守り神として既に有名になっている。口減らしをするぐらいなら、ジオゼルグが買うと言って以前より高値で少女達を引き取り、ここで果物の栽培や高価なサボテンの栽培などもさせている。今では少女だけではなく、少なくはあるけど男もいるとのこと。
「ジオ様のおかげで私達は生きています。本当に感謝しきりです」
「べ~つに~。君達を~連れて来たのは~、ジオが働きたくないから~……。ジュースも~ごはんも~、お風呂の用意も~全部、ぜ~んぶ君達の仕事。僕はここで寝てるだけ~」
「ふふふ。そうですね。これからも頑張ります」
ジオゼルグはああ言っているが、オアシス周辺に魔物が一切居ないのは定期的に彼女が縄張りの主張をしているからだ。僕でも面倒だからそこまではしない。そこまでするのはマメな性格のタケミカヅチくらいだ。ジオゼルグのこれはマメとかそういうレベルではない。周囲に魔物が居る状況で一般人が安穏と暮らしていける訳がないのだ。
ここは確かにジオゼルグの縄張りの中心地で、緊急避難経路がヨルムンガンドの紅宮に繋がっているしっかりとした城郭型迷宮である。
ここは……なんとリゾートパーク型の迷宮。防壁は愚か外壁も無い。あるのはオアシスを利用した流れるプールや波立つプールなど。全く迷宮とは言えない場所なのだが、一般人が多くいても全く魔物が来ない。それにはジオゼルグの隠れた綿密さがあるのだが、あくまでジオゼルグはのんびりと適当なところを押し出している。ヨルムンガンドはやれやれとかぶりを振るが、なおもジオゼルグはジュースを飲む。砂を統べる荒野の魔人は今日ものんびりと働いている。それが彼女のやり方。これが彼女の日常。今日も今日とて飲み物片手に、彼女は彼女のペースで過ごす。……父親がそうしているように。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後125日~130日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長9.5㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
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