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閑話休題17『従者たちの飲み(呑まれ)会』

 場所は移り、豊穣の迷宮のとある酒場。そこの個室席にとある女性達が集まり、豪快に酒を呷っていた。そこに集まったのは意外といえば意外なメンバーだ。

 まず、幹事と言うかまとめ役にセリアナ付きのハーマ。ここからは比較的若い。その中でも年長なのはセラの悪友であり護衛でもあったアルマ。カナンカ付きのゼビオラと影が薄く、あまり現れないが副官のシェリー。初期メンバーでエリアナ付きのリリア。中でも幼い部類のケイラ付き護衛のキティとミアーで全員だ。

 ここに居るのは護衛か侍従に限定され、元々の地位が高い人物付きの女性だ。また、ハーマ以外は未婚。若い侍従の集まりにたまたまハーマが居て、誘われたので幹事役を申し出てついて来たのだ。ハーマには解っていたからだ。この侍従の娘達はそれ程酒癖が良くないことを。特に、何故かいつの間にか『剣聖技』というスキルが生えてきているリリア・オルフェンテークについてはよく知っていた。直弟子となった彼女についてはよく知っている。何度となく絡み酒をして周囲に迷惑をかけていることを。本人の記憶にない事も……。

 また、ここに居て最も若い騎士2人。キティとミアーの2人は成人したてで、どう考えても酒を飲み慣れていない。平民出で近衛の端くれに居ることで才能はあるとハーマも理解はしていたが、ハーマはこの2人も警戒していた。若い成人したての2人が酒のペースが解る訳がないのだから。


「はぁ~……昨晩も良かったな~」

「え~? そうだったんすか~? リリア姐さ~ん」

「えぇえぇ……。もう天にも昇る~……うへへへへ」

「うらやまですなー! このこのぉッ!」


 ハーマは淡々と処理をする。酒に呑まれている2人には冷や水を。完全にべろんべろんのリリアには薬草汁を……。その手際を見る比較的年上のアルマとゼビオラは顔を見合わせ、ハーマが参加しない時は自分達が止めようと互いに誓い合った。

 しかし、ハーマの本当の狙いをこの2人は知らなかった。ハーマは自分の目の前にあるアルコール度数が異常に高い酒を呷る。この酒は『火酒』と呼ばれ、ドワーフが好むアルコール度数が90%を超えるほとんどアルコールと呼んでいい代物。ヨハネス以外は誰も知らないが、元剣聖のハーマは蟒蛇の中でも特段アルコールに強く、全く表情に出ない。若い頃から剣に生き、男社会を戦い抜いたハーマは酒の席でのあらゆる運びを知っていた。既に、ここはハーマの独壇場だったのだ。

 ハーマにはとある事情から子を産めないという事情があった。それだからか、ハーマは周囲に集まるその年代の女性を娘のように扱う。これまではセリアナだけだったが、侍従班という班ができてからは手元にちょうどいい年代の娘っ子が何人も現れた。ハーマは実はあこがれていた。自分の娘を持って、母親らしい会話を娘とすることに。何より、ハーマは可愛がっていた。自分の直属の部下となる侍従班の未来の班長株達を。


「さて、若いのは皆寝たね……。それで? お前さん達はどうなんだい? そろそろ福音があってもいい頃だと思うけどな~」

「え、えと……。私はその……」

「あ、えと、私はまだです。というか、その……」


 ハーマは畳みかける。特に35歳未婚のライオンの獣人であるアルマには念入りに管を巻く。アルマは少し厳つい感じはあるが、キリっとした切れ長の目に知的クールな表情がとても印象的な美人だ。実はアルマはセラの親戚筋。似ていても何らおかしくない。性格も……。若い頃は暴れん坊のお転婆娘だった。セラの舎弟であったとも言える。

 ストレスがマッハで登りあがるアルマ。アルマの場合は別に結婚したくなかったわけじゃない。20歳の頃にセラが政略結婚したがアルマは近衛になったばかりで、アルマは職場で駆け上がっている段階だった。その時に結婚していなかったので、近衛騎士団長まで成り上がれたとも言える。しかし、獣人の女性としては脂の乗った時期を過ぎ、幾度となく同僚や後輩の結婚式に呼ばれた。悔しくないかと言えば嘘になる。それでも彼女の周りは既婚の男性騎士や老年の戦士や騎士ばかり。35ともなれば政略結婚という筋も絶えている。

 そして、体内のアルコール領が上がるにつれ、アルマの正常な判断能力は薄れていた。そして、ぽつりとつぶやく。『結婚したい』と。

 ハーマは勝ち誇った笑みを浮かべ、さらに畳みかける。クロのことを推す。ハーマは何故かクロのことをとても気に入っている。魔人だという事も知りながら、とても信用しているのだ。そのクロへ自分の周りに居る若い女性を尽くカップリングしていた。……傍から見ればエリアナやセリアナが犯人のように見えるが、実は本当の黒幕はこのハーマなのだ。正確にはハーマがエリアナやセリアナを煽っているのだけど。そして、ハーマは録音魔道具を取り出す。嗚咽混じりに心の底に封じていた本音を吐露するアルマの声に、誘導するように甘言を混ぜる。そして、捏造に等しい証拠のみを記録し、ほくそ笑んでいる。


「あ、あのハーマさん? 私達もその……既にクロ様と交わりはあるのですが」

「お前さん達のことは特に問題視しては居ないよ。まだ20歳そこそこだろ? 若い若い。剣聖としての鍛練のし過ぎで体を壊して子供が産めなくなった私じゃあるまい。その内授かるよ。……まぁ、シェリーはもう少し積極的でもいいと思うよ? 他にくっついて突入して、一撃で沈められてんじゃないか」

「う、ぐうの音も出ませんね」


 最初からずっと影は薄いが居た。ゼビオラの腹心であるシェリー。シェリーはゼビオラの1つ下の19歳。結婚の早い砂漠の国ラザークでは婚期の終盤ギリギリ程の年齢だ。ちなみに20で結婚していない女性は大体高位の職位を持っている。ゼビオラがその例。

 一夫多妻であり、男尊女卑が激しかった前体制のラザークでは女性は家庭に入る物という観念がまだ根強い。最近では身を立てる女性も増えていて、エリアナ領側へ移入して行く場合もある。それでもである。ゼビオラは半ば結婚は諦めていた節があったが、まさかカナンカの目の前で生娘のような姿をさらし、手を握られて励まされるなどという事があった上ではもう逃げられなかった。加えて、出会いはかなり突拍子もなかったが、クロの真面目さ加減にはゼビオラは好感を持っている。クロは本人が実感していないだけで、かなりマメな性格をしているのだ。真面目とは言い難いクロではあるが、彼は気にしいで、忙しくあちこちを見回ることは欠かさない。

 そのコイバナ?の横で酒をちびりちびりと飲むシェリーも、ゼビオラと共にカナンカを応援しに行った流れで……。という経緯がある。基本的に影に隠れているシェリーではあるが、この子も結婚願望が無くはない。しかも、ゼビオラとシェリーは所属部署でとてもうらやましがられている。クロはとても人気がある。魔人との子供が丈夫に育つこともある。


「お前さん達のとこは一夫多妻が普通なんだろ? 資金力さえあるなら男が女を囲うのが当たり前って文化だ。こっちも似たところはあるが、そっち程じゃない。まだ周知が抜けないってなら、文化を盾に迫ってみなよ。クロ坊はお前さん達が考えてるより懐は深いよ? 夜もそりゃ~強かったじゃないか」


 ゼビオラとシェリーの2人は揃って顔を青ざめさせた。詳しくは語らないが、魔人にもいろいろ由来はある。その中でクロは魔物、つまり野生動物から派生した魔人だ。つまり繁殖の傾向を刷り込まれていないなら、野生的な繁殖傾向となる。クロは一度その気になると、人が変わったようにひたすら励む。その時の記憶が本人にはないらしく、これまでに妻側がグロッキーになっていたのはそういう背景がある。2人はその複雑な気持ちを押し込め、この機会を逃さない方向へ舵を切ることにした。そして、もれなく死に目を見ることとなる。

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