閑話休題16『お嬢様達の優雅で艶美なひと時』
そのガーデンテラスには7人の女性が居る。和やかな会話をしながらたまたま合った休日を利用して、三人のお嬢様と侍従でのお茶会が開かれたのだ。そこはエリアナ・ファンテールの私有地であるローズガーデン内にある。ここにはクロでも気軽には入らない。それくらいプライベートな場所なのだ。庭師は居ることはありますけども……。
まず、メンバーはエリアナ、カナンカ、ケイラのお嬢三人組。その侍従のリリア、ゼビオラ、キティとミアーだ。
エリアナはいいとしてまずカナンカがここに居ることは珍しい。カナンカは来たとしても城の事務室までだ。特別な報告がない限りはエリアナと会う事さえないと言ってもいい。通常は蛇神神殿でラザーク関係の執務を行うので、ここにはあまりいないのだ。
最後の1人が最近加わった元獣人国の姫、ケイラだ。ライオンの獣人の彼女。端正な顔立ちは涼し気で、気だるげに半ばまで降りている瞼に隠れる大きな金色の瞳。切れ長ではあるが眠たげな表情もあり、表情に棘はない。外観としては丸耳の猫獣人のように見えなくもない。それに獣人と言っても彼女の場合はほとんど人の姿だ。多少牙が主張し、掌に肉球があり、人の脚がすね程まで続いてその下から獣の脚という外観だ。とはいえ、基本はロングスカートの彼女では解らないけども。
「この三人と従者だけで集まるのは初めてですね」
「そうですね~。いろいろ忙しいですし」
「はい。この領地ができて一年経たないなんて信じがたいです」
10歳の領主エリアナ。残りの2人であるカナンカ、ケイラは16歳。
エリアナは外観は年齢そのままだが、精神年齢はとても高い。仕事も手際がいい。そのエリアナと年齢が近く、エリアナの仕事関係で立場も近しい2人はエリアナからするとよい友達だった。だからこうして時々エリアナがお茶会や水源の迷宮での女子会をセッティングしている。ただ遊んでいるわけではなく、いろいろな情報交換も目的だが。……あと、今日は予定が合わずい居ないがここにはホノカの娘のコスズや、ヴュッカも来たりする。
カナンカとしてもエリアナはそれまで従者以外に友人らしい友人もいなかった彼女としては初めての友人だった。恋敵といういみでもいい相手ではあるが、年が近く同じ人族であるのが一層2人に絆らしい物を芽生えさせている。ちなみに人族の成人は15歳。15歳からいろいろ解禁される。飲酒や喫煙にはじまり、結婚や妊娠出産など。完全に大人とみなされる。カナンカは外観としては少々幼く、外見年齢は2歳~3歳程下だ。
最後のケイラは獣人ではあるもやんごとなき血筋でカナンカと気が合う。エリアナに対しては妹のようで可愛いというところだ。この中では一番大人びており、体形も女性的。性格がおっとりしていることから大人びている。エリアナとカナンカとは積極的に遊ぶ良き友人で、……同じ男性を夫にする関係。
「でも、獣人って色々いるわよね。ケイラみたいにほとんど人間みたいな子も居ればコスズさんみたいにちょっと毛深い感じの人も居て」
「そうですね。血筋の問題もありますし。一概には言えませんよ。それを言うなら色白のエリアナと、褐色のカナンカみたいな違いだと思う」
「確かに。いろいろ個性があるんだね~」
後ろの従者各人も頷いている。実はエリアナやセリアナにクロの寝所へ主が連れ込まれるのと同時に、従者各人も突入を余儀なくされていた。迷宮初期メンバーのリリアは少し状況は違うけれど、カナンカの従者であり、世話係であり、姉代わり、母代わりの幼馴染であるゼビオラは完全に被害者だ。カナンカの雄姿を目に焼き付けるなどと言いながら、エリアナに煽られてその場の空気に流された。ケイラの護衛であり従者のキティとミアーはもうそれはそれは悲惨。エリアナがケイラを連れ込んだ次の日に、ケイラに騙され連れ込まれ、仲良くグロッキー。
つまり、ここにいるのは全員クロの妻連なりの女性である。必然、ガールズトークに花が咲き、艶のある会話も盛り上がる訳だ。ただし、それを煽って楽しんでいるエリアナには一点だけ不満があった。お分かりだろうと思うが、エリアナはまだ10歳である。成人していないので、さすがにその手のことは母のセリアナから厳重に止められているのだ。監視にハーマさんが付くほど。
その鬱憤もあり、エリアナは毎晩クロの寝所に忍び込み、妻の務めを果たす中を煽ることを楽しみとしている。着実に腹黒な母に似て意地悪になりつつあるエリアナだった。
「ですが、妊娠者が少ないのは気になりますね」
「そうですか? むしろ順当な気もします。私も最近の移入なので全員と面識があるわけでもありませんが……。こう言ってなんですけど、高い年齢層からと言うのですから問題は少ないかと。一気に妊娠者が増えるのも問題ですから」
「そうですね。ですが……母親と一緒の人の子供を産むと言うのは。どうしても感覚が……」
「大丈夫ですよ。一度どなたかのお子が生まれてしまえばなれます。確か、最初はツェーヴェ様ですよね?」
そう、現在数人の妊娠が確認されている。特に早い段階で解ったのが種族的に相性のいい魔人組だった。戦闘となる件も少ないのでちょうどいいことはちょうどいい。最初がツェーヴェ、次にヴュッカ。この2人はすぐに解った。その次がなんとセリアナ……。エリアナが複雑なのはこの辺りである。無事に子が生まれて欲しいとは思っているが、どうしても違和感がぬぐえないと言うのが彼女の心中だろう。
さらに次がクォアとリャエド。年齢不詳の魔人グループのさらに年長層は軒並み確認できた。あと、最近の移入にも拘わらず、セラの妊娠発覚と同時にホノカの妊娠も確認。図ったかのように年長層からだ。まぁ、これはハーマによる日取りの計画もあるのだけど。いろいろあってグループ分けされているメンバーな訳だが、その内の年長層が固まっただけなのである。
あと、母親と同じ旦那を持つことに何の違和感もないのが蛇魔族の2人。このお茶会には呼ばれても来ないツェーヴェと、お呼ばれすれば来るヴュッカだ。この辺りは元が野生動物の魔人だからだろうと思うが。あともう一人、その違和感がない者が実はもう一人。この場に居るんですけどね。ケイラである。ケイラはできれば妹を欲しがっていた。生まれてくれるなら弟でも構わないが、愛でる対象を欲しがっている彼女の場合は、違和感よりも欲望や喜びが勝っただけかもしれない。
「……でも羨ましいかも。母親と同じ人と結婚する云々は別として、お母様が幸せなところを見れるのは」
カナンカの母親は彼女が幼い時に病で亡くなっている。それ自体は仕方ない事だが、やはりカナンカとしては思うところがあるのだと思う。近衛であり、メイドのようなことまでするゼビオラが姉代わりであり母代わりのようについていたのも、カナンカに母が居ないからだ。
それを聞いてキョトンとするケイラ。そのケイラから飛び出した言葉でカナンカは感極まったのか、ボロボロと涙を流す。『え? もう皆姉妹みたいなものだと思うけど? だから、セリアナ様やうちのお母さんもカナンカのお母さんだよ』……と、この一言はカナンカの心に大きく響いたのだと思う。
後ろからゼビオラが抱きしめ、他の皆でカナンカと再び笑顔でお茶菓子を摘まむ時間は夕刻まで続いた。令嬢だったり姫だったりと、身分に固められて不自由な人生を経て来た少女達。彼女たちは今ここで自由な居場所を手に入れた。これからも彼女らの周囲が喜びに、幸せに満ちることを切に願いたい。




