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移入者のいろいろ 上

 北方から大量の移入希望者(ほぼ全員)を受け入れ、僕らの仕事もその分増えた。特に北方の農家さん達は、魔石を砕いてたい肥と共に散布する農法が主流……というか伝統というレベル。この意識を破壊するところから始めなくてはいけない。スルトを呼んで、そういう学者であるツェーヴェとカリーナが懇切丁寧に何日もかけて灰汁を煮出した。

 そもそも魔石とは……。魔物や僕達魔人の体内にある魔素を貯蓄する機関の中で、大きく結晶化した魔素の結晶である。人間は魔素と魔力の区別もできていないが、厳密には魔素と魔力も違う。

 そもそも魔力と魔素の違いとは……。魔素とは空気中に含有される生物が活動する上で、必ず必要な氣類の一種で魔力はその集合体。属性により魔素の結合方式も異なり、その差で魔法の属性などに変化をもたらす。個々人に属性の適性があるのは、その個体の性格や生活環が関係しているのではないか?とツェーヴェの見識。


「土中の魔素が濃すぎると、植物や生きている生物だけが異常に活性化してしまう。それだと魔素に影響されてない栄養素が活性化された分だけ必要になるの」

「つまり、普通に育てるよりも多く栄養素?が必要なんだな?」

「んっ! その通り。魔素は生き物を活性化させるけど、含有物まで活性化はさせない。スルも何度も試したけど、それはどうやっても改善はできない」


 スルトの発言に中年くらいの農家さん達は納得しだした。老齢の農家さん達は固定概念が抜けないのかあまり好意的ではないが、郷に入っては郷に従え…か。とそちらにシフトすることにしている。若い世代はそもそも経験不足。スルトの基礎的な言葉の意味すらよくわかってない。

 スルトの講義は昼を挟み午後へ突入。本当に基本的なことだけだけど、文化の差が大きく、納得してもらえるのには時間を要した。

 午後からはその弊害について。そのまま魔石散布農法を続けると、土地の栄養だけが欠乏して魔素だけが過剰になる。魔素が過剰になると魔境に似た作用が引き起こされるらしい。特に顕著なのが『井戸枯れ』だ。土に魔素の膜を張るのと同じ行為であるため、水脈から染み出す水を止めてしまう。水源が枯れてしまったのもこれが理由の一つだ。

 魔境というのは主が成長の傾向を決めると言ったと思うが、土地を富ませる為に魔素を使う行為を続ければ土地は肥える。土地から吸い上げる行為を続ければそのまま土地が荒れ果てる。どれだけたい肥を撒いて追肥をしても土に馴染まない。植物もうまく育たなくなるのだ。


「な、なんと……。それではやり方そのものが間違いだったと?」

「違う。間違いではない。魔石農法自体はスルは間違いとは思わない。やりすぎなだけ」


 魔石農法で作られる農産物や畜産物はとても品質がいい。それだけに魔石を使えば品質がいい作物が取れるというのも間違いではないのだ。生産速度、品質、数、密度など全ての工場が見込める。だから、やり方の問題となる。付加価値を付ける意味で、ごく一部に魔石農法を使う分にはスルトも否定はしないという。

 しかし、それを常用することはお勧めしないと断言。先ほどまでの長ったらしい説明で理解しているならば解っていると思うけど、一時だけ良い作物が取れる。けれど、それは本当に一時なのだ。それを続けると土地はボロボロになり、作物は育たなくなる。

 考え方のすれ違いというのだろうか……。とくに経験豊富なお年寄りから納得の声が出た。経験上、確かに魔石を散布した農法は同じ畑を連続では使えないことは知っていた。しかし、ここ最近の戦役の為の徴収に応えない訳にはいかず……。土地が荒れ果ててしまったという。先王の時代からのことであるらしい。僕としてはその短期間でそれだけ影響が出る魔素の過剰状態の方に驚きだけどね。


「あと、過剰な魔素が土地に滞留すると、人間の体にも悪影響。そこで取れた作物も体に悪い物になる」


 スルトのその言葉に農家の皆さんは完全に打ちひしがれていた。まぁ、当然と言えば当然なんだけどね。

 薬草の含有魔素を利用して外傷回復や解毒の効果を、魔術的操作で向上させた薬が『魔法薬(ポーション)』だ。酒類はその薬草の効能だけたくさんあるけど。それと同じように痩せた土地で濃い魔素に充てられた作物が、食す側に影響を与えることは言うまでもない。魔法薬とは違い、魔術的な向上操作が無い故にそれ程顕著に害は出ないが、それでも長時間食べ続ければあまりよろしくないのは言うまでもないのだ。

 それにその悪影響も必ず体調に出るとは限らない。

 精神面に出る場合もあるし、寿命が縮むような場合もある。体調に現れる場合が多いのは言うまでもないけどね。現に北方の農家の皆さんはほとんど痩せている。これは痩せた畑で育てた野菜を食べ過ぎたせいだ。魔素ってのは本当に何を引き起こすか解らないから怖いよね~。


 ~=~


 農家さん達はまだいいよ。それほど問題ない。移入先で苦労しているのは、他の職人さんも言うまでもない。特に鍛冶職人と薬師の皆さんは絶望にも似た技術力の差を見せつけられたと思う。毎日基本的な部分から教え込まれている。職人さんで言えば砥作業の方法一つから始め、鍛造作業のやり方も違えば、使っている道具のグレードも全く違う。北方出身の鍛冶職人さん達はミスリルすら初めて見るが、ここではそこそこ見慣れた金属だ。希少なことは変わらないけど。

 一生に一度見られるか見られないか……というような物ではない。少なくとも月一くらいは見る。

 その特殊金属のことを除いてもエリアナの領地はまず鍛冶技術で突出しているドワーフが居る。その高い技術を持つドワーフが、エルフの造り出す高精度の魔道具を使って各種作業をこなすのだ。そりゃ打ちひしがれるのも頷けるわけですわ。それに彼らはまだ知らないしね。土妖精が行う精密加工用の魔道具で造り出す細かな部品などは見せていない。銃や魔道車など一番の核心部分などは言うまでもないけど。


「何なんだよ。……ここの鍛冶師は」

「あぁ、腕もそうだが使ってる道具のレベルが違い過ぎる。こりゃ~しばらくまともに鉄も打たせてもらえんだろうな」

「俺らのプライドが許さねえだろ。中途半端なもんは作れね~。基礎からやり直すぞ!!」


 あちらではあまり良い待遇ではなかったようだけど、彼らは彼らで奮起していた。ここにも時間を見てスルトが現れて、槌の使い方や基本的なやり方のおさらい。ここの物と以前の場所での備品による品質の違いを説明し、焦らないように話している。ここは最初からここに居る者には良いけど、後から来た物には慣れるまでに時間がかかる。

 スルトもそれが理解できているから、親方気質のゴードンさんやキールには余り厳しくやり過ぎないように言っている。鉄を叩くだけなら簡単だが、鉄を思った形になるように叩くのは難しい。……そういう事だ。それから、ここは他種族の寄り合いで、種族ごとにできることには限界がある。確かにドワーフは名工が多いけれど、工房全体の中では3分の1に満たない。他はほとんど人間だ。役割という物はどうしても重要になる。

 人族の職人さん達にはレベルを分けて量産品を生産してもらっている。だからと言って手を抜いてもいい訳じゃない。その剣を使った兵の生死を分けるし、日曜使いの道具だって適当に作れば壊れやすく怪我をさせる。職人にはそれを作ることに誇りが必要だ。流れ作業で適当にやるようなヤツは職人じゃない……とスルトが生意気な若手職人をたまに殴り倒すらしいし。


「にしても、あの魔人の嬢ちゃんには頭上がんね~な」

「だよな~。あの嬢ちゃん、一番働いてるもんな。俺らも頑張ろうぜ」

「うっす!!」


 ~=~


 スルトはあまりここには来ないが、実は豊穣の迷宮からエルフの薬剤精製所がヨルムンガンドの迷宮である『紅宮(こうきゅう)』に移設されている。植物系の魔法が使えるヨルムンガンドは薬草だけではなく、薬になるキノコ類や樹木のことにも詳しい。他にも虫や土中の成分にも詳しい……。

 そのスルトの妹の所には紅を基調にした揃いの制服が用意されている。それを着たエルフの薬師や人族の薬師が凄い数いるらしいよ。薬草だけならもう紅宮の方がたくさん生産しているらしいし、その手の研究もスルトの手から専門知識の深いヨルムンガンドの手に移っている。

 こちらの人族の薬師はあまりカルチャーショックは無いらしい。

 むしろ鼻息荒く研究者の熱意を爆発させていたという。僕は現場には居なかったけど、ヨルムンガンドの薬草園で何人か行方不明になって、直ぐに救出されていたらしいし。巨大な食人植物も時には薬草になるらしいから、そんなのもあるから注意して欲しい。あそこは独特な雰囲気で僕はあまり行かない。常に薬品の臭いがするのも苦手なんだよね。


「むふーッ!! 何故ワシらはここにはよう来なかったんかのう!!」

「ですねですね! 師匠。ここには伝説級の薬草がオンパレードです。人生の半分損した気分です!!」


 そもそもここができてからまだ1か月経ってないから、貴方方は早い方だと思いますよ……。

 今日はスルトについてここに来ている。以前着た時よりも鉢植えの数が増えている……。というか、鉢植えが歩いてない? あぁ、そういう魔物なのね? 住み着いたと……。『絶叫花(マンドラゴラ)』ね。ヨルムンガンドが怪しげな会議室風の大部屋で紅のローブを着た怪しい集団に薬草の知識を教え込んでいる。特に、薬師や医師の卵を中心にしているようで、凄くたくさんいる。移住者にはこういう医療知識のある者は少ない裸子から……いい傾向? と言えばいい傾向なのかもしれない。

 スルトと紅と白の城郭型迷宮の中を歩いているんだが……。あちこちから気味の悪い笑い声が響いている。この紅宮は外郭が防衛施設で内部は研究施設。ヨルムンガンドや薬師、医師の生活施設になっている。今は研究室が並ぶ区画に居るんだけど……。これ、エリーカ寄りのマッドな人達を量産してないか?


「パパ……。クリエイティビティは人を覚醒させる麻薬なの」

「……いや、別に開発するだけなのはいいんだ。どんなに狂ってもね?」


 僕とスルトが死んだ魚みたいな目で会話をしていると、研究室の1つで爆発が起き、紫色の煙がキノコのような形で立ち上る。中から数人の研究者が転がるように飛び出してきた……。うん。問題が無いならいいんですよ。うん。……あれ、問題ないよね?


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後120日~125日

主人 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長9.5㎝

取得称号

NEW ・親としての感慨


取得スキル

NEW +教導術


 ~=~

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