愚王が残した物
はい、お疲れ様です。僕です。クロです。
目の前でプルプルしている若い女領主、ハープランド家のジョゼフィーヌさん。お父上が体を壊し、領主業を継続できぬと、エリアナ領へ加入後に代替わりしたなり立てホヤホヤのお嬢様だった。他に兄弟も居らず、快い領民と家臣に支えられながら毎日頑張っている子とのこと。リリアさんが教えてくれた。
その若領主さんの発言に、まず絶対零度の域で冷たい空気を噴き出すのはツェーヴェ。そのツェーヴェを抑えて理由を聞くと、完全に勘違いだった。『英雄色を好む』という言葉がある。その言葉を歴史や政治的背景を察せずにそのまま理解したようだ。まぁ、そういう英雄も居るんだろうけど、この子は不安になるくらい正直だな……。どうも僕は周囲ではかなり好色だと勘違いされているらしい。その理由にツェーヴェも呆れていた。別に僕の妻になりたいのではなく、単純に庇護に入ればいろいろ便宜を図ってもらえるかな? という一種の人身御供的な行動理念である。
以前の政治体系ならそれもありかもしれないが、僕はそれを好まないしそもそも既にセリアナさんが奥さんを盛大に増やしてくれたおかげで、僕はその手のことは困っていない。いろんな意味で。なので、正直に物品や情報、これからの労務などで行えることを聞く。
「お金はあるの?」
「はい。どこも食料不足で買うに買えず、税は抑えていても貯まるばかりでお金はそこそこ」
「ならさ、たしか対岸の領地は領主さんが不在でしょ? 対岸に繋がる橋を建築するのに人足を出してくれたらいいよ。問題が起きたらできるだけ領兵で対応して欲しいけど、無理そうなら近隣の領主さんとか、エリアナに報告すること。いい?」
「あ、ありがとうございます。そのそれで……」
「なに?」
「私はいつ頃お城に上がれば……」
ツェーヴェによ~く説明してもらった。しっかりと懇切丁寧に。
この子、本当に不安なので、セリアナさんから直通で代官さんをそれとなく入れてもらうことにした。……これは余談だけど、周りの人達が凄くいい人だったからあの領地は回ってたようだ。このご時世に珍しいことだが……。なので、僕もセリアナさん推薦の代官さんにはくれぐれもお願いしておいた。あっちの家臣の方々もこっちにお礼の手紙を送ってくれたらしい。彼女が悪い訳ではないんだ。善良な領主が居るのはいい事だよ。……たまたまこういう状況になっただけだから。
そういう事で、どんなに頑張っても振りきることができなかったツェーヴェとヴュッカを連れて僕の縄張りから王城跡を経由して難民が居ないか確認しながら現状の北端に位置する土地を治める領主の所に出向いた。アポも取りようがないので、いきなりの訪問を詫びたが……駄目だ。ここはアウト。門前払いというか、領内に入って直ぐから空気が重い。畑仕事をしている人は痩せこけているのに、領主館にいた使用人は肥えていた。その1人だけだと問題なので情報収集。……はい、アウト。ここの領の隅っこの村に迷宮核を隠して設置しておく。次に行こう。
それから四つ程の領地を回ったが……。うん。オールアウト。この先もそこそこの数があるけど……。どこも似たような状況なんだろう。領民がああやって逃げ出そうとするのもよくわかる。
セリアナさんがよく言っているが、領民あっての領主。国民あっての国王だと。そもそも集団を作らねばリーダーは生まれない。そのリーダーは率いる代わりに支えてもらっている。リーダーが偉いのではなく。仲間が信頼してくれているが故にリーダーはリーダー足り得る。
つまり、領地は領主の財産ではない。領主が正しく統治するための土地や人足、税であり、領主の報酬ではない。……もちろんそういう側面もあるが、全てがそういう物ではないはずだ。それを税は全て領主の財産だと勘違いしている愚物が多すぎる。比較的子供っぽいヴュッカがキレてボコりそうだったのを、何度となくツェーヴェにヴュッカをボコって止めてもらった。
「はぁ……ここまで腐ってるともうね。疲れたよ」
「宿に泊まるのも怖いくらいに治安も悪いですね」
「それは問題ない。迷宮核の応用で宿替わりの家屋くらいはすぐに用意できるから」
夕暮れ時になるまでに10の領地を回ったが、その内の1つだけ僕に土下座してくる領主が居た。民を救ってほしいが対価が無い。それをどうにかして欲しいという懇願だった。これまでのクズ領主の連続で心が疲弊していた僕らに、一瞬だけ光明が見えたような気分だったね。彼にはできるだけ早く領民を領主館周辺に集めるように伝えた。ついでに魔法通信機を貸し出して連絡を寄越すようにも。あと、僕の魔法の登山鞄から、支援品を置いてお暇した。領主さんの号泣がいい加減鬱陶しいのもあったが、あそこまでの領主さんが動けない状況がかなり不安だったので。
一応領民にも聞いたが、あの領主さんはいたって善良だった。ジョゼフィーヌと同レベル。彼は派閥でも結構下の方で、あまり発言力は大きくない。また、領の大きさも大きくないのであまり重要視されていないとも。……うん。可哀そうな人見つけたね。
それからは僕らの精神を削り取る愚物のオンパレードで物凄く疲れた。こういう領主ばかりだから大量に詰め込んだ支援品の食料を置いて行くこともできず……。余りまくっている。全ての北方の領地を回り終えたら変わると思うけど。この分じゃ、保険だと思っていたジョゼフィーヌへの忠告が本当に必要だと解った。ここまで酷いと立て直しもできない。一度リセットしない限りは本当に回復は無いだろう。
「だから、一度『王祖の迷宮』に帰還して人手を借りよう。迷宮核を設置しながら、速攻で移動したい住民のみを移送する。移住の気持ちの強い人達だけでいいし」
「そうですね~。意欲が無い人を助けても仕方ないですし」
「えぇ、本当に。今日は疲れました。それでは、クロに癒してもらいましょうか~」
「お休み……寝る」
「「えッ?!」」
~=~
それから残り半数程を午前中で回り、大河をツェーヴェの力で遡上し帰還。王祖の迷宮でエリアナやセリアナさんに結果を報告。結局のところ、挨拶という目的を果たせた領主自体が約半数。至って普通の考え方の統治ができている領主が2件。あの大号泣して縋りついてきた領主さんレベルは彼だけで1件……。
支援の食料も3件分しか渡して無いのでがっつり余っている。
エリアナとセリアナさんには最初から予定していた場所、元ガハルト公爵領の抜けがある部分にねじ込むことを告げた。以前に土地を捨てた人々は他の領地に根付いてしまったからね。一部は帰ったみたいだけど、あの周辺はまだまだ空白の土地が多い。こちらが上手く運べば食料生産ももっとうまく回せるのだ。魔石の活性農業さえ押さえれば、通常の農業へ戻すのはそれ程難しい事でもないし。時間はかかるけど。
なので、僕と30人程で同時多発的な領民強奪作戦が決行された。セリアナさんが最初から挨拶を渋った理由がよく分かったし。連中は本当にダメだ。一度痛い目見てもらう。それでも変わらないなら僕は知らん。魔人衆とヨハネスさんの騎獣部隊や、ハーマさん統率の戦闘メイド部隊が後々加わり、全部で100人規模の大作戦となって……。
結局、土地を捨てられないと頑なな老人以外はほとんどが南側へ渡って来た。一応僕も説明したんだけどね。『黒鋼の森』がかなり速い速度で拡大しているから、ミズチの大河で止まるまでこっち側はすぐに浸食されると思う。一か月もかからず、ここは化外の地と化す。
「結構な人数になりましたね」
「北方の半分だからね。そりゃ~凄い人数だと思うよ」
「いくらもっと前からの移流者が居てもね。規模としてはそれくらい大きいですから」
「まぁ、これで連中が泣きついてくるならいいけど。腹の足しにもならないプライドにしがみつくか……無様にも一度振り払った相手に媚びるか」
ホントにね。これも『愚王の残した物』という事だろうか? エリアナが王城の迷宮を吸収した影響が出ているのか、僕の『黒鋼の森』がさらに浸食の速度を加速させた。王城跡の北西側にもまた別の魔境があるにも関わらず、黒鋼の森はその森と面を接するように急激な浸食を見せている。
驚くことに魔境どうしの隣接だと大暴走は発生しなかったのだ。魔物同士の小競り合いはあるけど。
そんなに頻繁に起こられても困るけどさ……。どれくらいで北方領が飲み込まれるかは解らないけれど、この速度ならそれほど時間がかからないだろう。北方から移入した人々は各地で一気に馴染んだ。そりゃ村ごと移入とかばかりだからね。一応、先人達をたてることは忘れてないし、まずはこの土地や農法に慣れることが重要だ。僕らも彼らのことは様子見に徹している。それ以外に手を出してもいいことは無いからだ。
これで全て綺麗さっぱりとはいかないけど、『愚王』の残した物の大半が片付いたのだと思う。
これにてファンテール王国の関係するあれこれはほぼほぼ片付いた。なので僕もあっちでやらねばならないことをしっかりこなす。それだけでドワーフやエルフ、土妖精、鉱石妖精が狂喜乱舞するから。この世界では最高質の金属、ミスリルとアダマンタイト。これを特殊触媒と正しい割合、正しい手順で融解し合金した物がオリハルコン。笑えることにオリハルコンを合金すると、重量は変わらず体積が10分の1くらいになるので大量の両金属が必要になる。その為に、オリハルコンの大樹から放出される濃密な魔素で枯死したミスリル、アダマンタイトの樹木を回収するのは凄く重要。
「今回も大量だよ。その内、あっちもエリアナの裁量でどこかの移民用の開拓地にしてもいいかもしれない。オリハルコンの大樹周り以外は魔素が急激に薄くなって魔物もかなり減ったし」
「ふ~む。それでも簡単にはいかぬだろうて。その辺りはセリアナやエリアナ次第じゃろうな~」
オリハルコンの小さめのインゴッドに頬ずりするカレッサが他人事のように言う。まぁ、確かにエルフのカレッサ達がどうこう言うことでもないのは確かだ。その為にあの森が生まれたのかと言いたくなるような森だ。『黒鋼の森』のミスリル樹やアダマンタイト樹は僕が願えば確かに生えるんだが、最初にわっさわっさ増殖した時とは違い、かなり生えるのが遅い。理由は解らない。解らない方がいいのかもね。
まだまだ完全には北方全土が飲み込まれてはいない。けれど、このままいけば人が諦めた自然の循環をある程度リセットできるだろう。これをして、あの土地の人を完全に排除し『愚王の残した物』の処理が終わったと言えるのかもしれない。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後115日~120日
主人 エリアナ・ファンテール
身長120㎝
全長16㎝……身長9㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
~=~




