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ファンテール北部の激動

 クロ、ジオゼルグ、ヨルムンガンドが自領から見て南東の山岳地帯と砂漠&オアシスがある国境付近で近況報告と作戦会議をしている中。別のところでは別の人物達が怒り狂っていた。

 クロ一家の女将軍(ゲンブ)水宴姫(ヴュッカ)(ツェーヴェ)がミズチの大河を挟んで反対側に集結する軍隊が睨んでいる状態だ。未だ三人や他の諸侯軍が立ちふさがっていることにも気づけない、ファンテール王国軍である。これは言ってしまえば北方領領主と、国王がしっかりと状況を読めずに起こした戦争。ガハルト公爵という仲介業者を失った北方領主や国王領は言うまでもなく酷い飢餓に陥っていた。もう一刻の猶予なしと、国王と考えなしの北方領主が挙って挙兵したのだ。

 ファンテール王国軍の中心は歩兵と魔法兵、弓兵、騎兵。あとは歩兵の一部に大型の対空兵器や投石器などの遠距離攻撃用の大型兵器だ。俗に攻城兵器である。割合は6割が歩兵、その中に1割の魔法兵が混ざり、3割が弓兵で残りが将官含む騎兵となっている。

 対して、エリアナ領諸侯軍は歩兵3割、弓兵3割、竜騎兵・大型騎獣兵2割、魔法銃兵1割、その他に魔人含む雑多な兵種1割。情報がどれだけ出ているか解らないが、少なくとも魔人が居るという事は解っているだけれども……。以前、カナンカが加入する時の会話を覚えているだろうか? 魔人と戦うということは、正常な精神状態の人族ではまずありえない。余程の狂人か底抜けのアホだけ。このような結論になる。

 今回、指揮はゲンブが行う。しかし、魔人としての力を見せることは余程のことがない場合は許されていない。それがセリアナがクロから魔人衆の人員を借用する条件の1つに当てはまる。魔人は1人居るだけで世界のバランスを崩す存在だ。ここにはそこそこ居るが、普通ならば1億分の1とか天文学的な程少ない。そういう概念になる。


「では、皆さん。落ち着いてくださいね。訓練通りに行えば、あの程度の兵は圧倒できます。指揮は私が取りますが、……何もないことを願います」


 ミズチの大河を境に両軍が対面する瞬間だった。

 ゲンブが認識阻害の結界を解いた瞬間、迷宮領の種族混成魔法銃部隊の旗持ちが号令を飛ばす。弾込めは必要ない魔法銃だが、魔人が使うのとはわけが違う。そもそも、内包している魔素量が格段に違うのだから当たり前だが。魔法銃兵はほとんどがエルフ族、稀に希少種の獣人族や魔力量に優れた他種族が居る。魔素を大気より吸収し、魔法弾に添着、発射までには相応の時間を要するのだ。

 そして、ゲンブが結界を解いた瞬間に渡し舟で移動を開始していたファンテール王国軍はざわめくが、エリアナ領諸侯軍は落ち着いている。一列に構えていた魔法銃兵のマスケットライフル型の銃から、火炎魔法の添着された魔法弾が渡し舟を射貫きながら延焼していく。魔法銃の弱点はここにある。魔法で言うファーストキャストからのリキャストに時間がかかる点。それをゲンブが放っておく訳もなく、第二隊列が揃って一歩前に出る。第一隊列はすぐさま後退し、最後尾に並ぶ。隊列は全3列だ。

 淀みなく魔法銃兵が渡し舟でこちらに渡ろうとしている敵兵を押しとどめるが、どうしてもこぼれは出る。左右に逃れた上陸艇は生き残ったのだ。魔法銃のもう一つの弱点は攻撃範囲。1点集中の兵器であるため、どうしても攻撃範囲が直線的なのだ。渡し舟から渡り切った歩兵と魔法兵が攻撃をしようと左右より挟みこもうとしている。


「今だッ!! 騎獣隊突撃ぃーッ!!」


 そこにヨハネスの声が響き渡る。その騎獣の全てが巨大だ。巨大な黒い馬。巨大な足の長い鳥。最も恐ろしいのは巨大な四足歩行の竜だ。馬や鳥も物凄い速度で突っ込んで来る。破れかぶれで魔法兵が攻撃魔法を撃ちこむが、打倒も落馬すら誘う事すらできない。多少の手傷を負ってはいようが、その獰猛な視線を崩さない騎獣達は猛然と上陸した部隊へ突撃。突貫する。食い破られた歩兵隊と魔法兵隊はそれだけで一溜りもないとばかりに逃げようとする。しかし、逃がさない。お忘れだろうか、……水陸両用の大型騎獣のワーテルローを。河川の中から攻撃される歩兵は哀れでしかない。

 渡し舟での上陸が難しいとなると、遠距離攻撃用の兵器を繰り出して来る。

 それをミズチの大河の半ばで浮いているワーテルローから中型バリスタによって制圧射撃を受け、敵は兵器を準備するのにもたつく。そのもたつきを見逃すゲンブや指揮官ではない。魔法銃兵の指揮官へ指示が飛び、魔法銃兵の中から異なる銃を持つ三人が前に出る。その後ろには魔素を充填している待機兵が並んでいた。

 そして、その銃から特殊な魔法添着弾が放たれ、前に出されていた大型兵器の数々が爆発していく。狙撃用の魔法銃だ。ライフリング機構の量産にはこじつけることができず、その他の細かく小さなパーツもまだまだ量産ができない。それに扱える銃兵も限られる限定モデルだ。使えるのは獣人の気性個体やカレッサのような稀有な力を持つ魔導師だけ。敵の投石器やバリスタへ長距離を撃ち抜ける火炎弾が襲う。


「火炎属性大魔法来ます!! 防衛陣、構えぇー!!」


 ワーテルロー部隊からの声が響き、各部隊の人員が魔道具を持って最前列へ走る。この役目はドワーフ族と各領から来ている力自慢達だ。これはギリギリ生産が間に合った魔道兵器の一種。ゲンブの結界魔法が使えれば即解決なのだが、それはクロとの約束に触れてしまう。そこでドワーフがギリギリで作り上げた、アダマンタイト製の魔法防除盾を使う事になった。魔力を流すとどんなに強大な魔法でも一時的に無効化できる範囲兵器だが、防除の限界値も兵器自体の耐久性に依存するためにアダマンタイトを使用。そして、王国には数人の大魔法使いが居ることも知っていることから、規模の大きな物が求められた。

 かなりの広範囲をカバーするために、ドワーフと力自慢達が急ぐ。それを阻止するためか、対岸の弓兵や魔法兵から集中砲火を受けそうになるが……遅い。左右から潜航していたワーテルロー騎士団が攪乱や戦力減退を狙い、分厚い歩兵団と弓兵団を食い破る。通常の軍馬でもひとたまりもない突撃を、人間が受けて無事な訳がない。隊列を組んでいることが災いし、遠距離武器屋魔法が使えず、反撃が送れワーテルロー騎士団は食い破るだけ食い破り、多少の手傷だけでミズチの大河へ飛び込んだ。その瞬間、大魔法が炸裂したが、既にドワーフ謹製の魔法防除盾の設置が終わり、指定の位置で兵士は待機。大魔法は不発。今度はこちらからの攻撃だ。

 上陸作戦を敵の目の前で行うと言うのは本当の意味で決死の覚悟となるが、……こちらの陣営はそうとも限らない。

 水面下では戦が始まる前から作戦が執り行われていたのだ。ミズチ大橋のがれきがある場所を狙い、水面から見えにくい場所に人魚族が水中と水面の両用船を展開。2船で足場を抱える形で浮かびあがり、再びヨハネスの号令が飛ぶ。


「さあ、行くぞぉッ!! 騎獣兵団総突撃ぃッー!!」


 士気の高まりと雰囲気が兵卒や騎獣の気持ちを昂らせ、かなり頑丈につくられた足場を大盾を構えたヨハネスが戦闘で突っ込んで行く。それと同時にワーテルロー騎士団が再び浮上し、3点からの突貫は見事なまでに国王軍の兵団を打ち破って行く。

 敵兵が騎獣兵団にかかり切りなのをいいことに、ハーマ率いる突撃歩兵団が人魚族の用意した船に乗り込み対岸へ上陸。稲妻のごとく駆け抜け、衰えないその剣技と魔法を駆使して敵の兵団を食い破る。鬱陶しい弓兵や魔法兵は続々と上陸する魔法銃兵に狙撃され、討たれて行く。そうこうしている間にファンテール王国軍は総崩れ。途中から士気を維持することもままならず、兵は逃げ出し……いや、先に指揮官が逃げ出し、戦場の様相は掃討戦へ。ヨハネス率いる騎獣兵団も体力の続く限り、隊列を組んで突進を繰り返す。投降する兵も少なくないが、自棄を起こした北方諸侯の騎士などは分け隔てなく轢殺されていく。

 正午前から行われていた戦では双方に被害は出た物の、エリアナ領諸侯軍の被害は予想数よりもずっと軽微であった。ファンテール王国軍の士気の低さや兵器の強力さが大きいだろうが、この戦功は各種族や各領の当主に勇気を与えた。このまま北方領を次々に制圧する戦が始まることになると思われたが……。

 その前に魔人ツェーヴェが指示を出し、軍団は後退。狼狽しきった捕虜を彼女の水の結界で包み込み、対岸へ引き上げる。また、人魚族やスキュラ族もヴュッカとゲンブにより引き上げられ、訳も解らず居ることしかできなかった。


「大暴走よ!!」

「何したんですかね~……。黒鋼の森は以前の魔物とはわけが違います。私達だけでどうにかなりますか?」

「どうにかするしかないでしょう。たぶん、タケミカヅチは気づいてる。南東側に居るクロとスルトが気づいてくれるといいのだけど……」


 ツェーヴェはこの時、これまでに感じた事のない強い怒りを感じていた。これまで理不尽なことには何度も立ちあってきたが、今回のことは彼女の中でどうしても許容できなかったようなのだ。これまで解放してくることを控えていたツェーヴェから、ヴュッカやゲンブですら身震いするような魔素が吹き上がる。通常の魔人がこれをやってしまえば、その存在を消滅させてしまう程の魔素の暴流だ。

 魔境の主であるツェーヴェだからできる荒業とでも言える範囲になるだろう。

 周囲にある水を巻き上げ、逃げ惑う人間など眼中になくミズチの大河へ向けて猛進してくる金属光沢を纏う異質な魔物。それらに向け、怒りに任せたツェーヴェの水が数千、数万……それでも収まりきらない数の槍となり、濛々と砂煙を巻き上げる魔物へ放たれた。

 現実で経過した時間は数十秒の極めて短い時間だっただろう。しかし、ツェーヴェにより退避し命拾いした兵や、今や捕虜となった元ファンテール王国軍の人間には、数時間の長い時間にも勝る疲労感だったと思う。水源と河川の守り神である蛟の名を冠するツェーヴェ。その本気の力、やり切ったと言った晴れ晴れしい笑顔のツェーヴェの一声により、徐々に我に返り、歓声に変わっていく。この戦は女将軍ゲンブの偉業と並び立つ功として、国史に残り語り継がれていくこととなる。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後110日~115日

主人 エリアナ・ファンテール

身長120㎝

全長16㎝……身長9㎝


 ~=~

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