閑話休題12『クロの魔境探索“黒鋼の森編”』
今日はエリアナに言伝、彼は彼の縄張りとなった森に来ている。そこの名は『黒鋼の森』だ。
その森は森と言うが森ではない。クロも慎重にその森に生えている植物を採取し、樹木を切り倒して魔法の鞄に詰め込む。また、最近湧くようになった魔物を屠りながら主としての力を見せつけている。我こそがこの森の主であると、クロに挑む魔物には共通していることがあった。その魔物の全ての甲殻や牙などの硬い部分が全て金属質なのだ。それも恐ろしく硬い。これはミスリルやアダマンタイトだ。鉱脈から発掘される鉱石の中で鋼よりも軽く、魔法に対しての順応金属として有名なミスリル。さらに希少な金属であるアダマンタイトは金属の中で最も重く、金属としての粘りを失うことなく最高の硬度を持つ。
そんな特異性満載の『黒鋼の森』だが、彼は面白い樹を見つけてしまった。
そう、彼は見つけてしまったのだ。その大樹は彼に見覚えのある物が生っている。一定の間隔で明滅する……巨大な白球。そう…迷宮核だ。彼は考えた。これをどうしようか……と。ここは彼がたどり着いた感覚から言って、人間では絶対に到達不可能だ。新種の魔物は言わずもがな。この金属でできた樹木は規則性がある配置となっていて、極めて迷いやすい。また、魔物ではないようだが、中空を漂う明滅する光球は、触れると一時的に麻痺効果をもたらした。この凶悪な森の主が自分であることを忘れている彼は、時間が経つのを忘れて大樹の周りを改造し始める。大樹に生っている迷宮核らしき物の1つを収穫?し、彼は大樹の中心をくり抜いて中に設置した。
「へ~……こんな使い方ができるのか」
この『黒鋼の森』は飛び地だ。主であるクロもよほどのことがない限りはここへは来ない。その余程の事と言うのが、虫の報せか何かでこの大樹が成長し、迷宮核が生ったことを知ることができたからだ。この主の感覚は以前からスルトやゲンブ、タケミカヅチからも聞いている。ツェーヴェもこれに関しては言っていた。
魔境の主は自身の縄張りである魔境と一心同体だ。魔境に何らかの変化が起きると、主は体に不調や好調があるかのように感じることができる。ツェーヴェが人間の侵入に敏感なのもこの辺りが理由だという事だ。また、この魔境の主の権能に関して言うと、魔境の主である時間が長ければ長いだけ同調が強い。まだ若い主であるツェーヴェを除くクロ一家は、それほど過敏に報せを受けることはない。その証拠に、クロは彼の森がどれほど拡張しようとも、あまり感じ取ることはなかったのだ。しかし、これだけは感じ取った。迷宮核の生み出す……オリハルコンでできた大樹。機械的な光を放ち光合成でもするように、高濃度の魔素を吐き出すその大樹を見て、クロは何を思うのだろうか?
彼はしばらく彼が作った生まれたばかりの迷宮で自分好みの隠れ家を作っていた。
あくまで生活感が重要で、敵からの攻撃を防除することなど考えていない。数時間をかけて完成した彼の理想の迷宮を見回し、ようやく防衛機能として疑似魔物などの配置を開始。そして、エリアナの管理する王祖の迷宮側へ地面を掘り進んで行く。飛び地であるからとても道程は長いが、それでも繋げておくに越したことはない。最近では錬金術に詳しい種族の移入もあり、超希少金属もそれなりに使い勝手が良くなっているからだ。
「でも、世界のバランスをぶっ壊しかねない物が生えたな。一応、魔人衆やエリアナ達には伝えておこう。僕以外にあそこにたどり着けるのなんて数える程しか思いつかないけども」
クロが完全認識阻害の術式を組み上げた、ガラスドームで覆われた大樹の温室。それが半日でできあがった訳だけども。ここは元『黒の森』の中心地。ここはファンテール王都からと、センテン高地からほぼ同距離。ここに気づくとすればここからさらに北北東にある『凍土の国』かさらに遠方の北北西にある『ビブリベリア妖精国』くらいだろう。
とは言っても、どの民族も大樹へたどり着くためには魔境の主クラスの力がないと無理だ。
実際、彼もここの主になってなかったら、ここをどうにかするのは難しかったと思っていた。魔境の主がどれ程の力を受けるのか……。そして、その魔境の主が数人集う魔人衆。今考えなおせば恐ろしい事だと、顧みながら彼は王祖の迷宮へとひたすらに地下を掘りぬいて行く。
クロ自身は知らない。彼はずっと見守られている。彼が前世で若くして死を迎えた際の行動と……。彼が助けようとし、共に死んで行った者達の魂の交わりを。とても楽しそうに。見ている者がいる。
その存在はクロという存在をこの世界に送り届けるまでが仕事。それ以降は彼の、彼による、彼の為の新たな生だ。特殊な経緯で新たな生を受けた彼であるため、その分のズルも施されてはいるけれど。それであっても彼が生きている世界は……。生き物は一筋縄とはいかない。
「ん?『誰かに見られてる? そんなはずはないか……』」
前世の姿から全く異なる、この世界基準の生命体として生まれた彼。彼は最初に手に取ったケージの生物と共に崩れた天上の下敷きになり、前世の短い生を終えた。そのケージの中に居たのは……アカメカブトトカゲ。単に彼がお気に入りだっただけの生物と同化し、彼はこの世界に生れ落ちた。
言わずもがな、この世界にはアカメカブトトカゲなどという生物はいなかった。ツェーヴェという蛇魔人の女性のモデルである原種も、フニフニ尻尾の愛らしいスルトの原種も、タケミカヅチなどは完全にこちらの生物とのハイブリッド。ゲンブもそうだ。魔人と化している皆……いや、魔人と化しておらずともそうなのかもしれない。
彼はどのような種族に転生したのだろうか? これから彼にどのような運命が降りかかってくるのだろうか? それはこの世界に彼を転生させた存在にも解らない。触ってはいけない。これは彼の人生だから。これは、新たな彼の人生。彼と、この世界で彼の下に集う者達とのものだから。
「お帰りッ!! クロ!」
「おかえりなさ~い」
クロは長い時間を掘り進み、ついにエリアナの管理する迷宮へと通路がようやっと繋がった。それをいち早く察知したのはこの迷宮の主であるエリアナと、その迷宮がある魔境の主、ツェーヴェだ。最初は1人で、次にツェーヴェと出会い。ひょんなことからエリアナとリリアと出会ったことで彼の爬虫類生は大きな視野の広がりを見せた。
クロはそんなことを考えつつ、彼の魔境で見つけた物の話や近況を交えつつ彼らの家でもある城に向かっていく。
そこにたどり着く前に、何人もの住民とあいさつを交わしながら、今日も彼は生きている。これからも生きていく。それが順風満帆か波乱万丈かは解らない。天上界から彼を観察する存在だとしても、解らないのだから。解らない故に面白いとも言える。これからも彼の爬虫類生に幸多からんことを……。
「セリアナさん、来ましたよ」
「うふふ、ようこそ。こんな夜遅くにごめんね? 最近、周りから熱烈に皆からアプローチを受けてない?」
「えぇ……、まぁ……。おかげで気が休まらなくて困ってます」
「あら? そうなの? 男の子ならモテモテなのは嬉しいと思っていたけれど」
「ははは。僕はそれ程気は大きくないです」
「う~ん。そうなのね~。なら、クロちゃんは、一気にドカンか、ゆっくりチビチビかどっちがいいかしら?」
「はい?」
「こっちの話よ。それで、どうかしら?」
…………苦労多き爬虫類の彼に、幸多からんことを。切に願います。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後100日~105日
主人 エリアナ・ファンテール
身長120㎝
全長15㎝……身長8.5㎝
取得称号
NEW ・苦労多き爬虫類 ・二度目の生を謳歌せし者
取得スキル
NEW +創作者
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