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ゼバーニアン大湿原とククルカルナ大砂漠の境界

 以前にもこのフレーズを出した気がするけど。魔境が魔境と言われるのは、何も魔物が強いだけが理由ではない。魔境が魔境と言われるそのもう一つの大きな理由は、急激な環境変化にある。一例として、フォレストリーグの周辺は連作障害や積み重なった悪天候から、荒野と化した元農地が広がっていた。しかし、魔境『魔の森』との境からは急に幹の太い樹木が生い茂り、急激に環境が変わる。カサカサに乾いて潤いの無い風が、森に入った瞬間にねっとり絡みつく高湿度の空気に包まれるのだ。

 このように魔境は普通にはあり得ない環境の変化をし生み出すのだ。

 ラザーク王国が長年に渡り、開拓事業を行って失敗を重ねたゼバーニアン大湿原。その大湿原とラザーク王国本土にも二度見したくなる程大きな差があるのだ。いくら魔境とは言えど、これほどの急激な変化をするのは珍しいとも言える。集中して哨戒任務をこなしてくれるタケミカヅチやテュポーンの話では、砂漠側が通常の気候とのこと。魔素が極端に薄く自然の恩恵でこの形をとっているらしい。しかし、この砂漠の一部が不自然であるため、ラザーク王国の中央には迷宮とその外縁に魔境がある可能性は高いとのこと。


「ついにおバカが動きましたか……」

「エリアナ様、さすがにお言葉が過ぎますぞ」

「ご、ごめんなさい」

「まぁ、でも本当にこのタイミングで攻めて来ましたものね。『おバカ』と言いたくなるのは理解できます」


 エリアナが呆れ混じりに溜息をついていると、その口ぶりに総指揮官代理のヨハネスさんが軽くお叱り。それでもセリアナさんもヨハネスさんには反論せず、娘の発言を汲んで相手の残念さを嘆いている。

 セリアナさんの推察では相手は、こちらが魔境の中に複数の拠点を構築しているとは考えていない。ゲンブが完全に間者を入れない処理をしていることで、情報が全く流れないのだろう。三勢力に分裂しているラザーク勢力だが……。最初は前王をクーデターで殺害して王位に就いた長男が支配していたが、各所で不安と不満が爆発。国内の忠臣諸侯が大勢ついていった王女の派閥。前王に正式に次期王だと指名されていた次男の派閥。今、攻め来ているのは長男の派閥。

 余裕もないのだろうが、砂漠エリアギリギリのところに歩兵やラクダ騎兵、数は少ないがサンドリザード騎兵も居るらしいね。けど……、ゲンブに伝令して叩き潰すように話してもいいんじゃないだろうか? エリアナも今回のことはあまりにもなので、ヨハネスさんに一応意見をもらって防衛的反撃を許可。敵の攻撃姿勢が見えた場合、粉砕して本陣も食い破ることも可とのこと。その際、敵本隊の壊滅と首都進軍に連れてって欲しいヤツが居るんだよね。


「あ~……生まれたんだ。今度は何と何?」

「片方がオオヨロイトカゲ、もう片方がアミメニシキヘビ」

「へ~。可愛いの? それは人によるとしか。本人たちはここに居ますが」


 僕の襟元にアミメニシキヘビの『ヨルムンガンド』。肩の上にオオヨロイトカゲの『ジオゼルグ』。ヨルムンガンドは土属性の魔法が得意な特化型。気性は控えめの無口キャラで、どちらかと言うと引っ込み思案ではある。それでもスルトのところに配置するつもりだから、その辺りもすぐに何とかなるだろう。

 ジオゼルグは……ボーっとした性格だな。なんというか、なるようになるさって感じの雰囲気をしている。生まれたばかりだから何とも言いにくいが、その内個性が出るでしょ。

 他にもいくつかの卵がいつの間にか持ち込まれているから、その内どんどん増えるんじゃない?

 第一世代の子らが自立し、自分の縄張りを切り盛りするようになったのだからね。その内の1人? である魔人ゲンブから緊急の報告を受けた。攻城兵器と大軍を率いた男が鬼気迫る勢いで進軍してきたとのこと。誰かなんてすぐわかる。ラザークの自称王エギルだ。父親を断首したくらいだから、かなり過激な考え方をしていることは確かだと思う。しかし、可愛そうなほどに状況が読めてない。ゼバーニアン大湿原にできているのはただの城塞都市じゃない。

 防衛だけではなく、こちらの攻撃に有利な堀や水路の配置、棚田が組まれた計画的な都市の中を……。許可さえあれば攻撃も辞さない動きだ。10m級の半水棲オオトカゲ、ワーテルローの迎撃部隊である。


「たぶん、エリアナが許可を出したら総攻撃が掛かって数分持たずに壊滅すると思う。ワーテルローが居なくても騎鳥兵や騎馬兵の槍隊に食い破られて終わるだけだね」

「どうするの? エリアナ?」

「え~と、できれば流血は避けたいのですが……」

「エリアナ様。時には、貴女を慕い、自分たちの居地を守らんとする兵を信用するのも貴女の務めです。今は爺が降りますが、永遠にはおりませぬ。その旨、ゆめゆめお忘れなく」


 一瞬、隣のお母上に助けを求めるような視線を向けたが、セリアナさんはどこ吹く風でお茶を啜る。今度は僕に視線を送って来た。けど、僕は真剣な表情で首を振る。エリアナがいずれは選んでいかねばならないのだ。他の人の人生を背負って行かねばならない位置に居る。だが、僕も思う。エリアナに命を預けられるから集まったのだ。

 そうやって言うと、エリアナも心を決め、書類を物凄い勢いで読みぬき、2分程経ったかというぐらいで椅子を立ち、敵攻撃軍への反撃の許可を出す。また、蛇魔人の中で優秀な人物に斥候を任せ、今回襲撃してきた敵軍の本拠地を割るとのこと。あくまで無理をしないことが前提だとも言っているけど。

 ゲンブとエリアナは主と従魔との関係であることから、念話ができる。緊急であるためこの処置だ。

前線指揮官はクォアさんとリャエドさんに。都市の全域式をゲンブに。今回初めてエリアナが治める迷宮領の軍事的な行動が表に出る。これまでは表立って攻撃もされなかったし、する必要も特に感じなかった。僕が都市に潜り込んでいることは何度かあったけど。


「では私も前線へ向かいます。クロさん、ボディガードをお願いするわ」

「了解」

「お母様はこちらの指揮をお願いします」

「解ったわ。任せなさい」


 女の子の準備というのは総じて時間がかかると思われているが、エリアナはそんなことはなく爆走トロッコに乗り込んだ。僕らは3時間くらいで蛇神神殿の迷宮駅から、外壁上部に居たクォアさんのところへ。もうラザーク……いいや、自称王のエギルの軍は悲惨なことになっていた。

 そこからは簡潔に説明をもらった。

 戦い方としては及第点。こちらが前に兵を出す余裕を与えず、素早いサンドリザード部隊で急襲。破城槌部隊で城門を攻撃するも……時間の無駄。ミスリルと魔の森の木で作り替えた城門を簡単に壊すことなどできない。

 エギル軍の可哀そうな顛末はここから。

 近づきすぎたのだ。全軍で……。幾何かは残しておけばよかったのに、全軍で詰め寄ったので、ゲンブによる酷いしっぺ返しを食らった。足を凄まじい流れの水に取られ、棚田の最下層まで落とされたエギル軍の目の前に、城門を開かずにスルっと出て来る大型の騎獣、ワーテルロー。これだけでエギル軍は騒然。現在の実践配備できる総数30騎を惜しみなく出陣させる。自動装填方式の中型バリスタを用いて敵兵をさらに押し返す。できうる限りの流血は抑えているが、それもそろそろ難しいと思われる。

 僕らが到着し、エリアナの帰還、もしくは投降を呼びかける声に敵は罵詈雑言で返してきた。

 それに大音響の咆哮で答えたのはゲンブ。いつも思うけど、魔人化している僕の子供達は皆どこからあの咆哮を上げているのだろうか? ゲンブは人間の言葉を使わずに、ワーテルロー部隊へ指示を出した。直後、ワーテルローの体が一瞬だけ浮いたように錯覚したような現象が起きる。


「あ~、これは酷い」

「ゲンブ様がお怒りですからね。もうどうなってもおかしくないかと」


 ゲンブが僕らが来る前に敵を押し返した時よりも、さらに多量の水で敵を飲み込んだのだ。そればかりか、機動力であるサンドリザード騎兵やラクダ騎兵を完全に無力化。サンドリザードはそのシャープな体つきと、水と縁遠い生活からか遊泳などできない。水にまかれて窒息。他の騎兵は巻かれた水流により互いにぶつかったり、物資と衝突するなどで怪我人、死者を量産。

 それに追い打ちをかけたのは、やるときは徹底的なゲンブの部下。自動装填型の中型バリスタを号令に合わせて射撃。実はこの複座式の二連鞍だが、前に座っている騎手は魔法兵。バリスタの穴を埋めるようにリキャスト間の時間が短い衝撃波魔法で牽制射撃……。これだけでもう敵さん総崩れ。自ら逃げようと浅い場所に出ると、魔法かバリスタボルトに撃ち抜かれる。絶望しかない。

 今考えついたんだけど。僕が最近開発した16連リボルバーを騎手の鞍に備え付けたら……。やめておこう。これ以上殺人的にする意味はない。そもそも流血は避けたいエリアナの考えから離れてしまうからね。


『うわ~。ドン引きですわ~』

「どうしたの? ケレンガ」

『えぇと、遠視の魔法で敵の動きを見ていたんですけど、敵の大将エギルは真っ先に逃げ出したようです。もう攻撃はやめても問題ないかと』

「そうね。助ける意味もないけど、無為に命を奪う意味もないわね」


 クォアさんが指揮を出している蛇魔人の斥候が報告の念話魔法を飛ばしてきた。たぶん若手の子だ。それでも1000歳くらいだけど。クォアさんがゲンブに指示伺いを行ない、エギルが居ないことを理解したゲンブが魔法を停止。ワーテルロー部隊は門があるのに、何故か壁をよじ登って中に入っていく。他の騎獣を投入するか否か微妙だったので、門は解放されていた。門から入ればいいのに……。

 うん。生き残りで完全に戦意が折れている者は縛り上げられ、迷宮の疑似魔物、マッシブヒュドラメンに引きずられて地下牢へと連れていかれた。

 うん。今回の攻撃はちょっと呆れが濃くなるだけの結果に終わった気がする。エリアナは仕事があるため帰るけど、僕は領主代行として残ることになった。さて、これからどうなることやら。僕も暇なので、この蛇神神殿の魔法使いを集めて魔法銃の訓練を付けることにした。ゲンブも重装盾兵の訓練をしているし、次々と増えるワーテルロー隊や他の奇獣隊のために地下の牧場も拡張を続けているという。ここはこれからも発展著しいだろう。さて、夜間警備の皆さんの成果を見ることにしよう。エギルのことだから、性懲りもなくどこかで夜襲を仕掛けるんじゃないだろうか……と踏んでいる。

 絶対やって来ると思うよ。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後95日~100日

主人 エリアナ・ファンテール

身長120㎝

全長15㎝……身長8.5㎝


 ~=~

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