クロの迷宮探索“王祖の迷宮編”
タケミカヅチとテュポーン、孫? 達の送り出しを受けて今日は半日くらいの道程をかけて王祖の迷宮に帰る。どうせなら、僕の魔境『黒鋼の森』に行くのもありだけど、今回は同行者のエリーカが居るからそれはパス。あそこはどうも独自の生態系ができてるっぽくて、一段と危険らしい。
だから、スピードジャンキーの気があるエリーカ運転のもと、爆走トロッコで王祖の迷宮まで帰還。途中途中、チラッと各迷宮を見学もした。
王祖の迷宮につく頃には昼間だ。出迎えはエリアナとセリアナさん。職務の手を止めてまで出迎えしてくれるのはいいですけどね。いいんですか? 刻一刻と書類は溜まりますよ? ……と、それはいい。エリーカはここでいったん分かれる。技術者のほとんどがお隣、豊穣の迷宮に居るからだ。エリーカにはたまたま王祖の迷宮に報告書を持って来ていた技術者さんに案内を任せて、僕は改めて2人と共に会議室で報告を行う。一応、今回は核迷宮と魔境の視察という大義名分もあるのだ。宿泊やいろいろな体験費用の全てが公費なのもそれが理由。
「では最初に豊穣の迷宮から」
豊穣の迷宮での事を報告。スルトが管理するあの迷宮は地上へ精力的に農地を拡大し、外部の住民と交流のある唯一の迷宮だ。基本的に観光客は豊穣の迷宮から入り、行っても蛇神神殿まで。王祖の迷宮は関係者以外は入れないのであまり来ることはないしね。何と言ってもここはこの迷宮領の中枢。間者は入れたくない。入ればすぐにわかるし、幼女領主の設置しているえげつないトラップでボッコボコにされるけど。
さてさて、豊穣の迷宮の生産力はとても高い。逆にあそこに集中し過ぎていて他に行きわたらないのも問題だと思う。その辺りの輸送ルートや輸送能力の拡充は急務だと思う。特に、蛇神神殿の迷宮間は早急に。
住んでいる住民数も多いし、真ん中に位置している水源の迷宮は観光産業を花開かせつつある。迷宮領へ移住した人々以外にもだんだんと観光客も増えているし、出鼻を挫かせたくない。
また、軍事系の工業生産物も豊穣の迷宮の深層で開発研究をしているがゆくゆくは機密保持の観点で特別チームを作り、王祖の迷宮に移したいとも思う。それほどでもない技術機関はあそこのままでいいとは思うけれど。
「そうね。確かに産業の一極化は問題化もしれない。特に食料生産ね。観光は最悪二の次ではあるけれど、食料は生きていく上で欠かせないわ。クロちゃんありがとう」
「いえ、この程度は。エリアナは何かある?」
「うん。えっと、各迷宮の拡張具合は? 正直、最近の移入者の増加は歯止めが効かなくて」
そうだね。それなら挙げられるのは2つの迷宮。豊穣の迷宮と蛇神神殿の迷宮だろう。豊穣の迷宮は地上進出と、王祖の迷宮の反対側へ拡張を続けている。ちなみに王祖の迷宮も順調にフォレストリーグ側へ広げているよ。蛇神神殿も地上の産業だけではなく、地下の牧畜産業は人手不足だ。移入させやすいのはこの2つの迷宮である。
あと、これは僕もこれまで考えていた策なんだけど、豊穣の迷宮と水源の迷宮の中間にある空き迷宮に『冒険者』を誘致してはどうかという事だ。実は冒険者資格を持つ人々は意外と多い。そのほとんどが食い扶持が少ない農民で、小遣い稼ぎのために薬草や山菜、可能な者が狩りをする。それを誘致するのだ。あそこなら管理は簡単。フォレストリーグを奪取したら、あそこから直路線を一本作ってそこに拠点を作るといいと思う。
「そうだね。それはいいかもしれない。いろいろ保障しなくちゃいけないからすぐには無理だけど」
「そうね。本来、冒険者は自己責任の稼業。稼ぎ口があれば食いつくでしょう。場所もいいわ。考えておきましょう」
水源の迷宮の雰囲気や料理の話は2人には大好評。あまりに忙しくてお出かけも最近は無いらしいセリアナさんが目を輝かせている。実はセリアナさんは酒豪なのだ。お酒大好き幼女と言うのもまた奇異なものだが。このロリな外観で一人で中樽を空けるような大酒豪。ドワーフの親方、ゴードンさんが大呑勝負で白旗を上げる程らしい。
ちなみにレジャー関係の釣り船に関しては興味を示されなかった。だが、水上レストランに関してはかなり好評。
そこから蛇神神殿の話題になる。蛇神神殿の迷宮は稲作や穀物の生産、サトウキビなどの生産もしている。農産物としては豊穣の迷宮とは毛色の違う生産物であるがゆえに、棲み分けも完璧。さすがスルトとゲンブ。阿吽の呼吸とはこのことか……という程のかみ合い方だ。
それに加えてゲンブの配備したワーテルロー部隊の話は2人も生唾を飲んでいた。
これまでも亜竜や竜は戦力としては重宝していた。翼竜に乗った竜騎士や砂漠のサンドリザードを駆る竜騎士の勇名は轟いていたのだ。しかし、ワーテルローはその中でも異色の存在。翼竜は基本的に軽量化を突き詰めた亜竜であり、奇襲や空中からの突撃は強いが、対空装備が充実してきた現在ではそのコスト面から下火になりつつある。サンドリザードも四足蜥蜴の中では小柄で機敏な攻撃にラクダ騎兵や馬では対処できないが故に強かった。しかし、ワーテルローはまた毛色が違う。物理的に馬やラクダ、人では相手にできない。獣人の戦士ですら相手にならないと言うからワーテルローは恐ろしい。
「重装備の騎竜なのね? しかも簡易な城壁なら難なく乗り越える突破能力に、複座式バリスタ装備……。戦の様相が完全に変わるわね。あの周辺限定とは言っても強すぎるわ」
「そうですね。ワーテルローは乾燥地帯への配備ができませんが……。実は騎獣はそれだけではありません。哺乳類型のスレイプニールや鳥類型のガヴトヴォンも存在しています。現在、鋭意訓練中とのことです。獣人の移入者が多いので、下級士官といっても取りたててもらえる機会があるだけ人気なようです。心強い相棒付きですから」
ちなみにスレイプニールは伝説の8本脚の馬ではなく、黒色の体毛を持つ巨大な馬。ガヴトヴォンは巨大なダチョウ。主力としてはこの二種が今のところ汎用性、繁殖力ともに高いようだ。
エリアナは根底の理念として戦を嫌う。先日の僕達『魔人衆』の出征も本当ならしたくなかったという。しかし、ツェーヴェや他の長生きな種族が言う、『大暴走』の本当の怖さを耳が痛くなるほど聞かされているエリアナは無視もできなかった。しかもやらかしたのがファンテールの王だ。故国が大罪を犯すことに我慢ができなかったのだと思う。
その点、セリアナさんはどこか割り切った大人の余裕がある。どう見ても姉妹にしか見えないけど。
セリアナさんは蛇神神殿の持つ軍事力の本当の強さを理解していた。僕が『ゲンブが居る限り』と念押ししていたことを覚えているだろうか? ゲンブは彼女の権能をフル活用すれば砂漠にさえ雨を降らせる。僕の見る限り、ワーテルローの騎獣兵団は現在30騎。この規模でワーテルローの体調を加味しても、余裕で敵対勢力の打破は可能だ。むしろ余裕だ。しかも、騎獣はそれだけではない。ゲンブの卒のない配備により、防衛だけに留まらず進軍も可能なのだ。
「蛇神神殿は甘味も作り始めているのね?」
「えぇ、立地的に麦よりも稲作が主体なので毛色は違いますが。東方出身というエルフが独特の菓子製品を作り始めています。それらも特産として全力で開発してるようですよ。甘味は経済回転の強い味方ですから」
セリアナさんもエリアナもうんうん頷く。……砂糖は高い。特に精製が進み雑味の無い純白の砂糖は物凄く高価だ。乾燥地帯で育てられるスパイス類の中にある胡椒。あれは金より価値があるとも言われるが、この地方では砂糖はもっと高い。王侯貴族の嗜好品として根強い人気がある甘味。不作続きで粗食化が進む周辺国家でもその傾向だけは抜けないのだ。
甘味は王侯貴族の女性への贈り物として有力だからね。ようはご機嫌取りだ。
ここに来るまで食に不自由はしていない2人だが、けして良い待遇とは言えない中を過ごした2人でも食べたい物なのだろう。お土産に砂糖醤油のせんべいをもらってきている。こういう時に時空魔法付きの魔法の鞄は便利だ。時間が停止するから湿気らない。この世界のお菓子は焼き菓子が基本。保存の意味を含めて。
「おいひい……。変わった味ですけど、ついもう一枚と手が出ますね」
「お茶が進みます」
最後に最近加入したタケミカヅチの魔境。センテン高地に関しては、先ほど分かれたエリーカの事なども含め、最新の更新時事を時系列に並べて説明する。エリーカのことを交えるとどうしてもそうなるのだ。
2人はエリーカの境遇を聞いて複雑な表情をし、彼女との直接面談を希望。
緊張して噛み噛みにならないといいが……。エリーカは僕とタケミカヅチ、テュポーン、孫? ゴーレム達とは問題なく会話できるのだがね。先ほど案内していった女性ドワーフの技術者にはガッチガチになっていた。まぁ、人見知りもここで生きていく上では邪魔になるから、できるだけ治してほしい。
エリアナもセリアナさんもエリーカの持つ医療技術や化学の技術。ゴーレムと生命体の合成などと、聞きなれない知識の数々に大変興味を持っている。それもそうか、この迷宮のもう一つの問題は寿命問題だ。もっとも短いのが人族。次がドワーフやハーフフット。属性妖精や家妖精などは個人でマチマチだ。人型で最も長いのはエルフ。魔人や魔物に至っては精神が先に崩壊するレベルで肉体は不変。エリアナやセリアナさんとしてはできるだけ長生きするつもりではあるが……。最悪意識を残してゴーレムに移植してもらう事も考えたのだろう。
この辺りはエリーカもいい顔はしないだろうけどね。
エリーカはあくまで命を長らえることのためにその技術を作った訳ではなく、命の無い存在に命を吹き込んで共に生きる為だと……暴走トロッコ乗車中に力説されたし。その辺りは研究者の理念があるんだと思う。まぁ、その辺はエリーカと直接話してほしい。だから、この場では言わないけど。
「おっ、エリーカどうだった?」
「え、あ、えと……その……。皆いい人だった。特にカレッサは優しかった……と思う」
「へ~。そうだ。紹介するよ。ここの領主親子の娘で領主のエリアナ」
「お初にお目にかかります。エリーカさん」
「お母様で法務・政務長官のセリアナさん」
「初めまして。エリーカさん。よろしくお願いします」
エリーカは最初、『?』の嵐を噴き出して混乱の中に晒されていた。それもそうだね。うん。だって、セリアナさんはヒールでごまかしてはいるが、本当の身長は150㎝くらい。エリアナも最近身長が一気に伸びて140㎝は超えている。姉妹と言えばわかり易いが、親子と言われると初見の人はああなる。
2人も苦笑いはすれど席にエリーカを招き、彼女の過去や知識を懇切丁寧に聞くところからはじめた。この2人の凄いところはここだ。懐柔術というか、人を取り込む聞き上手なところ。本当にこの技術だけは僕には難しい。学んではいるんだけどね。
結局、この日はエリアナ城で四人食卓を囲み、最後まで楽し気にエキサイトしていたエリーカと親交を深めた。僕はさっさと自室で寝たよ。巻き込まれると寝られなくなるから。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後95日~100日
主人 エリアナ・ファンテール
身長120㎝
全長15㎝……身長8.5㎝
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