クロの迷宮探索“仙天高地の迷宮編”
ここは一番最近に主が入れ替わった迷宮。センテン高地にある迷宮なので安直に『仙天高地の迷宮』だ。センテン高地自体は龍の根城となっているけれども。
そして、ここに関しては僕も何にも知らないので、何がどうなっているか本当に不安。爆走トロッコに乗って蛇神神殿からおおよそ30分くらい。下車すると、タケミカヅチ、テュポーンと、……あのガラス円筒に入っていた魔族の女性、エリーカが出迎えてくれた。そこから迷宮の保守管理は彼女にお願いし、この迷宮内のエントランスエリアで……。なんか、すっごくリアルな女性の外観をしたゴーレムの一団に出迎えられた。綺麗に左右に並んだメイド服のゴーレムだね。目の造形、肌の質感、肉感などが全て生きた人間に近い。
これを作ったのがエリーカだという。
エリーカは数千年前から生きている魔人らしい。とある遺跡で眠りにつき、起きたら僕と対面したとのこと。そのエリーカは簡単に言うと古代人で、今では失伝している技術をたくさん知っていた。特に遺伝子工学と呼ばれる生き物に関する知識をこの迷宮を生かして運用しているとのこと。ここは攻められることも無ければ攻撃するにも微妙な立地。監視するには最高だけども。その為、テュポーンとタケミカヅチの遺伝子情報を使って、ドラゴニュートを量産。今はまだ赤ん坊らしいけど。それの世話や自分たちの身の回りの世話のため、先ほどのゴーレムを増産したとのこと。
「まぁ、私は旦那様との同居がよかったんですけどね~。でも、ここは私の研究を行うには最高の立地なんです。あぁ、この迷宮最高ッ♡」
「ところでテュポーンとタケミカヅチは良かったのか? 勝手に子供作られたようなもんだぞ?」
「うむ……。妾は構わぬ。タケミカヅチとの子ならば」
「とーちゃんと俺みたいなもんだろ? だったら問題なしだぜ」
「で、あのゴーレムはお前の『生体でーた』? を使って創ったんだな?」
「せいか~いッ!! 理解が速くてたすかるぅ。さすが私のダーリン!!」
最初に僕らがこの迷宮を制圧した際に動いていたスケルトンのことは、眠っていたエリーカも知らなかった。そこから想像を膨らませると、エリーカの古代技術を利用するために、エリーカのコールドスリープを解くための研究をしていたのかもしれない。その辺りは死んでしまって居るから、真実は闇の彼方だけど。
それはいいとして、ゴーレム全てが人間の姿をしているから、凄くこの迷宮自体の雰囲気が華やかに変わった。
迷宮内部のデザインもなんというか……、以前の剥き出しの鍛冶場のような風合いは一新されていた。洗練されたデザインの石造りかつ金属による補強のある堅牢な城塞風の造りとなっている。僕もこのデザインは好きだが、その主立ちまで服装をビフォー・アフターしなくてよかったんじゃないか? ちょっと流行より古いブリリアントチックな古めかしいドレスと、肩飾りとレースの多い将軍の礼装はちょっと2人には早い。……、僕を『じ~じ』と呼ぶこの幼児達が例の子ら? 多くね? 年齢もそこそこバラバラで100人は居るんじゃないか?
まぁいいけど、以前のセンテン高地の時とは根本から違う施設だ。そこをメイドゴーレムのメイド長、『a-ny1』…通称アニーに案内してもらう。エリーカもついて来た。
最初にアニーに案内されたのは魔道昇降機。エリーカが知る時代では王侯の居城には必ず敷設されていた便利な施設とのこと。動力は魔素でかなり燃費は良いし、化石燃料? を使わないからとてもエコとのこと。
「到着いたしました。それでは前進してください。センテン高地頂上に築かれました、タケミカヅチ様、テュポーン様の居城であります。ここは空をクロ様より治めるよう拝領いただいた、タケミカヅチ様とドラゴニュートの一族が住まう天空の城になっております」
僕、そこまでの宣言はした覚えはないんだけど……。まぁいいや。タケミカヅチは確かに空を動く上で一番器用で強い。空中戦はもちろん、対地戦闘も無理なくこなす。ここ、センテン高地は飛龍やドラゴニュートの離陸拠点であり、人の侵害を阻む最高の立地な訳だ。
場内のデザインは下の迷宮とそれほど変わらないけど、大きなホールが多い。基本的には龍族基準の建築仕様ということのようだ。そこからアニーに案内され、客室や食堂、僕の孫? が集まる子供部屋やトレーニング施設、他のメイドゴーレムが働く風景を見ながら城の区画を出る。
ここからはエリーカの管轄。別にエリーカもこの迷宮の副主人として登録されているため、どこに居ても問題ないのだが……。基本的には彼女は迷宮核のある『中央ラボ』と彼女らの言う場所に居るとのこと。『ダーリンはいつでも夜這いに来ていいからね?』……とよくわからないことを言われたが、僕は聞き流して研究施設や迷宮の防衛に関しての説明をアニーから受ける。
基本的にこの中央階層は、エリーカと警備のアーミーゴーレムしかいないとのこと。メイドゴーレムがエリーカの肉体をベースにし、人間寄りに作られたのに対し、この階層や各階の防衛施設に居るアーミーゴーレムは外観こそシャープな人型だ。しかし、外面の防護服を脱ぐと内部は無機質な光沢を持つボディが除いている。また、アーミーゴーレムはメイドゴーレムのように情緒は強くない。戦闘の上で情は不必要な要素。それを極限まで削いであるらしい。
「アーミーゴーレム……実を言いますと私、a-ny1は最初はこのアーミーゴーレムでした。そのアーミーゴーレムにメイドゴーレムの精神構造と特殊ボディを使用されて、要人警護仕様のゴーレムとして設計されております。(どやっ)」
「うん。そんな感じだよね。スカートの下に暗器、腰元のフリル飾りの内側に小型拳銃かな? なかなか上手な隠し方だ」
「御見それいたしました。クロ様でしたら我々も喜んで身を捧げられます」
「ん?」
今不穏な表現が聞こえたけど、身を挺して守る資格があると認識すればいいよね? 気にしすぎか。最近女性関係で振り回され過ぎてるからか、何気ない事にも過敏になってるよ……。
とりあえず、エリーカの研究テーマは生と無機質の融合とのこと。よりしっかりと説明するなら、医療金属生命とのことだ。ゴーレム技術を極限まで小さく落とし込み、普通なら再生しない切断されてしまったような大けが、肉体の損壊を時間をかけて、成体機械により復元を測る新医療だ。
その間コールドスリープが必須なことと、どうしても長期間動かせないから筋力の衰えが課題と言っているが……。欠損がそれで治るならば御の字だと思う。若い内に部位欠損した者は働き手としてはみなされなくなる。優しい村ならばその者に合った仕事をさせてくれるだろうが、多くの土地でそういう者は白い目で見られるのが現状だ。それが大きく変わる。
エリーカは僕のその意見に苦い表情をした。
どうしてもコストがかかり過ぎる為に、一般人にまで施術できる保証はないという。……エリーカのヤツ。ここにずっと引きこもってるから、現代の魔法技術には疎いらしい。エリーカは魔人というが、実は妖精族の最終進化で魔人と化した存在。大本はブラウニーだと言うから驚かされる。ブラウニーがどうしたらこんなマッドな科学者になるんだ……。基本ブラウニー族は属性魔法が使えない。エリーカもその常識からは離れず、悲しいことに鍛冶技術や錬金術も知識はあるがスキルが無いので使えない。
「たぶんさ、その問題は他の技術者と交流したら何の問題もないと思うぞ?」
「ほ、他の技術者?」
「あぁ、僕が所属しているエリアナ領にはたくさんの種族が共存している。その中には派生の異なるいろいろな技術や魔法があるんだ。そういう専門家に協力してもらう事も重要だと思うけどな」
僕が他の技術者と言った時にエリーカは体をこわばらせた。それを隠すこともできないくらいわかり易く。ここまでくれば彼女が本来存在していたであろう時代に何があったかなんとなくわかった。
彼女は種族的に疎まれたり、その学識を異端視されて迫害を受けたのだろう。
古代に魔人がどういう扱いを受けていたかは僕らには解らない。僕らが手に入れられる古代の文献はどんなに古くとも5000年前くらいまでだ。その頃に世界を巻き込んだ大きな戦があり、尽く戦禍に飲まれたと朧気に伝承が残っている。それもコミュニティを持つ中で一番長生きの種族、エルフ族でも解明不可能な程古い文献。なんでかツェーヴェが読めたけど……。
エリーカ曰く、昔は魔人と言うのは忌避される存在で、永遠に近い寿命とその強すぎる力を極度に恐れた者達により袋叩きにされていたらしい。もとより魔人に至る存在が少ないが故、魔人はモグラたたきのように生まれる度に叩かれた。その中でエリーカは地下に潜り、それを気にしない同志と共にひたすら研究に明け暮れていたという。しかし、その同志たちも所詮は儚き命を燃やす者。1人、また1人と数少ない同輩は息を引き取り、ついにエリーカは独りぼっちになった。
「孤独は蝕まれる。怖かった。このまま1人で死んでいくのは嫌だったんだ。だから、当時既に完成していたコールドスリープ技術で、自身を仮死状態にし長い眠りについた。まさか、こんなにも長く眠っているとは思わなかったけど」
「そうか、だから僕を見た瞬間にあんな晴れやかな笑顔をしたのか」
エリーカはいつも飄々とした感じの幼い顔立ちを一気に赤一色に染める。その横でアニーが『あらあら、うふふ』とか言ってるし……。とりあえず、そこからもアニーの姉妹機や様々な防衛施設を見せてもらいながら、今日はここに泊まることにした。
なんでか僕、めちゃくちゃヘルハウンドゴーレムMK2とかケルベロスゴーレムとか、犬系ゴーレムに懐かれた。この犬型ゴーレムはアーミーゴーレムのバディドッグらしい。それらがバディの横から離れ、最上階の城の客室までついてくる始末。うん。完全にペットな感じだけども……。新しく取り込んだ迷宮だったけど、そういう専門家がしっかりついていただけあり、ここは問題ないね。というか、蛇神神殿の迷宮よりも過剰戦力と言っていい戦力もある。とりあえず、明日は長距離を爆走トロッコに乗らなくちゃいけない。ちゃんと寝よう。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後90日~95日
主人 エリアナ・ファンテール
身長120㎝
全長15㎝……身長8.5㎝
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