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戦端は開かれませんでした……

 何ともしまらない話だけど……。いつまでたってもファンテール王国からのラザーク王国侵攻軍は姿を見せなかった。今回は僕も王祖の迷宮に戻る。エリアナの発案でラザーク王国の開拓地から獣人族中心の農奴を救出し、ラザーク王国の魔境周辺の勢力を削ぎとる事がお題目だ。また、定期報告などもエリアナが効き取り、迷宮を調整せねばならないし。

 その為にラザークからの獣人族移民の代表と数名を神殿迷宮都市へ派遣する。

 あそこの主権はゲンブが奪取している。あの魔の湿原も現在は僕らの勢力下にある。その中継地にある迷宮や魔境は全て僕らの勢力下にあるので、徒歩で来られても安全ではあるけどね。でも、より安全な方がいい。神殿迷宮都市から働きたい迷宮都市へ向かうのが危険も少なく、飢えや病気の可能性も格段に下がる。

 それで何故かファンテール王国の軍は現れず、ツェーヴェとタケミカヅチからの報告は初日に生きていて危険な迷宮を見つけて以来……『変化なし』だ。退屈らしく、発見した迷宮でレベリングしているらしい。


「スルちゃんはどう? 開拓は順調?」

「万事抜かりないっ! 海側の国……あ、アル……アルジャレドだ。アルジャレドとの国境沿いに拡げてる。そのうち、その反対、エルフ王国がある魔境『大森林』に辿り着く。そこで一旦エルフの開拓村を作る予定。エリ姉もその時は協力よろ」

「はいはい。分かったわ。凄いわね〜」

「なでなではパパの特権っ! エリ姉はお膝ポンまで!」


 スルトの言う『お膝ポン』と言うのは、スルトが膝の上に座り抱っこされてる状態。スルトは僕以外がアタマを触るのを嫌がるんだよね。これはスルトのこだわりなので仕方ない。

 スルトが精力的に畑を地上に増やすのには理由がある。実はこれにゲンブも協力しているのだ。湿地帯の一部には淀んでしまい、ヒュドラのたまり場になっている場所がある。それを作らない為に、ヴュッカとゲンブで雨雲を作る迷宮の仕様を構築し、フォレストリーグの方面へ流しているらしい。

 そのおかげか適度に降雨があるので、ファンテール王国の最南端であるフォレストリーグ近辺には緑が戻り始めている。スルトも最初から畑としてはいない。魔の森から雑多な植物が浸食することを無視し、森の区画を増やしているのだ。これにより、エルフ王国側から移民としてわたって来たエルフの集団に居た薬師達の願いも叶った。魔の森に自生する魔素を高く含有する各種薬草は高級品で、人が手で育てる薬草とは効能から何から全然違うらしい……。残念ながら、迷宮内で育てるとそれが割と簡単に育てられると後から知られて、スルトはもみくちゃにされるんだけどね。

 とはいえ、いくら魔素で活性化している土地から雑草が浸食してもそんなに早くは拡大しない。それよりも深刻な問題を一つ上げておこう。


「それで……何故、国王軍は出陣していないのでしょうか? 既に予定日は過ぎていますが」

「はい、それは私がご説明いたします。エリアナ姉様」


 つつましく挙手するのは人の姿がとても気に入っているゲンブだ。ゲンブはここに居る時はいつもツェーヴェと一緒に居る。今は居ないけど、以前からツェーヴェにべったりな感じはあったよね。

 そのゲンブの言うところに寄れば、ゲンブ個人で雨雲を作る魔法を定期的に発動し、ファンテール王都の西北西の空域周辺を大雨と濃霧で覆っているらしい。ついでに農奴流出を加速させるため、ラザーク王国首都周辺にも大雨を降らせて動きを鈍らせているという。

 ……。

 会議室に集まっているゲンブ以外が、全員亜然の表情。ゲンブは珍しく可愛らしい表情をした後にお茶を飲む。テヘペロって……。以前ツェーヴェに聞いたけど、ゲンブはツェーヴェよりも気象系の権能が強く、特に霧と降雨に対してはツェーヴェよりも占有権は強いとのこと。そもそも人間が勘違いしているだけで、ツェーヴェは本来『河川と源泉』の守り神。水という面では変わらないけれど、専門の範囲が違うとのことだ。

 エリアナがいち早く正気に戻り、ゲンブが亀知らずやっていた行動に対して軽く嫌味を……。しかし、無駄な血が流れないこの働きには感謝を述べている。しかし、ゲンブ自身はこれは長くは続けられないという。ラザーク王国はまだ問題ないけれど、ファンテール王国側は相当危険だと忠告。確かにファンテール王国は平原のど真ん中にあるような土地ではあるが、傾斜は北東に向かうに連れて下がっている。いくら小さな傾斜でも、水は恐ろしい災害を生むからと。


「洪水や作物の成長阻害は避けられません。何事も過ぎたるは及ばざるがごとし……。すでに、南西に位置するフォレストリーグへの移住を考える農民は居るようですね」

「ありがとうゲンブちゃん。人民のことまで考えてくれて」

「いえ、私も姉上同様、父上が嫌う事をしていないまで……。これからも最善を得られるよう努めてまいります」


 ゲンブの報告の後、戦端が開かれない間に僕らがどのように動くかを話し合う。僕はホノカさんが選び出した移民の勧誘団を蛇神神殿を中心にしている迷宮都市へ送り届け、ツェーヴェとタケミカズチに合流する予定となる。

 その同行者として、縄張りの保全のために帰るゲンブとヴュッカ、新しい迷宮の制圧に必要不可欠なエリアナがセンテン高地へ向かう。ここ最近も獣人やドワーフ、エルフの移民は増え続けている。いきなり出現したにも関わらず、迷わずに蛇神神殿に庇護を求めた獣人の団体が最大級だ。その規模に驚かされている。何と200人を超えていたのだ。しかもこの団体は村を捨てた3つの村民がまとまって移動していたらしく、全員が飢餓に晒されていた。蛇神神殿に努める聖職者(仮)としてクォアさんやリャエドさんにお願いし、今は保護してもらっている。

 早いとこあそこも開発して防衛や居住に関して、各種機能を拡張しなくてはいけない。

 その他、妖精族もどんどん増えている。土妖精と名高いノーム族は特にだ。ドワーフと相性が良く、工房にほど近い場所に集落を用意して働いてもらって居る。土妖精族も『妖精』と付くが僕ら魔人よりの生物。魔法が得意で小柄なことを除けば有力な種族だ。それだけではない。特に役に立っているのが羽妖精族だ。俗にピクシーと呼ばれる種だね。小柄でウスバカゲロウのような羽を背中にはやしている人型種である。彼女らは伝達役として凄く役に立つ。とにかく飛ぶのが速いからね。その上位種らしいシルフィード族も大きさが大きく風魔法に関しては人間ではまねできない技量があり、移入当初から引っ張りだこだ。


「我ら2種族の受け入れ、ほんに感謝しますじゃ」

「まこと、感謝の極み。痛み入りまする」

「ははは、頭を上げてください。我々も皆さんのおかげで助かってます。これからもよろしくお願いします」

「「御意にございます」」


 妖精族は多い。生まれ方が僕らと根本から違うけれど、結局は魔素による変遷から生まれた存在である点に違いはない。それに妖精族の中でも特殊な者も移住が見られているしね。

 それがブラウニー族だ。俗に家精霊。後ろ姿は30㎝くらいのぼさぼさな栗毛が動いているように見えるが、ブラウニー族は男女問わず、挑発で体を包むように栗毛色の髪で包まれている。特技は整理整頓や掃除。家事全般だ。シャイで意思疎通は難しいが、仕事は完璧なのでこの場には居ないが紹介された。その上位種がしてくれている。家令妖精、俗称シルキー族だ。シルキー族は100年単位の研鑽の末にブラウニー族が魔素吸入をして変化する妖精種らしい。外観は20代の男女で見目麗しい女性顔。奴隷として捕らえられることが多発し、憑いていた家を泣く泣く離れてこの魔素の濃い土地にて定着した。

 そう、妖精族は基本は人に起因する、何らかの魔素結集が原因で生まれる存在だ。

 それが人里を離れるとなると、かなりの問題となっている。シルキー族の代表が言うには、500年程前までは王都近辺も自発的に魔素が散布される程自然に満ちていた。水源も豊富、土壌も肥沃だったと言う。しかし、その辺りを境にファンテール王都近辺を中心に魔素が枯れ始めたらしい。……このシルキーも見た目は20歳くらいの女性なんだけどね。何歳なんだ? ツェーヴェやカレッサもそうだけど、年齢不詳の種族が多すぎる。


「魔素は生物の活動循環によりもたらされると言います。また、魔素は生物の営みにて消費されます。その循環の乱れを齎している存在が王都にあると見るべきかと……」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえ、我が一族こそ、王祖の氣を持つお方に仕えられる栄誉、光栄の極みにございます」


 このシルキーは王城に憑いていた存在らしい。それから、シルキーやブラウニーなどの家妖精には個体名は無いという。家に憑くという事でその家の名を冠することがある程度。もともと家事を主人の気づかぬ内にこなすことが彼らのプライドらしいので、名を呼んで呼び出すこともないだろうとシルキーの代表の言。それでもこういう時に困るので、代表だけは固有の名前を用意して欲しいとエリアナが言っていた。

 うん。種族がたくさんになるとこういう問題も起きるんだね。

 文化も違えば生活リズムも全く違う種族が、これだけ調和できるのも迷宮内という特殊性もありながら、エリアナの統治による安定が理由だろう。それ以外にもここは移民の集まりであるという側面もあるとは思うけれど、ここに移住した人々はここに流れ着いた時のような暗い表情は無い。エリアナが望むように、できるだけ争いなく共存できる共同生活を目指したいね。

 『争わないなんてのは無理じゃろうて。互いに触れ合わないようでは寄り添い合うことはできぬのじゃ』。喧嘩もコミュニケーションの1つで、それを超えて融和することこそ本当の意味での共存なのだろう。凄く婆臭い発言で会議を締めたカレッサの言葉。納得はできるけど……。外見年齢20代の女性の口から訳知り顔で飛び出るもんだからね。……違和感マシマシだよ。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後80日~85日

主人 エリアナ・ファンテール

→変化なし


 ~=~


・攻略中分隊

〇センテン高地

 →隊長ツェーヴェ +タケミカヅチ

〇虹色湖畔・ゼバーニアン大湿原 clear!!

 →隊長エリアナ +クロ +スルト +ゲンブ

  ●虹色湖畔水源迷宮 clear!!

   →隊長クロ +スルト


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