湿原の蹂躙
結果から言うと、この神殿の主は八岐大蛇ではなかった。アレだけ確信めいた事を言っていて凄く恥ずかしい限りだが……。しかし、まったく関係していない訳でもない。実はこの迷宮の疑似魔物が、ヒュドラを象った人型魔物だったのもそれが理由だったからだ。
僕とヴュッカの2人が最奥と思われる迷宮主の部屋に入ると、そこには何人もの女性が土下座で僕らに謝ってきているという構図だった。
そして、それがヴュッカが滅びたと言っていた一族の生き残りでもあるらしく、ヴュッカにも頼まれて慈悲により皆殺しは無しということになった。する気は元からなかったけど。しかも、驚きの連続だったのが、この女性は全員蛇の魔人なのだそうだ。その代表という女性がヴュッカのお母上、クォアさん。で、代表団の中にツェーヴェのお母さんらしいリャエドさんもいた。何故女性ばかりなのかとも聞いたら……。最初は男性もそれなりにいたらしい。しかし、男性はキマイラとの戦闘でほとんど死亡し、その他も狩りなどに出ている内に帰って来ないと言うのが増えたと言っている。キマイラに縄張りを追われた後、この神殿に逃げ込んだはいいが、この周辺はヒュドラが多い。実際に何度も襲われている。
その救援のためにヴュッカの迷宮に何度も使者を送ったが、結果は撃退され続ける始末。こちらも混乱が極まっていたらしい。ヴュッカからも提案がありこの迷宮を明け渡し、蛇魔人の一族としてエリアナの下に従属しようとのことだ。
「皆さんが魔人化されたのはいつ頃なのですか?」
「はっきりと記憶にはありませんね。魔人化はおろか魔物化ですら、通常ならば体に相当な負荷がかかりますので」
「そういう意味では孵化の以前より生きおられた貴殿はとても稀有な存在。その命は大事にされるべきかと」
「はぁ……。では、うちの迷宮の主を連れて来るので少々お待ちを。疑似魔物の再出現は切っておいてくださいね?」
「解りました」
それからスルトが来て地下から湿原を突貫し、迷宮の第二層となる地下一階につながった。
本来ならここの迷宮主をしていたクォアさん達は、こんな浅い階層に来ることはないだろう。だから、ちょっとビビッていた。何とここの第2層までヒュドラに攻撃されるらしい。マジでねちっこいなヒュドラ……。その為にあんな狭い一本道の通路を用意し、ひと塊になる迎撃態勢を用意していたのか……。防衛に用意したのがマッシブヒュドラメンなのも、ヒュドラに対しては極基本的な戦法だからだね。
対毒ポーションの類を飲んだ戦士を狭所に配置し、槍衾、弓兵、補給員と陣を組み、迎撃するのが一般的な三本首ヒュドラまでの迎撃法。ヒュドラメンならヒュドラの毒は対処不要。疑似魔物だから数は揃うし、筋力もかなり増強されてる。武器もあって地形もそれ用。完璧だね。ただ、それ以上のヒュドラは迎撃は愚策。普通なら四本首以上は縄張りの外に出るなんて事が少ないんだけどさ……。稀にあるから一応撃退方はある。魔法兵で囲み火炎系魔法で一斉に攻撃し、火薬なども持ち込めば効果的だろう。その辺りは作戦次第だ。そういう人海戦術と火力ゴリ押し以外には、ろくな戦法が無いのが現実なんだよね。
そういう訳で蛇魔人の女性16人が、都市の仲間としてこちらに移入することになる。ヴュッカが僕がエリアナを連れて来る最中に余計なことを言ったせいで、クォアさんと残りの15名の蛇魔人は、僕に対して五体投地を始めて面倒この上ない。
とりあえず、早急に迷宮の管理権限を委譲してもらい、エリアナ型防衛都市を構築。ここは一番上が神殿だから、以前までと違い、エリアナの権能をフルに活かせるんだよね。エリアナは人族。その種族特性と言えばいいのか? 迷宮の成長や改変、改装におけるコストなども家屋などの住居系が割安だ。土地さえあるならばいきなり大きな街の敷設も可能らしく、今回はいきなり神殿を中心に比較的大きな城塞都市を作ってしまった。規模だけならフォレストリーグ以上だ。
「ヒュドラの襲撃を警戒している面もありますからね」
(それはそうだな。で、どうする? あてが外れてしまって二度手間だけど)
(父上、ここは私にお任せいただけませんか?)
(構わないけど。ゲンブが行くのは珍しいね)
(今回は少々私怨もありますけれどね。ですが、私もこの辺りで主になっておけばよいかと思います)
確かにゲンブがここで主になれるのであれば最高だ。ここはラザークの濃度開墾地の真横。……厳密にはどれくらい離れているのかは今は未知数だけども。
今回のこの動きは半ばラザークの勢力を削ぐことが目的。魔素溜まりが干渉し合い魔素収奪が起こりそうな状況は、僕の子達が分散して主になることで解決できる。ゲンブもその中に入り、彼女は固定の防御と攻撃においての要だ。火力としてはどうしてもスルトやタケミカヅチに劣ってしまうゲンブだが、2体にはない絶大な防御を持つ。ここはそういう意味でも最高の立地になるだろうしね。
スルトに協力してもらえば、ここは広大な田園にすることも可能だし。
それをするかはエリアナ次第だけど、どの道ラザークの強制農奴制度は胸糞悪い。一魔物の僕でもそう感じるんだ。人族でそういうあくどいやり方が嫌いなエリアナは、なお一層の忌避があるだろう。エリアナからの許可も出たので、今回はスルトを護衛に残し僕とゲンブで湿原の中を進む。湿原って意外と水分多いな。もっと水は少ないと思っていたけど……。僕は動きにくいので、ゲンブの背中の上に乗って警戒している。ヒュドラはどこにでも居るからね。
(小物ヒュドラの心配はご無用かと)
(そうなの?)
(はい。ヒュドラは匂いと音に敏感です。この場合は父上が纏っているヒュドラの血の臭いが理由です。六本首以上の猛者でもない限りは襲撃は無いかと)
(で、さっそくフラグ回収?)
(問題ありません。三秒で終わります)
本当に三秒で終わらせた。ゲンブの魔法は水属性の特級。水属性に強い親和性があり、水場での戦闘ならスルトやタケミカズチもそれなりに苦労するだろう。とくに、同格の存在であるゲンブの造り出す水は干上がらない。スルトは無効化できるなら水に強いが、無効化できないとそれが最大の弱点だからね。つまり、相性的にはゲンブのが強い。タケミカズチは属性相性的には優位だが、ゲンブに水面下に潜られると的確に攻撃するのは難しい。対してゲンブは水は我が身と同然。空にいるタケミカヅチを強襲できる。
水場に居るゲンブは強い。
それを証明するかのように、ゲンブは一直線にこちらへ突っ込んで来たヒュドラを間欠泉のような物で吹上、結界魔法の応用らしいけど、境面を合わせて展開する事で六本の首を切り落としてしまった。ヒュドラは最後に一本でも首が残れば、またそこから再生するという恐ろしい生き物だからね。ああいう瞬殺が好ましくはある。……できるならばだけど。
僕もゲンブがそうやって手近なヤツを断首刑にしているのを横目に、魔道ライフルPSG-44で無音狙撃ナウ。五本首ヒュドラまでなら本当に余裕だ。やつらは再生能力は生命体として飛びぬけているが、知能はそれ程でもない。ヒュドラは一応魔物だからね。亜竜種に属する立派な災害級魔物さ。
(周辺の清掃は終了しましたね。あとは待っていれば本命がおいでになるかと)
(……お前さんも意外とえげつないことするよね)
(ふふふ、私も父上の娘ですので)
めっちゃ可愛くウインクされた。カミツキガメに……。
ゲンブは見た目こそ強面だが、れっきとした女性。そして、今のところの僕の子の中で一番大人しい。基本的に定点防衛で、前線は姉のスルトに任せるところがある。それも前に出たがるスルトに合わせている気もするけど。ちょっとビビりなタケミカズチとも違い、どんと腰を据える待ち姿勢の戦闘は本当に独特だ。
……ここからはショータイムだね。
大量の眷属を狩られたヒュドラの親玉、八岐大蛇がゲンブと僕を目掛けて毒の粘液を飛ばしてくる。それもすべて結界に阻まれ僕らには無害。僕はちょっとズルして防毒マスクをつけてるけどね。
ここからは完全にゲンブのターン。八本の頭から次々に吐きかけられる毒の粘液よりも、ゲンブが魔法で生み出す水球の方が射出速度が格段に速い。どんどん押し負け、終いには何発も手痛い攻撃を受けてよろめく八岐大蛇。それでも諦めないらしく、ゲンブに対して突っ込んで来る。サイズの差は歴然。ゲンブは成長して全長50㎝くらい。しかし、八岐大蛇は鎌首を擡げた高さだけでも10mを超える化け物……。普通ならゲンブが潰されて終わるが、八岐大蛇は何やら不可視の器物に激突し、仰け反ってしまう。そこに、首一本一本に念入りに結界を展開し、大蛇の輪切りを量産していく。やはり大本が知能の低いヒュドラだからだろうか、八岐大蛇は最後の首を輪切りにされて、同時にすべての首が落とされるまで延々と結界に阻まれたまま呆気ない最期を遂げた。
(ふふ、私も位階が上がりましたわ。これで……)
ゲンブが人化し、独特な装束の濃い青色のストレートヘアーの少女姿で立っている。アレは『和服』だ。その下駄は水面に立てるのね? ゲンブは改めて僕に礼をとると、このままエリアナのところに帰るために八岐大蛇や他のヒュドラの肉塊を収集するのを手伝ってくれた。
心配そうにしてる蛇魔人のご婦人方と、全く心配してないエリアナ以下我が陣営の古参+ヴュッカ。対比が凄いね。僕らはその出迎えに各々返事をし、1度蛇神神殿へと移動して今後の事を決める事となった。それもそうだ。攻め落とした水源の迷宮と蛇神神殿迷宮の扱い方、エリアナが脳内に描くファンテール王国、ラザーク王国の2国への対処など。
話し合う事は多岐にわたる。
まあ、エリアナとセリアナさんを敵に回したんだ……。どちらもただじゃすまないことは目に見えているよ。それもセンテン高地組からの情報待ちだけど。ツェーヴェとタケミカヅチだから、なんら大きな障害はないと思うが気にかけている。それに今回はお留守番だったスルトがうずうずしているので、……ずっと気になってた場所を探索したいと思います。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後80日~85日
主人 エリアナ・ファンテール
→変化なし
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ゲンブ
メス 生後20日程~25日
主人 エリアナ・ファンテール
取得称号
~省略~
NEW ・月輝ける防人 ・やまとなでしこ
プレートアニマ族
モデル=カミツキガメ
#異界進化→月夜見
人型身長 140cm 亀型 全長10㎝……甲高5㎝
取得スキル
~省略~
NEW 月鏡の盾(固有)
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蛇魔族の女性達
メス 1000歳超
蛇魔物の生き残り
代表
・クォア →ヴュッカ(水源の迷宮の主)の母
・リャエド→ツェーヴェ(魔の森の主)の母
インディゴ族 モデル=テキサスインディゴスネーク/ユニカラークリボー
魔の森の北に群れを構えていた蛇魔物の生き残り。突然出現したキマイラにより襲撃され、群れは散り散りになり生きながらえた1部。全員が迷宮の影響を受けて魔人化しており、魔法に長けていた事で生きながらえた節がある。エリアナ(どちらかと言うとクロ)に従属し、エリアナ領の移民となる。
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・攻略中分隊
〇センテン高地
→隊長ツェーヴェ +タケミカヅチ
〇虹色湖畔・ゼバーニアン大湿原 clear!!
→隊長エリアナ +クロ +スルト +ゲンブ
●虹色湖畔水源迷宮 clear!!
→隊長クロ +スルト




