蜥蜴と銃弾の円舞曲
うん。ヴュッカは強い。というか、ヴュッカは自分を恐れていた可能性もあるな。
現在、僕は移動しながら射出可能なタイプの機関銃のMG-L4を使って敵を殲滅するつもりで来ている。以前使っていた固定射出をコンセプトに、向かって来る敵を尽く殲滅する銃とは違う。今回のMG-L4は肩からバンドで吊り、腰にもベルトである程度固定できる形態のものだ。魔法弾であるのも同じ。今回はトレント樹脂弾ではない。魔素圧縮弾。迷宮内なので魔素濃度は非常に高い。周りで大魔法を行使されなければ急激に魔素欠乏も怒らないだろう。
僕が到着した時には人型の胴体に頭がヒュドラ状のキメラ疑似魔物が、ヴュッカにより蹂躙された跡があった。ヴュッカはと言うと僕を一応待っていたようで、僕を視界の隅に入れると『ニマァ』と笑い深部へと特攻。うん。断末魔が凄い数響く。僕も遅れまいと迷宮内部へ突入し、魔法弾でヒュドラ人を寄せ付けないように押しとどめる。
「キヒヒヒヒヒッヒヒヒッ!!!!!!」
「あ~もうっ!!!! 揃いも揃ってあの戦い方か!!」
ヴュッカは強いがけっして万能という訳ではない。ヴュッカの弱点はツェーヴェと同じで魔素の欠乏。まぁ、ツェーヴェはヴュッカのように狂気に染まってあんな無茶なことはしないから良いんだけどね。ヴュッカは魔素の欠乏を感じると、僕の背後に来て休憩する。そして、ある程度回復してくると前線へと出るのだ。正直、人化して機関銃を持ってきた僕のチョイスを自画自賛したい。銃火器を持つ人間が一人でヘイトを引き、殲滅するのは普通なら無理だ。
それが可能なのは一定の威力は維持しながらも、それ以上を求めずに連射能力を突き詰めたこの銃だから。MG-L4は僕が参考開発しているMG-42のストック部分と砲身の短縮、魔法弾仕様が主な改造項目だ。実弾でこんな銃を使えば、間違いなくすぐにバレルが溶ける。秒間2000発は物理的な事情をすべて考えなくていい魔素圧縮弾だからできることだ。バケツをひっくり返した雨よりも凄いぜ!! ヒャッハー!!!!
……とハイになれる銃だが、ここ一点に留まるとすぐに大気中の魔素を吸入し過ぎて空撃ちを始める。なので、やはり迷宮から無理やり吸い出す事ができる特殊な線を垂らしているのだ。そのおかげで感情の無い疑似魔物は、恐怖心など抱かずに突っ込んで来るがゆえに自分たちが壁となり、攻められなくなるというアホな事態を生んでいる。
「ヒヒヒヒ……。やっぱりお兄さん強いね~。ヒヒヒヒヒヒ……」
「あんま無茶しないでくれ。フォローするのも楽じゃないんだから」
徐々に人格が戻ってきているのか、それとも別の何かなのか解らないが、今回はいつものスルトチートはできない。というか、する必要がなさそう。この迷宮は地上の神殿は大理石が用いられたかなり規模が大きな神殿。おそらく他の宗教が使っていた物。古く打ち捨てられた神殿が迷宮に取り込まれたのだろう。地下の部分は今まで降りた10層すべてが一本道。細く切り立った谷間のようで、上は暗く見えないが天上はない。
それもあり速度の事さえ考えなければ、攻め来るヒュドラ人を撃ち殺せば万事解決。魔石の摘出作業も帰ってからやればいい。確実に息の根を止めることが重要だ。こいつらはヒュドラの時の特長が残っていて、多少の貫通痕や断裂は時間が経つと回復したり生えて来る。ま、それを考えてボス階層を抜けたら別の武器にするつもりだしな。
その中ボス階層に居たのは嫌にマッシブなヒュドラ人。凄くマッシブ!! だって肩幅がさっきまでのヒュドラ人の二倍はあるんだもん。言っとくけど……さっきのヒュドラ人だって普通にマッチョメンだったからね? ゴリも居れば細も居たけど、いろんな筋肉バッキバキのヒュドラメンがたくさんだった。本当はこういうヤツに斬撃系はアウトなんだけど。単体だと面倒だ。魔法の登山鞄からショットガンの改造銃、バーストガンと大ぶりなククリ刀を取り出して対峙。ヴュッカも途中から僕に任せた方が安全だと悟ったようで鞄にはりついている。
「人の体だと感覚がまだつかめてないんだけどな~」
マッシブヒュドラメンは身長2m超えのデカブツなのに加えて、なんと5本首。5本首のヒュドラともなると、人間の街を壊滅させられる個体になる。素早さ、力、単純な体積の全てが化け物。それがヒュドラメンになってどうなっているか……。
結論。鎧袖一触。
僕の意気込みを返してくれと言いたい。というか、僕自身が人化した自分の体の性能についてきてない。最初の一撃目でマッシブヒュドラメンの胴体へ横薙ぎを入れるつもりで前進。当然反撃されやすい挙動なので回避の用意も忘れてない。……のだけど、いつの間にか通り過ぎ、マッシブヒュドラメンは上半身と下半身が泣き別れ。さすがにヒュドラの特長の超生命力で上半身側はまだ動いていたが、バーストガンで首元を消し飛ばした。
このバーストガンはグラトニックスライムなどの大型スライム、巨大ワーム系などの体が柔らかく生命力が極度に高い生命体を一撃で倒すための武器だ。それが超生命力を持つヒュドラ系には効果的だと実証できたね。この銃は実弾と魔法の併用銃。失敗は成功の基とは言うが、これはまさにその典型例だ。
「そ、その銃は?」
「お、ヴュッカが戻ったね。これはバーストガン。魔法を特製スラッグに展着して放つ特殊な銃だよ」
「それって付与術ですか? 錬金術師の秘術ですよね?」
「僕は錬金術スキルも持ってるよ。でも、普通の錬金術師では無理だと思う。一発一発の魔鋼弾に結構な量の魔力を注ぎ込まないといけないから。一発で魔力切れだね」
「それ、お兄さんにしか使えないのでは?」
「どうかな~。ツェーヴェなら使えそうな気もするけどね。相性的には僕が最高だと思うけど」
狂った状態のヴュッカからビビりのヴュッカに戻り、僕らは揃って先に進む。そこからはちょっとグロテスクな惨状になるだろうけど、この迷宮なら問題ないと思う。socomMK109のマガジンを特殊弾に変え、先の改装へ。うん。予想通り。物凄くマッシブなヒュドラメンがたくさん。全然うれしくない歓迎に苦笑いしつつも、カレッサとの実験成果をここで披露する。
まず爆裂魔法を特殊な媒体に封じ、特定の魔素の流れで封印が時限解除されるのが『爆裂魔法球』だ。でもそれだけだと不便なんだよね。必ず投擲しなくちゃいけない道理はない。なら、銃弾に付与できればいいんじゃね? ……となった訳だよ。
けど、この世界で主流なのはライフリングの無いマスケット銃だ。火薬で鉛玉を飛ばす。銃としては原始的な物。魔法での革命とか心躍るワードはなく、現状それだけで強いので改良研究こそされているが、あまり革新的な技術革命はない。そもそも人間は技術力に劣る。ドワーフとかエルフに人口で勝るだけに、人海戦術でしいたげているが技術力では両主族に勝てない。その両種族の技術に魔人の魔素吸収量と、魔力の扱う技術は相乗的な技術革新をもたらしらのだよ。
「ま、今のところ僕くらいしか使えないのが、これの最大にして最悪の弱点だよね~」
ハンドガンは基本的に護身武器だ。取り回しはいいけれど、狙撃性に劣り、連射もできなくはないがそれほど特化しているとは言えない。大口径のハンドガンともなれば結構大きく、サブマシンガンの中でも小型な物と比べてしまえば同じくらいの物もある。だけど、こういう使い方なら……どうかな~ってさ。
思って使う訳でしょ? いつもみたいにちょっと目を覆いたくなる結果になるわけですよ。
僕が初めて爆裂魔法の適性スキルが生えたことを感じ、気軽に使った結果。ツェーヴェの縄張りから少し出た所の北西の小山の半分が消し飛んだ。魔素から魔力を練り上げ過ぎて、威力の調整ができなかったことが原因。それが再び起きたんだよ。これ、意外と難しいぞ……。射出時は火薬。敵や何かの物体に接触すると魔素を検知し、登録者以外の魔素が一定値以上検知されると僕ならば爆裂魔法の術式が展開され、チュド~ン。
結果。マッシブヒュドラメンの群れは黒煙に包まれ跡形もなく消し飛んでた。ホントに、消し炭すらなくね。細い谷間みたいな道はさすが迷宮だけあり強固だけど、爆心地を明らかにしてくれてるかのように削り取られている。うん。この弾丸は封印で……。
「うん。この弾丸はしばらく封印で」
「い、いえ、クロ様? それは永久封印で、永遠に封印しましょう」
「ちょっと、気持ち悪い呼び方しないでよ。ヴュッカ」
「いえ、私などは下僕、いや、奴隷……、いいえ、虫けらとでも呼んでください。クロ様のお心次第で世界が崩壊するのは目に見えています。ですので、できればお心を騒がすようなことだけは……」
あ、ダメなヤツや、これ。ヴュッカは完全にどこか遠いところを見ながらブツブツ言っている。たぶん、この蛇は多重人格などではなく。トリップしてるだけだな。闇魔法をちゃんと習得してないとこうなることがあるらしい。魔法に詳しいカレッサから聞いたことがある。
そこからなんだかんだとあって、ずっと気持ち悪い呼び方をするヴュッカを連れて降りていく。難なく20階のボスを瞬殺。結局、会敵する敵は最後までマッシブヒュドラメンだった。確かに数は増えてた気もする。正直あの程度の強さだと戦術や迷宮の施設を生かさねばいけないと思う。人間の攻略者なら問題なくても、迷宮vs迷宮となった場合ではこれでは不安だ。だって、数は暴力だけど、個体の変化が少ないんだよ。筋肉量と首の数は確かに変化するけど。それだけだと何の面白みもない。……えっ? ちゃんと戦えば変わってた~? そう~? いや、そんな事ないでしょ。
「いいえ。持ってる武器はちゃんと違ってました。クロ様が全部瞬殺するので違いが外見しか解らないだけかと。あと、階層を移った瞬間に練習と称して、爆裂魔法なんて物を撃てばどんな敵でも同じですよ」
「え? 一応避ける敵は居たよ」
「……一応聞きます」
「フェンr…」
「それはボス魔物です。普通のではないです。しかも、相当ヤバい魔物ですから!!」
ヴュッカと僕の間の齟齬が凄いな~。フェンリルなんて魔境の森の奥地に行けばそこそこいるのにね~。その最上位種『月を喰らう者』は見た事ないけど……。ツェーヴェは200年前にそいつと死闘の末に勝ってるなんて言うし。僕もその内出会うのかな? 別に僕はバトルジャンキーではないので、出会わないに越したことはないと思います。はい。
そして、僕はヴュッカの悲鳴にも似た苦言を聞き流しながら、最後の扉を開けた。そしたら、……なんか凄く不可思議な光景が繰り広げられていて……。僕もヴュッカも絶句である。うん。何コレ。どうしてこうなった?
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後75日~80日
主人 エリアナ・ファンテール
→変化なし
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・攻略中分隊
〇センテン高地
→隊長ツェーヴェ +タケミカヅチ
〇虹色湖畔・ゼバーニアン大湿原
→隊長エリアナ +クロ +スルト +ゲンブ
●虹色湖畔水源迷宮 clear!!
→隊長クロ +スルト