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なろうキャラ愚痴居酒屋  作者: 語部マサユキ
3/3

転生系チーレムと転移系チーレム

ヤツらの境遇が職業だと考えると……(T_T)

 耳をすませば聞えてくるのは名前も知らない演歌歌手の歌声。

 それが決して喧騒の中で耳障りにならない赤提灯の居酒屋のカウンターに座っているのは黒髪の日本人だが、妙に特徴は無く一見“どこにでも良そうな青年”で……そんな青年に入店して来た金髪のやたらイケメンなこの場には似つかわしくない男が声を掛ける。


「よう『転移』の……今日は早いのな、先にやってたか」

「おお『転生』の……最近こっちは落ち着いて来たからな。そっちに比べると余裕も出て来たところだよ」

「……そ、そうか」

「そっちこそ、今日は早い方じゃないか? 最近はお互い以前よりは落ち着いて来た気もするけど、それでも俺よりゃ全然仕事ありそうじゃん?」

「い、いや……まあ確かに役は色々あるんだがな……おやっさん、とりあえず生で」


 外野で聞いている限りでは役者や芸人同士の話にも聞こえるやり取りをしてから、金髪の男が注文を言うとカウンターの向こうから「ハイ喜んで~」と返ってくる。

 そして隣りに座った金髪の男はおしぼりで手を拭きつつ、深いため息を漏らした。


「あ~~~~ようやく終わったぜ……」

「お疲れさん……何だよ、今日はいつもより早かったから仕事が少ないのかと思ってたのに、随分お疲れじゃん」

「今日は冒険者モノじゃなく学園ものが3本だったから…………」

「うっわ……きついなそれ……。ちなみに何人?」

「一作に付き5~6人…………何でも魔法で解決できる世界の仕組みが憎い……」


 そう言いつつ出て来たジョッキを一気に煽って溜息を吐く金髪……その姿に優越感は無く、肉体的にも精神的にも削られた減量後のボクサー……いや夏の終わりのセミの如き気力の無さが目立つ。


「そもそも……おかしいだろ? 俺たちは転移であれ転生であれ、元は平凡な日本人だったはずだろ? 何でこんな簡単に殺しが出来たり美女をとっかえひっかえ出来るってんだ? 冷静に考えればそれは不可能だぜ」

「その辺については同感だし、そっちの倫理観をなんとな~くスルーしやすいから転生系に移行した分転移おれらが多少楽になった経緯もあるから……正直申し訳なく思ってはいるんだがな……」


 ちょっと申し訳なさそうに懺悔の意味も込めて黒髪の『転移系チーレム勇者』は自分が注文していた牛筋煮込みを金髪の『転生系チーレム勇者』の前に差し出す。

 同じチーレムであっても転移と転生で最近明確な格差が生まれている……最近は人気が下がって来たと言うのは役者や芸人にとっては非常事態であるのに、この界隈ではその一般的な意見は定まらない。

 チート・ハーレム、略してチーレムを担った二人は基本的に登場初っ端から強力な魔物を一方的に蹂躙、強大な敵は犯罪組織も国家単位でも何の気負いもなく、朝飯前どころか目覚める前とばかりに一蹴して、事件に関与した必ず一人はいる美少女に一方的に惚れられて『やれやれ、俺はそんなつもり無いのに』とか言いつつ何十人単位の女性をとっかえひっかえして行く……まさに“一見”男の夢を体現している役どころだが……。

 その二人は居酒屋に座るどの壮年のサラリーマンよりも老けて見えた。


「大体おかしいだろ? 冒険者モノよりも学園ものの方がやらかしが多いとか……学園だぞ? 校則とか倫理観とか一番目を光らせなきゃいけない機関じゃね~か!? なのに冒険者するより遥かにラッキースケベが多いとか、どうなん?」

「まあな……単純に色々な種類の女の子が集まる場所だからって事だろうな。異世界って括りなら種族も年齢もいじり放題だけど、見た目だけは未成年に留めて置けるし。反対に冒険者の場合は過酷な経験で下手に強かったりすると年齢が上がるしな……それだって誤差だろうけど」

「……それは……そうだが……」

「ちなみに今日は何人だった? 王家も絡む系?」

「……王家どころか魔王も絡む系だ。真っ先に滅ぼそうと学園に侵入した魔王ロリが返り討ちに遭って、そこからツンデレ化してな~~~~ハハハ……」


 コレが小ばかにしたように見下して喋っているのなら殺し合いが始まるかもしれないが、『転生』の目は空虚にどこも見ていない。

『転移』もそんな状況に覚えがあるから、背中を優しく叩いてやる事しか出来なかった。 

 美女をやきもきさせるハーレム系主人公は絶対に『鈍感』でなくては務まらない。

 しかし自分たちが担う役どころは基本が日本の『オタク』だったり『社畜』だったりと感受性豊かに速攻で“勘違い”をしてしまう種族のハズ。

 そして根本的に多数の女性とハーレムを築くなど、現代日本人だったら普通に精神がおかしくなるだろう。

 一夫一妻が基本倫理の日本人にはもう一人と関係を持つ事すら罪悪感を伴う。

 そんなものを感じないのは最初から本命を定めない男か、さもなくば詐欺前提の犯罪者しかありえないだろう。


「そもそもだな……今の今まで運動もしないで家に籠ってたオタクが未経験なのにいきなり絶倫とかあるワケねーだろ! あっち業界の男優さん方がどんだけ努力してんだと思ってんだ!? それでも一年後の生存率は0.数%だっつーのに……」

「本当だな……マジで加〇タ〇は超人……いや化け物……魔王だよな」

「世の中、チャラ男や女たらしを甘く見るけど、アイツらも努力してるんだってのは知るべきだろうよ……女一人を堕とすってのがどれほど困難で、維持はもっと難しいって事をよ」


 しみじみと語る二人のチーレム勇者に楽し気な雰囲気は無く……最初はモテ男二人の自慢合戦かと思っていた店員がサービスでそっとお通しを置いて行く。

「サービスです……」と言った店員は茶髪で軽そうではあるものの、体はしっかりと鍛え上げて“魅せる”事に努力がうかがえる。

 

「それにしてもよ……ここ数年多すぎないか? 異世界ハーレムな展開……日本人には本来合ってない感覚な気もするけどな、戦国時代じゃあるまいに……」


 そんな事を呟きつつ2杯目のジョッキを煽る『転生』に『転移』は熱燗を注文しつつ独自の見解を述べる。


「可愛いキャラありきってのがまずあるからじゃ無いのか?」

「キャラありき? 一時期あったカワイイキャラ一杯出しとけ~ってヤツか? でもその流行は『女子オンリー』な作品に淘汰されたような気もするが……」

「その通り。現代日本物ハーレム展開の最大の欠点は最終回に進むにつれてヒロインが絞られる事……暴論を言えば1話以降で出て来たヒロインは人気が取れなきゃ脱落だな」


 それはリアリティを求めるなら絶対に避けて通れない事実……一夫一妻の日本では根本的に結ばれる相手だって一人でなければいけないのだ。


「脱落……まあ極端だが……それが?」

「脱落した女子はその内絶対に主人公以外の誰かと結ばれる事になる……仮に押しが脱落したヒロインだった場合、主人公に感情移入して見ていた読者としてはNTRな感覚に襲われて納得できずトラウマ化……下手すりゃアンチ化だろうな」

「なるほど……だからそんなショックが薄い『女子オンリー』作品が……」

「その通り……ただし当たり前だがそう言う作品だと男女の恋愛の発展はご法度、某アイドルグループと同じで恋愛は厳禁…………その結果」

「……多数の女と同時進行で付き合っても問題ない異世界でハーレム形成して……女の愛憎劇とか別れ話とかそんな暗い展開を見ないで全員と関係を持っても問題ない俺達ちーれむに役が回ってくる……と」

「俺はそう思ってる…………」

「昼ドラとか月9って、誠実な男女の純愛だったんだな……俺らに比べると」

「……言うな。俺も浮気がバレて包丁で刺されたサスペンスを見て“殺す程愛してくれる奥さんがいて羨ましい”とか思っちまったからな……」


 いつの間にか二人とも熱燗に切り替えて、カウンターにお猪口が5~6本並び始める。

 本日の二人は大分深酒になって来ていたが、それでも止まる事が出来ない。


「最近はさぁ~、ちょ~っとでもチート臭が出た瞬間に“またかよ”って叩かれるしな~~良いじゃんよ~そんなに異世界の苦労話が聞きてぇのかってんだ……。みんなあれだろ? 修行パートは抜きのジャ〇プシステムの方が良いんだろうが! ああ~~~ん?」

「俺だってよう……ここんとこ『もう遅い』って口に出す前に題名で叩かれるんだぜ? 複数人の女と張り合う為にこっちゃどれだけ鍛えてると思ってんだ!? 頑張って頑張って、聞こえて来るは『消えてください』だぞ……頑張った結果嫌われて……畜生め! 俺だって純愛してぇよぅ~!!」


 とうとう泣き出す二人の勇者…………同じ境遇であるからこそ共感できるが、大多数の人々には彼らの苦しみは理解できない。

 むしろ羨ましがられる事すらあって、最近この二人の酒は看板まで続いていた。


「おっちゃん大吟醸もう一杯!」

「こっちも熱燗追加で!」

「お客さん……飲み過ぎですよ……」


 かくて夜は更けて行く……。




宜しければ他の作品もご一読いただいて、感想評価など頂ければ泣いて喜びます!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 作者でもないのに心が痛くなってくる
[一言] 阿呆すぎるww チーレムって、大変なんだな……。
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