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説明を受けましょう①

 魔導師の塔に住むための準備はリーアさんとリーネさんがしてくれる……らしかったのだが、男性陣が全力で止めていた。


『お前等がする準備には不安しか感じない』


 とはカレムさんの言である。


 実際、双子さんは部屋を紫色で統一させる予定だったらしい。テーマは魔女とか言っていたような気がするが、止めてくれた男性陣には感謝しかない。


 その後、必要な物や分からないことはその都度聞いてくれて構わないからと遠回しに追い出され、私は暫く城内の客室に住まわせてもらうこととなった。

 正直、広すぎて落ち着かないが、塔に行くまでの期間なのでセレブ的な気分を味わうべきかと思い直した。……慣れないように気をつけないと……。


 そして今日、私は宰相という立場の方からこの世界やティダリア国について教えてもらう予定だったのだが。


「…………」


 おかしいなぁ。


 部屋にいる担当の侍女さんに案内されて、勉強する部屋に入った所まではいいのだけれど。


 何故国王陛下がここにいるのだろうか。


 部屋を間違えたかと思ったが。


「悪いなユーナ。予定が変わった」


 と陛下の横に控えていた騎士団長が言ったので、この部屋で間違いないらしい。


 侍女さんが外に出て扉が閉められる。


「ロベルトは仕事で抜けられない用事ができたから、私が代わりに来たんだ」

「正確には仕事を押し付けて抜けられなくなった、だけどな」


 陛下の言葉を騎士団長が訂正する。


 ……陛下を相手にするくらいなら宰相(ロベルト)さんの方が良かった気がするけど、騎士団長がいるならまだ大丈夫……と思いたい。


「で、だ。ユーナはティダリアの事を知りたいんだったな」


 と陛下が聞いてきた。

 ティダリアどころかこの世界全般のことを聞きたかったのだが、誰が聞いているか分からない現状、口には出し辛い。

 それを理解しているのか、


「『国外から来た』という話だが、まずは自分が暮らす国の事だけでも先に覚えておけ」


 と騎士団長が言う。

 確かにそうなのだけれど。


「ユーナ。焦らなくても、時間はある。今日一日で覚えろなどとは思っていない」


 陛下に見透かされたように言われる。


「少しずつ学べばいい。それは悪いことじゃない」


 分かってはいる。

 分かってはいるのだ。


 それでも最初(いち)から覚えなければならないというのは、精神的にも頭の出来的にもかなり辛いものがある。


 今後、何があるか分からないのだから。

 ()()()()()()()()()()()()()()


「まあ、魔王率いる魔導師団に囲まれちゃあ焦るのも分かるがな。アルフィリオ含めて全員どこか人としてズレてるし」


 当の先輩が先生相手に言っていたものと似たような台詞を言われた。


 しかしそれで思い出した。


 召喚されて魂だけだった時、『王子』と『魔王』という単語が聞こえた。

 あれはどういう意味だったのか。

 思い出したら気になって仕方がない。

 ので、聞いてみることにした。


「あの……私が最初にいた部屋でのことなんですけど……」

「何かあったのか?」


 あの場にいなかったのだろう、陛下が首を傾げる。


「いえ、確かあの時『王子』と『魔王』という言葉が聞こえていたので気になりまして」

「あぁ、『奴』を捕らえた時か」


 納得したように騎士団長が頷いた。


「相手がどんな立場の人物か分からなかったからな。場合によっては騎士団長と魔導師団長という肩書きよりある意味効果がある。破棄したとはいえ、一応これでも元第二王子だったから今でも気にする奴はいるし、今回の相手にはそちらの方が都合が良かったんだろう」

()に息子がいたらそっちが王子扱いなんだろうが、作るつもりはないしな。厄介事はいらん」


 何かを含むような陛下の言葉に首を傾げる。

 血縁に関する何かがあったのか、と考え、そういえば内乱が起こっていたのだと思い出した。


 犯人もしくは首謀者を牽制するため、先生は敢えて騎士団長を上位の立場である『王子』と呼んだのか。

 そこまで警戒が必要な人間って、と考えた所で某司教の名前が浮かんできたので思考をやめた。


 では、先生が『魔王』と呼ばれる理由は何だろう? 

 

「で、『魔王』だが。そのままの意味だ」


 …………。


「……はい?」


 空耳か、と思ったが。


「比喩でも何でもなく、コルネリオはこの国を造った魔王だ」


 断言された。


 先生は一体何歳なのか……否、それよりも。


「……私の知る魔王の定義は、勇者に倒される、人間の敵とかだったりするのですが」

「いるぞ勇者」


 いるんだ勇者。


「まあその定義とやらも間違ってはいないな」


 ――陛下の話によると。


 元々先生――コルネリオさんは人間で、別の国で騎士をしていたらしい。


 そしてその地に魔王と呼ばれる者が現れ、国を滅ぼそうとした。

 コルネリオさんは国の精鋭と共に戦い、魔王を倒した。

 凱旋し、代表として立つコルネリオさんに国王は王女を嫁がせようとする。

 コルネリオさんは自分には幼馴染みの婚約者がいるので辞退しようとしたが、その婚約者は亡くなったと告げられた。


 幼馴染みは特に持病もなく、魔王討伐前に会った時もおかしい様子は無かった。


 疑問に思い調べてみると、コルネリオさんが出立して数日後、いきなり城の兵士に犯罪者として連れて行かれたことが判明した。

 相手を探し出し問い詰めると、王女の命令で捕らえるように言われたと、猶予も与えず処刑したと白状される。

 王女の元へ行き、兵士のことを告げると、王女はコルネリオさんに泣き(すが)った。


 (いわ)く、コルネリオさんに好意を寄せていたのだと。

 コルネリオさんに嫁ぎたいと国王に告げたが、婚約者がいるので諦めるように言われたが諦められず。

 ならばコルネリオさんが不在の内に婚約者を亡き者にしてしまおうと行動を起こしたと。


 コルネリオさんは身勝手な王女を許せなかった。王女を止めきれなかった国王も、従った兵士も、何も知らずに平和になったと笑い合う国民すらも。

 ――婚約者を助けられなかった自分自身をも。


 誰に対しても憎悪が込み上げる。感情が制御できない中、コルネリオさんは自身が異常なほどの魔力を宿していることに気が付いた。

 自分の中にある衝動(魔力)、それはかつて『魔王』と呼ばれる者が発していた物に似ていた。

 それは殺意だ。


『魔王』という存在は、自分と同じように誰かを殺したいほどの憎悪が変質させてしまった、元人間だったのだと、悟ってしまったのだ。


 それでもコルネリオさんは、国を滅ぼすことはしなかった。


 まだ、婚約者の家族や自分の家族が生きていたから。

 心の優しかった婚約者が生きていたら、復讐など望まないだろうと思っていたから。


 しかしコルネリオさんに復讐されることを恐れた国王は、コルネリオさんの身内を人質に取ろうとした。

 幾度も繰り返される襲撃に、守ることの限界を感じたコルネリオさんは身内に国を離れようと提案する。


 生まれ育った故郷だからと離れることを受け入れられない人の説得はできなかったが、それ以外の人間とコルネリオさんは城を出た。


 その時点で魔王に近い能力を得ていたコルネリオさんは、国の力が及ばない遠い地に全員を魔力を使って運び、集落を形成した。


 それがティダリアの始まりだそうだ。 

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