覚悟を決めて巻き込まれることにしました。
……ふ、と目が覚めると、見知らぬ部屋にいた。
いやいや何度目だよこれ、と思いつつ首を起こす。
どうやら座ったまま眠っていたらしく、首が痛い。変な体勢で寝ていたせいだろう。
……あれ。
確か、閉じ込められていたハズでは。
「やっと目が覚めたか」
聞き覚えのある声に横を見ると、窓の近くに先輩が立っていた。
窓の外は青空。
「……おはよう、ございます……?」
「今は昼だがな」
なんと。
眠っている間に事件は解決したらしい。
そして現在地は先生こと団長の執務室。
何をしても起きず、現場検証に邪魔な私を、先生に頼まれた先輩が諦めてここまで連れて来たそうだ。
「……お手数をおかけしました……」
「本当にな」
…………。
先輩、私に対する扱いが雑になってませんかね?
いや迷惑をかけたなら仕方がないような気がしないでもないのだけれど。
「では改めて今回の件について説明をする」
私が座っていたソファの対面側、もう一つのソファに座った先輩がそう言った。
――今回私が巻き込まれた事件。
それは例のイザベラさんが城へ働きに来た時から始まったそうだ。
そもそもイザベラさんは貴族のご令嬢で、ティダリア城へは行儀見習いという名の所謂婚活をしに来ていたそうだ。
そこでイザベラさんは国王陛下に目を付けた。
所構わず押し掛け自分をアピールする様に、側にいた騎士団長がキレた。
すぐさま追い出そうとしたが、それは嫌だとイザベラさんが必死に謝罪し懇願し、ならば変人の巣窟である(先輩自ら認めていた)魔導師団の元で暫く働けと丸投げした。
元々侍女や世話をする人間を置いていなかった魔導師の塔である。
やることは掃除や出来る範囲での整理整頓くらいで、指定された場所以外は入室せず、必要以上に触らないようにと厳命されていた。にもかかわらずそれすらもしようとはしない。
することといえば手伝いという名の邪魔か、団員に対する罵倒。
さすがに本来やるべき仕事の放棄をするならと、他の女性を働き手の見本として送り込んだ。
魔導師団の下での仕事は最後通牒に近く、必要のない存在と確定すればその時点で追い出すつもりだったらしい。
しかし逆に他の女性が突然城から消えてしまった。
退職願いも何も報告がない、失踪事件。
その後何人か送り込むも、全員同じように、いつの間にか行方不明になっている。イザベラさんに聞いても知らぬ存ぜぬの一点張り。
嫌がらせを受けたのではないかと推測はされていたが、行方不明者が増え続けるのではもう看過できない。
イザベラさんに怪しまれず、囮となってくれる女性はいないものかと考えている時に、私が現れ、丁度いいと巻き込んだのだそうだ。
関わっていた者達の尋問によると、イザベラに『同僚に嫌がらせをされているので助けて欲しい』と頼まれたらしい。そしてその正義感とやらが増長し、暴行へ至ったそうだ。
最初の女性はその際死亡し、慌てて死体を隠蔽したため失踪事件として表に出てしまった。
次いで送り込まれる人間も、いつ事件の真相に気付かれるか不安で、同様に『処理』していたそうだ。
先輩は詳しく言わなかったが、助けがなければ、私もそうなる運命だったのだろう。
「……師匠が後見人になったとはいえ、あの人は人として欠けている。今回のように囮として、危険な事もさせるだろう」
それでも。
「それでも、魔導師と過ごす覚悟はあるか?」
心配そうにこちらを見る先輩を。
性格には難がありそうな団員達を。
人として問題があるらしい先生を。
自分は関係ないからと切り捨てることはできない。
否。してはいけないと思った。
「私は、ここで生きると決めました」
一度死んだ所を救われた命である。
少し、寿命が延びただけ。
ならば、道具として使われることも良しとしよう。
巻き込まれて死んだとしても、それがきっと。
「……それがきっと、私の運命なんだと思います」
考えていたことの最後の部分だけ口にすると、先輩はなんとも言えない顔をした。
詫びとして生かされるより、対価として生かされる方が私の生きている意味があるような気がするだけなのだが。
無為に生きるより、ずっといい。
だから私は、自分の魂と手に入れた身体を代償に、この世界で生きると決めた。
――たとえそれが、誰かに仕組まれた思考だとしても。




