本質について雅に話をしよう
「傘を差すのは雨のだけとは限らない。例えば……」
「日傘もそうね。用途は人それぞれですもの」
「それが本来の使い方と違う使いものだとしても?」
「日傘だって正当な使い方じゃない」
「マスターは相変わらず雅さが足りない」
「あら、それは失礼。話を続けなさいな」
「僕が思うに、傘は女性を綺麗にする。和傘なんかは確固たる例として挙げられるものだ。そこに雨が無くても雅を生み出す」
「個人の嗜好をどうこういうわけじゃないけど、またここで貴方の評価を下げざるを得ないわ」
「僕の考えはおかしいかい?」
「おかしいというよりも、それで貴方、よく私に雅さが欠けるなんて言えたものね」
「雅さは重要なファクターだよ。まずは理解をする事からスタートしよう」
「理解も何も……貴方のそれはただの願望じゃない。そんなものを雅と呼んでいいのかしら」
「別に僕が雅である必要は無いんだよ。僕は日常生活の中に雅さを求めているだけなんだからね」
「なら余計に腹立たしい話ね。ええ、ごめんなさいすいません、雅さが足りなくて」
「何をそんなに腹を立てているのか知らないけど、つまりは本来の用途以外のものでも、物は用を成すってことさ」
「その結論に至る行程が無茶苦茶過ぎるわ。納得しようにも上手く飲み込めないもの」
「身近な例に例えるとね。珈琲の香りは珈琲そのものを引き立てる一種のスパイスのようなものだ。でも、僕にはその香りがマスターの雰囲気をより一層引立たせているようにも思える」
「……なら、そこに雅さは?」
「勿論、この場所を好んでいる以上、僕にとっての重要なファクターが欠けているなんてことは……有り得ないんだろうね」




