形あるものの末路について話をしよう
「ふぅ……、あら、いらっしゃい」
「どうしたんだい? そんなアンニュイな溜息をついて」
「いえ、ごめんなさい。お客様を出迎える態度じゃなかったわね」
「構わないよ。それに僕に気を使うなら、マスターをそうさせてしまった理由を知りたいね。勿論、個人的なことなら……」
「そこまで大層なことじゃないのよ。これはこの仕事してたら日常的なことですもの」
「まさか……そうだね、確かに今日も客の入りは良くなさそうだ。しかし、それは困ったな。さて、どうしたものか」
「……ちょっと、貴方いったい何の話をしているのかしら」
「大丈夫。僕にもある程度のツテとわずかだけれど人脈もある。一時しのぎにしかならないかもしれないけれど……」
「だから、貴方何の話をしているのよ。私にはとても失礼な物言いに聞こえるんですけれど」
「失礼だなんて心外だな。これはマスターだけの問題じゃないんだよ」
「だから何を……」
「僕に気兼ねはしなくていい。これは僕が個人的に動いて、個人的にこうしたいからやることだ。恩に着せるような真似はしないよ」
「……見返りもないのに馬鹿な人。貴方、やっぱり変よ」
「この際、マスターの所感は二の次だよ。誰にどう思われるかも大事だけれど、今は僕がどうしたいかを優先させてもらう」
「……」
「勿論、それをマスターが迷惑だというなら別だけれどね。それでも僕は、この店を守りたいと思う」
「……知らなかったわ、貴方、そんなに私の珈琲が好きなの?」
「解釈の仕方はマスターに任せるよ。ただ、ここで黙って見ているという選択肢は僕にはない」
「困った常連ですこと」
「他人だからと線を引くのは簡単なことだ。現に今まではそうしてきて、そうやって過ごしてきた」
「……」
「これが例えルール違反だとしてもね、この瞬間だけは一線を踏み込ませてほしい。僕はこれでも感謝しているからね。この店の全てに」
「……ありがとう、そう思ってくれるだけでマスター冥利に尽きるわ。でもね……」
「もう……限界なのかい?」
「ええ、どうあがいて、どんな手を施しても、もう……」
「……寂しい話だね。形あるものはと人は良く言うけれど……参ったね」
「ごめんなさい、これは私の落ち度よ。私がもっと丁寧に……」
「……わかった。なら、切り替えよう。結末が変わらないのなら、その日までをどう過ごすかがここからは命題だ。マスター、僕に出来ることがあるなら……」
「ほんと、どうして私はよりにもよって揃いのカップを落としてしまったのかしら。ペア様用に新調したばかりだって言うのに」
「……」
「困ったわ、せっかくポップまで作った新企画だったのに。——ああほんと、困ったわ(笑)。あら、どうしたの? 口数が少ないじゃない」
「……最低の所業だね、これで満足かい?」
「ええ、私は満足よ。貴方をここまでやりこめたんですもの。良い気分——本当に良い気分よ。想像していたよりも、ずっとね」




