1話 伝説の鎧と剣
一行は妙に手馴れた集団野宿を続けながら、とうとう城にたどりついた。
城門では厳つい兵士が仁王立ちをして、来るものを威圧していた。
田舎の平凡な少年のカインは城門の前まで来たものの、兵士の威圧感に圧倒されてしまい前をうろうろすることしかできない。
どう話して王に会わせてもらうかカインが悩んでいるときだった。
「これなる者は、魔王を倒すべく予言を受けた伝説の勇者である! 王に謁見を願いたい!!」
朗々とした声が上がった。
カインがおもわず後ろを振り返ると、父が歯を光らせながらカインに向かって親指を立てていた。
それ、僕が言いたかったのに…。
カインはじと目で父をにらみつけた。
「ここは黙って息子の成長を見守るものでしょう!? もう、あなたって本当に早漏なんだから!」
しっかりと母が言葉のナイフで父を抉っていたので、カインは気を取り直して兵士の顔を見返した。
兵士はいぶかしげな顔でカインを見つめていたが、やがてカインたち一行は城門の中に入ることを許された。
そのまま兵士の一人に倉庫のような部屋に案内された。
そこは埃っぽくてかび臭くて、おまけにじめじめしていた。
「ここはなんですか?」
カインは不安になりながら案内の兵士にきいた。
兵士は無愛想な顔のまま、部屋の奥をさした。
「あ!」
そこには、光り輝く鎧と剣が置いてあった。
なにかしらの金属であることは間違いないのだが、この世に存在する金属のどれにも当てはまらないような不思議な光沢があり、しいて言うなら真珠のような乳白色のやわい輝きがあった。
「お前が勇者というのなら、あの剣と鎧を身にまとって見せろ。それができたら王に会わせてやろう」
兵士は無愛想に言い捨てると、腕を組んで壁に寄りかかった。
カインはおそるおそる剣と鎧に近づく。
それは不思議な輝きを発しており、カイルは間近で見つめて息をのんだ。
「忙しいんだ、さっさと済ませろ!」
背中に兵士の怒鳴り声がかけられ、首をすくめながらカインは剣に手を触れた。
後ろからゴツッと鈍い音が聞こえたがカインの耳には入らなかった。
『勇者よ…あなたが来るのを待っていました…』
カインの頭に不思議な声が響く。
『さぁ、ともに行きましょう…』
カインは光に包まれ、薄暗かった倉庫はまばゆい光であふれかえった。
「………!」
カインがおそるおそる目を開けると、カインの体は伝説の鎧で覆われていた。
『うふふ…やっと会えたのだもの…もう離さない…』
「ちょっとぉ! これ、呪いの鎧なんじゃないんですかっ!!」
カインが涙目で兵士のほうを振り返ると、兵士は頭を抱えて床に倒れていた。
そばに立つ村人たちに目をうつすと、皆が「やってない、やってない」と手と首を横に振っていた。
カインは慌てて兵士に駆け寄って揺さぶり起こした。
兵士がうめきながら目を覚ます。
「一体なにが…あぁっ!!」
「剣に触ったらこんなことになったんです! どうしましょう!? 」
兵士は飛び起き、半泣きのカインの手をとった。
「…あなたこそ、我らが待ち望んだ伝説の勇者だ…」
その後、鎧が外せず半泣きのカインと村人一行は、王の待つ謁見の間へと案内され移動した。
鎧をカシャカシャといわせながら歩くカインに、「鎧に着られてるな」「鎧が立派過ぎて負けてるな」と村人たちの好き勝手な感想をかけられた。
カインもそこはよくわかっているので、ぐっと言いたいことをこらえて歩いた。
剣はいつの間にか腰についた鞘におさめられていた。
そして兵士の後頭部にできているものすごくでかいタンコブも、この騒動でうやむやになっていた。
そして、一行は謁見の間へと入った。
部屋のわきに兵士がずらっと並び、奥の玉座に腹の出た初老の男が座っていた。
あれがこの国の王か…。
ド田舎の羊飼いでしかないカインはこの物々しい雰囲気にのまれはしたが、正直なところ、この王よりも村の村長のほうが威厳があるような気がした。
そしてカインの背後で、村長が小さくガッツポーズをしていた。
「そなたが伝説の勇者であるか」
「カインと申します」
カインは兵士に教えられたとおりに膝をつき頭をさげた。
「して、後ろの者たちは?」
王はうさんくさげにカインの後ろにたつ村人たちを見た。
「僕の産まれた村の人たちです」
「ただの村人に用はない。連れ出せ」
王の一言に、兵士が命令を実行するために村人に近づいていく。
「待ってください!」
カインは渾身の力をこめて叫んだ。
「彼らがいたから僕は生きてここに来ることができたんです! 僕を殺そうと多くの魔物が村を襲いました。そんな魔物と勇敢に戦った人々なんです! ただの村人ではありません!!」
そのとき、兵士の中から驚きの声が上がった。
「あ、あれは伝説の傭兵!」
カインの父がにやりと笑った。
「あれは伝説のヒーラー!」
カインの母がにやりと笑った。
「あれは伝説の女暗殺者!」
マーサがにやりと笑った。
「あれは伝説の剣術師!」
剣の先生がにやりと笑った。
「あれは伝説の魔術師!」
魔術師のじいさんがにやりと笑った。
「あれは伝説の司祭!」
司祭がにやりと笑った。
「あれは伝説のバリスタ使い!」
村長がにやりと笑った。
謁見の間はしばし兵士たちのざわめきに支配された。
カインは、伝説の勇者という名前がだんだん霞んでいくのを感じた。




