3話 魔将軍の襲来
村の入り口に魔物が押し寄せるのが水晶に映し出される。
「あんな化け物にかなうわけない! 皆逃げてよぉぉお!!」
子供たちだけの隠れ部屋に、カインの悲痛な叫び声がひびいた。
その声は、水晶に映る大人たちに届くわけもない。
前列を守る大人たちに魔物が飛びかかろうとした瞬間だった。
「天の裁きの光よ、愚かなるものたちに怒りの鉄槌を!」
村に押し寄せていた空と地の魔物たちを囲むように、天まで届く光の柱が轟音とともにつきあがる。
水晶からもれでてくる閃光に、カインも子供たちも手で目をかばった。
少ししてカインがおそるおそる水晶を覗き込む。
「…なっ!?」
そこには黒く焼け焦げ、原型をとどめていない魔物たちの残骸がところせましと転がっていた。
「ふぁーっつはっはっはっはぁ! こんなこともあろうかと、10数年をかけて結界をこしらえ、絶えず法力を流し込んでおったんじゃ! はっはっはぁ、スカーッとしたわぁ!!」
広間で豪快に笑っているのは、いつも静かで厳かな雰囲気を身にまとう村の司祭だった。
「え…、司祭様…?」
変わり果てた司祭の笑い声に、カインはじゃっかん引いた。
「きゃーっ、さすが司祭様、かっこいい!」
部屋の一角で、法術を習っていた子供たちが完成をあげた。
「まだ魔物は全滅したわけではないぞ! 気を引き締めてかかれ!」
剣の先生が、一瞬浮かれた広場の空気を一喝した。
少し弱っているが生き残った魔物たちが、いっせいに村の大人たちに飛び掛った。
「先生ぇぇぇえええ!!」カイルは、先頭を切って魔物の群れに飛び込んでいく剣術の先生に悲鳴をあげた。
先生は魔物が鉤爪を振り下ろすのを難なく最小限の動きでよけると、すれちがいざまに魔物の首を切り落とした。
そのまま勢いを殺さず、くるくると回りながら後ろや横にいる魔物の首を次々と刈っていく。
それはまるで緋色の薔薇の花を振りまきながら華麗なダンスをしているように見えた。
「さっすが俺たちの先生、かっこいいぜ!!」
剣術の訓練をうけていた少年たちの歓声があがる。
同じく剣術指導をうけていたカインはその歓声にのりおくれ、ぼうぜんと部屋の子供たちを見回した。
広場の片隅で爆炎が上がり、魔物が数十体焼け焦げながらふっとんだ。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ! じじいとて、まだまだやるぞ?」
煙がもうもうと立ち込めるなかに、不適にわらう魔術師のじいさんの姿があった。
「さっすがお師匠様、威力がはんぱねぇ!!」
魔術の授業をうけていた子供たちが歓声をあげた。
その間にも、カインの父がバスターソードを自在に振り回して魔物を叩き切り、母が傷ついたものならかすり傷でさえもヒールをかけているのが見えた。
ヒールをかけられたものが、明らかに以前より筋肉が盛り上がって見えるのはカインの気のせいだろうか…?
「マールおばさん!?」
マールが全身を返り血に染めながら、大降りの肉切り包丁で華麗に敵をほふっていた。
物凄く切れ味のよさそうな肉きり包丁を振り回すその腕は、血管がビキビキと浮き上がり筋肉隆々だった。
「…うっぷ」
マールの血まみれの顔が間違いなく恍惚の笑みを浮かべているのに気付き、カインは口元をおさえた。
そして、魔物はすべて広場に死骸となってころがされた。
「助かったの!? 」
転がる死骸の中に村人が誰一人いないことを確認し、カイルがはずんだ声をだしたときだった。
「まじゃよろこぶのははあいわ…」
チビの冷静な声が耳にとどいた。
水晶に、さきほどの黒装束がゆっくりと広間に入ってくるのが見えた。
右手には抜き身の漆黒の長剣が握られている。
村の皆が見守る中、黒装束はその顔をあらわにした。
その顔は、獅子の顔をしていた。
「―っつ!! あれは魔王直属配下の魔将軍のひとり、『獣王ガウネル』だ!!」
誰かの叫びが村にひびきわたった。
それまで優勢だった大人たちが、魔将軍からじりじりと遠ざかる。
「獣王ガウネルだって!?」
隠し部屋の子供たちも緊張した声でざわざわとささやきあう。
「ねぇ、魔王ってなんのこと? 魔将軍てなに?」
カインだけがあいかわらず置いてけぼりである。
「あぁっ、父さん!?」
村の大人たちの中から、一人屈強な戦士が歩いて前に出た。
カインの父親だ。
「さぁて、魔将軍どののお手並み拝見といこうか!」
カインの父はバスターソードをかまえ、不敵に笑った。
「父さん…」
だが、カインは父がその笑みを浮かべる意味をよく知っていた。
あれは母がドス黒いオーラを発しているときに、無力だと知りつつも立ち向かおうとする父の絶望の笑顔だった。
父がバスターソードを振りかざして魔将軍ガウネルに飛びかかる。
だがガウネルは余裕で攻撃をみきり、父の攻撃はかすることさえしない。
激しい父の攻撃はやむことなく繰り出されるが、戦況にかわりはない。
父の攻撃がよけられるたびにバスターソードが大地をえぐり、土煙がまった。
「…父さん、父さん!」
カインが父の圧倒的な劣勢に絶望し、頬に涙を流したそのときだった。
「おらぁ、くらいやがれぇぇええ!!」
土煙がはれたそこには、光る魔法陣で大地に足を縫いとめられたガウネルが立っていた。
だがガウネルの顔に焦りはまったくない。
それが、カイルにはとても不気味に見えた。
カイルの父は気合一閃、バスターソードをガウネルに向かって振り投げた。
ガウネルはとくに抵抗をすることもなく、不気味な笑顔のままバスターソードに体を貫かれて更に大地につなぎとめられた。
「くっくっく、こんなものでこのワシを倒せると思ったら…」
ガウネルがまだ話している途中だった。
「村長、いまだぁっ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッツ!!
まるで神話にでてくる神の槍のような、人の大きさほどある太い槍、もしくはでかい弓が轟音をたててガウネルに次々と切れ目なく降り注ぐ!
「な、なんだと!?」
さすがにこの猛攻にガウネルも目をみひらいた。
隠し部屋の子供たちも驚きに息をのむ。
しばらく槍の雨がふったあと、広場にはハリネズミのように隙間なく槍に体を覆い尽くされた無残な魔将軍の姿がそこにあった。
「…ぐ、こ、これは一体…」
ここまでダメージを受けてまだ生きているのはさすが魔将軍といえたが、そのダメージは甚大なものだった。
「だぁーっつはっはっはっはっは!! この日のために、屋根裏に連射式バリスタ砲を仕込んで置いたんじゃ!! 参ったか!? だぁーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
村長宅の屋根が左右にわれ、中からはガウネルに狙いを定めたままのバリスタ発射機に座って高笑いをしている村長の姿がのぞいていた。
「そ…村長さん…?」
カイルは信じられない思いでつぶやいた。
いつもおだやかに笑っている村長が、今は目をギラギラと血走らせて唾を飛ばしながら高笑いをしている。
…これじゃどっちが悪者かわからないじゃないか…。
邪悪なオーラをほとばしらせながら、広間にしばらく村長の笑い声が不気味に響き渡っていた。




