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2話  勇者の栄光の軌跡

 


 次に出てきた映像は、村人とカインが野宿をしている映像だった。

「どうして野宿なんぞしているのだね? 支度金は十分に渡したはずだが…?」

王と大臣が顔を見合せた時だった。


『さぁ、飲むわよ食べるわよ! じゃんじゃん持ってきてちょうだい! ちょっと、この店の一番を呼んできなさいよ!!』


 姫の下品にはしゃいだ声が謁見の間に響き渡った。

映像には、着飾った男たちに囲まれて酒やごちそうを食べている姫の映像がでかでかと映っている。

「おぉ…」

王の目の前で、チャラそうな男から果実を口に入れてもらってご満悦の姫のドアップが流れる。

体をわななかせている王に気を使い、皆は映像から目をそらした。


「おおおぉおおおお!!」

しばらくして上がった王の叫びに思わず皆が映像に目をやると、姫が何人かの男を取り巻きにして部屋に消えていくところだった。

そして扉の向こうから『私を女王様とお呼びなさいっ!!』という声と鞭の音がして映像は途切れた。



「ち、父上! これは何者かの陰謀ですわ!! このわたくしがこんな下品な輩と一緒にいるはずがないでしょう!? わたくしの愛しのお父様ならわかってくださいますよね!!」


 謁見の間に姫の金切声と激しい衣擦れの音がした。

きっと姫が玉座に座る王にすがりついているのだろうが、誰もが痛々しくて玉座のほうを見ることができなかった。



 次に出た映像は、露出の激しい服を着た女性をはべらせた戦士の映像だった。

戦士は実にだらしない顔で女性に酒を注がせては、ガハガハ笑っている。

やがて戦士も女性をはべらせたまま部屋へと消えていった。

そして扉の向こうから『私は豚です! あぁ、女王様、この下種でいやらしいわたくしの(ピー)を(ピー)して(イヤァ~ン)して詰って踏みつけてください!!』という叫び声が聞こえて映像は途切れた。

 

 広間の兵士たちがざわめいた。

汚いものでも見るかのように遠巻きに見る兵士たちに、戦士は脂汗をだらだらと流しながらにじりよっていく。

「わ、私の筋肉に誓って! 健全なる筋肉には健全なる精神が宿るものである! 見よ、私は潔白だ!」

だが言葉もむなしく、まるで見えない力でも働いているかのように戦士の直径5M以内には誰も近寄らなかった。



 やがて映像は再び村人たちの野宿にかわる。

だがそれはいつもと違い、戦士がカインたち村人と一緒に野宿した日の映像であった。

カインの顔から血の気が引く。

(こんな大勢の前であの時の映像を流されたら、僕はもう恥ずかしくて生きていけない!!)

そんなカインをよそに、無情にも映像は寝たふりをするカインに覆いかぶさる戦士の映像にかわっていく。


「あぁっ…」

上がった悲鳴はカインか、もしくは誰のものだったのか。


 戦士がカインの体に手を伸ばした瞬間、映像にモザイクがかかった。

これも魔王の、いや、神の代行者を名乗る者の気遣いなのだろうか…。

しかし下手にモザイクがかかったせいで、なんだか映像がものすごくいやらしいことをしているように見えてしまう。

何かをゴソゴソとまさぐっているような音が、見えない分よけい人々にいろいろな想像を抱かせる結果となってしまった。


「…カイン、大丈夫。お前は何があっても綺麗なままだよ…」

「何勘違いしているんですか!! ただ鎧と剣を奪おうとしていただけですよ!? ちょっと! そんな哀れなものを見るような目はやめてくださいよ!!」

カインは涙目になりながら村人たちに叫んだ。


「この映像、モザイクは余計でしょうがぁああああああ!!」

カインの悲痛な叫びをよそに、戦士がカインから体を離したところでモザイクがとれた。

そこには多少顔がこわばっているものの、人々の予想とは違い鎧をしっかりと着込んだカインの姿があり村人たちも兵士たちも安堵のため息をついた。

カインも、誤解が解けたことに心から安堵のため息をついた。

王はすでに自分の殻にこもっていた。

姫は王にすがりついて涙ながらに語りかけていた。

戦士は兵士たちから遠巻きにされ、「あぁ、この距離感、そしてこの侮蔑の視線!! 何て快感!!」と一人で身もだえていた。


「よくよく考えたら、伝説の鎧を着ている間はカインの童貞は守られてるもんな! 心配することなかったわ!」

そこで村人たちは笑いあった。

カインだけは心の中で血の涙を流していた。



 やがて美王ビュートとカインの激闘が映し出される。

映像だけ見れば、カインが聖剣を操って魔将軍を倒したように見える。

謁見の間の人々は固唾をのんで勇者の戦いを見守った。

編集により消された音声の裏では、ど変態な会話がされているとは知らずに。


 そして魔王との死闘と魔大陸が沈む映像まで流れた後、エンドロールが流れて映像は終わった。

謁見の間はしばらく、余韻に浸る人々で静寂に包まれていた。

「ちょっと! わたくしはこの国の姫ですわよ!? なんて目で見ているんですの!!」

「あぁ! もっと蔑み詰って罵ってくれ!!」


 ……一部の方々を除いて。


『これが勇者の偉大なる軌跡である。寡黙であり決して己の栄光を語ろうとせぬ謙虚な勇者のために、神の代行者である我が証明いたす』


 謁見の間に響き渡る声に、人々はまた神への祈りをささげた。

カインも、あの後慰労会に参加せずにきっとこの映像の編集をしていたであろう魔王をちょっと見直した。でも、野宿のときの戦士の映像はどうにかしろと思った。


『なお、この映像は各教会にて無料上映会を行えるように手配しておく。とくと勇者の栄光を広めるがよい……』

「野宿のときの映像はどうにかしてぇえぇえええええ!!」


 カインの心からの叫びは聞こえたのかどうなのか、神々しい声はそれ以降聞こえてくることはなかった。



 その後、落ち込んでいるカインと王をよそに、村長と大臣で正当な報酬や今後のことを話し合った。

その結果、報酬はこれ以上いらないこと、勇者カインのことは教会の映像のみでほかの情報は一切もらさないことなどを取り決めた。

村長はカインが静かに暮らしたがっているのを知っていたので、大臣と手をまわした結果だった。



 そして今度こそ、村人たちとカインは懐かしい村に帰ったのだ。




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