1話 戦士の暗躍
一向は北へと進んでいた。
カインも村人たちも野宿をしながら進んでいった。
村の宿に泊まるにしては人数が多すぎたし、王からもらった金額では全員をまかなえなかったからである。
王からもらった支度金は実は大半が姫の下へいってしまったのであるが、村の誰も気にしていなかった。
大人たちは薬草をとったり動物を絞めて燻製肉や塩漬け肉にしたり、子供たちは大人から旅の知識を教えてもらったり見知らぬ土地を楽しみながらひたすら歩いた。
姫は貴族の子息たちとその村の最上級の宿に泊まったし、岩男は村の娼館通いをしていた。
村人たちは綺麗な小川や泉で身づくろいをして清潔さを保っていた。
いつもは離れない剣と鎧も、カインが水浴びをするときだけはすんなりと外れた。
しかしカインの姿が見えないと飛んできて抗議をするように体に張り付くため、カインはいつも自分の裸を剣と鎧に見せながら水浴びをしていた。
旅が進むにつれ、村人たちは大人も子供も野営のプロ集団になっていた。
そんなある日のことだった。
「私も野営をさせてもらえないだろうか?」
村人たちと野営をしていたカインのところに戦士がやってきた。
カインは驚いた。
ひさびさにまじまじと見た戦士は、娼館での暴飲暴食がたたったのか眼球は黄色く濁り、顔も身体もだらしなくたるんでいた。
「お好きにどうぞ…」
カインはしどろもどろに答えた。
戦士の名前を覚えていなかったからだ。
「そうか、なら邪魔をするぞ」
どんよりとした目で笑う戦士の顔に、カインはなんだかいやな予感がした。
その夜、カインの提案により村人たちは子供と女性を真ん中に、その周りを男たちが囲んで眠った。
カインと戦士は村人たちから少し距離をおいて眠った。
戦士は横になるとすぐにイビキをかいて眠りだした。
とくにおかしな様子もなく、カインも安堵のため息をつくとそのまま眠りについた。
夜中に小さな物音がしてカインは目が覚めた。
目を開けようとしてハッとする。
剣と鎧が熱い!
それは何か危機を知らせているように感じた。
カインは薄目を開けて必死にあたりを探った。
「!!」
覆いかぶさるように岩男が見下ろし、しかも鎧の上からカインの腰の辺りをまさぐっていた。
(ひぃーーーっ!! なに!? このひとそっち系なの!?)
カインは叫びだしたくなる気持ちを必死に抑え、気付かないふりをした。
今日は様子のおかしい戦士を警戒して村人たちと距離を置いで寝たのがあだとなり、誰も気付いてくれる人はいない。
やがて岩男がカインの鎧を外そうと手を伸ばしたそのときだった。
バチィイイイイイン!!
激しい火花が散り、筋肉ダルマの手が鎧からはじかれた。
岩男はうめきながら手を抱えた。
そのまま、しばし緊迫をはらんだ静かなときが流れた。
やがて岩男は立ち上がると、のっそりと闇の中に消えていった。
カインは手にかけていた剣から手を離し、額に浮かぶ冷や汗をぬぐった。
もう鎧と剣はふつうの金属のように冷たくなっている。
(明日からは皆と一緒に寝よう…)
カインは身震いをしながら固く誓った。
元の位置で寝ようとしたが、いまだ戻らぬ岩男の隣でもう一度寝るのが怖くなったカインは、いそいそと村人たちの眠る輪のそばで眠った。
その後、岩男は変わらぬ様子でふらりと戻り、カインがそこにいないことを気にする様子もなく元いたところに横になって眠った。
その頃にはカインも村人の寝息に包まれ、すっかり夢の中だった。
次の日の朝、村人たちとともに起きたカインは筋肉ダルマから距離をとっていた。
そもそも今までの旅でカインと岩男が一緒にいたことはなかったので村人たちも怪しまなかったし、カインも手を出されかけたとは恥ずかしくて村人に言い出せなかった。
カインは自分が身に着けている鎧が、貞操に関しても完璧な守りを発揮することを知らなかった。
「みなさま、ご機嫌よう」
村から出てきた姫も、子息たちをひきつれて合流した。
カインは挨拶を返しながら、姫からも戦士と同じ嫌な気配を感じた。
カインの背中に、じっとりといやな汗がにじんだ。
「いやぁ、私、ここらへんにはちょっと詳しくてね! 少し行った先に花畑があるんですよ!(棒)」
唐突に岩男が両手をあげて叫びだした。
カインも村人もいきなり叫びだした男をギョッとして見た。
「まぁ! わたくし、お花畑に行ってみたいわ!(棒)」
姫もいきなり叫びだした。
「「「行きましょう、行きま~しょう~!(棒)」」」
貴族の子息たちは胸に手を当てながら、そろって歌いあげた。
「………」
学校のお遊戯会だってまだマシだ。
カインは村人たちと顔を見合わせたが、父がしっかりとうなずいたのを見て決意した。
「わかりました。その花畑に行ってみましょう」
カインは岩男と姫とその取り巻きにうなずいた。
岩男を先頭に、一同は北へ向かう街道をそれて花畑へと向かった。
カインは村人たちに残るように言ったが、カインを一人で行かせるわけにはいかないという力強い言葉を返され、何があっても僕が村人を守る!と決意を固めた。




