【第17話】★裁きの檻で★
──ようこそ、“制度という名の監獄”へ。
力だけでは進めない。
けれど、力がなければ見下される。
グローリア士官学院は、そんな矛盾に満ちた“試験場”。
そして今、少年と少女は──視線の中で試されようとしていた。
──記録番号:Discens134。対象者ジェイド・レオンハルト。第〇期士官学院新入生。状況:入学式翌日。
本記録は、倫理庁の特例観察命令に基づき、監視官ユミナ・アレグレットが作成する。
* * *
──講堂。
そこは、静寂に包まれていた。
壇上に立つのは、長身の少年。制服はきっちりと着こなされ、金の刺繍がまぶしい。
「……制度とは、秩序です」
その第一声が、空気を震わせる。
「制度とは、私たちの誇りであり、未来への梯子だ。才能ある者が努力し、努力する者が報われる……それが我が国、メリトクラシアの根幹であると、私は信じています」
拍手が起こる。だが、どこか機械的だった。
ジェイドは、最後列でその光景を見つめていた。
隣には、アイリス。
従属印の刺繍が、光に照らされて鈍くきらめいている。
「従者制度について、異を唱える声もあるでしょう。しかし私は、あえて言います──必要です、と」
ざわめきが広がる。
「我々は、“努力すること”すら許されぬ環境にある者たちへ、機会を与えているのです。上位者のもとで学ぶ。それは不平等ではない。“配慮”です」
その目が、講堂の一角を射抜いた。
明らかに、ジェイドたちのいる列。
「例えば、使用人を連れてきた者がいると聞きました。倫理的にどうなのかと、議論もあるでしょう。しかし私は、むしろ感謝すべきだと思います。そうした“存在”がいるからこそ、制度の意義が際立つ」
アイリスがわずかに震えた。
ジェイドは拳を握った。
(……見られている)
刺すような視線。制度という名の“光”が、彼らをあからさまに照らしている。
「最後に──私は、従者を否定しません。ただし、それは“制御された従属”であるべきです。感情ではなく、規律によって支配される関係。それこそが、真の“平等”なのですから」
拍手が再び鳴り響く。
けれど、ジェイドにはそれが、檻の音に聞こえた。
壇上の少年──ライナルト=グロースは、一礼すると、ゆっくりと視線をこちらに向けて言った。
「Discens番号134。ジェイド・レオンハルト。……君の従者は、優秀そうだ」
アイリスがはっと顔を上げた。
ジェイドの中で、何かが静かに燃え始めていた。
(ああ、これは──宣戦布告だ)
彼は、口を開かなかった。
ただ、まっすぐに睨み返す。
沈黙こそが、“最初の一撃”になると信じて。
ライナルト=グロースという“壁”が、ようやく姿を現しました。
ジェイドの「言葉」はまだ武器にはなっていません。
けれど、それでも“折れない”という選択肢を彼は選びました。
ここから、静かな宣戦布告が始まります。
第18話では、その火種が形を持ちます──どうか見届けてください。




