【第18話】★導火線、それは模擬戦の名を借りて★
──それは、“模擬戦”という名を借りた挑戦状だった。
制度の檻に閉じ込められた少年が、
規則の隙間から、たった一つの武器を握りしめる。
これはまだ前哨戦──
けれど、確かに“戦い”は始まっていた。
訓練場に集められた新入生たちは、冷たい石畳の上で整列していた。 空は雲ひとつない快晴。だが、その光すらどこか冷たく感じるのは、漂う空気のせいだろう。
整列の中で、俺――ジェイド・レオンハルトは、アイリスと並んで立っていた。 平民枠。訓練区分・第2班。
金バッジの生徒たち──貴族は第1班として、最上列に堂々と並んでいる。 そのすぐ後ろに、何もついていない俺たち平民。 さらに後列に、緑の従属バッジをつけた使用人たち。
その線引きは、残酷なほど明確だった。
「模擬戦の対戦相手は、ランダムに選出される。魔力量、属性適性、戦術理解度に基づいて編成される」
そう説明するのは、訓練担当の教官。 だが、その編成に異議を唱える声が一つ。
「ランダムとは言うが、貴族と平民を同列に戦わせるのは無意味じゃないかな?」
皮肉げな声。 ライナルト=グロースだった。 白い制服の金糸が、朝日にきらめいている。
「戦力差がありすぎると、訓練にはならない。見世物ならいいけどね」
まわりの貴族がくすくすと笑う。平民たちは、視線を逸らすしかなかった。
でも──
「なら、証明してみろよ。お前が“強い”ってことを」
俺の声が、静寂を割った。
視線が集中する。 ライナルトの目が、試すように細められる。
「……君、名前は?」
「ジェイド・レオンハルト。第2班、平民枠」
「ふうん。じゃあ、特別に希望してあげる。次の模擬戦、君と対戦するよう申請するよ」
それは、明確な“挑戦”だった。
訓練教官が一瞬、眉をひそめたが──
「制度上、可能です。演習形式であれば、希望対戦も許可されております」
ユミナの声が、背後から届く。 振り返らずとも分かる。彼女は、ずっと見ている。
「では、記録官の許可により、次戦を指定試合とする。立会いはヴィオラ」
「えぇ……」と、やや不満げな声が漏れたが、すぐに気配が消えた。
制度の隙間。 そこを使って、俺は“牙”を剥く。
「おい、無茶だ」
小声で、同班の生徒が言った。
分かってる。 ライナルトは、たぶん本当に強い。魔力量も、経験も、俺とは桁違いだ。
それでも、引けなかった。 あの日、アイリスを庇ったあの時から、俺の中の何かが変わっていた。
黙って、俯いて、ただ耐えるだけの日々には、もう戻れない。
俺は、前を向いて歩き出す。
この一歩が、どんな結末をもたらすのかは分からない。
でも、それでも──
(やるしかないんだ)
ライナルトと視線が交わる。 笑っていた。
けれど、俺は、それ以上に“熱く”なっていた。
それが、すべての“導火線”だった。
模擬戦という制度の裏には、“表に出せない感情”があります。
ジェイドにとって、それは自分自身との対話でもあり、
アイリスや他の“同じ立場の者たち”のための戦いでもあります。
次回、第19話ではいよいよ【激突】です。
心の中の剣が、初めて振るわれる瞬間──お楽しみに。




