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六十二話「海渡の船」

前回のあらすじ


暗殺者を退けたルルカ達は紅月を落とされた悲しみにくれつつも、次の目標を決める。

霧江の入り口にある水純のサファイヤを取り、船を強化。海に潜るという計画を信じ、紅月を助けるために準備をする。





新装備を受け取った私はお嬢様を探しに行く。ありとあらゆるプレイヤーたちが自分の装備や荷造りなどを行い慌ただしくしている中、私がお嬢様を見つけるのに、そこまで時間は掛からなかった。


 「あ!ウミ!。」


いつものように大きな魔女帽を被ったお嬢様は手を振りながら私の名前を読んだ。私はその声の導きのままにお嬢様の元へと歩いて行った、


 「怪我は大丈夫?。」


真っ先に飛んできた言葉はそれだった。

いつものお嬢様だと安心すると同時に私は答えを口にする。


 「はい、おかげさまで大丈夫です。」


 「そっかーよかったー。、」


気をはっていたのかお嬢様はため息をつきながら肩の力が抜けたような姿を見せる。

私は自分がそこまで重しとなっているとは思わなかったので、なんとも言えず少し苦笑いした。


 「ウミ新しい装備もらったんだ、いいなぁ〜私もいい装備欲しいなぁ〜。」


私の新調したメイド服を上から下へ下から上へ見回しお嬢様はそういった。思えば装備替えの頻度で言えばお嬢様はずっとこの服装だ。

という私もメイド服なのだが、色が微妙に違ったりシンプルなデザインだったり少しフリルが効いたやつ、メイド服といっても一種類じゃない。


お嬢様は理解してくれなかったが、衣替えのことを考えるとそこそこ着替えている頻度がある。


 紅月様は毎回装備を新調しているので言わずもがななのですが、お嬢様に限っては今の装備が一番強いので基本的(洗濯時、修繕以外)に着替えない。


 「予備の装備も確保してみてはどうでしょうか?。幾分か性能が落ちていても問題なのは基本的にポテンシャルなので、」


 「うーん、そうだよねぇ。私もこの装備少し見飽きちゃったし、帽子デカいし。」


 お嬢様の帽子は大きい、この大きさはある種のファッションとも取れるが戦闘において基本、なんのタクティカルアドバンテージにもなり得ない。逆に被弾面積の拡大、接敵率の上昇、枝に引っかかるなどのデメリットが多い。

ではなぜ使っているのかというと、装備のセット効果の恩恵を目的としているからだ、装備はシリーズが決まっていて全て揃えることによって追加効果を得ることができる、【SAMONN】においてバフをノーコストでどれだけ得られるかが戦闘を左右するといっても過言ではない。


 ただお嬢様の場合バフは自分でかけられるためそこまで問題ではない、ただ今の装備が一番(性能的に)良いため使っているに過ぎないのだ。


 「いい装備がどこかに転がってるといいんだけど、。」


 「そうでしたら、苦労はしませんよね。」


メイド服もバリエーションが少なすぎると思う。ちなみにここでいうメイド服は完全に戦闘向けのバトルメイド服のことを指す、公式からバトルメイド服の供給は極めて低い、しかもどれも微妙な使い勝手のため私の戦闘スタイルと基本的に噛み合わない。


いつからメイドは暗殺者になったり、ドラゴンになったり、忍者になったりしたのだろう。


…あれ?。


 「どうしたのウミ?。」


 「いえ、なんか、他人事ではないような気がして。」


 「?。」


 「とにかく、この装備のおかげでアリスさん曰く『泥』にもしっかりダメージが通るらしいですね。」


 「そうそう、私もアクセサリーもらったんだ!。」


そういうとお嬢様はにこやかに腰につけていた丸いアクセサリーを私に見せてきた。私はそれを自然と手に取りステータスを確認する、


 『対『泥』貫通』


内容はただそれだけであった。物理貫通、魔法貫通、無敵貫通等の効果を見たことはあったが、専用貫通というのを見たことがなかったので、少し珍しいものを見た気がした。


 「『泥』は貫通分類に入るんですね。」


 「そうなんだよね、私もそこ気になった。貫通っていうと今まで生き物とかじゃなくて、装備や防御効果を持つものに対してって感じだったんだけど。仕様が変わったってことかな?。」


 「、それは計り知れませんね。【SAMONN】のことなので、、」


私はそういうとお嬢様にアクセサリーを返した。お嬢様はそれを手に取ってまた腰に付け直す、


 「それもそうだね。とにかくアリスさんには感謝しないと、」


お嬢様がそう発言すると私も考えを深める。アリスさんは一体どれほど『泥』に対しての知見があるのか?、『貫通』をつけるのはこのゲームにおいて容易ではない、固有個体や種族なら尚更だ。

アリスさんが一体どれだけ優れたスキルを持っているのか、本人に聞きたい気持ちもあればプライバシーという意味で聞きたくもない気がする。


まず、彼女の役職は一体なんなのだろう?。ただの錬金術師にしては出来過ぎている。

かなり高位の役職ではないとあそこまでの判断能力を身につけることもできないはず、、。



 [カンカンカンカン!!!]


私がそう考えていると鐘の音が聞こえてきた。どちらかというとゴングみたいな音だがそんなことはどうでもいい、今理解すべきなのは今の音が進行の合図だということだ。


 「始まりますね。」


私は考えていることをやめ、お嬢様に声をかける。


 「うん、、」


お嬢様はどことなく不安げを纏った雰囲気を出していて、いかにも自信がどこかない状態だった。


 (きっと紅月様のことなのだろう、)


そう察することが容易にできる。私も紅月様のことに関しては心配だ、いくら彼が強かろうとこれはイレギュラー、普通じゃ起こり得ないことに物理も魔法も関係ない、ただただ心配なのだ。


 「、大丈夫です。紅月様はきっと助けられます、」


私は不安の気持ちを理解していたからこそ、お嬢様にそう言った。共に乗り越えようというのはエゴであったためメイドとして主人を激励する、それがいまの私にできるとことだと思ったからだ。


 「、そう、そうだよね。」


お嬢様の顔はとても険しい、私の言葉を慰め程度に受け取っているのか、はたまたこれは彼女なりの覚悟であるのか。


どちらにせよ私は彼女に「成長している」と感じた、いつからこうなってしまったのか、っと少し寂しい気もしてしまったが、。



 間も無くして、隊列を組むように目的の地点へと進行を開始した。

皆装備はバラバラであり集団意識が外れそうな感覚がしていたのだが、それは些細な問題。

重要なのは心だ、各々が目的を持ち行動しているといっても根源的な意味で同じならばいざこざは起きることがない、、


それを証明しているのかのように私たちの進行は予定よりずっと早く進んで行った。


 先頭はメルドさん、隊を四分割に分けるように私、お嬢様、アリスさんが各々付いている、考えればシンプルな隊形だがバランスもかなり良い。

総力戦において大切なのは接敵までの間メンバーが誰も掛けないことだ、ここにいる人たちは『泥』と戦ったことがある人達だ私たちも経験自体はあるが、豊富ではない。できるだけ尽力しなければいけない、、


 進行していくうちにだんだんと周りに『泥』が広がっていることがわかる。海だけにとどまっていない『泥』がまるでこちらを侵食する勢いが見える、この生物にも満たないものたちはいったい何のために大陸を侵そうとしているのか?、毎回考えさせられる話題だ。


もしかしたら大した理由はないのかもしれない、それこそ植物が増えていくのと同じ理屈なのかもしれない。しかし私はそうは思えない、たとえ1ミリたりともその可能性があり得ようが私は「それとは違う」と言える自信がある。


根拠に関してはもう勘としか言えない。だがこの勘は、たとえば動物が急に何かに怯え出したり、本能的に何かを感じ取った時の、、そういう生物に必ず備わっているいわば「危機察知能力」に分類されるタイプだろう。

で何が言いたいかといえば、この泥と接敵、もしくは接近すると必ずと言ってもいいほど気持ち悪くなる。


胸の奥から「この物体とは触れたくない」と頭が常に危険信号を出している感じだ。

正直踏み進んでいる時でさえ、自然と身構えてしまう。


 周りの人を見てみても、顔色は決して良くない。皆思っていることは同じだ、、

この泥が周りにいる時どうしてか心の奥底ではざわめきが必ず起こる。判断能力を遅らせるとともに戦う気持ちを不自然に削ぐようなその効力は私たちの闘志を削っていく感じがした、

そしてそんな気持ちに負けず私たちは目的の地点付近に辿り着いた。


隊列は縦から横へと形を変え、目の前に蔓延っている『泥』の生物たちに向き合うような形になっている。

向こうはこちらに気付いてはいない、もしかしたら気づいているかもしれないが気にしている様子はない。

どちらにせよ好奇だ。


 (向こうが気づいていないのなら、占拠するスピードも早くなる。『泥』が増援を呼ぶ可能性を懸念するなら速戦即決こそが今必要な戦術だ、。)


私だけではなく、誰もがそのことを理解、察することのできる緊張感。息を吸う音だけがその場には聞こえて少し先には呑気にうろつく『泥』の生命体、戦いの狼煙はメルドさんの体験が振り下ろされる時に始まる。


 ジャキンと大剣を背中の鞘から抜いてメルドさんは誰もが目視で確認できるほどに掲げる。

そして、、


 「作戦、開始ィィィッーーー!!!」


向こうにいる泥が気付くほどの大声が耳に届くと同時に呪文を溜めていたお嬢様が解放、数多くな強力なバフと『魔力砲マジックカノン』が戦うべき道を示すように地面を駆け、『泥』の先頭部隊を消え去る。

それと同時に、私たちは走り出す。足元に広がっている『泥』が『魔力砲マジックカノン』によって弾き飛ばされた今、地面による奇襲、アドバンテージは『泥』にない。このチャンスを我が物にせんと、私たちは気を高揚させ雪崩のように『泥』へ向かって戦う。


 [!]


どうやら『泥』は本格的に戦闘の気配だと気付いたらしい、しかしもう遅い私たちと泥の距離はもはや目と鼻の先、少してを伸ばして殴れば届く範囲だ。つまりここからが本当の戦いだ、


 私は『泥』に向かって渾身の右ストレートを叩き込み、その前身を吹き飛ばす。

対泥加工されてある装備のおかげか、以前のように腕に引っ付くことが無い、これはとても爽快感があると同時に継戦能力の向上がわかる。

『泥』を吹き飛ばすと、私を中心に右へ左へと大人数が過ぎていく。一人一つという決まりはないものの、このペースに遅れることは孤立することと同義だと感じ取り、急いで足を動かし追いつく。


 [ドーーン]


集団部隊がちょうど接敵を開始して乱戦が始まろうとした時、爆発が人壁の向こう側で起こった。

それと同時に頭上を何かが通り過ぎる。お嬢様だ、広報支援に徹すると言っても、お嬢様はバフをかけ続ける都合上、前線に出なければならない、空中で静止したお嬢様は『泥』相手に無慈悲なまでに攻撃を行う、前線の向こう側が次々に爆発していることがわかる。


お嬢様の攻撃的に数は予想よりも多いのかもしれないという考えが頭をよぎる中私は乱戦に突入していく。


 [キンキンキン!!ザシュ!!ダン!!]


斬撃音、弾音、打撃音、あるとあらゆる方向から攻撃が聞こえてくる、一瞬頭が混乱してしまいそうな勢いだが、そんな中でも敵はやってくる。


 [シュン]


数ある『泥』のうちの一体が私に向かって硬質化した針先を向けてくる。私は真正面からそれを砕き、もう片方の腕に熱を溜める。


 「『炎拳フレイムフィスト』!!」


直撃した『泥』は焼き付けられ、ものの数秒で溶け崩れ火成岩のようなものに成り果てた。人並みサイズの『泥』と戦うのは初めてだったがこんなにも簡単に倒せてしまうと呆気ないものだ、からといって紅月様が戦ったあの『巨泥』と戦いたくはないが、、。


 「ぐあぁ!」


その声を聞いた瞬間、さっきまで視界になかった人影が急に脳裏に浮かんだ、私は声を頼りに場所を突き止め『泥』に向かって上から拳を叩きつけた。


『泥』は潰れたケーキのように崩れ、地面へと落ちる。


 「あ、ありがたい。」


 「いえ。」


私は少し驕っていたのかもしれない、ここは乱戦場でありチーム戦だ。個々が担当しているからこそあっけないのであって、私が必ずしも強いわけじゃない。集団戦とは助け合いの繰り返しだ。

ならやることは一つ、、


 (前線を支え続ける。)


それが今やるべきことであり、勝利につながる一つの道。

いい装備をもらったのだから仕事をしなければいけない、とても当然なことだ。


上がっていく前線についていくため、敵を殴り倒しながら向かう。後ろの負担が少しでも軽減されるなら本望だ。


 [シュン]


『泥』がチャンスを待っていたようにちゃくち地点に向かって針を飛ばす。私はギリギリで体を仰け反らせることで間一髪で避ける、そして私を通り過ぎたハリをガシッと掴み、引っ張る。

『泥』は軽く打ち上げられ、私はその自由落下中の『泥』に向かって


 「『炎射フレイムストライク』」


を当てる。水が蒸発するように『泥』は弾け飛び、雨粒となって地面へ落ちていった。


 私は次を急ぐために、足にもういちど力を込め地面を蹴り上げる。体は中を舞い、その間に私は狙いをつける。

ちゃくち地点付近に『泥』がいた場合、そのまま押しつぶすように着地する。


そしてまた飛び上がり、前線へと向かう。


常にあげり続ける前線に追いつくのは難しくないはずだが、如何せん数が数だ。空中という安全圏での移動を図ってはいるものの、横槍がくる場合がある。

ならば地面を歩けばいいのだが、それはそれで人を避けるのは簡単なことではない人が、少ないならまだしも混戦を極めたこの戦場は実に進みにくい。


そのためジャンプしながら行ってはいるが、やはり横槍の数が進むにつれて増えていく。鬱陶しすぎるのでそれなりに前線に近づいたら私は地面を歩くようになった。



 (ここまでくると、味方より敵の方が多いですね。)


そうなるとこちらにもヘイトがどんどんくるわけで、。状況把握をしている最中ですら敵の攻撃が飛んでくる、それを避け追撃の『炎射フレイムストライク』を撃つ。


 [シュンシュン!!]


敵が倒れたかどうか確認する前に次の攻撃が二本飛んでくる。それを両手で受け止めて硬質化を真っ向から砕け潰す、よく見れば二体ではなく4〜5体が集まっている。


 ちまちま攻撃するのも時間がかかるため、ここは新技を使う。


 「『炎焼放裂フレイムバースト』ッ!」


拳から炎が噴き出す。そして次の瞬間には炎一つ一つがまるで爆薬であったかのように空中で爆発する、広範囲であるがFFフレンドリーファイヤーの可能性を懸念するならそう多くは使えない。しかし一度に多くの敵を倒せるのは爽快であり、とても効率的だ。


煙幕が残った後には敵影はなかった。しかしいつ攻撃が飛んでくるかわからないのが戦場だ、急いで最前線に向かう。

進めば進むほど敵の数は多くなる一方だ、付近には腕利の見方がいるがその分数は少ない、対して向こう側の戦力はまるで底なし、ある意味底なし沼と表現してもいいだろう。海岸での戦いは苛烈を極めてくる。正面と側面からの『泥』の軍勢が時間を経つほどにくる、一体何が終止符となるのか戦っている間私はわからなかった。


 [ドドドドドドドド!!!]


上からは空襲が如くお嬢様の火力支援が『泥』を襲う。目の前の『泥』が魔力の塊に潰され跡形もなくなる、しかし死を恐れぬ無機物じみた進行速度は潰しても潰しても湧いてくる虫のように早く、お嬢様も攻撃の手を緩めている感じはしないものの、『泥』の横槍によって自由に撃てていないようだった。

そのため私は優先的にお嬢様を狙う『泥』を倒し続ける、


しかしそっちに集中していたら次は地上攻撃隊がこっちを狙って攻撃してくる。


 [シュン]


 「くっ!」


私は不意をつかれ、両腕を拘束された。知能が上がっているとでもいうのだろうか?、

次の攻撃が来る前に私は『泥』を燃やし尽くそうとした、しかしそんな暇なく。


 「横槍失礼だぜ!!」


メルドさんが空中から現れ、腕についていた拘束を切り落とし遠くにいる『泥』を切り潰していった。たった一秒の出来事であったが、私に呆けている時間はなかった。1番近くにいる『泥』を叩き潰す、最後に仕上げをするように『炎拳フレイムフィスト』を近距離で打ち込む。


 「ありがとうございます、メルドさん!。」


 「気にすんな!、こんな場所じゃ助け合いが普通だ!。」


メルドさんは剣についた泥を払い肩に乗せ、背中を見せながらそう言った。


 「減りませんね、!こいつらは!!。」


 「あぁ!、全く!。これじゃ占拠するもしないもないぜ!!。」


私たちは互いに背中を預け、四方八方からくる敵の軍勢を迎撃していた。

いつの間にか最前線には私とメルドさんしかいなかった、他のメンバーがどうなっているかは気にならなかった、というより気にできなかった。している暇があれば次の攻撃が飛んでくる、回避と攻撃と『反攻カウンター』これらにその時だけは全力で集中して取り組んでいた。まるでテストで頭を回らせながら回答を考えているその時とほぼ同じ。もっともその時と何が違うのかといえば、命の危機が常に迫っているか迫っていないか、ただそれだけだった。


 そうして攻撃は迎撃になりもはやそのばを維持するのが一杯一杯になってきた。私もメルドさんも披露はする。ペースが落ちていっている中で攻めの姿勢を見せ続けることはなかなかに難しい、対して『泥』はそんな概念が存在しないのかのように無限に湧き出てくる。

ここにいるのは無機物的な行動概念であり、我々人間に対しては最も戦い辛い相手であった。


 「ぎゃー!!。」


 「お嬢様!?」


そのこえが聞こえた瞬間、私は上を見た。お嬢様は空中で落下していた。まるで戦闘機が墜落したかのように、私は落下地点を見極め、急いで足を動かしお嬢様を地面へ激突する前にキャッチする。


 「ごめん!、落とされちゃった。」


 「いえ、よくがんばりましたね。」


テヘヘと笑うお嬢様に少し心が軽くなりつつ、私はお嬢様にそう言った。

お嬢様を下ろすと、『泥』は隙なく集まる。まるでゴミに群がるハイエナの如く…


 「流石に、飛べないかな?。」


お嬢様は険しく苦笑いし私へそう言った。目の前の『泥』を確認するにお嬢様の考えは正しい、もしこの場で飛べば着地狩りならぬ空中狩りがお嬢様を襲うだろう、となるとここからはお嬢様の本領が十分に発揮できない状態になる。


 「でしょうね。険しくなりそうです。」


私も覚悟を決める。終わりがない敵との戦い、最初はそんなふうには思ってなかったものの現実は違ったらしい。アリスさんの計画には何の欠点も見られなかったと私は思う、しかし現状も織り込み済みだとは考えにくい、、つまりここからは本当の消耗戦だ。

装備の状態はそれなりに良い、体力もほとんど問題ない、お嬢様も墜落しただけで魔力切れを起こしたわけじゃない。まだ私たちとしては全然余裕があるわけだ、つまりこんな時に何が必要なのかといえば


 「お嬢様、、アレやりますか?」


 「アレ?、」


 「ほら、前にレイドボス相手にやったアレですよ、。」


今でも忘れない、高難易度レイドボス相手にやったあの技を。状況は今よりもかなり不味かった次の瞬間には大技が飛んでくる状態で、野良のパーティは全滅、そんな中とっさに思いついた技。


 「えぇ、本気!?いや、私が提案したもなんだけど現実的じゃないよ!。」


確かに現実的じゃない。下手したらどちらかが凍ってどちらかが焼け死ぬ技だ、正規の技じゃなくオリジナルゆえの成功確率の低さ。それがこの技の難点であり欠陥だ、しかしやる価値は十分にある。


 「じゃあ、おとなしく泥だらけになります?」


 「う〜ん、。わかったやろう!一回だけだからね!!。」


 「では私は時間稼ぎを、」


そういうと私は走り出す。お嬢様が準備に集中している間、私はこの『泥』たちをできるだけ引きつけながら、拳に炎をためる。先頭はできるだけせず回避だけを頭に入れて動き続ける、お嬢様に近づかせないように調整しつつ、攻撃を回避考えることが多くて大変だが、大変だからこそのリターンは大きい。


お嬢様の本気モード。魔力無制限、魔法使用無制限状態、私も数えるほどしか見たことがない状態であり、お嬢様の二つ名『全知の魔女』の異名がつくようになった理由でもある、、


 「ウミ!!」


 「っ!はい!!。」


私は声を聞くと近くの泥を思いっきり踏み空中へ舞い上がる。

両手にこもった熱を外へ放出する、燃えた拳はとても熱く火傷しそうなくらいだ、チリチリと装備を燃やし、髪まで燃えそうだ。

そして目線を真下に広がる『泥』へと向ける。


『泥』には目が存在しない、しかしわかる確実にこちらを見ていることが、おそらく次の瞬間には身体を高質化して、針を飛ばしてくるに違いない。

あのレイドボスも同じような攻撃をしてきたからわかる、しかしあえて一言言えばそれは全て無駄だ。


この攻撃はある種の消滅属性と呼ばれるものに1番近い。

空間中にある魔素の許容量が崩壊することによって時限的に消滅現象を起こす、「空想だけの夢物語」、私はこの技を以前そう評価したことがあった。

しかし実際のところは夢を現実にできるのがこのゲームだ、お嬢様はとてもすごい方だ、毎回そう思う。


確かに勝手に家を出て、紅月様の元に向かったり、約束を破ったり、かなり自由本法な性格をしている、。いずれも欠点のように見えるが、私は時に利点だとも取れる。


何者にも模られない自由な心はこの技を生み出し、結果勝てた。


なら今度も信じてみようと心からそう思える。


 「魔法時天逆転…構想魔法臨界、、陣式、構築!!」


背後から光が私を照らす。お嬢様の声と共に光を増す魔法陣が私を照らすのだ。


準備は整っている、


 「行くよ!!!。」


 「はい!!。」


背中から白い冷気を感じる。さっきまでそれなりの天気であった空はいつの間にか雲で覆われ灰色となっていた。

冷気が湿りつつある空気中の湿気を凍らせ、私の背後を凍てつかせる。


 「『冠位界氷結無相終息グランドフリーズドエディット』ォーーッッ!!!!!」


 「『最炎焼放裂フルフレイムバースト』ーーッッ!!!」


私の武装はチャージするごとに段階が高くなるような仕組みだ。

最高まで貯めた場合不炎効果がプラスで乗っかる。

しかしその効力はたった数秒、クールタイムも長く使い勝手としたはかなり悪いしかしこの合体技ではとても相性が良い、


通常、魔素許容量をオーバーする場合二属性による最高クラスの技が最低限必須になる。

しかし不炎の効果によって無尽蔵に炎を生み出す状態にする。そしてそれに冠位クラスの氷魔法をぶつけることによる擬似的に消滅状態にする。


それが私とお嬢様の合体技、『有限突破消滅リミットドライヴ』だ。

この場合消滅状態を引き起こすトリガーはお嬢様の冠位魔法と私の不炎になる。

が、効果適応範囲を広げるにはこちらも上位の技を使う必要がある、なので私も全力を出す必要がある。


 氷結の一撃が私の隣を掠め削るように通り過ぎようとする。私はそれに拳を合わせるだけ、しかし絶対零度に近い塊が隣を掠るのならこの身が絶対安全な訳ではない、炎を操りながら凍りつかないように自分の保護をして、調整を重ねる。この技で1番負荷が大きいのは私だ、しかしそれをやってのけずしてどうなる?


 (お嬢様は私を信じてくれた、なら私も自分を、お嬢様を信じなければならないのだ!!。)


 心を決めた瞬間、私は拳を落ちりゆく氷結に押し当てる。次の瞬間右腕の感覚がなくなった。一瞬の痛みが腕だけにとどまらず全身に走る感覚を覚えた、まずいと思いながらも擦り付けた拳を決して話そうとはしない、ここで話してしまったらただの広範囲技になってしまう、それでも構わないが、この泥を消し去るのならばやはり『消滅』が必須だ。



 『泥は消えない。あの黒く染まった海があり続ける限り、泥は消えることがない。』



アリスさんからそう言い渡されたことを思い出す。だからこそ、そのタイミングでピンと来たのだ、この技を使う機会があるだろう。そしてそれこそがこの戦いの終止符になり得る第一点だということを…


 『ないなら作る。』


あぁ、確かにあなたはそう言いましたね。、私はその時のあなたはすごいと、心の底から思ってはいましたが。どこか達観している気がしていました、まるであなたの会話の中には私がいないような、私はあなたにとっては称賛の言葉をかけるだけの人のような、そんな雰囲気がしてたまりませんでした。

ですが、もしかしたら今、少しわかる気がします。

 

作る、というのは簡単なようでとても難しいこと、常にチャレンジの積み重ねであり、常に己と向き合いつうける。それを誰かに評価して欲しいわけじゃなく、それを誰かに高めて欲しいわけじゃなく、ただただ果てしない道を少し和らげてほしい。


 (もしかしたら違うかも知れませんが、これが私の答えですっ!。)


 ジリジリと焼け、凍り、私の腕は今にも何かで壊れそうな感じだった。全ては私が慣れていないからだ、前にやった感覚を思い出せたとえ威力がそれぞれずれていようが合わせろ、、痛みで集中力を削ぐな、自分に負けるな。


 [ジリジリジリジリッ!!!]


炎は赤から白へと変わっていく。それはまるで削れて焼け、削れていっている氷が炎に乗り色を変えているような感じだった。とても幻想的であり、ここからが本番だと私を戒めさせる。


このペースでは地面に氷が落下してしまう未来が見える。そうならないためにも今より火力を上げ、尚且つ調整を怠らないようにする。

うまく出来た試しはないのかもしれないしかしやってみなければわからない、


 [バチバチバチバチバチ-!]


右半身が炎で侵され、体が悲鳴を上げる。それを歯を食いしばって耐える、炎の調整を少し上げただけでこれだもし最後まであげたらどうなるのか想像もしたくないが、右半身が焼け死ぬ前には上げ切らなければならない。

そのことを頭で理解していたからか、私は留まらずギアを上げ続けた、いつしか体は炎で包まれており。

半身の感覚はだんだんと氷と混ざり冷たいのかあるいのかわからなくなってきた。


そして、火力を最大まであげ、声を上げながら私は最後の一押しを達成した。


前はここまで辛くなかったはずだが、どうやらこんなところまで来てしまったらしい。


 氷は炎に吸収されるように集まっていき、炎の上に氷の粒が乗っかり混ざるようなエフェクトが目の前を揺らがせる。


 (成功だ、あとは前面に向かって放出するだけ、)


わたしゃ目一杯いいままでの痛みを声に出して叫ぶかのように、拳を回し、下から無数の針を飛ばしてきている泥に対して…打ち込んだ。


その一雫とも取れる一撃は地面に到達次第、全てを色わせた。

 

 [ーーーーーーー!!!!!]


まるで言葉で表現できないような、音が目の前の閃光と共に遅れてやってくる。耳鳴りがひたすらに続き、泥たちが居た地面が目では見えないほどにひどく点滅する。

私の体は無事だった、炎と氷を両立していたからか、火傷も霜焼けにもならず。


その衝撃に体が飲まれていった。


思わず、目を瞑り覚悟した。次の光景は一体どんなものなのか、一体どんな世界なのか、。




・・・・・・・・・・・・



 「ウミ!」


 「は、!はい!!」


私はお嬢様の声でぱちっと目をあけ、明るい世界を見た。


 「お疲れ様。」


そう優しくいうお嬢様の顔が目の前にあった、どうやら私は膝枕されているとその次のタイミングでは理解していた。何も考えずただただお嬢様と目を合わせて悟った。

お疲れ様と言うことは私たちは…


 [ガヤガヤ]


周りから聞こえてくる自然音が何よりの証拠であった。どうやら私が眠っている間に少しばかり時間が過ぎたようだ、


 「やっと起きたらしいわね。」


誰か来たっと理解すると私はお嬢様の膝から飛び上がりその人を見た。


 「っお見苦しいところ…。」


次に話そうと思っていた言葉が飛ぶほどの衝撃だった。なぜならあこの場に接点がいない人が今この場にいたから、、


 「、ウミさんまでそう言う顔を。」


 「え、、?」


 「だって私も驚いたんだもん、。」


 「別にどこいってたって良いじゃない、」


自然とお嬢様は会話を進める。その相手はとても見覚えがあった、しかし本当に、いやなんでここに?!っと思える人であった。一体誰が予測できただろうか、、


 「、れ。、、レナ様。??」


紅月様と同じ、機械を身にまとった方だ。二つ名がつくほどの有名な探鉱者でありながら装備を自前で作ることができるまさにオートマタの商売人みたいな方だ…


 「お兄様が心配になってたんだって、」


 「違うっていってるでしょ!、依頼よ依頼!!エズから紅月の反応が消えたっていうから新装備の試験運用がてらどうだ?って、こんなことになるなら変えれば良かったわ。」


 「えっと、話が全くなのですが、、」


それから少し。お嬢様から僭越ながらジュースをもらい、いったん落ち着きをと取り戻したところで話が始まった。


 「説明するね、まず『霧江の入り口』の占拠は完了したよ。ウミと私の一撃で泥は消滅、危うく自軍の方も消えかかったけど」


 「私が魔素抑制弾を撃ってなんとか終息。次からは規模も計算しなさい、危うくビーチが砂漠になるところだっとわよ。」


 「そうします。」


とんでもないことになっていたらしい、後で他の方々にも謝らなければ…。


 「で、泥の勢いはかなりおさまって、無事『水純のサファイヤ』を入手。今は船を持ってきている最中、ここにいる人たちは簡易拠点作りとか休憩組。」


 「なるほど、。」


どのくらい寝ていたのか知りたいところだが、、まずは。


 「、、何よ。」


現状の説明が終わったので私はレナ様の方を見る。さっきちょこっとだけ理由を聞いたが細かくは聞いていない、なぜレナ様がここにいるのかと言う理由を。


 「…(ジー)」


 「、わかったわよ、私のターンね。、私はまずエズから依頼を受けたのよ、紅月の信号が消えたって、それで探しに行けって。あいつの慌てようから私もその場の勢いで依頼を受けて、で1時間ちょっとのフライトを終えてここまできたわけ、、」


なるほどっと、私は小声で言いながら理解する。エズ様は紅月様に発信機らしきものでもつけていたのだろうか、、?、そして、、


 「その信号って、生体信号ですか?」


 「いいえ、武装につけた伝導率計測器をもとにしたやつだってあいつは言ってたわ、まぁでも少なくとも腕一本は飛んでいるってところね、装着部位が腕だったって言ってたし。」


 「、、最悪の場合。」


 「ええ、それで私がきたわけよ。アイツ、エズからどうやら結構なものもらったらしくて、エズは紅月の回収とそれの安全確認をメインに依頼したわ。」


最悪の場合というのはおそらく紅月様が、、死んだということだろう。正直思いたくもない可能性だったがエズ様、もといレナ様の話が本当ならその可能性もとうとう枠口から外れてくることになる。


私たちも覚悟しなければならないというわけだ。


 「まぁ、紅月が死んだなんて私は到底思えないわね。アイツって死んでも死に切れないやつでしょ。」


レナ様はハァっと一回ため息をつきながら、雰囲気をそう一掃した。

確かにそう思えばそうかもしれないレナ様は決して達観しているわけじゃなく、紅月様だからそうという根拠に基づいて言っている。

私は彼女のように自信を持てない、


 「でも、、。」


お嬢様はレナ様の発言に言葉をこぼした。私も同じだ、お嬢様も信頼はしているがそういう形で未だ現状を見れない、、


 「大丈夫よ。逆に、なんでアイツどっかいったわけ?、」


 「、。」


お嬢様はビクッと一回反応して、また顔を俯かせた。私はよくない流れだと思い、レナ様を連れてその場から少し離れた。


 「何よ、ウミさん。」


 「、紅月様はお嬢様に向けられた暗殺者の攻撃を庇って、、海に落ちていきました。」


 「、、暗殺者、?。」


レナ様はその言葉を聞いた瞬間、顔色を変え、何かを考えるように顎に手を置いて話に耳を傾けた。


 「はい。誰の差金かは理解できませんが、『『アラハバキ』』ともう一人、金髪の。」


 「もういいわ、。」


レナ様は素っ気無くそう言うと、私のすぐ横を通りお嬢様の方向へ向かっていく。


 「レナ、ごめん。。」


 「ルルカ、アンタのせいじゃない。それと、」


レナ様は言葉を一旦止め息を一回吸い深呼吸を少し早くする。


 「ごめん、無神経だったわ。」


それだけ言い残すとレナ様はお嬢様を通り過ぎてどこかへ向かおうとした。


 「レナ様、、?。」


 「、ごめんなさい少し一人にして。」


 「はい。」


レナ様は私の言葉に止まりそう返事をした。そのあとはこちらを振り返らずどこかへいってしまった。彼女には何かを抱えたような含みを持った言葉が混じっているように聞こえた、少なくともいつものレナ様のような姿ではなかったと、それだけだ。


私がその場で理解できたことは、、たったそれだけ。



残った私とお嬢様はベンチに座り船の到着を待った。互いに手に持っていたカップには何も入っていない、時間が長く、とても長く中に入っていたジュースはいつの間にか飲み干していた。


 「、、ねぇウミ。」


 「はい。」


 「体、大丈夫?。」


 「はい。大丈夫です、不思議と、、」


 「そっか。」


沈黙。


 「ねぇウミ、」


 「はい。」


 「、、レナは、私を恨んでるかな?。」


お嬢様の口から信じられない言葉が飛んできた。私はその言葉にすぐさま振り向きはしたが、弁解も肯定も驚きも顔に口に出さなかった。ただただその話には続きがあると信じて次を待った。


 「さっきね、レナが私に謝ったあと、すぐ隣を通り過ぎる時ね。レナの顔が一瞬見えたんだ、」


お嬢様は話を続ける言葉にはなぜだか深い思いはなかった。まるで書かれた紙通りに内容を読んでいるような気持ちが上の空であるようなそんな気がした。


 「なんだか、こう。すごく険しくてちょっと怖かった、まるで、、」


 「まるで?。」


私は一呼吸飲み、お嬢様へそう続けて問いを掛けた。


 「昔のお兄様、みたいだった。」


 「、、紅月様が?。」


私はお嬢様の言葉が信じられなかった。確かに紅月様はそういう顔をするお人なのかもしれない、しかし言われなければ気づかないということがあるように、私は紅月様がそういう顔になる人ではないと、ついさっきまで思っていた。


考えれば、確かに想像できなくもないが。まず前提として紅月様がそういった顔を見せたこと、私が見たことないのだ。


だから不思議と少しの驚きが重なった。


 「うん、お兄様は今でこそ普通だけど、昔はなんだが何かを心に引きずってる感じだった。」


 「…。」


 「触れちゃいけないって感じだった。昔の私はあんまり頭が良くなかったけど、それだけはわかって、、お兄様は結局何も話してくれなかった。」


私は言葉が詰まった。次に何をいったらいいのかわからなくなった、紅月様の過去については本人の口ではなくご当主様の口から聞いたことがある。


その時の私はあまり驚かなかった。「なぜ?」、今になってそんなことを思う。なぜ彼がそんな酷なことを経験したという話を聞いても、ただ劇場を見ている観客のように平然と達観視することができたのか、。


なんだ?私も同じようなものを持っているから?、そう感じたのか?私は…。


 《もしかしたら彼にも彼なりの過去があり、今もそれを抱え込んでいる。》


っとそんな誰にでもあり、分かりきったことを考えていた自分に…、私は深い安心感と、


吐き気がするような罪悪感を同時に覚えた。


 「ウミはそういう経験ない?。」


 「、、あります。」


私は一瞬、「ありません」と答えようとしていた。反射的にそう思った、なぜならあると答えたらその話をしなくちゃいけないと思ったからだ、、正直言って彼女にこの話は向いていなさすぎる。


 「そっか。私もあるんだ、」


お嬢様がそう言うと私たちの会話は終了した。そういう流れだということを私が無意識に、もしかしたらお嬢様もそう思ったかもしれない。


ある意味これは不可侵条約のような感じだ。互いにお互いの過去を持っているけど、互いに明かしません、という。

お嬢様は紅月様の話をしたが本格的に奥までは入らなかった、本人のいないところで何かをいうのは少し失礼かと思ったのだろうか?、、


どちらにせよ、お嬢様らしい。


 そしてしばらく経ち、船がここ『霧江の入り口』に到着した。アリスさんが声を大きくしながら丁寧に指示し、間も無くして船には最後のパーツが取り付けられた。


 船は大勢によって泥に落とされ、本来の役目を果たした。私たちはアリスさんから呼ばれたことを知ると軽く荷物を整理して向かった。


 「前回に続き、また多く助けてもらいました。本当にありがとうございます、」


アリスさんはそう言うと頭を下げて、私たちに綺麗な礼を見せる。


 「頭を上げてください、助けたといっても大したことは。」


 「いえ、、。まぁそうですね、そう言うことにしておきます。『水純のサファイ』の力で船は今や浮かぶ役割にとどまらず水の中に潜ることもできます。」


 「つまり潜水艦ってこと?。」


お嬢様がアリスさんの会話に割り入ってそう口にした。アリスさんは突然だったので、少し口を止め落ち着いた表情で話し始めた。


 「潜水、まぁそうですね。えぇまぁ本質的には船ですが、、コホン、私達はこれから海に潜ってプロイシーへ向かうつもりですが、お二人はどうします?。」


アリスさんは変わらない態度でそう聞いてきた。答えはもちろん決まっている…


 『もちろん。行く(よ)(きますよ)』


私たちは声を揃えてそう言った。


「分かりました、では…」



その後私たちは船に乗った。この船が発進すれば紅月様はもうすぐ目の前だ、落ちた場所はお嬢様がなんとなくで印をつけてある、霧江の入り口からは少し遠いが寄り道はしていいとのこと。

改めて私はこの件に関与して良かったと思った、もし関与していなかったら紅月様を助ける方法がないも同然であったからだ、、まぁ関与したからいなくなったのだが、、。


 「ウミさん、」


甲板で今後の予定を考えていた私は呼ばれた声に耳を傾けながら振り向く。

そこにはいつもと変わらない表情をしたレナ様が立っていてこちらを見ていた。


 「レナ様も行くのですか?。」


 「えぇ、。」


レナ様は私の隣に立ち、船の上から見る景色を共にする。


 「アイツが心配だし。」


 「え?。」


 「なんでもないわ。」


小声で何かが聞こえた気がしたので反応したがどうやら些細なことだったようだ、どちらにせよきてくれるのは戦力的に嬉しい他ない。


 「、汚い海ね。」


 「そうですね。」


私はレナ様がいった言葉に同意した。確かにこの海は汚い。しかしこれから変わるのだと考えると汚物を見るような目では決して見れない、なぜなら私たちはもはや他人事ではないのだから。


 「二人とも、船が出発するって!挨拶しよ!」


床を走る音が聞こえたと思ったら背後にはお嬢様がいた、彼女はいつも通りのテンションでこちらに声掛けてくる。私はその変わらぬ姿を見て心底安心する。


 「はい、」


お嬢様の言葉に沿って、私は彼女の方へと歩いていく。

お嬢様は私の手を掴んで引き、出航する船から共に戦場で戦った仲間達へ手を振る。


 「ルルカー!戻ってこいよーっ!!」


その中にはメルドさんもいた、彼女はどうやらここに残るらしい。本当はついてきて欲しかったから、それを選べるのは彼女か船長かアリスさんくらいであろう。


そう納得しつつ、私も手を振るお嬢様に続いてメルドさんや他の方々へ手を振る。

周りから「頑張れよー、」や「いってらっしゃい」など温かい言葉が贈られていく中船は一瞬の揺れとともに動き出し、陸からだんだんと距離をとっていく。


 私たちの舞台は大海原になっていくのであった。



『topic』


『消滅』 消滅とは、空気中に含まれている魔素の許容量が崩壊した時に起こる現象。

現実的な数値化はされていないが高上級魔法のぶつけ合い、または高倍率での過負荷によって引き起こされるとされており、一般的にこの現象を攻撃転用するものはまずいない。


これは台風や地震のような自然災害に近い状態であり、1人間が扱うにはあまりにもリスクがありすぎるとのことで高確率で肉体が消滅する。


防御魔法の重ねがけで生きれる場合も存在する。、また消滅現象が起こると魔素の再構築化でその場のものが『リセット』に近い状態になるため、損傷した傷も『リセット』され、元に戻る。(場合がある)

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