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【7章開幕】“VR MMO RPGってなに?”〜ほのぼの理想を目指してプレイしていたら『死神』扱いされた?!〜  作者: ハンブンシタイ
6章 プラモ好きが妹と始める最初の町編 中級
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九十二話「貴族と死族」

 前回のあらすじ


襲ってきた天使族の正体は鷹橋フライであり、本国の任務に基づいて核魔力結晶を探していると2人に明かした。紅月とウミは鷹橋の裏表のなさを少し訝しみながらも心よく迎える。

道中、紅月は核魔力結晶の情報の漏洩について考え事をするが、答えは見えず。そのまま魔法国の入り口へと辿り着くこととなる。


 


 魔法国の門へと続く道には大勢の行列ができていた。鷹橋の言った通りオートマタ入国禁止という言葉が一瞬にしてわかるほど、並ぶ人々の中にオートマタの姿が一つも見えなかった。

格別数が多いというわけではないにしろ、本当の本当に1人もいない風景を見ると実感が湧く。


 「それじゃあ、紅月は門から見えないところで待機な。」


 「あぁ。」


すぐ近くにちょうどいい切り株があったためそこで休もうと俺は考える。ここなら門にいる兵士からも見られることはない、


 「それじゃあ行って参ります。」


 「行ってらっしゃい。」


ウミさんと鷹橋は俺に手を振りながら行列へと向かっていく。その間俺は暇なのだが、なぜだろうすぐに暇という状態から解けることくらいは嫌でも予想する事ができた。




 ──魔法国ウィジック城下町──



 「案外あっさり入れましたね。」


私はあまりにあっさりと入れた事実に少し実感が湧かず独り言のようにつぶやく。

なにをしにきたとか、特にそういうのはなく。なんならゲレームよりも簡単に入ることができた気がする。


 「そりゃあ、滅多なことしないと逆に入れないくらいなので。高校入試と同じですよ、」


フライ様は冗談混じりにそう言った。ここに中卒の人がいたらとても失礼に当たるだろうと真っ先に思ったのは私だけではないはず。


 「それにしても翼をしまうんですね。」


私はフライ様の背中にあるはずの翼を見ながら質問した。今彼の翼は纏っている衣服の中に収納されている。スムーズかつ、違和感のない収納に手慣れていると思う一方、彼の身に纏っている衣服はそのために作られているような気がした。


 「聖帝国の人がここにいたら面倒なんで。」


あとは察してくれとでもいうように、それとも面倒ごとを想像するかのような顔をするフライ様、どうやらすでに経験済み、もしくは"そういった"ことはあまり珍しい話ではないのかもしれない。私が天使族の事情に首を突っ込むのはあまりよろしくないと勝手に思うが。


 「で、貴族に渡すんでしたっけ、どの貴族に?」


フライ様は話を切り替え私いそう問いかける。顔には未熟ながらも少しの焦りが見られる。それはそれとして、私は箱と共にギルマス様から渡された紙を取り出す。


 「確かここに記されていたかと。」


四枚折りにしてある紙を開き、住所を確認する。っといっても私に土地勘があるわけではないのでわからないが。


 「どこですかここ?」


 「わかりません。」


 「やっぱりそうですよね。」


頭の上にハテナを浮かばせながら私たちは小さい紙からなんとか情報を得ようとじっと見つめる。


 「誰かに聞くというのは───」


 「得策じゃないと思いますよ、それこそほら貴族に知られたら俺たち一貫の終わりですしお寿司。」


紙と私をチラチラ見ながらフライ様は私に仕方がないようにそう言った。極秘だからこそ、人には聞いてはいけないのだと私は理解した。それと同時にフライ様の意見に納得した。


 「ですがこのままでは。」


いつまで経っても到着できない。別に今日中と言われているわけではないので焦る必要はないのですが、なんだか胸のざわめきがそうは言ってくれない。


 「………一回攻略サイトのマップ機能に放り込んでみたらどうですかね?、もしかしたら見つかるかもしれませんよ。」


フライ様の提案にを静かに聞き入れ、急いで攻略サイトのマップ機能を出す。しかし心の中ではまさか…っと思っている、なぜならこんなのゲームの醍醐味を台無しにしている気がするからだ(攻略サイトになにを言っているかと思われるでしょうが)、流石にそこのところくらいは自重していると内心思っていながらも、やらない理由にはならないため、とりあえず紙に書かれた住所を打ち込んでみる。


 [ピ]


 「。。」


 「──────でました、ね。」


攻略サイトはまるで現実世界のマップアプリのように最も簡単に求めていた場所が出てきた。とてもじゃないが信じられない。一瞬で現実味がなくなった気がする、いやそもファンタジーにそれらを求めてはいけないのだが、これではやっている行為が現実の住所特定とあまり変わらない気がして、


 「なんかすみません。」


フライさんは申し訳そうに画面を見ながら謝罪をした。いえいえ、っと言いつつ私もやってしまった張本人として以後この攻略サイト頼りのマップ特定は控えようと決心した。しかし見てしまったからには仕方がない、今回だけは活用させていただきましょう。っということで、


 「気を取り直して、貴族の元へと向かいましょうか。」


 「はい。」


マップを見ればわかることなのだが、おそらく私たちが向かっているところは貴族の家なのだと思う。お嬢様の家のような豪邸のような敷地が城下町の外れにあり、マップはそこを指している。そして小さく名称が書かれていた。


 「キルンファイ公爵」


 「今行く貴族の名前ですか?」


 「いえ、どちらかといえば家名ファミリーネームですね。これは……」


詳細を開いても情報なしと書かれていた。そこの情報整理はしっかりしているのに、なぜ住所は割れているのか、っと少し疑問に思う。だが個人的人権なんかを想定してみればわからなくない。それにしても中途半端に思ってしまうが、、


 「どんな貴族なんですかねぇ」


 「ろくでなしじゃないと良いのですが。」


 「ろくでなしって………」


フライ様が少し驚いたような顔をする。別に不思議ではないはずだが、お嬢様曰く、貴族はほとんどが最悪、らしいので。私からしたらフライさんが驚いていることはなんとなく不思議だ。まさか知らないのでしょうか?そうだとしたらちょっと………


 「ウミさんからそんな言葉が飛んでくるとは思いませんでしたよ。」


 「あ、そっちでしたか。」


 「え、逆にそっちじゃないとどっちなんですか?」


とてもじゃないが本人には言えないので、私は口を紡ぐんだ。

 

 「ちょっと、え、ウミさん?」


困惑した様子のフライ様を連れて、城下町をスイスイ進んでいく。様々なお店を通り過ぎ、あっという間に外壁が見えてきた、無論豪邸には外壁がつきもの(偏見)、外壁の長さ=豪邸の大きさと言っても過言ではなくさぞ手入れがされた庭が広がっているに違いない。


 (少しワクワクしてしまいますね。)


貴族ではなくもちろん庭に。


 「長い、長すぎる外壁。お嬢様の豪邸もここまでじゃなかったですよね?」


フライ様が引き気味に感想を述べる。確かに長さで言えばこちらが上ですが、なぜだか宿った対抗心に私は。


 「それはそうですね。」


っとだけ言った。よそはよそ、うちはうちっと誰かに言われる前に自分を言わしめるために使うとは夢にも思わなかった。少し自分は短気になりすぎなのかもしれない。


 「…………なんか、俺悪いこと言いました?」


申し訳なさそうに顔を覗き込むフライ様。


 「いいえ、元はと言えばこちらの問題ですのでお気になさらず。」


 「あ、はい。」


とりあえず納得してくれたフライ様はそのまま静かになった。紅月様と一緒にいる時はそこまで思いもしないがなぜだろう、こんなことを思うつもりはないが、フライ様はその……あまり私との相性というかソリが合わないような気がする。彼の敬語は少し辿々しいですし、直接的に言えば定期的に構って差し上げないとダメなタイプ。これが可愛いお嬢様だったら私も心意気が良いのですが、流石に二十歳を超えた人からのそれは幼稚に見えてしまう、煩わしく思ってもしまう。


 (きてもらった手前、口が裂けても言えませんが………それだけです。)


フライ様との交流が薄いが故にこのような結論が展開されるという可能性もある、ひとまず。


 (目の前に見えてきた門番に話を合わせるしかありません。)


私たち二人組は門番の前へと立つ。


 「なんのご用だ?」


 「実はギルドから依頼の品を輸送してきました。(ご用をそんなふうに使うとは)」


厳格な門番に、小さな箱と内封された貴族宛の手紙を渡す。


 「?………箱、こんなもの受け取る予定はないぞ。」


 「そんなはずは………」


『箱』は受け取るハズではないことは確かである、が一門番に中身のことを話すほど私も口は軽くない。第一ここは屋外、どこで誰が聞いているか、わからない。


 「………手紙の方は?」


 「う〜む。サイモンのギルドからか、証明書としては十分だが…第一、何が入ってるんだコレは?」


 「それは────」


 「おっと、ついに来たか。」


門の向こう側から1人の男が歩いてくる。豪勢な服、私がイメージしている通りと言っても過言ではない偉そうな態度、顔。


 「キルンファイン様っ!どうしてこちらに?!」


今回の依頼主の貴族が、堂々としながら門の向こう側から現れた。


 「なんだ?……別に私とて散歩くらいには行きたくなる時がある。それで、なんの騒ぎだ?」


目の前の男の視線が私に移る。その瞬間背筋から嫌な感触のようなものが私の肉体をかけずり回った気がした。正直出会ってすぐに人のことに関して勝手なイメージの押し付けというのは個人的どうかとは思う、だがこの貴族に関しては正直言って固有名称で呼びたくないほどの醜悪さ、生理的に分かり合えない、気持ち悪いっと率直に言って差し上げたいほどの気分を催した。


 「は!、この者たちがこの箱をお渡ししたいと。」


 「…………そうか、お前たちがか。」


貴族は何かを察したように少し不敵に笑いながら、こちらに再度目を向けた。そして、


 「よし、招いてやれ。」


 「は、?」


 「招いてやれと言ったのだ、聞こえなかったか?」


 「───いえッ!」


貴族は小さく舌打ちをした後門番に圧力をかけた。門番は先ほどまでの偉そうな態度とは一変し、少し恐ろしくなったように私たち2人を貴族の後に連れながら豪邸へと招いた。断ることもできた、契約上私たちの依頼は貴族に箱を届けた時点で達成状態にある、しかしここで誘いを断ればのちに不利になるのは私自身ではなくギルドだ、貴族のご機嫌取りも私の今の仕事ではある、不本意だが……。


豪邸までの道中、貴族は持っていた箱よりも常に私たちに目を向けていた。チラチラと何かを気にするように、その正体が何であるのかについては正直考えたくない。


 「……………」


フライ様は黙っている。その様は言われた通りに動く人形のように、その姿を見て自分も少し気分を正す。落ち着け、確かに私の直感はこの貴族を最低最悪とみなしてはいるが、存外悪くない人物である可能性もある、ただ少し……話して帰るだけ。


 (それだけのはずだと願わなければやってられません。)


そしてあっという間に本館へと辿り着いていた、道中横隣の庭を気にする暇はなかった、誰のせいかと言えばこの目の前の貴族のせいだ。


 門番が大きな扉を開き、豪邸に入ると1人の執事が出迎えた。


 「ご主人様、お早いお戻りで………そちらの方々は?」


 「客だ。丁重に準備しろ、」


 「、承知しました。」


執事は一度の瞬きを挟んだ後、何かを察したかのように貴族へ返事する。その瞬間、私の中の警戒心がより高くなったのを自分自身で自覚した。紳士的な執事に対してか?、いやこの貴族の言う"丁重な準備"に対してだ。そこだけは間違いのない。


 (それにしても、)


あまりに質素。何がというか、この豪邸の内装そのものがだ。外壁や庭はよくは見ていないものの、じょうちゅうくらいの豪華さ、優雅さを誇っていた。それなのにこの内装を見てしまえば対照的とも言えてしまう。中と外で見えているものが違うっという解釈が適切だろうか。考えすぎかもしれませんがなぜか妙に引っかかる。


 「どうぞこちらへ、」


貴族に案内されたのはなんの変哲もない応接室。私たちは二つある大きな長椅子に座り、貴族が向かい側に座った。しばらくして先ほどの執事が部屋へと入ってきて、貴族がその確認をしたところで話は始まった。


 「今回はよくこの大事なブツを届けてくれた。君たち三人には感謝しているよ、」


 「はい。それで、何かご用件でしょうか?」


淡々とした口住まいで私は貴族の明らかな演技を打ち払った。貴族は私の返しに不敵な笑みを見せた、わざと見せているならコレほど気味が悪いことはない。


 「あぁ要件か。単刀直入に言おう。」


そう言った貴族は立ち上がり、目の前にある机に手を置き、体を私の方へとぐいっと近づける。


 「ふは、お前。私の妻にならないか?」


 「…………………………は?」


私は今まで言ったことがないような本音を目の前の貴族に発する。一瞬、理解が追いつかなかった。貴族が放った言葉よりも、貴族の醜い顔からくる気色悪さの方が勝り、その言葉の意味や理由に関する思考を入れる余地が全くなかったのである。


 「─────。」


フライ様はこんな時にも黙っている。私はそれを確認すると、何か言ってやりたい気分になるが、それを引っ込めて貴族への返事を考えた


 「あの、それは何故でしょうか?」


 「お前が美しく、綺麗だからだ。一目見た時にわかった、お前は私の妻に相応しいとな、うひひ」


 (最っ悪ですね)


作り笑顔の練習をしていなかったらおそらく、今最悪な顔で対面しているということになる。機嫌を損なった貴族がどんな対応をするかについては言わずもがな。心に溜まる目の前の貴族の言葉を殴りつけながら私は次の言葉を放った。


 「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。」


ストレート。もう少し緩やかにいう方法があっただろうに、しかし今の私からしたらこの場所を1秒でも早くでたい気持ちの方が、貴族のご機嫌取りもよりも重要である。


 「………そうか、仕方がないな。」


貴族はハァっとため息を吐き、近くにいた執事に何か耳打ちをする。コレも嫌な予感がする。


 「…………ウミさん、」


ずっと黙っていたフライ様が口を開き、私に囁いてくる。こんな時になんの用だろうっと少し荒っぽい感情になりつつも耳を傾ける。


 「俺は種族的な影響で、今紅月がどんな状態かわかるんですけど。」


 「………はい。」


 「その紅月の状態が、今わからなくなりました。」


 「────────」


 「さてさて、ここで残念なお知らせだが。どうやら今ちょうど偶然にも門の前で戦闘が行われているようだ、しかも偶然にもアラハバキが出たという情報が入った。全く、残念な限りだ、ふははは」


貴族の不敵な笑顔からは全く同情の意思を感じ取れなかった、逆にこの状況を幸福にそしてただただ喜んでいるように見えた。同時に私はこの状況が自分たちにいかに不利になることかを理解した。


 「コイツ………」


 (やられた………っ!!!)




 ──魔法国ウィジック 正門付近外れ──




 「……………」


何もやることがない俺は門を見ながら考え事をしていた。世界崩壊戦争について


 (あの時聞き逃したが、いったい何で起こったのか。)


国家が崩壊するほどの大規模な戦争、そこには確実に理由があるはずだ。それこ世界を分けるほどの。終結した理由も理由で少し気になっている勝者のいない戦争に納得する連中が果たしてどれほどいたのだろうか、その者たちの執念を考えればとてもじゃないが、戦争をキッパリやめるなんてことにはならない、だが現にそうなっていないことを考えると。


 (全ての人が納得する終わり方。)


前も思ったことはあったが、あり得るのかそんなこと。しかしこれ以外の結末、結論が思いつかない。戦争を経験していない俺でも少なくとも戦いの今までの終わり方としては異例だと思う。


ある日を境に、人は心を変えて国家を復刻し、その後戦いをやめると誓った。言葉に書き出してみれば気持ち悪いほど夢物語だ。


 (だが事実だ。)


そう、この結果が存在する限り俺の考えは所詮考察にも満たないただの想像の一つだ。それ以上でもそれ以下でもない。そのことは理解していても


 (まるで針が刺さったような感じがする。)


違和感、異質、異様。この気持ちをどう表現するか、言葉にするためにはどうするか。まるで事実と過程の間に何か異物が紛れ込んでいる感覚が直感を通して感じ取れる。しかし結果としては何もない。特に異物も見つからなかったという結論になる。


 (だが、違う。違う。違う。)


何かが違う。それだけは言える、それだけしか言えない。だからもどかしい。


 「はぁ──────────」


だめだ、一旦落ち着こう。俺はこの話題になるといささか考えすぎるくせがある。もっともその正体は自分にも説明できない何かに突き動かされたというだけの話なのだが。とりあえず考えすぎは毒だ、ウミさんが帰ってくるまで待つこと、それ以外に今の自分にできることは特には───────。


 [敵性反応]


そのアナウンスを聞いた瞬間、嫌な気配がする方向に体を向け、ビームシールドを即座に展開する。その時目撃したものは目の前を真っ赤に染める赤い斬撃であった。

 次の瞬間、耳うるさく響くビームシールドと斬撃との衝突、両者譲ることを知らず、結果的には俺が抑え弾き飛ばされるようにその場から爆発回避するように離脱する。


 「っ………今のは!!」


抑えていた驚きが口から飛び出る。間違いない、アイツは───。

 その思考を続けるより先に追撃の斬撃が、目の前から飛んでくる。ビームシールドで初撃を受け流し、追撃はスラスターを吹かし回避する。背部に背負っているAWアサルトウェポンなら理論上、アイツの斬撃を完全に受け切ることができる。元々対アイツ用に仕上げ立てたわけじゃないが、それでもできるだけ固く作ってあるからな。


 (容赦なしか、コイツ。だが………)


背後から降り注ぐ赤い斬撃は俺が通り過ぎる地面を確実に両断してくる。身を隠すための地形の悪さが今となってはただの障害物と化していることに一周回って苛立ちを感じる。

だが、邪念取り払わずはなんとか、戦いをする時はいつだって目の前のことを考えなくちゃならない。

 ビームマグナムを手に持ち、残弾を確認。

斬撃の位置から相手の場所を逆算、回避行動を自動学習装置にぶち込み、データをアップロード再改良、再登録。


 「そこだッ!!!」


瞬間的な射撃をすることによって相手は予期せぬ一撃をくらう。大きな斧を用いることによって直撃を避けたにしろ、ビームマグナムはそこらのやわなライフルとは違い相手と俺との距離を話すのに十分すぎる威力をその銃口から放った。


 「チっ─────」


バランスを崩した相手は地面に着地し、俺と向かい合わせの形となる。それぞれの距離感は中距離、ここで撃てば確実に俺の方が先だ。しかしその理屈が通るのは簡単な相手であった場合にすぎない、コイツは少なくともそうではない。


 「今更、何の用だ。アラハバキ………」


見覚えのある姿、大きな斧、以前戦った時の風貌となんら変わらない狂気がそこにはあった。


 「なんの用か。その質問に対しての答えはお前も知っているものだ。」


アラハバキが大きく後ろ足を引き、片手を地面につける。ハーフクライミングスタートとでもいうような体制だ、しかし瞬間その身からは殺意、その斧からは殺気を感じ取ることができた。


 「そうか…………っ!!!」


 「そう──────復讐だッ!!!!」


爆発的な勢いとともにこちらへと向かってくるアラハバキ、地面を蹴り飛ばすかのように走るその足は1秒の短い間であったが空中についていた。普通の反射神経を超越した初見の必殺、しかしあいにく俺も行動の先読みが専門の人間であったため。


 ビームサーベル二刀を引き抜き、アラハバキの斧へと合わせる。言葉に表現するのが不可能な音が両者の鍔迫り合いから発せられ、一秒間の均衡状態ののち、荒々しい戦闘は幕を開けた。




 ──魔法国ウィジック 貴族の家──




 「さて、話の続きをしよう。」


貴族は余裕を持った落ち着いた態度を見せつつ、椅子へ再度くつろぐようにふんぞりかえる。一方私の精神状態はお世辞にも安定しているとは言えない状態だった。


 「実はいい提案を思いついてな、私はコレでも公爵だ。不届きものを追い払うのは私の仕事でもあるわけで、まぁ何が言いたいかと言えば…………アラハバキを追い払ってやる。その対価は──────、そういうことだ。」


 私の顔を見ながら不敵に笑う。舐め回すような視線が私の顔から下へと下がっていく。気色悪い、気持ち悪い、非常に不快であること限りなしだ。今すぐその口を業火で使い物にならなくできたらと、この一瞬で数十回は考えている。しかし、そんなことすれば紅月様にどのようなことが起こるかわからない、この提案を飲み込まなければ、そうしなければ紅月様は…………。


 「───────っ、」


 「………ウミさん、ここは俺が出ますよ」


フライ様が小さく耳打ちをしたあと、貴族の前に一歩立つ。私はなんとお声がけしたらいいかもわからず、ただただ彼の行動を見ていた。


 「なんだ?、その不服そうな顔は……」


見ているのはお前ではない、私はお前に話しかけてはいないっと言葉からすぐに読み取れるほどの苛立ちを貴族から感じる。ここまであからさまになったとしても相手は未だ余裕の態度を内心保っていることだろう。


 「そりゃ不服だ、こっちはくだらない提案を出された挙句、従わなかったらと面倒な輩を紅月に放っていたからな。」


 「ふはは、何を言い出すかと思えば。全て偶然なのだよ、わかるか?」


 「わからないな。特に権力を持った奴の言うことなんて信用ならなさすぎて、逆に不自然に見える。」


 「言葉を慎んだらどうだ、考えてみたまえあのオートマタとアラハバキ、魔法国はどちらを敵とするかな?」


 「…………」


それは、っと口を開けそうになる。だが次の瞬間のこの問いの答えはわからないになっていた。普通ならばオートマタである紅月様の方だろう、アラハバキは経歴的に犯罪者と等しい極悪人という認識が世界的に共通だ、だがこの貴族がここまで自信もって言えることに嘘だという根拠が一周回ってもてない。フライ様の言うことはもっともであるが、それはこの提案上での話だ。貴族が出した提案以外の、魔法国がどちらを敵とみなすか、っという問いに関しては貴族の私情抜きにしても、


 (オートマタを敵とみなす)


という結論が下る。なぜならここが魔法国であるから、ここが魔法国であるならば、オートマタの入国すら許さない国であるのならば、そのような事態や現実は容易に考えつくことなのでしょう。




 ──魔法国ウィジック 正門付近──




アラハバキとの交戦は時間が経つにつれ激化していた。殺意の塊だった奴はもはや殺意そのものに成り果てようとする勢いでこちらを殺しにかかってくる。回避、応戦を繰り返しつつなるべく周辺被害を最小限にする行動はある種俺はが正門付近にまで撤退を許した時点で失敗と言えるだろう。


 (人はいなくなったが他所の国に迷惑をかけたら、こっちの話だ………ッ!)


入国手続きを行なっていた人たちは全員緊急的に国内に入れられていた。しかしそれとは別にこれはアラハバキと俺の問題だ。俺の所属がバレれば魔法国が損害を受けた時真っ先にギルドに伝わる、責任とはそういうものだ。


 「よそ見すんなぁッ!!!」


大斧がふりかざされ、重い一撃をビームシールドで防ぐ。両腕で防がなくては流石に出力足りなくなってきてる。パワーダウンじゃあるまい、こちつは早期決戦をつけた方が良かったと心の中で後悔する。

蹴りで大斧の軌道を僅かにずらし、その隙にナパーム弾を奴の懐に3発打ち込む。爆発とともにその場を離脱し、体制を整える。


 [側面からの攻撃行動を確認]


 「ッ!!!」


爆弾矢がこちらに向かって放たれてきた。ビームシールドでガードしつつ回避行動を行う。幸い技量はそこまで高くなく、全くかすりもしなかった。


 「なんだ………魔法国が、」


 「目標、静止しました!、追撃急げ…」


城壁の上にいる兵士が、また弓を構えこちらに照準を向ける。放たれる矢を回避しつつ、フレアを散布。目の前で爆弾矢を全て爆発させる。


 (なぜ魔法国が、)


 「オラオラオラ!!!」


 「─────っ!!」


飛びかかってきたアラハバキをすんでで避け、次の瞬間には魔力弾の集中砲火を受ける。直撃だ、、魔力砲にたりえなくともその数、その弾速は包囲戦において無類の強さを誇る。対攻層障壁を展開していなければ、流石に壊れていた部分があっただろう。


 「つまり────そういうことか、そういうことかよッ!」


この時ようやくわかった。俺がアラハバキに押される理由は基本ない、しかし他勢力の介入ならば、枚数差で押されることもある。今回のアラハバキの行動が少し妙だったのにも納得がいく、殺意は確かにあった、しかしどこか攻撃に的外れなところがあったり、まるで瞬時に決着をつけるあいつらしさがどこにもなかった。


 (その結果がこれか………!)


魔法国のオートマタ嫌いは知っているつもりだったが、まさか極悪人よりも攻撃を優先するほどとは。ただの兵士だけじゃなく、魔法使いまで動員するとは……


 「遅ぇ!!!!」


 「ッ───!、」


ビームシールドの使いすぎを狙われ、そこを大斧によって一刀両断される。左腕のビームシールドは受けきるには出力が足りず、アラハバキの攻撃によって確実に壊れてしまった。そこにすかさず魔法国の攻撃が飛び交ってくる、怯んだ瞬間を狙われビームシールドを展開していたのにも関わらず、かなり被弾をしてしまった。


バランスを崩した俺は地面へと危ない形で着地する。


 (────魔法国の追撃が厄介だが、攻撃するわけにはいかない………)


そうすればギルド所属の紅月が魔法国を攻撃したという事実が公式的に残る。ただ一人の行動でギルド全体が悪くなるなんてもってのほかだ。だが、このままじゃあまりにジリ貧すぎる。


 ("アレ"を使うか)


 背部にマウントしてある、AWアサルトウェポンを一度地面に下ろす。そして瞬時に右腕部のビームシールドに接続面を連結させる。


 [AW接続確認]


 「フェイズ2、AWアサルトウェポンスタンバイ───!」


その呼びかけと共に、右腕に装着された1tもする巨大な縦長箱は精密なギミックを独自に始める。起動音、機械音がAWをただの箱から対大型専門高機動駆逐型殲滅兵装へとアップデートしていく。


 「ハ─────、しまいだァァァ!!!!」


突撃してくる、アラハバキ。目の前の一壁からくる一斉放射。全てを受け切るならばそれ相応の覚悟と強力な防御兵装が必要だろう、そして実に幸運なことに俺はこれらを受けきる自称最強の兵装を偶然にも右腕に装着している。

 

 AWを構えた瞬間、無数の爆発と自身の身を顧みない一撃が伝わってくる。しかしいずれも俺に一撃を加えるには不十分だった。爆風程度では対攻層障壁のエネルギーを削るには至らない。直撃は全てAWに吹き受けられるわけだが………


 「今度はこっちの番だ───!!」


AWを刺した地面から引き抜き、豪快に炎を蹴散らすように燃やす。同時にアラハバキの一撃ごと弾き返す。


 「チ─────ッ!」


舌打ちしたアラハバキを逃さず、AWの高起動スラスターによって一瞬で間合いを詰め、この大きな箱床で大斧を弾き飛ばすように思いっきり殴る。重厚感あふれるもの凄い音と共にアラハバキはバランスを整え、それを俺が崩しながら、突き進んでいく。


 「───うっっそだろ!!!」


こちらがそれを軽々しく持ち上げ叩きつける間にアラハバキはバランスをうまく合わせ、弾かれて吹き飛ばされそうな大斧を自分の腕で必死に受けながら、俺の猛攻を受け切っていた。強力なSTR(筋力)をもつアラハバキであってもこれは例外級の強さらしい。しかし今の俺からしたらそんなのはどうでもいい。


 「追撃しろぉ!!」


城壁の方から声がし、また攻撃が飛んでくる。しかしAWの機動性ならば矢がこちらに落ちてくるよりも早く回避することができる。狙われた場所から一刻も早く撤退し、余裕の構えで佇む。AWはこの装備の最終手段であれば主兵装でもある。もっと早めに使えば良かったのだが、これを使わなかった理由に関しては


 (ウミさんにお披露目したかっただけ、とは口が裂けても鷹橋には言えない。)


絶対いじられる。そんなことを思えるほど、この武装がある時は安心感が違う。


 「さて、どこまで行けるか。」




 ──魔法国ウィジック 貴族の家──




 「いい加減答えを聞かせてもらおうか?」


ここで私が行けばすぐにかたがつく。不本意であるが紅月様を助けるなら、


 「ウミさん、紅月はあんな奴らに負けるほど弱くないですよ。安心しててください。」


フライ様がちょうどよく口を開く、まるでこちらの思考がつつねけになっているような気分を感じながら、彼の続く行動を黙って見届けた。


 「キルンファイン公爵、お前は偶然を装い俺の仲間を傷つけた。よって裁定を始める。」


 「ふん、若造がいい気になるな。証拠の一つも上がっていないくせに何をいうか。」


 「証拠か、これでもか?」


フライ様は翼を背後から大きく広げながら出す。そこに天使が舞い降りたような神聖的なオーラが彼を包み込む、それに対して貴族は感情を露わにしながら驚く。


 「な、天使族だと?!、」


 「俺のスキルなら、たとえ証拠がなくったて裁定できる。まさに形勢逆転だな。」


 「ふ、ふん!!裁定階級でなければそんなもの………!!」


 「へぇ、意外と賢いな。やってみるか?、お前のくだらない意地で自分の首を絞めたいなら構わないが…」


 「くぅぅぅぅぅっ!!!!!」


貴族は貴族は怒りを露わにしてこちらを睨む、考えを絞り込むように相手が頭を絞っている間に。


 「ウミさん失礼っ!!」


フライ様は私を抱き抱え、部屋の窓を蹴り開けながら、その場を一瞬にして離脱した。その出来事を何一つ理解できないまま、慣れない風圧に目を瞑りながら、彼に体の制御権を受け渡す。


 「ふ、フライ様!」


 「一気に離脱しますよ!、した噛まないでください!!」


 「は………はい。」


いつの間にか上空をそれなりの速度で飛んでいることを自覚した私は彼に言葉は届かないと悟ると、言われた通り口を閉じる。


 「紅月──────!!!!!」


フライ様が大きな声を出し下の方に声をかける。私も体を捻り、声を向けた方向に顔を体を向けるとそこにはあの貴族がいっていた通りアラハバキがおり、背負っていた大きな箱を腕部に装着させた紅月様と空中戦をくり広げていた。城壁の方から無数の攻撃が飛んでくる中、紅月様は縦横無尽に戦況を荒らしていた。あのアラハバキが追従する立場に至るほどに。


 「了解───!!!」


こちらの声が届いたのか、箱から光を放ち地面に発射してその場に地形を揺るがす大きな爆発を起こす。煙の中から高速で移動する紅月様見え、私は安心する。紅月様は私たちの方を見ながら、ちょうど真下へと追従する、こうして私たちは魔法国を高速離脱した。




『topic』


魔法国は魔法自衛隊という国防部隊がある。

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