33 エピローグ
「け、結婚はしないってどういう事ですか!?」
涙目のリリーを前にして、わたしは土下座をします。
「します、しますけど……わたしが大人になるまで待ってほしいんです」
「あ、あの時、結婚するって言ったじゃないですか!」
「そうですが、いざ結婚となると、いろいろ考えてしまって……。料理も習いたいし、大人になったら結婚しますから……」
「七年も待つなんて嫌です! クロ様はシェフにでもなるつもりですか!?」
リリーが床に大の字になると、イヤイヤをし始めます。
「で、でも、何かとリリーに頼りっぱなしですし、結婚する前に自立したいと言うか……」
「クロ様は一生わたしが甘やかすんですから、何もしなくていいんです!」
「リリーがそんなんだから余計不安なんですよ~!」
魔王城の一室で、そんなわたしたちを見ていたスカーレットとミラがあきれたような顔をします。
「あの二人、まだ結婚してなかったのか?」
「そうなんですよ……。娘としてはいいかげん結婚してほしいです」
「わ、わかりました、あと五年、十八になったら結婚します、日本だとその年で結婚できますから……」
さすがに七年は待たせ過ぎだと思ったわたしが譲歩すると、リリーが顔だけを上げて、半眼でこちらを見ます。
「まだ長いですが……二年縮めた努力に免じて許しましょう」
リリーが立ち上がってわたしの前に来ると、わたしのほおを両手で挟みます。
「さ、クロ様。仲直りのキスをしましょう、そうしましょう」
――キ、キス!?
「リ、リリー!? スカーレットもミラも見てますよ、やめましょう!?」
ほほ笑んだリリーが二人のほうを指差すと、二人はこちらに背を向けてお茶を飲んでいました。
「……クロ様、目をつぶってください……」リリーの顔が近付きます。
「あっちょっリ――――」
わたしは目をつぶると、どうにも逆らえない邪神との運命を受け入れました。
「リア充乙」
口から砂糖を吐きそうな顔をした女神様があきれたように言います。
「め、女神様が全部話せって言ったんじゃないですかー!」
ある日の晩、女神様が夢に現れると反射的に土下座をしたわたしは、言われるままにこれまでの話をしていました。
今は赤い顔を隠すために土下座をしています。
「誰もノロケを聞かせろとは言ってないわよ!」
女神様は腕を組むと、厳かな表情に戻ります。
「……さて。勇者クロ、魔王退治ご苦労でした。あなたの活躍によって世界に平和は訪れました!」
そう言うと、白い空間に紙吹雪が舞います。どこから出てるのでしょうか? わたしは周りをきょろきょろと眺めます。
「さっそくですが、あなたに次の使命を言い渡したいと思います」
「えっ!?」びっくりして頭を上げます。もう冒険はこりごりです!
「クロ、安心しなさい」女神様が手をヒラヒラさせます。「使命と言っても難しいものではありませんから」
「そうなんですか?」
「ええ。世界平和のために長生きしろって話だから」
「わたしが長生きするのが世界平和になるんですか?」
女神様の言う事がわからず首をかしげると、女神様が穏やかに笑います。
「あなたにはわからないみたいだけど、あの邪神はなかなか危うい存在よ」
「リリーがですか?」
「あくまで可能性の話ではあるけどね。そうね……例えば、あなたが毒ヘビにかまれて死んだら、世界からヘビが滅ぶ可能性があるわね」
「それは……」
否定したいところですが、以前人魚たちに誘拐された時のリリーの姿を思い出して、黙ってしまいます。
考え込むわたしを見て、女神様が笑います。
「まっ、あの邪神自身が守ってるんだから大丈夫よ!」
「あのー女神様、できれば長生きしたいですけど、わたしはリリーほど長生きできないです……」
リリーが神話になるほど長生きしているのは知っていますが、人間はせいぜい百年ぐらいです。
「それは大丈夫! あなたがリリーと結婚すれば、称号が邪神の眷属になって、寿命が延びるから!」
「えっ!?」
「存在の格が上がるとそうなるのよ、この世界は。よかったわね、末永く爆発しろ!」
祝ってるのか呪っているのかわからない言葉を放った女神様が、満面の笑みを浮かべます。
わたしは頭を抱えます。
「あ、あああ……、みんなが、全ての出来事が、わたしとリリーを結婚させようと動いている気がします……!!」
「諦めなさい、これは神が定めた運命です」
女神様はわたしの肩に手を置き、穏やかにほほ笑みました。
「神は神でも――――邪神ですがね」
わたしたちの結婚はこれからだ! ―完―
ここまで読んでくれてありがとうございます!
これにて完結です。
初小説を完結まで書けて達成感ハンパないです!