#2-6 飛竜召喚 【挿絵あり】
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「よし、いいか作戦はこうだ」
俺はアリスから提言された作戦内容を自分の中で噛み砕き、復唱を兼ねてピュティたちに全容を説明する。
「まずピュティにはティファに手伝って貰い、こっそり別の馬車に移ってもらう、そのあとに俺がこの馬車で後ろのデカ物を旧街道に誘い込む」
「駄目よ!私だけ先に逃げるなんて、アキラそれだと貴方は…」
「いいから聞けて、敵はどゆうわけだからお前を狙っている、だからアイツにピュティがまだこちらの馬車にいると思わせなきゃいけない」
「で、でも!」
まだ何か言いたげなピュティを遮り俺は続ける。
「ピュティ、お前には先行して《飛竜》を召喚して欲しい」
「え?でも私は召喚なんて…」
「なに、アリスが言うには、召喚て言っても難しいことじゃない、この剣と詠唱の言葉を唱えれば、呼び出せるはず」
「ですが!私が《飛竜》を呼び出せたとしても、貴方にしか操れない竜では、貴方の助けにはいけませんよ!それでは意味が…」
「いやそれで大丈夫だ、俺はあとから追いつきそのまま《飛竜》に乗り込む、その時に援護してくれ」
アリスの作戦、それは二手に別れ、先行したピュティに銃剣を預け座標コードで衛星から《飛竜》を転送させ、いつでも乗り込み起動認証できる状態にする。
そして後から俺が合流し、ピュティが銃剣にて衛星にある虎の子の《大王蟲》の残骸を《狂牛》にぶつけ追撃の妨害をし、その隙に俺は《飛竜》に乗り込み即座に《飛竜》を起動するという手はず。
「まってくださいアキラ様、正直何を言ってるのかはわからないのですが、すくなくともその作戦に一つ問題があります」
さきほどから俺とピュティのやり取りを聞いてたレズリーは、ようやく口を開く。
「なんだ?」
「アキラ様が、旧街道で牛に追いつかれない保障はあるのですか?」
痛いとこを突かれてしまったが、その通りだ、銃剣を先行するピュティに渡すということは、こちらは《狂牛》に対してなんら防衛手段がなくなることだ。
「そこはほら…山道のカーブを利用してだ・・・」
「アキラ様…」
「アキラ…」
穴を突かれ苦し紛れの言い訳を言うが、自信の無さが顔に出たのか、すべては二人に見抜かれいた。
アリスの作戦の問題点は二手に分かれた後の俺に自衛手段がなくなることだった、だから俺に命を賭ける勇気はあるか?と問われたわけだ。
衛星写真から見える山道の曲がり具合からあまり期待はできない、追いつかれる可能性は6割強。
「わかりました、では私がアキラ様の馬車の御者を勤めます」
「レズリー、何を!」
「アキラ様が姫様と皆のために命を賭けるのに、私が何もせずこのまま傍観してる訳にはいきません!」
「気持ちはありがたいが…」
「勘違いしないでください、これでも馬の扱いには慣れてるのです、私なら比較的追っ手の牛をかわせるかもしれません」
思いがけないレズリーの申し出に俺は戸惑った、元よりピュティに限らずレズリや手綱の御者にも馬車から降りて貰う予定で、アリスのシステムサポートを頼り俺がひとりで馬車を動かす予定だった。
レズリーの元・近衛騎士の経験者なら、あるいはこの分の悪い賭けが少しよくなる気がした、だがまだ俺の中でレズリーを巻き込むのに抵抗感があった。
『いんじゃないんですか、手助けをしてくれると言うなら、頼るべきですよマスター』
衛星にて急ピッチで飛竜の転送準備と後方へのゴミ投げの転送で忙しくなったのか、アリスは姿はみせず声だけが木霊する。
「…、そうだなレズリーが手助けをしてくれるなら、とても助かるよ」
「はい、任せてください」
俺の中で抱いてた作戦への一抹の不安は、レズリーという同行者の存在が加わり、急速に消えていった。
「というわけだ」
「無理だよ!私にそんな大役!」
俺とレズリーは腹をくくりそれをピュティに伝える、無論いまから二人分の命のカードをピュティにベットさせるわけだ、ピュティは覚悟を決めた俺たちを前に狼狽する。
「ピュティ、無理難題を押し付けてるのは判る、だがお前にしかできないんだ、俺でもレズリーでもない、お前だけなんだよ」
「そ、そんな・・・」
「頼む、俺たちを助けてくれ」
「姫様難しく考えないでください、優秀な姫様ならきっとできます、私は信じてます」
半ば俺たち自身の独善的な思いをピュティに押し付けている、お前ならきっとできる、お前は優秀だと煽てられても、並の人間ならプレッシャーに押しつぶされそうになるだろう。
「レズリー・・・」
そんな狼狽するピュティは、宝石の様な蒼い瞳が俺とレズリーを交互に見つめ、そっと瞳を閉じ、自分の手で頬をパンパンと2,3回叩き、狼狽してた自分を奮い立たせ落ち着かせた、そして開く蒼い宝石は決意の眼差しを宿っていた。
「わかったわ、私がやります、
ドリアドネ家当主にしてガラドニカ第五王女ピュティ・ドリアドネ
アキラとレズリーの命を私が預からせて頂きます、かならず貴方たちを生かします」
そうピュティは俺とレズリーたちに宣言する。
『よし、じゃ作戦の準備だ』
そこからまずレズリーに外で併走しているティファたちに作戦を伝え手伝って貰う手筈を整える、俺は準備の間、《狂牛》の接近を阻止すべく《王蟲》の残骸塊を転送し投げ続けていく。
「アキラ様、手筈は整いました」
「よし、交差点まであまり時間がないが、一人ずつ移動させる」
衛星から送られてくる映像を短いスパンで連続で送り、コマ送り動画の様に現在地を確認する、作戦開始の交差路までもうあまり距離がない。
「先に御者の方を移動させる」
「ピュティ、レズリー合図したら、やってくれ」
後方の牛を確認しタイミングを見はかる。
そして牛の接近行動が確認できた瞬間。
「いまだ!」
「はい!」
俺の合図と共にピュティは《土魔法》を詠唱し、残骸塊とは別に後方に土の壁をいくつも隆起させる。
だが《狂牛》は土嚢の壁を難なく突き破る、無論それは想定どうりの結果だ、いくつもの土壁を突破した余波で土と砂塵が宙を舞う。
その砂塵に紛れ動き出す、ティファが素早く馬車に近づき御者を馬に抱えて、前方の馬車へ連れて行く。
その間にも俺は断続てきに残骸塊を、ピュティは《土魔法》を出し続け、牛に対して視認性の悪さを維持し続けた。
「あきら様!終わりました」
レズリーはそのまま手綱を引き継きそして前方の事の推移を見届ける、一人目の移転が完了したことを報告する。
「よしピュティ、出すのやめろ」
「うん!」
俺の合図と共にピュティ《土魔法》の詠唱と止める、すぐさま砂塵は晴れ《狂牛》の凶悪な顔が現れる。
―アンドロイドノ癖ニ、舐メタ真似ヲォ!
《狂牛》操るAIフィリアットの電子とノイズ交じりの機械音声が吼え、俺たちを威嚇する。
「よほど怒り心頭の様だな」
だがそれもアリスの作戦の一つだ、とことん敵AIを怒らせ、感情ノイズを増幅させ、判断を狂わせる。
どんな人間でも怒らせたら冷静な判断ができなくなり直情的な行動にでてしまう、感情という厄介な機能が備わっている。
それは高度な人格を備え付けられたIAも同じ、陽電子脳が感情のバイナリデーターで埋め尽くし、まともな状況判断を鈍らせる、性格、感情というAIにつけられたシステムの脆弱性を俺たちは突くことも作戦の要であるわけだ
「相手がクールキャラなAIじゃなくて助かったよほんとに」
思わず俺はそうつぶやく。
「よしピュティ!次はお前だ、準備はいいか、もう時間がないぞ」
「はい!あとアキラこれ!気休めですが使ってください」
ピュティから渡されたのは魔法片数枚、いずれもさきほどお茶の湯を沸かしてたときに使ってた火の魔法片だった、だがよくよく見れば書かれた呪文には大きく×印が書かれ、他の余白に手書きで別の呪文が書かれていた。
「紙片に魔法付与はまだまだ勉強中ですが、急合わせで書きました、精度は高くないけどちゃんと《土魔法》は発動すると思うの!その、アキラたちの気休め程度にならないかなて」
「いや、ありがたいね」
ほんとに本人が言う気休め程度だが、あるに越した事はない。
「よし、じゃピュティ、3数えるぞ」
「はい、いつでも」
「…3」
「…2」
「…1、いまだ!」
合図と共に俺は再度後方へ物質転送を開始した《王蟲》を投げつけそれと同時にピュティの《土魔法》で隆起した土壁20枚以上を展開し、そしてすぐさま俺は銃剣をピュティに預け、馬車のドアを開けた。
「姫様!こちらへ」
駆け寄ったティファの馬が併走し手をピュティに差し伸べる。
「アキラ!必ず生きて…」
「ああ、必ずな」
別れ際ピュティは俺にそう言い残しそのままティファに連れられて前の馬車へ移動したした。
たっさ数秒の出来事だった、牛は数十層にもおよぶ土壁を突き破り砂塵を掻き分け、姿を現す。
「アキラ様!姫様が乗り込みました、成功です」
「よしッ」
そして俺たち一団は交差路にて馬車が二手に分かれ、AIフィリアットが操る《狂牛》は俺たちの馬車を追いかけ、見事に旧街道へ誘導が成功した。
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馬車が二手に別れ、私は《牛の魔竜》がアキラの馬車を追いかけるのが確認できた、どうやらほんとにアキラの言う通りに事は進んだ。
「アキラ・・・レズリー・・・」
手には託された《飛竜》を召喚する剣を握り締め、考え込む。
果たしてこれでよかったのだろうか…?もし二人の身になにかあったら・・・。
ほんとに自分の様な小娘にできるのだろうか?王都から離れ、嫌なことには目を背き行き続けたこの私に?
不安が反響し、幾度も疑問がを自分に投げつけた。
「さ、さま・・・さま」
そんな私の意識を引き戻したのは、併走してたティファが窓をコツンコツンと私を呼ぶ声だった。
「姫さま、着きました」
窓を開けティファは私に目的地に着いた事を報告する、いつしか馬車の一団は予定してた草原前に到着していた。
「わかりました、あとは私がなんとかします、ティファもありがとう」
馬車のドアを開け降りる、優しく香る草の匂い、頬を撫でる風、遠くには見知った国の王都の城壁郡が聳え立ち守りを固めている。
「待ってください姫様!ほんとうに立ち向かうのですか?!」
「ええ、だから貴女たちも早く王都へ逃げてください、さぁ!竜が迫ってることを伝えに行って」
「ッ・・・」
ティファは私の言葉にうろたえるが、他の者たちに合図を送る、馬車と騎士たちはそのまま王都を目指す。
「何をしてるのティファ!貴女も行って!」
「姫様、それはできませんよ、私はずっと姫様のお目付け役なんですから」
「ティファ・・・」
「邪魔は致しません、私には見届ける義務があるんです、だから居させてください」
覚悟を決めた騎士に私はもうこれ以上何か言うのをやめた、きっとティファは梃子でも私の傍から動かないだろう。
馬車の一団が去るのを確認し、草原には私とティファとティファの愛馬だけが残った。
「ねぇティファ、これて運命よね」
「そうですね、きっと見えざる神の意思が介在してるやもしれません」
竜によって親を殺された娘の私が、こうしてまた竜と対峙しようとしている、これは運命に立ち向かえという大いなる意思の導きなのだろうか。
「ティファ、召喚するわ、少し離れてて」
「姫様・・・御武運を・・・」
そう言ってティファはやや離れた丘の上まで移動し、私を遠くから見守っていた。
剣が青く光はじめ、召喚の準備が完了したという合図だ。
私は剣を天高く掲げ、蒼く輝く光を空の向こうまで示し続け、教えられた召喚の呪文を詠唱する。
『■-■---■---■■■、■■----■■■』
―シークエンス、ザヒョウヲカクニンシマシタ
不思議な声が木霊する、それが剣から発せられた声だと気づくのに時間はかからなかった。
「お願いです!アリス様!アキラを、レズリーを!国を!皆を助けてください!!」
半ば願い混じりの嘆願を精霊様に捧げ、掲げた蒼い光の剣を地面に突き刺す
―シークエンス、ディストーションフィールドテンカイヲカイシシマス
私の願いを聞き入ってくれたのか、目の前の空間が歪む。
不思議な匂いと雷の様なバチバチ音に混じり、風景の中に異物が現れる、音も無くそれはぼやけた線の様に増えていき、線は次第に重なり合い一つの輪郭を形取る。
輪郭は鮮明に形と骨格を形成し、透けてたはずの風景は次第に透明感が薄れ別の色へと塗りつぶされていく、そしてソレはあたかも最初からその風景に居たかの様にその場で膝を突き手を差し伸べていた。
「《飛竜》!」
《飛竜》は私の呼びかけに応じ姿を顕現した、召喚は成功したのだ。
-ヤァ、オヒサシブリ、ピュティ
「《飛竜》・・・、いえ・・・アリス様なんですか?」
―ソウダヨ、アリスサマダヨ
「よかった、来てくださったんですね」
―ソレヨリ、ピュティチョットナカにハイッテ
「あ、はい、分りました!」
《飛竜》から発せられたアリス様の声に促されるまま、私は竜の手を登り背中の入り口から内部に入る。
中は先日《大王蟲》と対峙したときに見た不思議な椅子とあとから追加された私の椅子があった。
「アリス様、アリス様何処にいるのですか?」
―チョットマッテネ
アリス様がそう言うと竜の胸の中に水が注がれ始めていく、瞬く間に私は水の中に沈んでいく、以前の経験が無ければ溺死を恐れて暴れてたに違いなかったが、この注水は3回目で、すでに慣れていて、肺には生命の水で満たされ外にいるのとなんら変わらない状態だった。
「アリス様!」
『転送は成功です、ピュティ貴女のお蔭です』
水で満たされた空間、声は鮮明に聞き取れる様になり、いつしかアリス様は最初からそこに居たかの様に、アキラの座ってた椅子で足をぶらぶらさせながら、私に微笑みかけてくれていた。
「アリス様!アキラとレズリーは無事なのですか?!」
『いまのとこ無事ですよ、それにピュティが即席で書いてくれた魔法片が役に立ちましたよ』
「・・・よかった、ほんとによかった」
無事を確認できたのがこの状況で初めての朗報だった。
「でも安堵するのはまだ早いですよね!私は何をすれば?」
『殊勝な心がけです、ではピュティ、その銃剣でマスターの搭乗の援護をしてください』
「じ、じゅう?」
『今、貴女が持ってる剣の別機能のことですよ、弓の一種みたいなものですよ』
たしかにアキラは剣を不思議な形態にして使っていた、アリス様はそれのことを指してるのだろう。
『もうそろそろマスターが合流してきます、ピュティ外で援護してください』
「は、はい!」
『あとこれ、首に着けてください』
水で満たされた空間に何かが椅子の下から浮かぶ、それは半円を形取り両端には箱の様な形がつけられた謎の代物だった。
『ヘッドフォンタイプの支援デバイスです、首に巻きつけば外でも貴女の支援ができます』
「へっどふぉおん?これ首にですか?」
『そうです、ちょっとだけチクっとしますが、そうすれば水の外でも私の姿も声も聞こえます』
恐る恐る首にソレを巻きつける、ソレは蛇の様に私の首に吸い付き、首の背に針に刺された様な痛みが走る、だがやがてそれもすぐに慣れてしまい痛みは消えていった。
「ちょっとだけビックリしたけど、アリス様これで大丈夫なのですか?」
『ええ、それで大丈夫、じゃピュティ頼みますよ』
「わかりました、援護してきます!」
その不思議な古代の輪っかをつけ水で満たされた《飛竜》の中から再び出る、水で濡れ肌に服がべったり着く気持ち悪さがあったが、すぐさま水分は気化し元通りになる。
『来ました、ピュティ構えて』
『は、はい!』
いつの間にかすでに《飛竜》の肩で足をぶらぶらさせながらアリス様は私に言う、慌てて私も銃なるものをアキラの見よう見真似で構える。
構えそして遠くで馬車が一台現れたのが分る、それを追う赤い牛の存在も見えた。
「《狂牛》・・・」
あれを止めなければならない、私の後ろにはガラドニカの王都があるこの先に行かせてはならない、なにより理由は分らないがあの牛は私を狙っているらしい。
「・・・ッ?」
『文字は追わないでください、貴女の視界に赤い点を表示しました、青い点は今貴女が握ってる銃の軸です、青を赤に重ねてください』
突然の視界の変化に驚くのも当然だった、視界には赤い点と動く青い点そして見たこともない文字が現れ下から上へと羅列していく、戸惑う私にアリス様は説明する。
動く青い点は私の腕に連動してることが分った、青をゆっくりと赤へ重ね。
『では次です、セーフティーを外しました、右手人差し指を横の穴に入れて待機』
「は、はい」
指示どおり指を曲げ、アリス様の次の指示を待つ。
『合図したら、指の隣にあるボタンを押し続けてください、けして指を離しちゃ駄目ですよ、座標ずれが起きたら私も困るのです』
「はい!絶対離しません!」
不思議な感覚だった、精神を張り詰めながら点と点を合わせ視界で流れていく文字が、頭の中で何かが拡張されていく感覚、言うなればもう一つの見えざる目が違う世界を見てる感覚、これはアリス様が見てる世界の感覚なのだろうか?。
『あとすこし、です・・・よし、数えます』
「・・・」
『・・・3』
『・・・2』
『・・・1』
「・・・」
『いまです』
「はい!!」
そして合図と共に私は人差し指を押し込んだ。
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