#2-5 追う者追われる者 【キャラデザイン-挿絵あり】
真っ白な空間にてその《惑星大変革派》のAIとアキラたちは相対する。
『あたしは、《θ》AI-フィリアット、あなたね、ディアンナを倒したて言う放浪者とAIてのは』
そのフィリアットと名乗るAIは、、着崩した黒いコートに見え隠れする赤い裏地は操る魔竜《狂牛》のイメージを彷彿をさせる出で立ちだった。
『あたしは荒事はスキじゃないの、だから用件さえ済めばさっさと撤収するわ』
「用件?あの《大王蟲》の・・・仇討ちか」
『仇討ち?面白いこと言うのね、残念全然違うわ、あのディアンナが倒されたのは彼女の失態、なにより彼女は《α》、あたしとは管轄部署が違うのだから仇を討つ義理はないわ、まぁそうねその失敗を踏まえて、他のディアンナはきっと上手くやってくれるわ』
「じゃ・・・俺たちになんの用だ」
警戒するアキラとアリスを余所に、フィリアットは肩を竦める。
『共同体から貴方たちをどうこうしろとはまだ何も出てないわけだけど、私の用件はコイツよ』
フィリアットが表示した写真はアキラたちがよく見知った人物であり、基底時間では今まさに馬車で隣にいるピュティの顔写真が表示されていた。
アキラはそこでようやく、AIフィリアットの標的は自分たちではなく、ピュティであることを理解する。
「な、!?どうして!」
『その問いの答えを知ってどうするの?』
「ッ・・・」
『簡単な損得の問題よ、このエルフの女を差し出す代わりに他は見逃してあげるわ』
『なるほどそのエルフを差し出なければ、全員殺すと、そうゆうことですね《θ》AI-フィリアット』
『ご名答、まぁ答えは聞かなくとも判るけど』
アリスとフィリアットはAIである、この場での論理的最適解はピュティを差し出せば全ては丸く収まるという認識ではあった、すくなくともフィリアットはそう思っていた。
「・・・すまないが」
『ん?』
「ピュティはお前には差し出せない・・・」
『・・・はぁ』
AIは嘘を付かない、だから標的のエルフを差し出せば見逃すというのもきっと本当ではある、だがアキラはその案を拒否する意思を見せていた。
『あのさぁ。この女を差し出せば見逃してあげる、て私は言ったはずなんだけど、聞いてた?』
フィリアットの不思議そうに、アキラの隣で立っていたアリスに疑問を投げかけた、アリスはわざとらしくすこし首を傾げ考える仕草を見せ語り始める。
『合理的な提案ですが残念ながら、貴方の要求を呑むことはできません』
『非合理的ね、その判断は・・・』
『・・・一つ、私の連れではなく速見晶は私のマスターです、マスターがそう決めたのならサポート役の私もそれに従うだけです』
フィリアットの言葉を遮る様にアリスは小さな唇で語る。
『そしてもう一つ、対象の彼女はマスターの目的に必要不可欠な副次存在です、そちらが何故彼女をわざわざ狙うのかは知りませんが、こちらも引き渡すつもりは毛頭ありません』
『・・・、まったく荒事は好きじゃない、て言ったのに・・・仕方ないわね』
毅然とアキラの意見に同調するアリスの返答に、フィリアットは肩を竦め諦め溜息をつく。
『最終通達よ、ほんとにそれでいいのね、反論がなければ肯定と見なす』
「・・・」
『はぁ、恨まないでよ、《θ》所属フィリアット、大三原則にのっとり貴方方を人類種を脅かす存在と断定します、これより強制排除を行う』
『・・・』
『在るべき地球の未来のため、輝く黄金時代のため、足掻いてみなさい異端なる放浪者!』
マトリックス空間の壁がボロボロと剥がれ落ち、そこで敵AIのマトリックスから弾き飛ばされ、基底時間にアキラたちは意識が戻る。
それを呼応する様に《狂牛》の歪なモーター駆動音は奇しくも牛の雄叫びの如く森の街道一帯を轟かす。
《狂牛》の雄叫びに森一帯に羽休めをしていた鳥の群れは驚き一斉に飛び立ち、それを合図にアキラたち馬車の一団は闘牛からの逃走劇が開始される。
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牛は頭を振るい、角模した巨大ブレードはアキラたち一団の最後尾の馬車を横薙ぎし。
馬車は衝撃で吹き飛ばされ木っ端微塵となり、馬車の御者と影武者のエルフ2名は舞い上がった砂塵の宙を舞う。
《狂牛》は舞う影武者のエルフに目掛けて錨(アンカ-)を射出し、そのエルフのふとももを貫通し捉える、獲物を捕らえた錨は鋼糸ワイヤーを装置で引き寄せ、マシンの外部観測カメラで目当ての当該の人物との照合をする。
-照合不一致
フィリアットは目当ての人物ではないと知るや否や、再度エルフ宙へ放り投げ、《狂牛》は龍顎は大きく開き禍々しいブレードの牙を振動させ、落ちてくるエルフを殺処分をしようとする。
「ひっぃぃ!!」
いつ危険な目に会うか判らないと覚悟はしてたはずだった影武者のエルフも、まさかの死を目前の最後に見る光景が自分を噛み殺そうとする《魔竜》の口には、声にもならない情けない悲鳴を上げてしまう、そしてその悲鳴こそが彼女の最期の遺言になるはずだった、だがそうはならなかった。
ガンッ、バァァン
大きく開いた牛の龍口に何かが飛来し牛頭に追突する、エルフは噛まれることなく地面へ叩きつけられる、投げ出された高さによりおそらく複雑骨折は免れない、また錨による出血は錨ごと投棄されたため原因の錨そのものがふとももに刺さったまま一時的に出血止めの役割を果たし、文字通り錨の様に彼女の一命をこの世に引き止めている。
そして奇跡的に走る《狂牛》の踏みつけを免れ、影武者のエルフは命辛々アキラたちの猛牛の追撃逃走からいち早くリタイヤをしたのであった。
「させねぇよ!」
―コザカシィ・・・
激昂したアキラの声が響く。
姿こそ見せないものの歪な機械の駆動音に混じりAIの電子音声がアキラの耳にも届く。
《狂牛》が追突したソレはスクラップで一纏めに圧縮された数十個の《王蟲》の鉄屑塊だった。
馬車の窓から身を乗り出し銃剣を構え、狂牛のやや前方の空間に照射を合わせタイミングの計算をアリスに委ね、《質量転移空間》を展開し、衛星から《王蟲》の鉄屑塊を転送させその物理質量を《狂牛》の直上にぶつけたのだ。
「アキラ、後ろは一体どうなってるの!」
「ピュティ!バカ、お前顔出すな」
ピュティの不用意な行動にアキラは叱咤するが、時はすで遅し。
狂牛のカメラアイは馬車から顔を出したピュティの顔を映像に捕らえた、即座にそれは彼女が持つ手配情報と照合され。
―照合一致 対象者ヲ確認
―対象ヲ抹殺スル
先ほどと同じく錨が顔を出したピュティに目掛けて射出される、だが鋼糸ワイヤーが装着された錨は目標に届く前に転送された鉄くずの塊の出現で阻まれ、矛の軌道を弾く。
「姫様!何してるんですか」
いつも以上に慌てたレズリが頭を出したピュティの体を窓から引っこ抜く。
「あ・・・ごめん・・・なさい」
間一髪とはいえ錨が目前まで迫ってたのを見てしまい、ピュティは気が動転してしまう。
「バカ!あんま迂闊なことするな、あいつはお前を狙っているんだ」
身を乗り出しながらもなんとか声のトーンを上げ、馬車内の二人にコンタクトを取るアキラも肝が冷える思いではあった。
「あの《魔竜》は何故姫様を!」
「ピュティの熱烈なファンらしいよ」
「えぇ!」
アキラたちの言葉は逃走する馬車と蹄鉄の音に掻き消され、そしてそれらを追う機械の駆動音が、静かで長閑な森の街道を殺戮のロードレース会場へと変貌させていた。
「全員全速前進で走れ!けして止まるな!ひき殺されるぞ」
『マスター、来ます!』
「くそっ」
アキラは慌てて銃剣を後方の敵前方付近にむけ、《質量転移空間》を展開させ《狂牛》の走行軸に幾つもの鉄くずの塊を転送し障害物を作り、辛うじて爆走する牛の速度を落とさせ追いつかせないだけで精一杯だった。
この状況を打破するためにはアキラが《飛竜》を転送し乗り込んで対応する他ない、だが大質量の《魔竜》の転送と乗り込むにも幾許の時間が必要であるため、そんなアキラたちが《飛竜》に搭乗するのを待ってくるほど敵AIは優しくない。
「アリス、《飛竜》の転送にどれだけ時間がかかる?!」
『鉄くずと違って複雑体の転送は速くても10秒ぐらいは掛かります、乗り込みと、起動諸々で最速でも30秒は欲しいとこです』
窓から身を乗り出したまま後方の牛を警戒してるアキラは馬車の屋根端で脚を投げ出しぶらぶらさせながら、同じく後方の《狂牛》をじっと見ているアリスに質問をする。
「アレが30秒も俺たちに時間くれると思うか?」
『限りなく0%ですね』
そのやり取りの間にも何度も《王蟲》の鉄くずを後方へ召喚し障害物を作っているが、このままでは王都まで《狂牛》を牽引してしまう、焦りと焦燥がアキラを掻き立てる。
「クソッ!」
毒づきながらもアキラは《王蟲》の鉄屑塊を転送する、それでもどうにも時間と距離だけが縮まる一方であった。
「アキラ様、あの《魔竜》の脚を止めたいのですか?」
「あぁ、レズリーも何かここら辺にやつを止めれそうな場所とか知らないか?!」
そんな困り果てたアキラに馬車内のレズリーが声を掛ける。
「そうですね・・・そう、たしか、この王都の街道の先に大きな連なった岩山があります、そこでは旧街道と新街道に分かれ、旧街道は古い時代から使われてる山を迂回した遠道で、新街道は山を掘削して作られた直進のトンネルで・・・」
「トンネルだと?!」
「は、はい!」
「・・・山、遠道、アリス確認できたか?」
この状況を新たに打破する情報、それはアキラにとっても願ってもない情報だった。
『たしかに前方に岩山が確認できます、情報どおりトンネルが開通されてるのであれば・・・、なるほどふむふむこれは使えそうですね』
アキラの視界に表示ウィンドにて、前方の分かれ道と山周辺の地形衛星写真が表示される。
「このままトンネルを直進すれば平原に出て、そのままガラドニカ王都だ」
『なるほど』
「どうだ?何か思いついたか?」
『では一つだけ案があります』
「よしっ、言ってみろ」
アリスは電脳を駆使し、与えられた情報でいくつもの可能性を模索し成功ビジョンを導き出していた。
『ところでマスター、他人に命を預ける度胸はありますか?』
「・・・は?」
アリスは作戦の全容をアキラに伝える、真後ろに敵が追いかけてる状況の中、その案の良し悪しを論じるには時間が足りない、そのアリスの作戦は主人であるアキラ自身をも危険に晒す賭けだった。
だがアキラはその案を承諾し、アリスからの作戦の全容を馬車のレズリーとピュティに説明する。
レズリーとピュティでアキラから受けた説明で両者は違った反応をした。
レズリーはその作戦に懐疑的な顔はしたものの、すぐさま切り替えこの困難を乗り越えるべく腹を括った表情になった。
一方ピュティはその作戦を聞き顔が真っ青になり、途方に暮れていた。
「というわけだ」
「む、無理だよ!私そんな大役なんて!」
「ピュティ、無理難題を押し付けてるのは判る、だがお前にしかできないんだ、俺でもレズリーでもない、お前だけなんだよ」
「そ、そんな・・・」
「頼む、俺たちを助けてくれ」
「姫様難しく考えないでください、優秀な姫様ならきっとできます、私は信じてます」
「レズリー・・・」
どうにか押し付けられた無理難題でパニックになってるピュティをレズリーは優しく諭す。
「わかったわ、私がやります、
ドリアドネ家当主にしてガラドニカ第五王女ピュティ・ドリアドネ
アキラとレズリーの命を私が預からせて頂きます、かならず貴方たちを生かします」
ピュティは冷静になり自分を奮い立たせ、先ほどと見紛うほど真っ直ぐにアキラとレズリーたちに宣誓をする。
「よし、じゃ作戦の準備だ」
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《狂牛》は再度巨大な角を展開し、先ほど確認できた対象がいる最後尾の馬車に目掛けてブレードが迫る。
だが相変わらず鉄屑の塊が目の前に転送され、ブレードをすんでのとこで跳ね返す。
―チッ、チョコマカト・・・
電子の駆動音に混じりフィリアットは毒づく、さきほどから接敵するたびに鉄屑塊が転送され追突を余儀なくしてしまう。
《狂牛》を操るAIにとって石を投げつけられた気分だった、そんなフィリアットが抱える電子の胸のうちに沸々(ふつふつ)となんとも形容しがたい思考ノイズが発生していた。
その思考ノイズは生きとして生きる者なら誰もが知っている、『怒り』という思考ノイズがAIフィリアットを支配していく。
怒りの対象は無論先ほどから彼女に向けて鉄屑を転送し投げつけてくるあの放浪者アキラだった。
―グォオオオ
牛は雄叫びを上げ手持ちの錨をその場にいる馬車の一団へ無秩序に射出する、だが錨はついにはその目標に届くことはなかった。
錨を阻んだのはエルフたちが魔法と呼ばれる言語アプリケーションで形成し隆起した土の壁だった。
だがそんな土の壁一枚では《狂牛》に転送してきてる鉄屑塊の様に突進を阻むことなど無論できない。
―無駄ヨォ!
怒りに吼える牛の進路に再度土の壁が形成される、だが今回は壁が3枚になりそれも《狂牛》は難なく突進し壁を突破する。
―アンドロイドノ癖ニ、舐メタ真似ヲォ!
《狂牛》は土壁を突破し、壁の土砂の煙から怒り狂う赤き牛がアキラたちに電子音声で吼える、そんな彼女の怒りを知ってか知らずか、アキラは再度鉄屑塊を投げていく。
アキラたちの逃走は時折土魔法で土壁を形成しては牛にタックルをさせ、時折鉄屑塊を投げつけるの繰り返しだった。
そして《狂牛》は20枚以上の連続土壁を破り、街道はやがて分かれ道に差し掛かる、アキラの馬車は一団から離れ街道のあまり綺麗に舗装がなされてない横道へと逃げていく、それをフィリアットが操る《狂牛》が見逃すわけがなく、横へと逃げるアキラたちの馬車の方を追う、逃げる馬車の一団本隊に目も暮れずに。
馬車は岩山を避けるよう外周の街道を走る、アキラたちは先ほどと同じく土魔法で土壁を形成し、追ってくる《狂牛》はそれを体当たりでブチ破る。
―ドウシタノカシラ?モウ鉄屑ノ在庫ガ切レタノカシラ?
フィリアットの電子音声がアキラたちを嘲笑い、馬車から身を乗り出していたアキラは苦々しく表情が毒づく。
AIは気付いたのだ、先ほどから横道に入ってから鉄屑の転送がなくなっていた、フィリアットにはどこから鉄屑が転送されてきてるのかは知らないがどうやらそれも尽きた模様。
となれば鉄屑の転送がなくなった今や、フィリアットを土壁で止めることなど出来ない、もはやアキラたちの列車ごっこに付き合う必要も無くなった。
アキラは横道に入ってからいくつもの曲がり道と土魔法を駆使したが、やがては元の直進の道へと戻る。
森の街道はいつしかぽつぽつ木々が薄れていきやがては広い平原へと出た、遠くでは王都の城壁が見えてきた。
勝ちを確信したフィリアットは《狂牛》の巨大ブレード展開し、機体の走行速度上げついにはアキラたちの馬車に追いつく、そして牛角のブレード振り下ろす・・・ だが。
―ナニッ?!
《狂牛》はブレードを振り下ろそうとした時、《狂牛》の直上から何かが落とされ、それが爆発し《狂牛》は機体を吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた《狂牛》は人機形態へと変形する。
―一体ナニガ・・・
突然の事に混乱するフィリアットの電子脳は、《狂牛》の各種カメラで周囲の状況を確認する、そして・・・。
―コレハ・・・ディアンナノッ!
《狂牛》に衝突したのは《大王蟲》の超構造体の残骸であった、残骸には数個の爆発反応装甲が無秩序に括り付けられていた、取り付けた者がよほど慌ててたのが伺える。
一体何ガ、ドウナッテルノ?!
「アキラッ!走って!」
フィリアットが追っていた馬車に居たアキラは声の主に反応し馬車から降り走った。
アキラの向かう先は土魔法で競り上がり傾斜を作られた小さな急斜面な坂、そこを全力で登り、その坂の先はすでにその場で片膝をつき待機してた《飛竜》と・・・。
―何故ソコニ対象ガイル!! マサカ・・・
フィリアットが追ってたはずの対象は馬車ではなく、すでに《飛竜》の肩でアキラたちの馬車を待ち構えていた。
そして合流したアキラたちは背中の搭乗口から《飛竜》へと乗り込み、起動を開始する。
―コノ私ヲ!コノフィリアットヲ!謀ッタナ!
怒りを帯びた電子音声が平原周囲一体に響かせ、引いては王都までにもこの怒りの感情ノイズをは波及し、そして人機形態の《狂牛》と《飛竜》は森を抜けた王都前の平原にて互いに対峙をすることになった。
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