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#2-3 欠けた者同士

 日が落ち始め青空は鮮やかな茜色に染まりつつある、その茜色の空に翼を広げ滑空する機械仕掛けの竜と長方形な箱の姿があった。

 巨大な白いコンテナはカーボンナノチューブ製の縄で束ね括りつけられ、宙に吊るされた状態でその手綱を《飛竜リンドヴルム》が両手に携える。

 アキラとピュティは目的の保護地域外へ向かっていた、そして見えてきたその目的地、その場所は大きく空間が開いた往来する街道を一望できる小さな丘の様な草原で、その場にはすでに手持ちのコンテナと同じく、いくつもの白いコーティングをされた人工コンテナが置かれ積まれていた、安全と秘匿性も考慮して事前にアリスが衛星で何度か確認をし、元より人の往来が少ないこの場所に加え夕方日が落ち始めたこの時間帯ならもうここ一帯を通る人はいないだろうと、この場所にアキラたちは荷物を運ぶ。


 あのあと改装後の試運転も兼ねて俺とピュティは《飛竜リンドヴルム》を起動させ、アンバーの施設から《王蟲オーム》の剥ぎ取り精製した物資資材を転送するため保護地域の外まで数往復し搬入していた。

 

 「よし、これで最後だな」


 街から遠く離れ、周囲には人影もいないわけだが、念には念をと俺は慎重にコンテナを下ろし、振動をなるべく起さぬ様積み上げた数十個のコンテナを見て一息つく。


 『マスター、運転お疲れ様です』

 「アキラ、おつかれ様」


 いつしかコクピットの内装がいじられ、俺の操縦席の隣にはもう一つの副操縦席が横に設置され、そこにご満悦といった感じでピュティが水晶版を抱えて座っていた、その席の間の脚の踏み場にアリスはいつもの癖で脚をぶらぶらさせている。


 『素材コンテナはこれで最後です~あとは私にお任せください』

 

 約3時間前から開始した、竜の宅配サービスは受取人がないその草原に最後の荷物を置く、すでに何往復もし慎重に積み上げた俺は若干疲れてきた、神経接続ニューロンデバイスで神経を常に張り詰めていたのでようやく重荷から解放されたわけだ。

 そしてあらためてそれなりに積み重ねられた白いコンテナ群を眺める、箱の数は裕に2,30は置かれ、遠くから見れば白い長方体がいくつもあり、《王蟲オーム》に見間違うこと請け合いだ、実際ほとんどの資材は物質転換装置レプリケータにかけられた《王蟲オーム》なのでその認識は遠からずといえばそうだ。


 「で、これだけの物いれるスペースが衛星にあるのか?」

 『ええ、これぐらいなら全然余裕のよっちゃんです』

 「古っ・・・」


 あの後アリスは修理用の素材と《飛竜リンドヴルム》の格納場所をアリスの衛星にすることを提案してきた、もっともな話しだがこれからの旅、ひいてはこれからガラドニカ王都へ行くのに、おいそれと鉄の竜を引き連れていくわけにもいかない、だからどこかに格納しないといけないわけだ、そこで《飛竜リンドヴルム》をアリスの衛星と地上を《質量転移空間ディストーションフィールド》で行き来させるのが一番適してるということになった。

 衛星に物を質量転移空間ディストーションフィールドで飛ばすためには保護地域外に一旦出ないといけないため、地域外で人往来も考慮し時間的にもこの草原が際も物資を転送する場に適している。


 「じゃアリスあとは任せた、ピュティ、竜から降りるぞ」

 「は、はい!」

 『またね、ピュティ』


 俺たちは全ての荷物を持ち出し、《飛竜リンドヴルム》は積み上げられた資材の側で停止させ、機体から降りることにした。

 機体のコクピットから出るため俺らは機械の梯子を登り、《飛竜リンドヴルム》から出ようとする俺たちをアリスは惜しげそうに別れを告げる、当然のことだが俺に対してではなく、アムリタの水から出たらしばらくアリスの姿が見れなくなるピュティへ向けてだ。


 「あ、あのアリス様ありがとうございます、何から何まで私たちのために」

 『まったく勘違いしないでください、マスターの利になると思ったからですからね、さぁ行って、私は物を運ぶので忙しいのです』

 「あの!また会えますよね?」

 『またすぐ会えますよ』


 それからピュティを先に先行させ、機体背面から外へ出る、俺たち二人は背面の足場を渡り《飛竜リンドヴルム》の胸装甲上に立つ、すでに物質転送が開始してるのかコンテナの一つが輪郭が緩やかにぼやけ初めていた。

 

 

 「おっと、落ちないよう気をつけろ」

 「あ、ごめんなさい」


 アムリタの水から出た俺たちはびしょ濡れ状態だったが、気発性が高いのか緩やかに濡れてた体は湯気を立てて乾き始めてる、同じく半濡れ状態のピュティは積み上げられた箱が物質転送されるさまを前のめりで食い入るように見ていた、気発性は高いとはいえ濡れてる箇所もまだ多く足場的に危なっかしい所なので、思わずピュティに注意をしたのだが・・・。


 「はうっ!」

 「危ない!」


 注意が逆に仇となり、ピュティの濡れた靴が僅かに装甲を滑らせ身を大きく横に傾く、機体から落ちない様咄嗟にピュティの腕を掴み内側へ引き寄せる。

 

 ―――ドサッ


 力任せで落ちそうなピュティを引き寄せた反動で俺諸共倒れてしまう、彼女の体は俺をクッションの様にを覆い被さる。

 正直な事をいえば結構痛い、女性一人とはいえその体重を俺がクッション代わりになり受け止めたのだ、そりゃーなかなか体に来るものがある、だがそれすらも忘れるほどの柔らかい感触とフローラミントのいい匂いが鼻腔をくすぐり、体への痛み労わるかの様に俺を包み込む。


 ―――むにゅ


 いつぞやの《大王蟲ギガオーム》との戦いで冗談で出たピュティに乳枕をしてもらう話は、奇しくも今ここで果たされたのだ。

 顔いっぱいに押し付けられた艶やかなピュティの実った桃乳は、さしずめ楽園を追放する禁断の果実、できることなら今すぐにでもその果実に手を出したいとこだが・・・、密着してて息が出来ない・・・。

 すかさず俺はピュティの肩を叩いた、それでハっとなった看守のピュティは俺を乳牢獄から解放し、視界には彼女の顔が映った。


 「あ、ごめんなさい!重くなかった?!」

 「いや大丈夫だ、それよりお前も大丈夫か?」

 「うん、アキラがかかえてくれたから」

 「そかっ、まぁ足元気をつけろよ」

 「えへへ、ちょっといろいろはしゃいじゃいましたね』」


 真近ではにかむピュティの笑顔につられてこっちも笑顔になりそうになったが、そこは俺の隣でハンディカムを片手に持ち、小さくしゃがみこんでニヤケ顔で俺たちを撮影してるアリスに撮られそうだったのでぐっと堪えた。


 『チっ、マスターは目ざといですね』


 俺にしか聞こえないアリスは呟き、映像が粒子に変わり消えそのまま転送作業へ戻った、とそんな隙あらば盗撮するAIは流す様にほっとき、いまだに俺に馬乗りになっているピュティを立たせ、俺たちは地上へ降りる準備を開始する。

 外部の備え付けの伸びるワイヤーレーンを掴み、ピュティを抱え地上へ降りる、俺の胸板に密着するピュティの胸は、僅かながら服越しでも聞こえそうな心臓の鼓動に俺は恥かしくなり顔が赤くなる、そしてそれはピュティも同じらしく特徴てきなエルフ耳の先っぽまでピンク色に染まっていた。

 この機体は約20メートル、ワイヤーレーンの高速降り乗りでも5秒程度なのだが、男女の心臓を重ねお互いを意識をしてしまうには5秒は十分すぎた。


 「とっ、着いたぞ・・・」

 「は、はい・・・」


 地上に脚をつき地面に降りる、近くに密着しすぎたせいの反動か、俺とピュティはすこしだけ距離を取った、それはお互い顔が赤いの隠したいてのもあるが、いかんせんバレバレである・・・。

 

 『ひゅーひゅーお熱いね~火傷しちゃいますねー』


 茶化す様にすでに地上の大きな岩に座り脚をぶらぶらさせてたアリスが居た。


 「茶化すなよ、まったく・・・でなんだ?」

 『そうですね、マスターの銃剣情報を元に《質量転移空間ディストーションフィールド》の蟲穴ワームホールのショートカットもついでに作りたいので、転送にすこし時間が掛かります』

 「どれぐらいかかる」

 『まぁ10分~20分ぐらいですね、中継用にその銃剣を地面に刺して、それまで適当に時間潰してくださいな』


 そう言ってアリスはまた姿を霧散させ消える。


 「まったく、嵐のの様に来て嵐の様に去るな」

 『あ、そうそうマスター、蟲穴ワームホール構築に集中するから、いまなら私そっち見てないので、いやらしいことするなら今の・・・』


 消えたと思ったアリスは今度は視界のウィンドからぴょこと顔を覗かせ、至極どうでもいい提案をしてきたので言い終わる前にウィンドを閉じ強制的に会話を終了させた。


 「アキラ、アリス様はなんて?」

 「いや、物を空に運ぶの時間掛かるからすこし、休憩してろだってさ」

 「なるほど、じゃ待ちましょうか」


 そういってピュティは背中でリュック状に背負ってた、申請書類が入った水晶版を背中から外しまた手で抱えた、機体の降り乗りで手が塞ぐことも考慮して水晶版にはワイヤーホックでリュックの様に背負える様になっている、それはアンバーが気を利かせてくれたお陰である、やはり大事なものだけあって背に背負うのは不安なのかこうして手元に抱えておくのが安心するのだろう。


 「あそこに座りましょう」




 ---




 俺たちはその後すこし近場でコンテナと《飛竜リンドヴルム》が見れる大きな岩を椅子の代わりに座り、日が落ち満点星の夜に消え行くコンテナを眺めながら一息つく。

 コンテナがまた一つ一つと輪郭がぼやけては消えていく、全てはアリスの監視衛星へ転送されてるわけだが、やはり間近でこの超技術が行使される光景を見るのは、西暦2045年から来た俺には未来の技術的特異点シンギュラリティーには現実感がない、それはゲームや映画でしかみたことないSFの世界そのものだからだろうか、いったい自分が眠りに着いた後の人類は戦争でひたすら技術の破壊と創造を繰り返し、たどり着いた果ての一つがこのマシン兵器や物質転送技術、そして生体アンドロイド《エルフ》・・・人類はどれほどのカルマを背負ったのか俺には検討が付かない、いろいろ事情はあったにしろ、もっと冴えたやり方はあったのではないかと思わずにはいられない。


 「私はね、アキラに感謝してるの」

 「またその話しか、もういいて言ってるだろ」

 「ううん、それあるけど違うの、私はね・・・アキラに出会ってから世界が広がったわ」

 

 お互い星空をバックに消えてゆくコンテナを眺めながら、ピュティが口を開く。


 「きっと本来は私が知ってはいけない事、でも私はそれをアキラを通して知ったわ、この世界のこと、《魔竜ドラグーン》のこと、そして私たちエルフのこと・・・」

 

 ピュティが知りえた事、それは所謂この惑星の裏舞台側バックヤードサイドの事を指す、本来ならばエルフたちは一生知りえないはずの事を、ピュティはちょっとした運命の歯車がズレて知ってしまう、通常ならば到底受け入れられない内容ではある、だが思いのほかピュティはすんなりと受け入れた、そこが俺の中ではずっと不思議だった。


 「魔法を勉強してるとね、必ず物事の根源を調べ始めるの、そしたら当たる壁があるの・・・」

 「壁?」

 「うん、いろんな文献や魔法の記述をした書物を調べて、私たちの種族はある時期を境に突然沸いて出たかの様にに記述されるけど、それ以前何一つ痕跡がないの、まるで何者かの意思が介在しそれらを全て隠す様に・・・」

 「それはたしかにおかしいな」

 「でね、アリス様のお話で合点したわ、私たちは何からも進化してない、ただ大いなる者ヒトを似せて作られ、それをなぞり真似ている種族なんだってね」

 「・・・」

 「いままでいろんな人が私たち種族の起源を、根源を探ろうとしたわ、でも全部駄目だったの」

 「それて?」

 「《魔竜ドラグーン》は私たちが起源を探ろうとすると、どこからでも現れては国を焼き、破壊の限りを尽くす、そうやって消えた国はいままでもいくつもあったらしいわ、いつからか起源探求は語るのも憚れる様になったわ、誰も竜の機嫌を損ないたくないのよ」

 「それは酷い話だな」


 ピュティの話しからでは判る、古くからそれはAIによる人類情報の隠蔽工作であり、引いては危険思想を持つ特定人物への災害工作カラミティータスクが国ごとに幾度もなく実行されたのだ。

 今回カーティラの街への災害工作カラミティータスクも《王蟲オーム》の残骸から種の起源を探ろうとして、その禁忌を破ったせいでもあったのだろうか・・・、ともあれ間引きの傍らで明確な禁止事項に触れれば即座に粛清対象に浮上するという意味では、地球全体がAIたちに監視されてる。


 「こんな綺麗な星空の下でも、世界のどこかで恐ろしいことが起きてるのですね・・・」

 

 横目で盗み見入る、星空を眺めるピュティの横顔がすこし不安と無力感をかんじさせていた、彼女の姿に俺はこの先も守りたくなる気にさせてしまう、そんな魅惑の魔法を使うピュティははたして聖女なのか、魔女なのか?と自問自答をする。


 「ねぇ・・・アキラ、聞かせて貴方のことを」

 「俺?全然面白くないからオススメしないよ」

 「ううん、聞かせて、アキラの事をもっと知りたいの」


 世界の話や、種族の話、マシンの話、いろいろピュティに話したが彼女には俺自身の詳しいことはまだ言ったことがない、この先王都の女王に会うためにもピュティには便宜を計って貰いたい、そんな打算で彼女に内に秘めたモノを解放した。

 虚ろにぼやけはじめた《飛竜リンドヴルム》と星空を眺めながら語る、あの事故で眠りに着くまでの17年の人生を、家族のこと、妹のこと、そして俺自身のことを。

 いつしか隣に座っていたピュティは身を俺にもたれ掛かり、俺の話しに聞き入っていた、その青い宝石の瞳は悲しそうに目を潤わせ、今にも泣き出しそうな彼女は俺の何に共感したのかは知ってる、俺には妹のマイは生存してるし、ピュティには母と姉たちがいるが、だが決定的に俺たちには何か欠けた物があるのを感じてたのだ。


 いまだ欠けた者同士、男女は互いの欠けた隙間を埋める様にもたれ掛かり、最後の輪郭が消える《飛竜リンドヴルム》の先に輝く星空の海を眺めていた。



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