25話 責任
「そうか、今行く」
ご主人様はなにをしているのか全く知らないけど、ずっと二階で何かしらの作業をしている。
チターナはご主人様のことが好きなわけで、今日来るときも楽しみにしていたはずだ。ご主人様ももう少し気を遣って玄関で待っていてあげたりしてもいいと思うけれど…。まあご主人様も完璧というわけではないのだから仕方ないことだと思う。
「ようこそ!チターナ!…チターナさん!」
なぜ言い直したのだろう。やはりご主人様もチターナの民らしさに戸惑っているのだろうか?
「お邪魔してます!シノブ様!そして呼び捨てで構いませんよ?」
チターナの話し方は民そのものだった。完全に奴隷精神を脱したという感じだ。実際はまだフートだが。
「そうだね、ごめんごめん他人行儀だったね。なんかチターナが大人っぽいっていうか…そう!民っぽくてさ…ついね」
ご主人様の言ったとおり確かに大人っぽく感じるところもある。民とフートではやはりフートの方が子供っぽいのだろうか…。
「そうですか?ありがとうございます!」
チターナは万遍の笑みを浮かべている。
そして玄関側のソファに私とチターナ、向い側のソファにご主人様が座った。
「では、シノブ様。まずマスターからの…いや、店長から用件をまず済ませていいでしょうか?」
「ん?用件?いいよ」
するとチターナは手帳をショルダーバッグから取り出し開いたが、 あんちょこを確認したかのようにすぐに閉じた。
「ひとつ目は、わがままな話だが、あの件をもっと早められないか?という旨を柔らかく、間接的に伝えろと言われました。」
「いやいやいや、直接的だし!というかほとんどそのまんま伝えたよね?…まあそれはいいとして、早めろと…」
ご主人様は悩んでいる。実際ゆっくり喫茶の店長との契約ではご主人様の方が上な訳で、この頼みごとを軽く跳ね除けられるはずだが。
そしてご主人様は私に少し目をやった。恐らく私が答えを出せば、すぐにでもチターナ達を昇格させるのだろうが…。
「失礼ですが、ご主人様。私よりも先にその件を済ませることはできないのですか?」
これは前から疑問に思っていた。今まで前例が極めて少ないのは分かるが、私を四人目の昇格者にしてなにかあるのだろうか?
「うーん、それは僕の気が進まないだけでもあるんだけどね。つまり、ゆっくり喫茶店員の昇格はひとつの新しい事業形態が生まれる。僕は万全の状態でその時を迎えたいんだ。ただ、それだけ。わがままな話だけどね…」
ご主人様は言いづらそうだった。そして続けた。
「たしかに、店長が待てないのもわかる。ばれたらお終いだからな…」
私へのプレッシャーが強くなる。ご主人様にその意思は無いように思えるけど、私は責任重大なのだ。
私はご主人様が嫌いなわけでもなく、どちらかと言えば好きなのだが、それが恋としてと言われると感覚がわからないというだけの話なのだ。ご主人様の告白に対してOKを出してしまっても良いのだが、それではご主人様に失礼だと思う。
特にプレッシャーに弱い私ではないが、今回ばかりは焦りが出てしまう。それでは気持ちの整理も出来ない。
「とにかくチターナそれは最初に約束したんだから、待ってろとオブラートに伝えといて?」
ご主人様はやはり私優先で揺るがないようだ。
「わかりました。ビブラートをかけて伝えます」
「ぷふっ」
思わぬ、わざとかと本気かわからないボケに吹いてしまった。




