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地獄の救世主

「鬼結界ッ!」


キリュウが祈ると正方形のバリアが出現する。


「まずいことになった」

「どうしたの?」

「溜まっていた罪人たちの怨念が噴き出したんだ。暗黒龍と悪鬼が生まれる」


火山雲(かざんうん)が黒い龍になる。


「キエエエエエエエエッ!」


甲高い奇声を発すると黒い炎を地上に吐き散らした。

喰らったらヤバそう。


降ってきた大きな噴石をバリアが防ぐ。


「下級獄卒は黒炎と隕石を防げるほど強固なバリアが作れない。黒炎と隕石を喰らうと悪鬼に変貌(へんぼう)してしまうんだ」

「悪鬼は強い?」

「まあまあね」


キリュウは額に汗をかいてる。

そうとうな強敵みたいだ。

噴石の雨が降る中を金棒をかついだ黒い鬼が登って来た。

悪鬼だ!

キリュウの手に金棒が出現する。

すごい!

魔力で作ったのかな?

悪鬼はニヤリと笑って襲いかかってきた。

はやい!

金棒のチャンバラがはじまる。

早すぎて目で追えない。

金棒同士がぶつかり合う激しい衝突音が耳朶(じだ)をうつ。

ど迫力だ!

キリュウがんばれ!


「イケメンは気にいらん!死ねっ!」


悪鬼の突きがキリュウの胸を突く。


「ゴハァ!」


キリュウは血を吐きながら吹っ飛ぶ。


「キリュウッ!」


悪鬼は金棒を捨て倒れたキリュウに飛び乗り顔面をボコボコにする。


「やめてぇ!」


あたしは悪鬼にタックルしたがびくともせず弾き返される。

キリュウの頭をつぶした悪鬼は満足気に立ち上がった。

拳から血がしたたってる。


「童女。おとなしくまたをひらけ。天国に行かせてやる」


いやらしい目で見つめてくる。

きっと逃げても簡単に追いつかれちゃう。

絶対絶命だ。

その時、大きな噴石が悪鬼に直撃した。

ぺしゃんこだ。

やった!

でも、結界が解けたことはキリュウの死を意味する。

喜びと悲しみが同時に押し寄せた。


「うーむ。ますます力がみなぎるわい」


悪鬼の体はすぐ修復される。

怨念のかたまりの噴石でさらにパワーアップしていた。

逆効果だ!

悪鬼はゆっくり近づいて来た。

あとずさりする。

逃げ場なんてどこにもない。

どうしよう・・・


震えているとりんとした声が地獄に響き渡った。


「小さい子に欲情するなんてイチモツを切り取るしかなさそうね」


白い翼に光輪を頭上に浮かべた美少女が登場する。手には白い聖剣を持ってる。

天使ちゃんが助けに来てくれた!


「頼みもせんのにごちそうが飛んできたわ。わしゃ前世でどんな徳を積んだのか。キサマから先に犯す!」


悪鬼は金棒を拾い上げる。

悪鬼と天使の戦いがはじまった。

天使ちゃんが押してる!

悪鬼の体にどんどん傷がついていく。

修復されないのは聖なる攻撃だからだ!

天使ちゃんの鋭い剣撃で悪鬼の金棒が弾かれる。


「これで終わりだ!地獄に落ちなさい!」


天使ちゃんはトドメの一撃を振るう。

ここが地獄なんだけどね。

脳天をかち割っちゃえ!

聖剣が悪鬼に届こうとした瞬間、悪鬼は聖剣を素手でつかんだ。

もう片方の手で天使ちゃんの首をつかむ。


「ぐえっ!」


首を絞められた天使ちゃんの手から聖剣がすべり落ちる。

悪鬼は天使ちゃんを押し倒した。


「体が傷つかぬように手加減してやったぞ。清潔感のある美少女は大好物じゃ」


天使ちゃんを組み敷いた悪鬼はゴソゴソと動き出す。

あたしは怒りで完全にぷっつん来た。


「もう怒ったぞ~~~~~~!」


体からすごい力があふれてくる。

闘気を感じたのか悪鬼が驚いて振り返った。


「キサマ鬼だったのか。鬼なら多少乱暴に抱いても壊れぬな。こりゃ拾いもんじゃ」


ガハハと笑う。

鬼?

頭に手を触れると角の感触がした。

なんで?

いや、混乱している場合じゃない。

あたしは金棒をイメージする。

手に金棒が出現した。

大地を蹴る。


「んっ?消えた?」


悪鬼の頭を金棒で吹っ飛ばす。

悪鬼はどさりと倒れた。

体は修復されない。

あたしが善鬼だからだね。

天使ちゃんは立ち上がり服の乱れを正す。


「ケホケホッ。ありがとう小鬼ちゃん」

「ほかの悪鬼も退治しに行くよ」

「お願い。地獄を救って」

「まかせて!」


疾風と化して地獄の坂道を下る。

悪鬼たちと獄卒たちが戦ってる。

天使たちも加勢していた。

あたしは加勢する。

つぎつぎに悪鬼たちを一撃でほふる。

救世主の登場に苦戦していたみんなの顔が輝いた。


「小鬼よ。暗黒龍もなんとかならんか?あいつが1番やっかいじゃ」

「やってみる」


空を見上げると天使たちが弓や剣で暗黒龍を攻撃してる。

ペガサスに乗った鬼たちも金棒を振り回していた。

噴石と同じで黒い炎を浴びれば浴びるほど悪鬼はパワーアップするにちがいない。

放っておけないね。

あたしは大ジャンプして暗黒龍に飛び乗る。

たて髪をつかんで金棒で頭をボコった。

ぐしゃっと音がする。


「ぐええええええええッ!」


暗黒龍は涙目で墜落した。

龍にも脳があったみたい。

暗黒龍は溶けて黒いタールみたいになった。

大歓声が上がる。

ドヤ顔して見せた。


「大軍が閻魔庁に向かっておる!殲滅(せんめつ)してくれ!」

「あい」


ダッシュジャンプで閻魔庁まで移動する。

群れをなして閻魔庁を目指して来てた悪鬼たちに突撃する。


小鬼無双だ!


金棒を縦横無尽に振り回して悪鬼たちを蹂躙(じゅうりん)した。

黒鬼たちが怯えてわれ先にと逃げ始める。

鬼が出たッ!とか言ってるけどあんたたちも鬼だかんね。

全滅させるまで手は抜かないよ。

サクサク片付けて残りは一匹だ。


どこへ逃げた?


遠くのほうで逃げ足の早い悪鬼が転んでるのが見える。

弱者にしか威張れない弱虫はだいっきらい。

電光石火の速さで追いかけた。


「おや?」


現場に到着すると尻もちをついてガクガク震えてる悪鬼を罪人たちが取り囲んでる。

最下層の罪人たちまで駆けつけてた。

混乱に乗じて逃げ出したな。

閻魔帳でも燃やそうとしたのかな?


「悪鬼サマァ!どうかわれらの力をお使いくだされぇ!」


罪人たちは正座して拝んでる。

罪人たちの体から発せられた黒い煙がすごい速さで黒鬼に吸収されていく。


怨念パワーを黒鬼に集めてる?


悪鬼は立ち上がった。赤い瞳にはいっさいおびえがない。


「美しい童女は無限に犯す」

「もうしゃべんないで。気持ち悪いから」


ジャンプして金棒を頭に振り下ろす。

どうせあたしの動きは追えてないでしょ。

と思ったら悪鬼は金棒で止める。

ガシィイイイン!って音がした。


強くなってる!


悪鬼と金棒で殴り合う。

罪人たちの怨念パワー恐るべし。

永遠に近い時間、処刑や拷問を繰り返されたらそりゃ怨みもつのるか。

厳しい刑罰で罪人が反省して悔い改めるっていうのは希望的観測だね。

罪と向き合い反省して悔い改める罪人もいるんだろうけどみんながみんなそうじゃない。

罪を犯す人の多くは幼少期の虐待や貧困、孤立、精神疾患など愛情やケアを受けられなかった背景があるから地獄で適切な教育や精神的ケアをほどこすことで根本的な原因が治療できるんじゃないかな。

この件が片付いたら閻魔大王様に提案してみよう。


お互いの顔面やお腹に金棒がめり込む。

全身全霊を込めてるから一撃一撃が超重い。


「がはっ!」

「ぐほっ!」

「まだまだぁ!」

「悪悪悪ッ!」


爆発音がしてあたしの金棒が砕け散る。

消耗品だったんだ。

勝機を得た悪鬼はにたぁと笑った。

光速で頭を回転させる。

魔力が減っちゃってるから同じ強度の金棒が作れるとは思えない。

弱い強度だとまた砕かれるだけ。

それなら素手でいきますかぁ!

しゃがみ込んで悪鬼の太ももをつかんで持ち上げる。

肩車だ。

ドシン!と地面に叩きつける。

背後にまわり全力で首を絞めた。


「ぐえええええ!」


黒鬼の口から怨念が抜けていく。

ぐきっと首の骨を折った。

なむあみだぶつ。

戦いは終わった。

立ち上がって罪人たちを見回す。

みんな悲鳴をあげて逃げていった。

鬼がどれだけ怖がられてるのかよくわかる。

地獄が大混乱すれば自由になれるって希望を抱いたんだろうけど、その希望は見事にあたしが打ち砕いちゃいました。

柔道やっててよかったぁ。

力を急速に失う。

もうくたくただよ。

地面に大の字に寝転がった。

赤い空は落ち着かないけど、眠くなったので寝る。

一瞬で意識は闇に落ちた。


◯⚫️◯


翌朝。

あれってぜんぶ夢だったのかな。

朝のホームルームでぼうっとしていると先生が入ってきた。


「転校生を紹介します」


先生がうながすと1人の美少年が教室に入ってくる。


「キリュウです。どうぞよろしくお願いします」


女子から黄色い悲鳴が上がる。

背の高い美少年にニコッとされたらみんなまいっちゃうよね。

でも、あのニコッはあたしに向けられたものだからね。


休憩時間、女子生徒に囲まれてるキリュウくんの手を引っ張って屋上に連行する。


「キリュウくん生きてたの?」

「死んだよ。閻魔大王様が人間として生き返らせてくれたんだ。年齢もきみに合わせてくれた。きみへのごほうびだって」

「ありがてぇ」


閻魔大王様に感謝の祈りを捧げる。


「いまは大豪邸に住んでるんだ。お金にも不自由ない。いつでもお嫁においでよ」


キリュウくんが人間界で問題なく生きていけるように閻魔大王様が用意してくれたんだな。

いや、あたしのためでもあるか。


「ああ・・・うん。心の準備ができたら行くね」


どうしよ。

今日でもいいけど、はしたないと思われるかな。

3日ぐらいはちゅうちょしてるふりしよう。


「まさかあたしが鬼だったなんてびっくりしたなぁもう」

「まさかきみが高校生だったなんてびっくりしたなぁもう」

「やさしくされたくてだまってたの。かわいいと思って許して」

「べつに怒ってないよ。事故にあいそうな子供たちを助けた時に鬼の力に目覚めたみたいだね」

「あたしあの時、軽トラを素手で止めたみたい。火事場の馬鹿力じゃ片づけらんないよね」

「力に目覚めたショックで意識を失って地獄に迷い込んだみたいだ。調べたらきみは酒呑童子の子孫

で最強の鬼の遺伝子を継いでる」

「親は鬼じゃないよ?」

「覚醒遺伝だね。きみがいないと地獄は終わってたよ。あのタイミングで地獄にきみがいてくれてほんとうによかった」

「みんなの日頃の行いがよかったんだよきっと」

「火山に怨念が溜まらないように天使たちが1000年に一度浄化の祈りを捧げに来てくれるんだ。それで噴火を防いでた。刑罰を受けるために地獄を行き来していた罪人がほかの罪人たちと示し合わせて強烈な怨念を生み出したせいで噴火が起きた。テロみたいなもんさ」

「あしたみんなで強烈な怨みの念を発しようぜ!って約束して実行したって感じ?」

「そうそう。ちょっと考えられないぐらいすさまじい怨念を生み出してたから罪人になるような人間はやっぱり執念が強い」

「その執念をいい方向に使ってもらいたいもんだね」

「完全同意。地獄ではほかの階層の罪人とひそひそ話ができないように監視を強化したよ。でも、また騒動があればよろしくって閻魔大王様からきみへの伝言」

「まかされた!」

「きみならそういうだろうって」


あたしたちは顔を見合わせて笑った。

それからすぐにキリュウくんと一緒に暮らし始める。

両親もキリュウくんを気に入ってくれてよかった。

地獄の話はみんなに話して回ってる。

あんまり信じてくれない。

それはそうだよね。

地獄を信じてくれたらこの世から悪人はいなくなる。

じっさい見てもらうほうがはやい。

鬼の力を使って独裁国家の親分たちの首根っこ捕まえて地獄に連行することにした。

鬼には地獄門を呼ぶ力があるみたいで生きたまま地獄に連れてって「今のままだとこうなるよ?ちょっとでも罪を軽くしたら?」とおどす。

獄卒が悪ノリしてちょっとだけ拷問を体験させたりね。

独裁者たちはみんなおしっこちびって泣き叫んでた。

体験であれならホントに地獄に落ちた時、心がもたないよ。

お腹を突き出して威張り散らしてる独裁者が醜態(しゅうたい)をさらすのはみっともなくてあきれちゃう。

獄卒たちは笑い死にしそうになってた。

他にも有名な悪人たちを捕まえて地獄を観光ツアーさせた。

闇バイトに手を出しそうな不良とかもね。

そしたらみんないい人になった。

地獄はさいきん、暇になったみたい。


金銭的にも時間的にも余裕ができたみたいだから、閻魔大王様に罪人の人権を尊重して愛情と精神的ケアを与える方法を提案したら試しにやってみてくれるって。


あたしってばあまちゃんだから性善説を捨てきれないんだよね。


見えないけど天国行きのパスポートは完全に手中にありそう。

行こうと思えば天国も行けるだろうけど天国観光ツアーは死んだ時のお楽しみ。

死ぬのが楽しみ。

善きことを成し悪しきことを避けて生きてるから罪悪感はないし今日もあたしは快眠だ。

めでたしめでたし♩

じごくくのそうべえという絵本が大好きでいまでも読み直します。地獄は怖いけど怖いもの見たさっていう感情はだれしもありますよね。鬼の血を引いて覚醒するってどうしても幽☆遊☆白書を連想させてしまいますがオマージュということでお許しを。冨樫作品リスペクトしてます。

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