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小鬼ちゃん

あたしは鬼山鉄子。15才の高校一年生である。

チビだから小鬼っていう不本意なあだ名がついてる。

背を伸ばすために睡眠もしっかり取ってるし運動もしてる。


たのむ伸びてくれぇ!


部活は柔道部だよ。

階級制があるし巴投げや背負い投げは背が低いと有利。

ちびを生かしてる。

恋人はいない。

恋愛はまだあたしには早いと思ってる。背が高い人が好き。

けっこう告白されたりラブレターもらうけどピンとこない相手だからぜんぶ振ってる。


ある朝、登校していると子どもの列に軽トラックが突っ込んできた。

カバンを投げ捨て地面を蹴って駆け出す。

そこから先の記憶はない。


目が覚めると河原にいた。

空が赤い。それにちょっと暑い。

遠くに岩山や針の山が見えた。

まわりを見ると石を積みながら泣きじゃくる子供たちがいる。

みんな白い服を着ていた。

虎皮のパンツをはいて金棒を持った鬼が子供たちを見張ってる。

せっかく積みあげた石を鬼が蹴っ飛ばして崩す。

子どもはまた一から積み上げていた。


ここ賽(さい)の河原じゃん。流れてるむらさきの川は三途(さんず)の川にちがいない。


あたし死んじゃった?


周りには泣きながら賽(さい)の河原で石を積む子供たちがいる。

たしか親より先に死んだ子供に対する刑罰だよね。

あたしもやらなきゃだめ?

獄卒が近づいてくる。


「どうした?迷子か?」

「そうかも。あたし死んじゃったの?」

「ここにいるってことは死んだんだろう。閻魔大王様のところで裁きを受けてこい。待っていればそこの船着場に船が来る」

「うん」


あたしは石切りしながら船を待つことにする。

おっ、最高新記録!

しばらくしてガイコツがこぐ船がやってきた。

乗ろうとすると三文銭(さんもんせん)を要求される。

ポケットにはハンカチしかない。

ハンカチをあげた。


「手首に巻いたらおしゃれだよ。巻く?」


うなずいたので手首に巻いてあげる。

船に乗り込むと船頭は舟唄を歌いながら船を漕ぎはじめた。

よっぽどハンカチが気に入ったんだな。

メロディはドロドロしてるし歌詞は地獄の拷問で苦しむ囚人を描いてて怖い。

地獄で聞くのにふさわしい曲だね。


船着場で降ろされる。

ガイコツにバイバイした。

てくてく歩いてると立派な建物が見えてくる。

きっとあれが閻魔庁だ。

船を降りて建物に向かって歩くと門が見えてきた。

門をくぐって進むと裁判所みたいなところにたどりつく。

金棒を持った赤鬼と青鬼があたしをにらんでる。

やっぱり閻魔庁だ。

閻魔大王様は閻魔帳をめくる。


「キサマはまだ死んでおらん。そのうち目が覚めるじゃろう」

「まじで?あ~よかったぁ。賽の河原で石積みなんてしたくなかったし」

「キサマは今回、大勢の子供を事故から助けておる。かりに死んでおっても刑罰は免除じゃった」

「そうなんだ。あたし天国行き確定なのか。ラッキー♩」

「この先、ひどい悪行を重ねなければの」

「がんばる!」

「まれにこういうことがある。目が覚めるまで自由にしてええぞ。奥に休憩室がある。テレビでもみておれ」


テレビ?

放送内容が気になりすぎる。

鬼の漫才やコント見てみたい。

でも、それはあとでいいかな。


「目が覚めるまで地獄を見学したいんだけど?」

「ええぞ。起きたらみんなに地獄の恐ろしさを教えてやれ」

「おまかせあれ!」

「おい。キリュウを呼べ」

「はい!」


青鬼がどこかへ走っていく。


「お呼びですか?閻魔大王様」


しばらくして和服を着た背の高いスラっとしたイケメンのみどり鬼が現れた。


わお!好みかも。

涼しい目元がいいね。


体温の上昇を感じる。


「おう。この子に地獄を案内してやれ」

「わかりました。こっちにおいでおちびちゃん」

「鉄子だよ。小鬼でも可」

「小鬼ちゃん」


キリュウに手をつながれる。

子どもじゃないんだけどなぁ。

まあいいや。


キリュウといっしょに地獄を歩く。


「鬼の加護を授けてあげるよ。鬼守(おにもり)!」


キリュウが祈るとあたしの体が光った。

暑さをほとんど感じなくなる。


「ありがとう!」

「どういたしまして」


キリュウはウィンクする。


「地獄は罪の重さに応じて8つの階層に分かれてて下に行くほど苦しみと刑期が上がるんだ。これから八大地獄を案内するよ」

「楽しみ!」

「地獄観光ツアーへようこそ」

「なんで服を着てる鬼と裸の鬼がいるの?」

「裸なのは罪人を怖がらせるためだよ。マッチョなのも怖い顔なのも同じ理由さ」

「へーっ。おもしろーい」

「ボクも脱ぐとけっこうマッチョだよ。人手が足りない時は文官も現場の仕事を手伝うからさ。鍛えてるんだ。ふだんは罪人リストをまとめたりしてる」

「文官は顔が優しい人が多い?」

「そうだね。怖い顔の人はいないな」

「適材適所なんだね」

「怖い顔の練習も鏡の前でしてるよ」


キリュウはキリッとした顔を浮かべる。

ぜんぜん怖くない。


「かっこいい!」

「ははは。ありがとう」


イチャイチャしてると最初の地獄にたどり着いた。

広いグラウンドで罪人たちがチャンバラしてる。

悲鳴や怒号が響き渡っていた。

まさに地獄の風景って感じ。


「ここはレベル1の等活(とうかつ)地獄。殺生(むやみに生き物を殺す)とここに堕とされる。罪人同士が鉄の爪で肉を裂き合い、死んでも涼風が吹くと生き返り、また苦しむんだ。刑期は約1兆6653億年」

「戦争してるみたい。こわ〜い」


キリュウにしがみつく。

刑期長すぎだし。

強い罪人が生き残ってバンザイしてるけど、蘇った罪人に報復されて倒されてる。

復讐の連鎖はキリがない。

むなしいことしてんなぁ。

獄卒たちはあぐらをかいて手を叩いて応援してる。

スポーツ観戦みたいな感覚かな。

なんか食べてるし。

売店もある。

馬券みたいなのちぎって捨ててるしだれが勝つか賭けてる?

予想屋っぽい鬼もいた。


「放置プレイでもいいんじゃない?」

「監視してないと脱走するからね。監視してても脱走しようとする罪人もいる。そんな時は追っかけて捕まえて引き戻す。集団脱走する時もあるんだ」

「大変な仕事だね」


ちょうど目の前に脱走してきた罪人が飛び出して来た。

追いかけて来た赤鬼が金棒で頭をつぶす。

ぐちゃっとなって目玉が飛び出した。

ひっ!?

罪人は足を引きずられて刑場に戻される。

「ご苦労様です!」って獄卒に声をかけると振り返らず手をひらひら振ってくれた。

衝撃映像を見たせいで胸がドキドキする。

お化け屋敷よりよっぽど怖い。


「だいじょうぶ?」

「だいじょうぶい!」


ピースで平気をアピールした。

どんどん道を下っていく。

ちゃんと整備されてるから歩きやすい。

鬼はいい仕事するなぁ。

ワクワクしながらつぎの地獄に向かう。

さっそく悲鳴が聞こえてくる。

熱く焼けた鉄の地面に倒された罪人が熱く焼けた鉄の縄で身体をぐるぐる巻きにされて線を引かれていた。


「ここはレベル2の黒縄(こくじょう)地獄だよ。殺生 + 窃盗をするとここに堕とされる。熱い鉄の縄で体に線を引かれ、その線に沿って斧や熱い鋸(のこぎり)で切り刻まれる。身体がバラバラになっても風が吹くと元に戻りこの責め苦が延々と繰り返されるんだ。さっきの等活地獄の約10倍も苦しいとされているよ。刑期は約13兆3225億年」

「万引きもダメ?」

「アウトだね。金額の大小に関わらず盗みの罪とみなされる」

「きびちぃ!」

「善行すれば悪行から差し引かれるし消しゴムぐらいなら小指一本斬られるぐらいですぐ釈放だよ」

「釈放されたら天国?」

「すぐ転生だね。低スペックの人生ハードモード。いい来世を送ろうと思ったり天国に行こうと思ったらそうとう徳を積まなきゃムリだよ」

「ううっ。がんばりマウス」


手で頭の上にネズミ耳を作る。

天国行きが決まってるとはいえ油断したらあっという間に地獄に転落しそう。

ゴールテープを切るまで足を緩めないようにしよ。

ずっと観てると気分が悪くなるのですぐ次の地獄に向かう。

また悲鳴が聞こえてきた。

地獄は悲鳴が止むことがない。


「鬼さんたちはみんなよく平気だね?」

「慣れるとクラシックみたいなもんだよ。聞くと落ち着く。いい悲鳴だと今日は獄卒がいい仕事してんなぁって思う」

「第九みたいな?耳の奥にずっと残りそう」

「録音して売られたりしてるよ。名盤は大ヒットさ。ディスコでかけて踊ったりね。悲鳴の合間にいい命乞いが入ってる」


拷問されてる罪人の悲鳴や命乞いを聞いてリラックスしたり踊ったりするなんて考えられないなぁ。

感覚がちがいすぎる。できれば天国で暮らしたい。


次の地獄に案内される。

罪人が悲鳴を上げながら血まみれで木登りしていた。

その木は葉っぱが刃物だ。

刀やカミソリみたいになってる。

ぜったいのぼりたくない~!


「レベル3の衆合(しゅごう)地獄だよ。殺生 + 盗み + 邪淫(不倫・浮気)の罪で堕とされる。鉄の山に押し潰されたり、剣の葉を持つ木(刀葉林)を登らされたりする。さっきの黒縄地獄の10倍の苦しみさ。下の階層に降りるごとに10倍苦しみが増すんだ。刑期は約106兆5800億年」

「木に上に美女やイケメンがいるよ?」

「幻覚だよ。誘惑されてのぼるんだ。頂上まで登っても彼女たちは下に降りてて永遠に会うことができない」

「にんじんをぶら下げられて走る馬みたいな。残酷だなぁ」

「それだけのことをしたのさ。他人の心と体を深く傷つけた」

「こうなると分かってたらやらないよ~」

「木が愛する不倫相手に見えて抱きつくと熱い鉄の柱でドロドロに焼けただれたりもする」

「誠実に1人だけを愛し抜けば良かったのに」

「それがむずかしいのさ」


木に逆さ吊りにされてる罪人もいる。

子供のころお寺で観た地獄絵図にそっくり。

あれってあたしみたいにホントに地獄を観光した人が描いてたんだ。

ずっと空想だと思ってた。

人間の想像力ってすごいなって。全部ホントだった。

木のぼりから逃げ出した大勢の罪人が獄卒と鬼ごっこしてる。

みんな1ヶ所に追い詰められた。


「見てごらん。鉄の山が動き出した」


両側の鉄の山が動いて罪人たちを押しつぶす。

大がかりなアトラクションだ。

獄卒たちは爆笑して大はしゃぎしてる。

蘇った罪人は刀葉林(とうようりん)に戻された。

繰り返される惨劇かぁ。みちゃらんないよ。

これでレベル3とは。

持つかあたしの心?


ドキドキしながら次の地獄に向かった。

どんどん深くなるね。

悲鳴にも慣れて来た今日この頃。

みんな元気に泣き叫んでる。


「レベル4の叫喚(きょうかん)地獄だよ。殺生 + 盗み + 邪淫 + 飲酒(酒に溺れて悪事を働く)の罪で堕とされる。熱湯の大釜で煮られたり、熱く溶けた銅を口から流し込まれたりして叫び声を上げる。約852兆6400億年」


大勢の罪人が釜茹(かまゆ)でにされていた。


「ここには他人を釜茹でにした罪人もいる。地獄では現世で他人に味合わせた痛みと同じ痛みを味合わされてるんだ」

「そうなんだ。因果応報だね」

「あっ!あのひとみたことある!」

「知り合いかい?」

「体の小さいサル顔のひと。歴史の教科書で見たの。戦国時代のえらい人だよ」

「あのサルは本来、もっと下の階層の罪人だよ。地獄めぐりさせられてるのさ」

「思い出した!石川五右衛門を釜茹でにしたんだよ。人を釜茹でにするってよくないね」

「鬼は釜茹でなんて残酷な処刑を思いつかない。人間がやってるから刑罰に取り入れた」

「人間って鬼より残酷なんだ。見た目で判断しちゃいけないなぁ」

「悪人は人相が悪いって言うのは本当だよ。小鬼ちゃんがいい子だってことは一瞬でわかった」

「ふふ。小鬼はいい子です♩」


黄色い鬼が「見学ならもっとそばで見たらどうだ?」と誘ってくれたので近くに行く。

釜茹でにされてる罪人同士の会話が聞こえた。


「この熱さはたまらんわい。こんなむごいことするんじゃなかったのぉ」

「サル殿はマシですよ。わしゃ1000人も釜茹でにしたからあと900回も熱湯風呂ですわ。ガハハ」

「犬千代殿にくらべればマシかぁ。信玄殿はあと何回じゃ?」

「5回じゃ」

「息子殿は?」

「10回にござる」

「ジャムカ殿は?」

「20回でござる」

「董卓殿は?」

「これで最後じゃ」

「それはめでたい!」

「めでたいものか。わしは気に入らぬやつの舌を切り取る、目玉をくり抜く、手足を切り落とすなどのむごい行いをさんざんしてきた。むりやり去勢させて宦官(かんがん)としたこともある。何人そんなことをしたか覚えとらん。しかし、閻魔帳には正確に記載されておる。わしはこれから同じ目に遭うのじゃ」

「耐えるのじゃ。耐えるしかござらん」

「悔い改めましょうぞ」


歴史の教科書で聞いたことある名前の人たちがお通夜みたいな顔で熱湯に浸かってる。

生前はいばってた人がしょぼんとしてる。

そういうところもおもしろおかしくて鬼たちはゲラゲラ笑ってるんだろうなぁ。

湯船がゴボゴボ言ってるし入ったら一瞬でしぬね。

獄卒たちはビールをおいしそうに飲んでる。

ざんこくぅ。


死んだらカルマから逃げられるわけじゃないんだなぁ、と思いながら次の地獄へ向かう。

いままでよりもっと大きな悲鳴が聞こえてきた。

激しい責め苦が想像されるね。


「レベル5の大叫喚(だいきょうかん)地獄だよ。殺生 + 盗み + 邪淫 + 飲酒 + 妄語(重大な嘘をつく)叫喚地獄よりさらに過酷な道具で責められ大号泣する。刑期は約6821兆1200億年」


詐欺師はみんなここに来るんだね。

罪人が熱鉄の鋭い針で口や舌を何度も刺し貫かれてる。

牛の頭をした鬼が罪人の舌をやっとこで抜いてるのはちょっとおもしろい。

舌を抜かれるのは本来、牛のうほうで焼肉屋で焼いて食べられてる。

熱い鉄の床でダンスさせられている罪人もいた。

獄卒たちは楽器を弾いて音頭をとってる。

テレビクルーも来てた。


「地獄のテレビって罪人の苦しむ様子を映してるの?」

「そうだよ。前世に何をしたのかもナレーションで教えてくれる。だから罪悪感もないし悪い奴が罰を受けてスッキリするよ」

「クイズとかドラマとか映画はないの?」

「あるけど、罪人を映した番組が1番高視聴率だね。番組の企画で被害者を探して呼び出して直接、やられたことをやり返させたり、罵詈雑言(ばりぞうごんj)を浴びせたりすることもある。どんなに辛く悲しかったか。痛い思いをしたか。怖かったかなんかを本人に伝えるんだ。被害者の家族が復讐することもある。ペットが登場することもあるよ」


自分の生前の罪を直接被害者から責め立てられるのは嫌だなぁ。

獄卒が見てるから反抗もできなだろうし。

被害者にとっては胸がすっきりするか。

被害者感情を考えた刑罰だね。報復刑だね。

執念深い被害者は永遠に加害者をいためつけそう。

やはりひとの恨みを買うべきじゃない。


「被害者は天国まで探しに行くの?」

「地獄にいることもあるよ。罪を犯さない人間はいないからね。罪人が罪人を罰したりね。それもおもしろいよ。おまいう?みたいな感じで」

「加害者を許す人もいる?」

「いるね。心が広いのは天国の住人が多い。魂のレベルが高いんだろうなぁ」

「罪人を罰するのもひとつのエンタメなんだね」

「ボクたちも同じ毎日で退屈しないようにいろいろ考えてるのさ」


退屈を嫌うのは鬼も同じだとわかった。

おもしろくないと仕事のモチベーションが下がるもんね。


キリュウに地獄クイズを出されながら次の地獄へ向かう。

いやぁ、ほとんどわかんない。

鬼なら子どもでもわかる問題みたい。

有名な罪人の名前と罪状なんてむりだよ。

有名な罪人のイケメンランキングや美女ランキングを答えるクイズもあるって言うから倫理観が歪んでる。

いや、人間界でもやってるひといるか。

あたしにはよくわかんない感覚だ。

クイズを楽しんでいると新しい地獄にたどり着いた。

獄卒に殴打されて倒れ込んだ罪人が串刺しにされている。

あらゆる方向から押し寄せる猛火に焼かれていた。

身体を解体されてる罪人もいる。

目、鼻、口、手足なんかを肉団子のようにバラバラに分解されて猛炎に投げ込まれている。


「レベル6の焦熱(しょうねつ)地獄だよ。殺生・盗み・邪淫・飲酒・嘘の罪に加え、因果応報の道理を否定する「邪見(じゃけん)」の者や、仏教の教えに反する誤った教えを説き広めた者が堕ちる地獄だよ。常に全身を猛烈な炎で焼かれ続け、息を吐くこともできないほど苦しむ。刑期は約5京4568兆年」


宗教は人を支配するために利用することも多いからね。

ブッダやキリストがこの場にいたらそんなこというかな?って考える視点も必要だね。

人を支配するために誤った教えを説いたならずっと焼かれ続けるのも仕方ないかも。

この刑罰には邪心まで焼いて灰に返そうとする強い意志を感じる。


地獄は続くよどこまでも。

地獄の歌を教えてもらいながら次の地獄に向かった。

到着すると空にまで炎が満ちてる。

こんな大きいキャンプファイヤー見たことない。


「レベル7の大焦熱(だいしょうねつ)地獄だよ。殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄語、邪見、尼僧・童女などへの強姦。焦熱地獄の10倍の炎で焼かれる。一瞬の安息も与えられない。刑期は約43京6551兆年」


剣で体中の皮を剥がれ、そのまま灼熱の地に置かれて熱鉄(ねってつ)を注がれてる罪人もいる。

まじで痛そう。


「ヘビがうじゃうじゃいるよ?」

「鋭い牙を持つヘビが獄卒に縛られた罪人の肛門から侵入して内臓から脳まで食い尽くして頭部を食い破り外に出るのさ」

「想像することができない恐怖と痛みだね。でもロリコン撲滅(ぼくめつ)するためにはしょうがない刑罰かも」


煮えたぎる川に放り込まれて地獄の魚に食べられてる罪人や大きなうすに入れられて獄卒にきねでおもちみたいにこねられて肉団子にされて食べられてる罪人もいる。

意識はあるのか肉団子にされても悲鳴をあげてる。

獄卒はおいしそうにむしゃむしゃ食べてる。

ぜったい食べたくない。


「魚や鬼に食べられてどうやって復活するの?うんち?」

「肥溜めから復活するよ。悪臭がするから、いったん業火で焼いて殺してからふたたび魚のエサにしたり肉団子にして食べてる」

「食物連鎖の頂点の人間が食べられる側に回るなんてねぇ。悪いことはほんとするもんじゃないねぇ」


バタフライやクロールで逃げてる罪人もいるけどけっきょく魚に食べられてる。

人間の生存本能ってすごい。

逃げ切れるわけないのに。

川で思い出す。三文銭なかったら泳いで閻魔庁まで行かないといけないの?ってキリュウに聞いたらなくても乗せてくれるんだって。サービスがよくなるだけみたい。サービスって歌かぁ。あれサービスになるかなぁ。首をひねりながら次の地獄に向かう。


地獄の食事についてキリュウに聞いた。

天国から輸入してて人間界と変わらないみたい。

えらい人はおいしいもの食べてるんだって。

そういうのはどこの世界も変わらないね。

ペガサスの馬車で食料が運ばれてくるっていうんだからオシャレ。

たまに鬼たちはペガサスに乗って遊ばせてもらうみたい。

シュールな絵面だなぁ。

鬼は龍に乗るのが似合いそう。


好きな食べ物で盛り上がっているとついに地獄の最下層にたどり着いた!

七重の鉄の城壁に囲まれた燃えてるお城が見えて来た。

城壁の周囲は刀葉林だ。


「無間(むげん)の火城(かじょう)だよ。罪人を閉じ込めてる」

「脱走不可能だね」

「火を噴く大蛇や鉄の蜂、銅の犬、64の目を持つ怪物が見回ってる。逃げたら彼らのえじきさ。監視カメラがあるから捕まってひどい目にあってる様子を観てみんな楽しんでる。ひょうきんな鬼がナレーションをつけるんだけどこれがまた最高に面白いんだ」

「珍プレー好プレーみたいな感じだなぁ。完全にエンタメ化してるね」


城に入ると古今東西ありとあらゆる拷問道具がそろっていた。

罪人たちは暗い顔で整列して自分の番を待ってる。

あたしが武闘家じゃなかったら失神してるね。

もはや悲鳴はBGMだ。


「お待ちかね。レベル8無間(むげん)地獄だよ。別名:阿鼻(あび)地獄。殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄語、邪見、仏教の正しい教えを著しく汚す罪、父母・阿羅漢(あらかん)(聖者)殺害。四方から絶え間なく(無間)炎と責め苦が押し寄せ、最も重い苦痛を味わう。いままでの地獄の1000倍以上の苦しみを味わうよ。刑期は約349京2413兆年」


せっ、1000倍ッ!?


さすが地獄の最下層だ。えぐいなぁ。

ここにくらべたらほかの地獄は天国だね。


柱に縛られた罪人が三角木材の上に正座させられてる。

太ももの上に重い石のブロックを4つも乗せられていた。

獄卒は左右に揺すって苦痛を増していた。


「石抱きだよ」

「ぬいぐるなら抱きたい」

「刑罰にならない」

「いやされて人の心を取り戻すかも」

「ちょいワルていどならかわいいものづくしの牢獄に閉じ込めるのもありかもね」

「かわいいは正義!」

「ごもっとも」


牛の置物に押し込まれてる罪人がいた。


「牛さんがいるよ?」

「あれはファラリスの雄牛(おうし)だね。真鍮(しんちゅう)製で牛の腹の下で火を燃やして加熱する。内部で人間が苦しんであげる悲鳴やうめき声が、牛の頭部に仕掛けられた音響装置(筒や管)を通ることで、まるで本物の怒った雄牛の鳴き声のように聞こえる仕組みになっているんだ。作成者が最初に入れられた。ほんとに鳴き声が牛のように聞こえるか確かめろって言われてね。作製を命じた独裁者ファラリスも市民の反乱で自分も投げ込まれたんだよ。おもしろいよね」

「おもしろいかなぁ?自業自得だとは思うけど残酷だよ」

「きみはやさしいねぇ。地獄にいると残酷に対する耐性が増すから長居しないほうがいいよ」

「ラジャー」


天使も感覚が麻痺するから地獄が嫌いなんだね。きっと。

ギロチンやアイアンメイデンとか見るだけで怖い処刑道具が並んでる。

絞首刑台、電気椅子、銃殺場などなどめまいがしちゃうね。

自分が現世で他人にしたことをされてるだけなんだろうけど、同情してしまう。

前のひとが罰を受けるのを観てから自分も受けるから恐怖が増す。

罪人にいっさいの配慮がないのが地獄らしい。

拷問を待つ例に知っている顔がずらりと並んでいた。


「ここにも歴史の教科書で見たことある人たちがいる」

「世界虐殺ランキングの上位者だよ。なにをしたかぜんぶ知ってるから獄卒もいっさい容赦しない。被害者のために心を鬼にしてる」

「もともと鬼では?」

「そうなんだけどね。ボクらは善鬼だよ」

「悪鬼もいるの?」

「罪人の怨念を浴びすぎて悪鬼化する鬼もいるけど天使を呼んですぐ浄化してもらうよ。天使の歌は心にいい。童心に帰れるよ」


童謡みたいなイメージかな。

悲鳴と命乞いで楽しんでる人が天使の歌声にも感動するって感性が変だよ。

それはそれこれはこれなのか。


「天使みてみたいなぁ」

「用事がない時はぜったい来ない。あまり地獄はお気に召さないみたいだ。きみは天国に行くだろうからその時に会えるよ」

「100年後かな」

「一瞬だね」

「鬼からすればそうかもしれないけど人間には長いよ」


音楽的感性も時間の感覚もズレてる。

鬼と結婚するのはむずかしいかもね。


あたしでも知ってる世界的に有名な虐殺王たちが並んでる列の先を見やる。

うわっ!最悪だ!

肥溜めから柄杓(ひしゃく)で新鮮な肥料をすくってあおむけの罪人の顔に少しずつ注いでる。


「くそ問いだね。クソ喰らえの語源さ。少しでも息をしようとすると口や鼻に糞尿が入り、非常に苦しい思いをする」

「これって罪を自白させるために行う拷問だよね?」

「そうそう。だから現世で犯した罪をぜんぶ思い出せって問いただしてる」

「思い出せた罪人いる?」

「いないね」

「ムリゲーじゃん」


精神に毒だし匂いもひどいから離れることにする。

恐怖支配のために民衆を苦しめて虐殺とかしてたんだろうけど、やはり神様は全部見てて相応の罰を与えるんだなぁ。

地獄テレビを地上波で流せばいいかもね。

異世界まで電波が通らないか。

ざんねん。


このあと八寒地獄も案内された。

鬼の加護がなかったら超寒かったはず。

1番最下層には全身が完全に裂けて大蓮華のような姿になった罪人がいっぱいいた。

針の山を登らされてる罪人たちも見た。


八寒地獄をめぐったあと地獄門を守ってるケルベロスにも会わせてくれた。

3つの頭を持つ犬だ。

頭をなでると笑顔になった。

笑うとかわいい。

毛並みもいいしだいじに育てられたんだねぇ。

たわむれてると慌ただしくなってケルベロスが険しい顔で駆け出して行く。

追いかけるとちょうど近くの刑場で集団脱走が起きたみたいでケルベロスがぜんぶ食べてた。

テレビクルーが舌なめずりしながらドローンで撮影してる。

高視聴率は間違いなさそう。


「どう?地獄は楽しかった?」

「うん!テーマパークみたいだった!帰ったらみんなにぜったい悪いことしないほうがいい!って宣伝するね!」

「ぜひそうしておくれ。地獄がヒマになるほうがボクらも楽でいいからさ。いまはブラックな職場だよ」

「閑古鳥(かんこどり)が鳴いてる地獄もおもしろそうだね。みんな何するの?」

「天使と合コンかな」

「あは。めっちゃウケる」


坂を登って閻魔庁に戻ってると突然、どっかーん!ってすごい音がした。

びっくりして振り返ると火山が噴火してる。

やばっ!

巨大な真っ黒い火山雲が立ち込めてる。

噴石も降ってくるよね?

ここまで届くかな?


キリュウがあたしと握った手を離し祈りのポーズをとった。

参考文献・引用

Wikipedia

地獄はひとつじゃ無かった!。地獄の全貌徹底解明!八大地獄をイラスト付きで紹介します。

ネット記事

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