後編
side里奈
結局、あの後岡山先生にはこっぴどく叱られた。
全部あいつのせいだ、私は最初ちゃんと課題終わらそうとしてたし。
夕焼け色に染まった帰り道を一人で歩く、今の季節、夏の香りがして時折猫の鳴き声が聞こえてくる帰り道。途中まではあいつと一緒だったけれどここから先は私だけ。
私はこの帰り道が嫌いだった。
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「どうしたの?そんなFXで全額溶かしたような顔して」
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あいつ……酒井康太の第一声はそれだ、父親が亡くなって意気消沈していた私にかける言葉じゃないだろう。FXで全額溶かした顔ってなんだ。
正直イラッときて、かなり粗雑に扱ったような気がする。あまり覚えてないけど。
でも同じクラスで同じ委員会で同じ部活で、あいつはずっと話しかけて来た。別に私が特別って訳じゃない、あいつは顔が広くて、色んな人に話しかけてた。
でも、それでもそれが私は嬉しかった。
お父さんが病院で死んで、ずっと病院に泊まり込みして介護していたお母さんはすっかりと塞ぎ込んでしまった。
お母さんはお父さんのことを愛してた。いや、夫婦としてはそれが当たり前だとは思うけど、二人は本当に誰が見ても凄くラブラブだったと思う。
だから、葬式が終わった後お母さんは部屋に引きこもってしまった。ご飯を置いても食べなくて、だから私は今まで手伝いしかしていなかった家事を全て行っていた。
正直疲れてたんだと思う。お母さんの方がずっと悲しいからって泣けなくて、お母さんが今まで家事と介護をしてたんだから私がサボるわけにはいかないって自分を追い込んで。
でも、あいつと話して、少しずつ休めるようになった。あいつはいつもサボってたから。
あいつと話して、少しずつ泣けるようになっていった。あいつはいつも泣き言をいっていたから。
あいつと話して、お母さんと話せるようになった。あいつが、喋れる時に喋らないと後悔するって言ってくれたから。
あいつが直接なにかした訳じゃない、私が勝手に救われただけ。
それでも……
それでも、私は酒井康太が好きだ。
……今日も告白出来なかったな。
鞄の中にはラブレターが入っている。今日渡そうと思っていたもの。結局渡せなかったけど。
それでも、私は今日も諦めない!
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side康太
カーテンの閉じた自室の中、蝉の声もしない無音の空間で。
目の前で揺れる輪に首を通す。
遠くから公園で遊ぶ子供の声が聞こえてくる。一緒に遊んでいるんだろう父親の声が重なって、楽しそうだ。
いいなあ、俺もサッカーとかで遊びたい。童心に返りたい。
勢いよく足元の台を蹴る。
ぐい、と首が絞まって痛い。
もがきそうになるのを我慢して、息ができないままにその時を待つ。
ブチッ
縄が切れた。支えが無くなった俺の体は、それなりに大きな音を立てて床に思いっきり打ち付けられた。
クソ痛ぇ
縄を見上げると見事に真っ二つにちぎれていた。特に細工をした訳でもない、ホームセンターで買ったばかりの新品の縄が。
「あーあ」
また、今日もダメだった。
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高校生になってバイトを始めた。
自由に使えるお金ができて、いい機会だから家族に日頃の感謝を伝えるための贈り物を買おうと思った。
だが、良い贈り物が何も思いつかない。
ちょっとお高めなネクタイとか便利な家電でも買うか?
両親へ贈るプレゼントが何も思いつかないまま、ソファーに寝転がりながらテレビを眺めると、チャンチャラチャラ〜と軽快な音楽が流れ始めた。
「エンヨウジャーヒーローイベント!札幌イベントドームで開催。6月~9月まで!」
そんなCMが目に入った。確か弟…翔太はエンヨウジャーが好きだったな。
どうせだし、北海道旅行でもプレゼントするか。他に何も思いつかないしな!
普通に金が足りなかった。まあ、そりゃそうである。
そんなにシフトを入れていない高校生の給料なんてそんなもんなのだろう。
己の銀行残高を眺めながら項垂れる。
仕方が無いので、貯めていたお年玉とお小遣いとなけなしの給料で両親と弟の分のチケットは手に入れた。俺の分は金が足りなかった、つまり俺はお留守番ルートということ。
「行ってきまーす!お土産期待しててね!」
「行ってくるよ」
「おにーちゃんいかないのー?」
玄関から出ていく三人に手を振って、翔太が走ってコケているのを眺めながら家の中に戻る。
チケット代でほとんど無一文になってしまったが、楽しんでくれたらいいな。
誰もいないリビングを眺める。家に一人きりというのは結構久しぶりで、いつもなら怒られるだろう行動をしても誰にも怒られないのは開放感があった。
ソファーで寝っ転がりながらスマホを眺めてスナック菓子を好きなだけ食べる。ついでにテレビもつけちゃう。
こんな行動お母さんに見られたら絶対に怒られるな。いましかできない。
少しずつ日が暮れて来たので、シャッターを下ろして洗濯機を回してニュースを付けた。
真面目そうな美人がニュースを読み上げている。
緊急速報と銘打たれたその番組からは随分と聞き覚えのある航空の名前が聞こえてきた。
「ただ今、緊急ニュースが入りました。先程、シアン航空株式会社の北海道行き20XX便が墜落したという情報が……」
俺が手配した便の名前だった。
……そこからはあまり覚えていない。気づいたときには手続きも葬式も終わっていた。
親戚の人が手伝ってくれた、と後で聞いた。
なんだか全てがフワフワしていて現実味がなくて、本当は全てが夢だったんじゃないかと思って頬をつねっても、痛みは当然あって。
まあ、つまり家族が俺のせいで死んだということは現実だった。
……なんとなく、浴室で手首を切ってみた。どこかの情報で湯船に浸すといいと聞いた事があったから、手首を水に浸しながら。
湯船に張った水が少しずつピンク色に染まっているのを眺めながら、襲ってきた眠気に従い目を閉じた。
起きたときには傷は綺麗に塞がっていた。
川に飛び込んでみた。別に川であることに特別な理由がある訳では無い。ただ、電車は迷惑だと聞いたことがあったから。いやまあどこで死んでも迷惑なんだろうが。
木に引っかかってかすり傷しか負わなかった。
ドアノブで首を吊ってみた。飛び降りてみた。刃物で腹を刺してみた。頭を壁に打ち付けてみた。カーテンレールで首を吊ってみた。海に飛び込んでみた。車の前に飛び込んでみた。樹海にだって行ってみた。
全部無傷だった。おかしいだろ
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今日は首吊りをしてみたけれど、縄が切れた。新品だったんだぞ?それにそれなりに高いやつ買ったのに……
もう絶対ホームセンターの店員さんに顔覚えられてるよ俺。また縄買ってるヤバって思われてるよ。
正直、なんかもう死ねないような気はしている。
……それでも
それでも俺はこの罪悪感に耐えられないんだ。
……もしかしたら、俺のせいで死んだ家族は俺に苦しめと言っているのかもしれない。まあそんな人達じゃないとは思うが。
……もしくは俺に生きて欲しいのかもしれない。
でも、俺は
それでも、俺は今日も諦めない!
おまけの登場人物紹介(蛇足)
主人公その一。酒井康太くん
家族が死んだ子。罪悪感に耐えられない
飛行機と戦隊ヒーローが苦手。
ヤケクソで生きている。やかましい性格は自暴自棄の現れ。
実はトラウマでテレビを見ることが出来ない。
家のテレビには布がかけられている。
主人公その二。早乙女里奈ちゃん
父親が死んだ子。母親との関係は今は良好。
両親のことが大好き(親愛)。
康太くんが好き(恋愛)。康太くんに毒されている。
早乙女栄二さん
里奈ちゃんのパパ。元から体が弱かった。
早乙女ママのことが大好き(恋愛)。ラブちゅ
酒井翔太くん(幽霊)
康太くんの弟。康太くんを助けているのはこいつ。
完全なる善意。お兄ちゃんが苦しそう!助けなきゃ!の意思。
お兄ちゃんが大好き(親愛)。
酒井ママ&パパ
成仏済み。




