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前編

湖宮市江津知町


南湖宮高等学校二年三組


俺の所属する集団の名前である。


俺の名前は酒井康太、南湖宮高等学校に通う華のある高校二年生だ。


突然だが、諸君らは高校生と言えば何を思い浮かべるだろうか?


ふむふむなるほど、不正解だ。答えは青春だ、少なくとも俺にとっては青春だ。


高校二年生と言えば爽やかな青春と甘酸っぱい恋愛に溢れる人生でいちばん充実する時期である。(俺調べ)

さらに今現在の時刻は17時半、数々の初々しい恋愛が発達する時間帯である。(当社比)


その上、今この教室に残っているのはクラス一の美少女(諸説あり)な早乙女里奈。俺と美少女が二人きり、もはやこれは天が恋愛をしろと言っているに違いない。


「……うるさいわよ、黙って手を動かすこともできないの?そんなんだから放課後居残りになってるのよ」


里奈ちゃんは辛辣だ。


「ちゃんと動かしてまーす。というか里奈ちゃんだって居残りじゃん」

「それは、その。……岡山先生厳しいのよ!そもそも先生が急にわたしに……」


里奈ちゃんはぐちぐちと愚痴を吐いている、……ダジャレじゃないよ?


あーわかるわかる岡先厳しいよねー


「適当な共感ね、口より手を動かしなさい」

「ちぇー」


里奈ちゃんは真面目だ。

……まあ仕方ない、居残り中なのだから静かに課題を進めるべきか。


…………


……夕日が差し込む教室、酷くうるさい蝉の声が教室内の生徒の集中力を刺激する。


空いた窓から入り込んだ風がいたずらに彼女の髪を踊らせた。

舞い上がる髪を抑えた彼女を横目に捉えた男子生徒の胸は一生分の鼓動を使い果たすほどに脈打っていた……


「……うるさい!そのモノローグやめなさい!」

「そしてふとこちらを向いた彼女が男子生徒に微笑みかけ……」

「続けるな!!」

「そんなに怒らないでよ、ちゃんと小声だったでしょ?」

「喋るなって言ってるのよ私は……!」

「注文が多いなー。眉間に皺よるよ?」

「…………」


あっ黙った。


「……」


おっ?これはもう喋らないやつか?


カリカリと紙とペンが擦れ合う音が俺と彼女しかいない教室内に反響する。


「……」

「……」

「……」

「……」

「…………やっぱりなにか話さない?」

「……」

「……ごめんって」

「……」

「……急に静かになられると調子狂うのよ」

「……」

「…ごめんっ!ごめんって!申し訳ございませんでした!」

「許す」

「うわぁ急に喋るなっ!」

「酷い……酷くない?」


自慢じゃないが俺と彼女の付き合いはかなり長い。

最初はかなーりそっけない態度だったが俺がだる絡みしたお陰で、今は立派なやかましい女と化している。そのためいくら集中するために静かにしようと耐えられないようになっているのだ!(説明口調)


「どうでもいいけどさ、自慢じゃないけどから始まる話って大体自慢だよな」

「なんで急にそんな話を……?」

「お前もよく自慢じゃないけどから話始めてそうだしな」

「なにそれ?悪口?喧嘩なら買うわよ」

「やめて、りなぴん強い、ゴリラの仲間」

「りなぴんはもっと可愛いですー!りなぴんは多分カピバラとかの仲間だから。こうぴょんはクオッカ」

「さらっと呼び方受け入れないで、あと俺クオッカなんだ」

「こうぴょんにはツッコまないの?」

「俺の名前こうぴょんじゃなかったっけ?」

「記憶を改竄してる……!?」


俺の名前は酒井こうぴょんだか?戸籍にもそう書いてある。


「ていうか、アレね」

「なに?」

「酒井こうぴょんって弱そうね」

「はあ?お前馬鹿言えお前、俺はあれだぞ?戦隊ヒーローで言うなら追加戦士ブラックだからな?敵に回して済むと思うな」

「急に早口、そんなに気に入ったの?その名前」

「いや別に、弱そうだし」

「さっきまでのはなんだったの!?」


信じられない物を見るような目でこちらを見る里奈ちん、そんな目でッ俺を見るなッ!


「あー、そういや志島さんの駄菓子屋前の自販機に冷えたコンポタがあったよな、アレ美味しいのかね?」

「美味しかったわよ。私コンポタ嫌いだけど」

「嫌いなのに買ったのか……?」

「140円」

「今のご時世だと安いな……?」

「世知辛いわね」


やっぱ値上げって世知辛い。


「私、黒井悠人が好きなんだけど」

「俳優の?」

「そう。見間違えかもしれないけどこの前東京に行った時見かけたのよね」

「オチは?」

「かわいい女の子とKissしてたわ」

「発音がネイティブ」

「やっぱイケメンは彼女がいるのねー」

「目が死んでる」


「あっ!今飛行機が通ったぞ!うおー!」

「早く課題やりなさいよ。ていうか何?飛行機見てそんな興奮してるの?小学生?」

「俺飛行機キライなんだよね」

「情緒どうなってんのよ」


俺飛行機キライでち><


「そういえば一昨日家をリフォームしたの、お母さんがおばあちゃんの為にって」

「オチは?」

「うちおばあちゃんいないのよ」

「なんて?」

「うちおばあちゃんなんていないのよ」

「えっ???」

「最初からいないの」

「???……え?怖い話してる?」


「あっ!あー!そういやさ!この前夏特番でホラー特集したよな!」

「それ話ズラしたつもり?あんまり話ズラせてないわよ。ていうか貴方テレビとか見るのね」

「岡先に聞いた!」

「岡山先生そういうの見るんだ……やっぱり自分で見たわけじゃないのね」

「最近の子供はテレビ見ないからね」

「世知辛いわね……!」

「さっきから俺ら世知辛い言い過ぎでは?」


みんなティック〇ックとかショー〇動画ばっか見てるよね。面白いからね、ああいうの。


「バイト先にやばい客が来たのよ」

「具体的には?」

「ドリンクバーのコップで神経衰弱してた」

「?」

「コップの中にカードを仕込んで、コップを開けた時に同じ柄のカードが入ってたらカードを取れる。多く取った方が勝ち」

「思ったより神経衰弱。カードって何?トランプ?」

「トランプだったら仕込む意味無いでしょ」

「そりゃそう」


「例え話って面白くない?」

「例えば?」

「あー、じゃあここに押すと10万円貰える代わりに、全国のカメムシが岐阜県に集まるボタンがあるとす」

「押すわ」

「即答。早くない?まだ言い切ってないんだけど。どんだけ岐阜県民に恨みがあるの」

「岐阜県民に恨みというか……昨日ベッドの上にカメムシがいたのよね」

「アッ……なるほど」


俺は神妙な顔で頷いた。


「カメムシinTheベッド……なるほどね」

「何が『なるほどね』よ」

「まって声真似上手くない?」

「『俺と〇豆子の絆は誰にも引き裂けない!』」

「うっっっま!え?やば上手すぎでしょ」

「練習したからね」

「なんで?」


クソくだらない話で盛り上がる。これが青春ってワケ

段々と空が暗くなっていく……やばい


「まってまだ課題全然終わってねぇ」

「私も終わってないわ、いやでも岡山先生は今日結構記念日だから浮かれて遅くなるかも……!」

「え?岡先結婚してるの?知らないんだけど」


「おーい!終わったかー!」

「あっ、岡先だ。岡先来た」

「あっあっあっ」

「聞いたこともない声出してる」

「まだ全然進んでないじゃないか、これじゃ明日も居残りだな」

「\(^o^)/オワタ」

「課題は終わってないのに俺らの人生終了ってわけか、ウケる」


いやウケないが?(真顔)

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