第30話 謎のルールと「変わった子」
小学校という真新しい世界は、私の目にはひどく奇妙な場所に映った。
教室という四角い箱に三十人近くの子供が押し込められ、先生の号令一つで「みんな一緒に」同じ行動をとらされる。じっと椅子に座り続けること、みんなと同じタイミングで歌うこと、そして何より「男の子らしく」「女の子らしく」振る舞うこと。
そこには大人が勝手に決めた無数の「謎のルール」が存在していたが、私には「なぜそうしなければならないのか」という合理的な理由が全く理解できなかった。
当然のことながら、私のちぐはぐな出で立ちは、無邪気で残酷な同級生たちの格好の標的となった。
「なんで女の子なのに黒いランドセルなの?」
「男の子の服着てる! 変なの!」
休み時間になるたび、好奇心とからかいの入り混じった視線や言葉が、四方八方から遠慮なく飛んでくる。普通の六歳の女の子であれば、恥ずかしさで顔を真っ赤にして泣き出したり、こんな格好をさせた親を恨んだりする場面だろう。
しかし、理不尽な暴力と先の見えない孤独の中で、感情がすっかり麻痺してしまっていた私には、同級生たちの無遠慮な言葉など微塵も響かなかった。人から怒られたり、集団から浮いたりすることに傷つくような柔な心は、とうの昔に失っているのだ。
(荷物が入れば何色でも同じなのに、なんでこの子たちはそんな無駄なことにこだわっているんだろう)
私は飛んでくる言葉を、ただ冷めた頭で静かに分析していた。からかいや好奇の目を向けられても、私にとってはまさに暖簾に腕押し状態である。「何それ、私は私だから」と、どこまでも飄々と受け流し続けた。
からかう側からすれば、これほど面白くないターゲットはいないはずだ。泣きもしなければ、怒りもしない。ただ何を言われても「だから何?」という顔をして、平然とそこにいるのだから。
その圧倒的な温度差に、同級生たちは次第に気味悪さや張り合いのなさを感じたのだろう。入学してしばらく経つ頃には、周りの子供たちも私をからかうのをやめ、自然と「変わった子」として扱うようになっていった。
腫れ物のような扱いを受け、教室の中でぽつんと孤立していく私。しかし、それは決して悲劇などではない。むしろ、意味不明な同調圧力や面倒な人間関係から解放され、自分だけの静かな安全地帯を確保できた気分だった。
私はこの「変わった子」という特等席から、バグだらけの学校という小さな社会を、引き続き冷ややかに観察していくこととなる。




