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第3話 副業×呪いの人形

第3話更新です。

今回の依頼は呪いの人形です。

導入部分となりますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

―――斗南(となん)警察署―――


和馬は警察署内にある個室に案内された。

「念のため、リュックの中身を確認させてください。」

若い制服警官に言われ、和馬はリュックを開けて、中身を警察官に見せた。

「お仕事は何されてますか?」

若い警察官がリュックの中身を見ている間、もう一人の中年の警察官が質問した。

「3か月前からハーブティ専門店をやってます。」

「ハーブ、ねぇ…。」

中年の警察官が意味深に呟く。


リュックの中身を確認していた若い警察官が小さなチャック付き小袋を取り出した。

小袋には乾燥させたハーブが入っていた。

若い警察官は中年の警察官と目を合わせる。

「これ、もしかして鮫島がやってる商売の…。」

若い警察官は小声で中年の警察官に話し、空気が一気に変わった。


「これは何ですか?」

「それは、ステビアといってうちの店でも取り扱っているハーブです。お茶に入れると甘くなるやつで…。」


「大麻なんじゃないですか?」

若い警察官は、鋭い視線を和馬に向けながら聞いた。

「た…大麻!?ちがいます!」

「念のため、調べてもいいでしょうか?」


「いいですけど、大麻とか、違法なもんじゃないですよ。」

「違法かどうかは我々が判断します。戸田警部補を呼びます。」

若い警察官は中年の警察官に小袋を渡して部屋を出ていった。


「あのバーにいた理由は?」

中年の警察官は和馬に椅子に座るよう促した。

「高田さんの依頼でおばあさんの家の掃除を頼まれてて、その依頼料をもらいに行きました。そこにガラの悪いおっさんたちがいきなり襲ってきて…。」


「あんな明け方近くに依頼料をもらいに行ったんですか?」

「今日中にもらいたくて。そうしないと、店を追い出されるんで。」

「鮫島という男を知っていますか?鮫島と仕事をしたことは?」

「知りません。今日初めて会いました。あの、これってなんの捜査ですか?」


――バタンッ!!


突然、個室のドアが勢いよく開き、大柄な角刈りの男が入ってきた。

「よぉし!お前らよくやった!!!こいつを大麻所持で逮捕だ!!!」


「た…逮捕!?」

和馬は驚きのあまり立ち上がる。


「戸田警部補、証拠もないのに、いきなり逮捕はできませんよ。」

中年の警察官はため息交じりに、角刈りの男改め戸田警部補に話した。

「あ!?そいつのリュックから大麻の入った小袋を見つけたんだろ!?」

「そうです、警部補!私が発見しました!」

警部補の後ろから先程の若い警察官がひょこっと顔を出して、アピールした。

「検査はこれからです。」

中年の警察官は若い警察官を睨みながら言った。

「お…俺、逮捕されんの!?」

「なんだよ、検査はこれからかよ。じゃぁ、ついでに尿検査もしとけよ!」

戸田警部補はそう言い残し、部屋から出ていった。

「尿検査!?だから!ステビアだって言ってんだろうが!!」

「板橋さん、落ち着いてください。我々は鮫島の捜査をしているんですよ。」

動揺する和馬を落ち着かせつつ、中年の警察官は捜査内容について説明した。


鮫島は犯罪グループのリーダーで窃盗や恐喝、違法薬物などで金儲けしている。

その金でバーを開店し、店長にしてやる、独立もできるなどと甘い言葉で若者を誘って、自分のグループに取り入れ、金を搾取していた。売り上げのノルマに届かない時は暴行を加え、時には犯罪に加担するよう強要する。実際にそれをきっかけに逮捕される者もいた。警察は3年に及ぶ捜査の結果、鮫島グループの一斉摘発に乗り出した。


「違法薬物も扱う犯罪グループのリーダーである鮫島の経営するバーにいて、重要参考人の高田俊彦の仕事をしていた、かつ怪しげなハーブを持っている板橋さんは、可能な限りこの捜査に協力していただいた方がいいかと思いますよ。戸田警部補にも言いましたが、証拠がなければ、今すぐあなたを逮捕することはできません。早く協力いただければ、早く帰れます。まずはそのハーブの簡易検査と尿検査にご協力ください。」


若い警察官が鑑識担当者を連れて戻ってきた。

試薬の色が変わったら大麻だと説明を受けるも、結果は当然ながら陰性。


続いて、尿検査。

和馬は若い警察官から採尿カップを渡され、トイレに移動する。

個室で採尿することになったものの、ドアは完全には閉められない。

「終わったら教えてください。」

ドアの外で若い警察官が腕を組んで立っている。


誰かの視線を感じていると、出るものも出ない。

和馬は、採尿カップとにらめっこしながら、しばらく頑張ってみたものの、結局出ず。

「あのぉ…頑張ってるんですけど、出なくって。」

しょんぼりしながら、和馬は採尿カップを若い警察官に戻した。


「少し時間をおきましょう。」


和馬はトイレ近くの長椅子に座らされる。

若い警察官は長椅子の近くにあるウォーターサーバーに近づき、備え付けの使い捨て紙コップに水を入れた。

「これ、飲んでください。足りなければ、自分で好きなだけ飲んでもらっても構いません。」

そう言いながら、和馬に水の入った紙コップを渡すと、少し離れた場所に座った。


はぁ―――。

水を一気に飲み干し、和馬は深くため息をつく。

疲労と眠気で体がだるい。

目を閉じると、大家のおばちゃんの顔がちらつく。

―――金どうしようかな、さすがに追い出されるだろうな。



「あの、すみません。」

途方に暮れる和馬は男の声で話しかけられ、目を開けた。


目の前に赤と黒の(こす)れたような汚れが無数に入った茶色のチノパンとグレーのパーカーが見えた。視線を上げると、顔の半分がぐちゃぐちゃになった血だらけの男が立っている。


「っ!!」

思わず和馬はビクッとする。


男の様子からチノパンとパーカーに付いていた赤い汚れは血だと気づいた。

擦れたような黒い線は何かに引きずられたような印象を受けた。

おそらく、交通事故で車に引きずられて亡くなったのだろう。


もちろん、他の人にはこの男の姿は見えず、和馬の横に座っている若い警察官も全く気にしていない様子だ。


「俺のチャリの鍵知らないっすか?」

和馬は首を横に振る。

「どこいったんだ?この辺で落としたっぽいんだよなぁ。」

そう言いながら、血だらけの男は近くの自販機の下を覗いた。


「お兄さん。」

今度は別の男が声をかけてきた。

声の方へ向くと、長椅子から少し遠くの壁際に長めのトレンチコートを着ている50代くらいの男が立っていた。

トレンチコートの男も周りの警察官が反応しないことから、霊なのだろう。


警察署は事件、事故を扱っている性質上、念が集まりやすく、こうして彷徨う霊が多くいる。さっきの男もこのトレンチコートの男もそういった事件や事故に巻き込まれ、無念のうちに亡くなっていったのだろう。


「いいもの、見せてあげようか?」

トレンチコートの男は頬を赤らめながら、ニヤニヤして言った。

―――まさか。


「ほらぁ。」

トレンチコートを広げ、自分のイチモツを和馬に見せつける。

―――嫌なもん見ちまった。


「ほらほらぁ。」

トレンチコートの男はトレンチコートを広げたり、閉じたりを繰り返し、イチモツを見せたり、隠したりしながら近づいてくる。

―――なんか近づいてくる!!!


「こっちのお兄さんも。」

和馬の横に座っている若い警察官のすぐ目の前でトレンチコートの男は踊るように腰を左右に振っている。


目の前で左右に揺れる霊のイチモツがあることなんて誰も想像もしないだろう。

若い警察官が見えていないのが本当に救いだ。


トレンチコートの男は若い警察官が気に入ったのか、執拗に左右に腰を振ったり、トレンチコートを広げたり、閉じたりを繰り返している。


ふわっ…

トレンチコートを広げた時の風が若い警察官の顔を撫でる。

「ん?風?なんか…くせぇ。」


「ト…トイレ行ってみていいですか?」

和馬はこの地獄絵図を見ているのが耐えられなくなり、立ち上がった。

「お、出そうですか?」

若い警察官も立ち上がり、トイレの方向に歩き出す。


―――早く帰りたい、まじで。

和馬は採尿できることを強く願いながら、トイレの個室に入っていった。



トイレに入った和馬は、数分の格闘の末、なんとか採尿することができた。

結果は、もちろん陰性。

持っていたハーブも大麻ではないこと、和馬自身、尿検査でも大麻成分が検出されなかったことで帰宅できることになった。


「また聞きたい事があれば、連絡させていただきます。」

中年の警察官は和馬に念押しのように言った。


晴れて解放された和馬は、警察署の入り口へ向かった。

途中、さっきのトレンチコートの男と血だらけの男がいた自販機の前を通りかかった。

相変わらず、トレンチコートの男はニヤニヤしながらこちらを見てくる。


が、突然ハッとしたような表情で廊下の先を見つめた。

「来るっ!あいつが来る!」

そう言うなり、怯えた表情で消えていった。


和馬はトレンチコートの男が見つめた先を凝視した。

そこには、40代くらいの制服を着た警官がこっちに歩いてくるのが見えた。


「っ!!」

警官の背後から物凄く嫌な空気を感じ、その警官が近づいてくるたびに重たく、息がしづらくなってくる。


3m先まで警官が近づいてきた時、警官の両肩に真っ黒な手が乗っているが見えた。

その警官の表情は暗く、目の下に大きなクマができている。


すれ違う時に思わず、息が詰まりそうになる。

トキコとは違う、陰湿で悪意の塊の存在、つまり悪霊と言われているものだ。

振り向くと、肩から腰まで真っ黒な靄がべったりと憑いている。


強烈な怨念を発しているが、あれは本体ではない。

ただの残り香のようなもんだろう。


警察署に悪霊の本体がいれば、和馬はここに入った瞬間に気付いたはずだが、何も感じなかった。

そして、あの憑かれ方は、すでに自宅に入り込まれているに違いない。


―――このまま関わらない方が安全か。でもこのままじゃ、あの警官はきっと死ぬ。



「なぁ、あんた。」

迷った挙句、和馬は警官に声をかけた。


「え、私?」

振り向いた警官の頬は痩せこけて、目の下のクマがひどい。


「家に嫌なもんが入り込んでるみたいだ。このままじゃ、あんた…死ぬぜ。」


言われた警官は和馬を虚ろな表情でじっと見つめている。


「…はあ?」


次回、警官の家で起こる怪異とは?

はたして、和馬は警官家族を救うことができるのか?

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