第15話 副業×廃旅館(2)
前回の続きです。
今回は短めですが、読んでいただけると嬉しいです。
―――朝露村―――
朝露村は月の草から車で1時間半のところにある。
山間の小さな村でかつては有名な温泉街で賑わう村だった。
川沿いには、お土産屋や小さな旅館が軒を連ねているものの、観光客はなく、どの店も閑古鳥が鳴いている。
山間の一際目を引く白い建物が朝露旅館だ。
係長の運転する車は朝露旅館までの道を探しながら、川沿いの道をゆっくり進んでいた。
「人気のない村だな。」
和馬は店が並ぶ道を眺めながら呟いた。
「昔は活気のある温泉街だったらしいが、源泉が枯渇して一気に衰退していったらしい。温泉以外に目立った名所もないしな。」
「今や小さな旅館と寂れた商店があるだけか。」
すっかり楠家の一員になった藁男こと、雛子の祖父である銀治が作った藁人形は係長の肩に乗ってすやすや眠っている。
「行方不明になった大学生って、心霊スポットって知った上で行ってたのか?」
「姉が言うには、オカルト関係は全く興味がなかったらしい。だからあそこの旅館が心霊スポットってことも知らなかったんじゃないかって言ってたぜ。」
「知らなかったとはいえ、心霊スポットなんて行ったら何かしら呪われそうだけどな。」
「心霊スポットに行って悪いことが起こる、呪われるっていうのはただの迷信だ。」
「そうなのか?」
「本当に霊がいる心霊スポットはごくわずかだ。多くの心霊スポットって言われている場所は、そこで起こった事故や事件の噂、廃墟特有の不気味さや暗さ、静けさによる心理的な影響から怖い場所として広まっていることがほとんどだ。」
「俺も通報を受けて心霊スポットに行った若い奴らを保護したことがあるけど、みんな顔面蒼白で体の不調を訴えている奴もいたから、てっきり呪われたのかと思ってたぞ。」
「人によっては、強い恐怖心から体調を壊したり、思い込みで不安になったりするだろうな。それにそういった場所には、幽霊や呪いよりも現実的な危険の方が大きい。例えば、廃墟だと老朽化による崩落や転落、割られたガラスによるケガとかな。」
「なるほど。今回も現実的な問題だといいんだけどな。」
「ああ、俺の気のせいならいいけどな…。」
―――朝露旅館―――
朝露旅館は主要道路から川へ少し下ったところにあった。
今回の行方不明事件のせいか、建物の前には警察の規制線が張られている。
「こりゃ入れないな。」
係長は車から降りると、規制線を眺めた。
「少し見るだけだ。」
和馬はそう言いつつも構わず規制線を潜り抜ける。
「おいおい!入るなって!テープに書いてあるだろ!」
係長は急いで規制線を潜り抜けて和馬を追いかけ、2人は廃旅館に入って行った。
「かなり豪華な造りだな。」
廃旅館に入るなり、係長は高い天井やシャンデリアを見上げながら呟く。
藁男も係長の肩に乗って、天井を見上げている。
和馬はあたりを慎重に見渡している。
「何か感じるか?」
係長は和馬に尋ねた。
「なんとなく感じるような…感じないような…?」
和馬は複雑な表情をしている。
「ここには何もいないって感じか?」
「いや、いないとも断言できない感じだ。」
和馬と係長は中庭に抜ける入り口を見つけ、そこから中庭に出る。
四方を建物に囲まれた中庭に太陽の光が差し込み、空から鳥の声や風に揺れる葉の音が聞こえている。
「ここがあの写真の場所だ。」
和馬は中庭に向いている窓を見上げるが、何もいない。
「なんとなく不気味だよな…。」
係長は少し怯えた声で話す。
「ここも霊の気配はあまり感じないな。」
「昼間だと感じにくいってこともあるのか?」
「時間帯は関係ない。昼間でも霊の気配を感じることはできる。」
「じゃぁ、霊の気配を感じないってことは、ここにはいないってことだな。」
「もう少し調べてみないとなんとも言えないな。上の階も見てみたい。」
「やめておけ。建物自体、かなり老朽化している。崩落の危険性もあるだろう。」
「確かにな。」
和馬はため息をつきながら、建物の窓を見上げた。
「警察だと、こういう時には、周りに聞き込みに行く。廃旅館のことや関連する事件について知っている人が村にいるかもしれないだろ。さ、行くぞ!」
係長はそう話すと、中庭から建物に戻って行った。
和馬も後に続き、建物に入る。
「まずは川沿いの店に行って聞き込みしてみよう。」
係長と和馬は話しながら、建物の入り口に向かった。
「止まれ!!!!」
2人が気付かないうちに、目の前に若い制服警官が警棒を持って立ちはだかっていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。




