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86話 三者三様インタビュー

【5時間前】


 ステージの裏側では、選手たちがぞろぞろと待機していた。

 それぞれ、白いテープで区切られた場所に立っている。すでに20チームの整列は終わっており、俺たちのチームは最後尾のほうにいた。


 今からはじまるのは、ステージ入場である。

 電甲杯においては、プレイヤーたちは華々しい入場をなかば強制されている。

 大半の選手たちからすれば自分の顔を売るためのイベントであるため、おそらくあったほうがいい演出なのだろうとは思うが、無論、俺からすると大変にスキップしたいフェイズであった。


 さらに困ったことに、俺たちには入場時にインタビューがあるとのことだった。

 理由は、事前におこなわれていた人気投票のせいだった。

 電甲杯では、すべての部門で事前に各チームへの応援投票があるのだという。細かな順位は出さずに、上位3チームが公開される仕様であるそうだ。

 その話を聞いたときに俺は嫌な予感がしたが、いつものごとくビンゴとなってしまった。


 応援投票の人気1位は、Quiet BearSであった。

 いわずもがな、99.99パーセント以上が、赤城さん人気によるものである。ていうか、へたしたら100パーセントだ。

 まあ、ひとりで何十万人も登録者を持っている選手なんて赤城さんくらいのものだから、意外性はないといえばないのだが。


「スタッフのひとにたしかめたところ、質問されるのは彼女だけらしい。どうせカメラもあのひとしか抜かないから平気だと思う」


 というのは翠の談であり、俺もまた同意するところではあったが、そうとはいってもカメラにまったく映らないというわけではない。

 壁や床のような存在でありたいと常日頃から願っているというのに、どうして……というのは、あまりに今さらすぎる話だが。

 わかってはいたことだが、電甲杯に出場するというのはそういうことなのだ。


 しかし、今はそんなことよりも――。


「クマ。あのひと、まだ帰ってこない」

「ああ。すぐに来るとメッセージは来ていたのだが」


 肝心の赤城さんと、まだ合流できていなかった。

 信頼できそうなマネージャーさんに託しているし、めったなことは起きないだろうと思っているものの、まさかまた桜花さんに捕まってしまったのではないかと、少しそわそわしてしまう。

 スタッフさんの案内があり、いざ入場がはじまろうというときになって、


「ごっめーーん! お待たせ、お待たせー!」


 と、赤城さんが向こうから駆けてきた。よほど全力で走ってきたのだろうか、肩で息をついている。


「赤城さん。間に合ってよかった」

「や、ごめんごめん。ファンミちょっとごたついて、長引いちゃって。もう、宇野ちゃんにもお尻叩かれて急かされてたんだけど、ちょっと直前で、だいじなもの置いてきちゃってたこと思い出して」


 なにかわからないが、トラブルがあったようだ。

 しかし、赤城さんはほとんど手ぶらである。なにを忘れてきたのだろうかと思ってしげしげ眺めてしまうと、スカートの部分になにかを挿しているようだった。

 なにやら小ぶりな旗のようなものにみえる。


「あ、きづいた? これ、お守り。本戦には持ってこようと思ってたんだ」

「なるほど。なんであれ、心残りなく臨めるようならなによりだ」

「ん。だいじょぶ、なんだかんだコンディション万全だし!」


 赤城さんは、たしかに元気そうに両手をぐっと握った。


「最後の確認だが、ゴールドチケットは持ってきているか」

「うん、ばっちりこのとーり! 宇野ちゃんが持ってくれてて、今さっき渡してもらた!」

「それと、どうもかんたんなインタビューがあるそうだが……」

「あー、らしいね。わかんないけど、なんか適当に答える!」


 それは、果たしてだいじょうぶなのだろうか……?

 入場がはじまり、選手たちがどんどんステージに向かって去っていく。

 このようなゲーム大会に出場する際の入場時に、委員長がどのように振る舞えばいいのかというのは、俺のマニュアルには当然ない。

 類似例として、運動会の入場と似たような態度で振る舞う以外になかった。

 だから俺は、胸を張っている。だがその内心は、緊張でバクバクだった。


 とうとう、順番がおとずれてしまった。

 渡されていた小型のインカムに、GOサインが下る。


『続きましては、LC学園の最後5枠目――ならびに、栄えある視聴者人気投票で1位を獲得した注目チーム! Quiet Girls所属、赤城愛莉さんこと"あいりん"率いる、Quiet BearSのみなさんです!』


 よーし行こっか! と赤城さんが踏み出していく。


 無駄に派手なライトの演出が入って、微妙に舞っている紙吹雪のなかを、俺も歩いた。大きめのカメラを構えたひとが、俺たちの前を中腰で後ろ歩きしていく。

 うわぁ……撮られている。

 思いっきり、撮られてしまっている。

 同接、何万人とかって言っていたっけ。いや、試合以外の部分はそこまでみられることがないのか……違うか、それこそ赤城さんがいるわけだから、むしろここだけ数字が伸びていたりするのだろうか。

 ばあちゃんに内緒にしてきてよかった。もしもこんなことを知られたら、店のプロジェクターで流されて、お客さんたちの笑い者になるに決まっている。


 せいぜい全部で20mほどのL字の道を歩くだけだというのに、異様に長く感じる。向こうのほうにみえるのは、観客席だろうか。逆光になっているが、たくさんのひとが座っているようだ。


 赤城さんは、慣れているどころの騒ぎではなかった。

 止まれと言われていた場所でストップすると、いくつかポージングを変えて、最後に有名なMVのポーズを取った。その途端、会場内が大きくワッと湧いた。

 こういうことがちゃんとできるから、彼女はスターなのだろうな。


『はーい。ではここで、ちょっとマイク失礼しまーす。聞こえていますかー? 実況・解説でおなじみの真白井ニャムでーす! こんにちは!』

「聞こえてまーす。え、てかニャムさんひさしぶりー!」

『ううー、あいかわらず光のギャルすぎて目が痛いくらいですねー、あいりんはw とにかく、人気投票1位おめでとうございます! 今のお気持ちを、ファンの方々に向けてお聞かせ願えますかー?』


 赤城さんに、カメラマンが近づく。

 そのカメラに向けて、赤城さんは満面の笑みで手を振った。


「はろはろー♪ オタクくんたち、みてるー? 投票おつかれー。きょうは絶対に優勝するから、女オタクちゃんたちは画面に向かって一生懸命念を込めてね!」

『このオタクくんというのは、ファンの男性たちを指すコミュニティ用語ですねー。これ、あいりんのときは毎回解説しているような気がしますw というか、応援は女性ファンだけでいいのでしょーか!』

「はいw オタクくんたちはー、投票が完了した時点で、もう仕事完了!w まー、でも? どうしても応援したいっていうなら、べつにしてくれてもいーけどねw」

『最後に謎のデレをいただきましたー! 会場からは一部野太い声もあがっておりますが、これもあいりんコミュニティの結束の強さといったところでしょーか!』


 なんだかうまい具合にコメントが回っているようだ。

 では、これで終わりだろうかと期待していると、


『えー、それでですね。第3回電甲杯においてはQuiet Girlsとしてゲスト参戦していたあいりんですが、今年はLC学園枠での出場になっています、と!』

「あー、はい。そうでーす、今回はチーム友達で来ました!」

『チームメイトの女性のほう――QB_Sui選手ですね――こちらのスイさんですが、なんと以前開かれた大規模イベントRTA in Tokyoにおいて、めずらしい現役女子高生プレイヤーとして取り上げられて話題となった方だそうです! RTAとは、ゲームのクリア時間を競うという特殊な種目でして――』


 インタビューが終わらなかったどころか、話が翠にいってしまった。


『しかもスイ選手は、なんとルシファー・オンラインをはじめたのが先月だそうです。ランクははやくもプラチナ帯だそうですが、電甲杯はじまって以来のビギナー参戦だということで、その点でも話題となっていました! プレイングにかんしては、不安などはないのでしょうか……? もしよろしければ、スイ選手、コメントをいただけますかー!』


 カメラが翠を捉える。俺が思わず振り向いて会場モニターを目に入れると、そこにはきょとんとした顔の翠が映っていた。

 予想外のことに、さしもの翠も少々困っている様子だったが、


「それでは、ひとつ。――わたしがやってきたRTAとは、論理と理屈を突き詰めて、同じ場面を反復して最適な結果を出す種目です。そこには、ほとんどアドリブの要素はありません」

『……なるほど?』

「なので、ルシファー・オンラインに誘われたとき、はじめはろくな活躍はできないと思っていました。ですが練習を重ねるうちに、あることに気づきました」

『はい、はいはい。えー、いったいなにに気づかれたのでしょうか』

「それは、RTAと同じやり方で、ルシファー・オンラインもある程度のところまでは攻略可能だということ。前哨戦の様子をみるに、サーチャークラスの役割なら、ほかのプレイヤーと大きく差のつかないプレイングができると、今は思っています」

『おーーーーっと、これはスイ選手、大きくでましたねーーー!!』


 もうひとりの解説のひとが、自信があるのはいいことですねーと、微妙に半笑いで口を挟んだ。赤城さんも、うわービッグマウスだ! とからから笑った。

 俺のほうは、少し戦々恐々とした気持ちになった。翠がインターネットで叩かれるようなことにならなければいいが……。


「や、でも、この子の飲みこみのはやさ、ほんと天才級だから! あとで実力もみせまーす。てか翠ぴさ、カメラあるからいっしょにやろやろ、ギャルピ」

「絶対にやらない」

「えー、なんでーw」


 カメラに乱入していった赤城さんに笑いが起きる。

 では、今度こそ終わりか……? と思うと、そうではなかった。


『そして最後! 女子ふたりに囲まれるかたちとなった、同じくLC学園から出場となるQB_Aguma選手ですが……現在の心境はいかがでしょうか? よければお気持ちを教えてくださいー!』


 ——どういうわけか、俺にまでマイクが回ってきてしまった。

 俺は、微妙な笑顔のまま固まってしまう。

 結局、チーム全員がコメントを求められるじゃないか。伝達ミスか、もしくは現場のノリでこうなったのかもしれないが、素人相手にアドリブはやめてくれよ……。


 俺の体内時間が、加速する。

 だれにも需要がないだろうに、俺の顔面を映すカメラ。

 遠くのほうで静まる客席。

 ちょっと心配そうに顔を覗かせるとなりの赤城さん。

 フリップに急いでなにかを書きこんでいるADらしき男性。


 先も述べたように、こういうときのための委員長マニュアルはない。

 それでも、俺は――――結局のところ、いつだって委員長であるべきなのだ。

 覚悟を決めて、俺はマイクに向けて声を発した。


「みなさん、こんにちは。自分は、LC学園で赤城さんと同じクラスで委員長を務めている者です。今年で開校から三年が経つLC学園ですが……本日は、画面の向こう側のみなさんに、当校の魅力をお伝えできればと思っています」

『ほお、なるほど……魅力、ですか?』

「ええ。ゲーマーにとっての環境に焦点が当たりがちなLC学園ですが、一般入試で入った生徒たちにとっても、非常に過ごしやすい校風となっています。勉強に集中できる設備とサポート体制が整っているほか、ゲーマーのみなさんに囲まれているというのもあって、自分のように、こうして運よく電甲杯に出場するという機会に恵まれることもあります。これは、ほかの学校に通っていたら、まず経験できなかった体験といえるでしょう」


 そこで俺は、ここ一番の委員長フェイスでカメラに向き直した。

 まるで選挙ポスターのように、拳をぐっと握る。


「画面の向こうの中学生のみなさん。ぜひ本日は楽しく観戦して、進学先の高校にLC学園を検討してみてください――本日は、誠心誠意がんばろうと思います。よろしくお願いします」


 一瞬の沈黙。そのあとに――。


『おおーーーーww これは、予想外でしたw ここにきて突然、LC学園の広報が入りましたねーw』

『でもたしかにこれまでのLC学園枠の選手たちと比べてみると、亜熊選手のようなかっちりとした高校生が出場しているというのは、かなりめずらしいかもしれないですね! なんといいますか、非常にクラス委員長らしい、りっぱなコメントでした』

『本大会との提携を筆頭に、なにかと真新しい側面の目立つ、新時代の新設校です。ゲームに青春を注いでいる中学生のみなさんは、先輩である現役在校生たちの活躍をみて、LC学園へのご入学を検討されてはいかがでしょーか!w』

『真白井さんも突然広報に切り替わりましたねw えー、それでは、Quiet BearSのみなさん、ありがとうございました! がんばってください!』


 ……ふう。なんとか切り抜けたか。

 コメントのエンタメ具合はともかくとして、学校を大事にしている委員長としては、なかなか型にはまった対応ができたといえるだろう。

 進行が再開して、ようやくPCの並ぶ選手台にたどり着くことができた俺たち。


 仰々しく立っている門番のような人間に、赤城さんが例のゴールドチケットを渡す。すると彼がガラス扉を開けてくれて、俺たちは透明のステージに入った。

 はやくもどっと疲れてしまったが、気を抜くわけにはいかない。


 まさしく、本番はここからであった。

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