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26話 しあわせの緑の鳥

 チームメイト探しをはじめてから、丸三日が経過した。


 俺と赤城さんは放課後になるとPCルームに集合して、合計八名となる候補者の生徒たちとルシオンをプレイした。

 どのひとも、ゲームの腕前は申し分なかったように思う。


〈FUGB〉の山下輝人くん、〈グラビティ・ワン〉の平井陽菜さん、〈スマテラ〉の海東美博くん、その他多様な遊戯《ゲーム》の一流と認められた特退枠の生徒たち。

 他タイトルのFPSで結果を残したひとはもちろんとして、それ以外のアクションゲームの実力者もルシオンに手を出しているひとが多いというのは驚きだった。

 さすがの覇権ゲーム、どのジャンルが得意なひとであれ触っていることが多いということか。


 だが、それ以上に驚いたのは。


「すまない、赤城さん……! 俺はもう、きみにまったく顔向けができない……!」

「いいんちょくん!? いや、顔向けできないからってホントに床に顔を貼りつけてるひとみるのは初めてなんだけど!?」


 ――俺が、想像以上にルシオンがプレイできなかったということだ。


 この三日、いろいろなタイプのプレイヤーと組んで、そのすべてで俺はみごとにやらかし続けた。普段の実力の、おそらく一%も発揮することはできなかった。

 そのせいで、メンバーの勧誘どころの騒ぎではなかった。むしろ、たとえあの赤城愛莉と組めたとしても、こんなお荷物がついてくるようなら組みたくないという態度を隠さずに退室していくひとばかりだった。

 最後の候補者である、上の学年の三木谷先輩が「話になんないでしょ、これは」と冷たく言い残して去っていったことにも、俺は怒りを覚えることさえなかった。


 さもありなん、だ。

 むしろ当然といえる。みんな、本気で電甲杯を勝ちに行こうとしているのだから。


「ちょっと、いいんちょくん、起きてよ! なんか真っ白になって燃え尽きてるけど、落ち込んでる場合じゃないじゃん!」

「いや、しかし……」

「原因から考えよーよ。やっぱ、知らないひとと組むって緊張しちゃう感じ? なにが問題で伸び伸びやれてないのかな?」

「……それ、は」


 赤城さんのまっとうな疑問を受けて、俺が反射的に思い出したのは、山下くんの言葉だった。

 ——委員長らしくない。

 そうだ……やはり、そういうふうに思われてしまうと、俺はだめなのだ。

 ゲームのなかとはいえ、敵を撃ってキルを取るのは、模範的な委員長のやるべき行為か? そういうふうに考えてしまう。

 本来であれば無視できる、封印しておける考えが、頭をもたげてしまうのだ。


 百パーセントいつもどおりとはいかなくとも、せめてあの日赤城さんとタイマンしていたとき程度には動けるはずだというのが俺の読みだったのに。

 三人目というのは、俺にとって想像以上のイレギュラーのようだった。


「とにかくさ、あたしも次の手を探すから、いいんちょくんも」 

「いや、俺のことはいい……! そんなことより、こんなところで油を売っている場合じゃないぞ、赤城さん」


 この状況の最前手を考えて、俺は顔を上げた。


「今の三木谷先輩は、おそらく相当の実力者だ。今からでも追いかけて、彼だけでも捕まえないと。そしてほかの候補者でまだ空いているひとに連絡して、三人でチームを組むんだ」

「どうして?」

「どうしてって……だって、赤城さんは優勝したいのだろう。だったら、勝てるメンバーで臨むべきだ。協力するなどと言っておいてこの体たらくなのは本当に申し訳ないが、今はそれよりも急ぐべきことがある。だからはやく」

「いいんちょくん、ちょっと黙ってもらえる?」


 床にめりこんでいる俺の顔に、赤城さんが触れた。

 両の手で、包み込むようにして俺の頬を覆い――そして、思いきり潰した。

「むぎゃる」と、人語らしからぬ声が俺の口腔から洩れた。


「あのさ、なーんかかんちがいしてるんじゃないかな?? それとも、かんちがいしていたのはあたしのほうなの?」

「な、なんのことだ……」

「いっしょにがんばる、いっしょに優勝するって言ったじゃん! あのとき、たしかにそう約束したよね? 蔦屋で、あたしたちそう話したよね?」


 赤城さんは、俺を叱咤するように言った。


「本当にスゴい、このひとは絶対に天才だって思ってたプレイヤー……ずっとファン活してた匿名熊に、いっしょにプレイしようって言ってもらえて、あたし本気でうれしかったんだよ?」

「あ、赤城さん……」

「だからあたし、なにがあってもいいんちょくんと出るし、切り捨てるなんてありえないから。それにさ、勝率を考えたって同じことだよ。そこそこのひとたちと組んでも、そこそこの結果になるだけ。『匿名熊』の力を借りないと、優勝なんて夢の夢だって、あたしそう信じてるから」


 めずらしく険しい表情をしていた赤城さんは、そこまで言うと、内に溜まった怒りを吐き出すかのように深く息をついた。

 目を開いたときには、いつもどおりの顔に戻っていた。俺から離れ、PCルームのゲーミングチェアに腰をかけると、長い脚を組んで言った。


「匿名熊の実力が引き出せないひとと組んでフルメンよりも、『匿名熊』とふたりで組んだほうが、まだ優勝の見込みがあるって、あたしそう考えてるくらいだから。そんくらい頼りにしているんだから、勝手にひとりで萎えないでよね!」


 俺には、なにも言えることがなかった。

 彼女が俺をそこまで買ってくれているというのは、シンプルにありがたい話だ。本心で、俺はそれを嬉しく思う。

 が、それでは事態は好転しない。

 かりに赤城さんがいうようにふたりで出場したとしても、それこそ勝てる見込みはゼロだ。一枚欠けで優勝できるようなぬるい戦いではないのだ。


 メンバーは確実に必要だ。だが、どうすれば……。


「てか、思い出したらちょっとムカついてきちゃったなー……! なにあのひとたち、いいんちょくんのほんとの実力も知らないで好き勝手なこと言って! 『匿名熊』が本気になったら、あんたたちなんて束になってもプップのプーだっつーのー!」

「……プップのプーとはなんだ?」

「知らない、なんか口から勝手に出た! それより、いいんちょくんも落ち込んでないで、どうしたらいいか考えてよ。もう時間ないのはたしかだし、やりかたを考えなきゃ。こっちから条件出してないで、だれでもいいからメンバー入れちゃうとか……まあ、博打にはなるけどさ」


 少しばかり苦々しい顔でスマホで人探しをしていた赤城さんは、そこでふと思いついたように俺のほうを向いた。


「てかさ、思ったんだけど、いいんちょくんの知り合いでだれかいないの? これまでいっしょにルシをプレイしたことある同級生とか、なんかこのひととだったらいつもどおりゲームできそうって思えるひととか」

「いや、そんなひとは――」


 脊髄反射で答えようとして、俺の言葉は止まった。

 ——いる。

 ひとりだけ、いるには、いる。

 赤城さんに言われるまで、まったく頭に浮かんでいなかった候補だが……。


「——ありかもしれないな」

「え、いんの!? ならめっちゃ話はやいじゃん!」


 喜ぶにははやい、と俺は思った。

 なんといっても、その相手はズブの素人だからだ。電甲杯に連れていくというのは、本来であれば考えられないことだ。

 だが――俺は思う。本来というのなら、俺が出場することがそもそもおかしいのだ。すでにおかしなルートに来てしまっているのなら、ここにきて躊躇などしないほうがいいのかもしれない。


 俺は立ち上がると、軽く身なりを整えた。

 床に顔面をめりこませている場合ではない。

 今さらながら、ギャルに任せきりなどという非委員長的なおこないを顧みて、俺は提案した。


「赤城さん。もし赤城さんが、ほんとうに俺とふたりだとしても出るという気概があるのだったら、会ってもらいたいひとがいる――俺のともだちだ」


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