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形見のペンダント

終わります

「マリー、そのペンダントは母君の形見なのだろう?」

「え…?」


マリーナは大きな目をさらに見開く。そして大事そうにペンダントを握りしめ、頷いた。


「はい…これは母の形見…」

「そうだろう?それをルビーナ嬢にみすぼらしいとかゴミだとか言われて取り上げられていただろう?」


ウィルが優しく問うと、マリーナは再び気まずそうな顔でルビーナを見やり、ルビーナも呆れた顔でため息をついた。そのやり取りで嫌な予感がしたウィルだったが、やはり予感は的中した。


「いえ、その…大変言いづらいのですが、誤解です。あと私の名前はマリーナです」

「どういう誤解なんだ!?」

「これはその…母の形見を…イメージしたものなんです」

「は…?イメージ…?どういうことだ?」


意味が分からない。


「ですからその…ロケットペンダントって母の形見っぽいかな?って」

「…ぽい?」

「ええ。中に若いころの父の絵姿とか入ってたらぽくない?って」


しどろもどろに説明しながら、マリーナはロケットをぱかりと開ける。

中には確かに若かりし頃のドラグーン侯爵らしき美青年の絵姿がおさまっている。


「母が亡くなったら、これを形見にしようって、ね?お姉様」


マリーナに話を振られたルビーナは露骨に嫌な顔をする。


「ね?ってなによ。共犯みたいに。私は反対してるわよ、常に」

「共犯というか、これ作ったのお姉様じゃない。主犯よ」

「あなたね…。確かに、作ったのは私だけれど。10歳の頃に適当に作った価値のないものだし、母の形見とか意味不明な代物にされるなんて思ってもみなかったもの」

「価値のないだなんてひどい!お姉様が一生懸命作ったものなのに…!私は肌身離さずつけているのに…!」

「本当にやめなさいよ、その意味わからない嫌がらせ!だいたいお母様は生きてるじゃないの。縁起でもないからやめなさい」


生きてるの!?

まわりはみんなびっくりして声も出ない。

ドラグーン侯爵はやれやれと言った風に娘たちを見守っている。いつもの日常風景なのだろう。

ルビーナに叱られたマリーナは口をとんがらせてすねた顔を作る。


「でも…。形見っぽい、とか死んだら形見にしてってノリノリでお父様の絵姿を入れたのお母様本人だし…」

「……」


ウィルをはじめ、姉妹のやりとりを見ていた者は全員わかった。

この2人は、ただの仲良し姉妹だと。

しっかり者で礼儀正しい姉と、おっちょこちょいだが愛されキャラの妹。


悪役令嬢もヒロインも存在しなかったのだ。






◆ ◆ ◆






「この度は大変失礼をした。申し訳ない」

「「「申し訳ありませんでした!!」」」


数日後。

王宮に招待されたドラグーン侯爵令嬢達は、王子と側近3名から謝罪を受けた。

殿下に頭を下げさせるなんて、と慌てふためいたルビーナは自分も頭を下げた。


「こちらこそ誤解を招くような事をしてしまい申し訳ありませんでした」

「いやいや、我々の思い込みで不快な思いをさせてしまい…」

「いえいえ、そんな事は…。むしろせっかくの夜会の場を台無しにして…」

「それをいうならばこちらこそ…」


謝罪合戦に突入してしまったその場を横目に、マリーナは出された最高級のお茶を飲み、「これどこのお茶ですか?」と侍女に話しかけている。


「だいたい、あなたが令嬢としての礼儀作法をしっかりと身に着けていないせいでこうなったのよ」

「えっ、びっくりした。お姉様ったら突然私に話を振るの?」

「あなた、他人事みたいな顔してお茶をいただいてるけれど、当事者でしょう。主犯でしょう」

「やだ、お姉様ったら。照れますわ」

「もう…。あなたは本当に意味がわからないわ」


はぁぁ、と息を吐くルビーナは、心底疲れた顔をしている。

マリーナはお茶菓子を頬張りながらふふっ、と可愛らしく笑う。


「だって、私たち貴族のご令嬢をやるのなんて3年ぶりくらいでしょう?お姉様みたいに器用に令嬢の振る舞いが出来る方がおかしいと思うの」


マリーナの言葉に、首を傾げる男達。

ご令嬢をやるのなんて3年ぶり?


ルビーナは彼らの疑問を読み取り、説明をしてくれた。


「ドラグーン領はその名に由来する通り、竜騎兵の末裔が多く住んでおります。数百年前の大戦時は私達の先祖が竜騎兵団の団長をしていたそうで、勝利に貢献した報奨として侯爵を賜ったとか」


竜騎兵が多くいる、すなわち竜もたくさん生息している。

ドラグーン領は竜の襲撃に絶えずさらされ、その度に返り討ちにし、従属させてきた。

そんな土地に生まれ育ったドラグーン領の民達は皆屈強で、冒険者や傭兵として各地に出稼ぎに行く者も多い。

戦のない、ここメイベルン王国よりも、他国との侵略戦争に明け暮れている隣国からは重宝されている。

側近達が貴族達から聞いたドラグーン家が隣国相手に行っている輸出業というのは、要するに傭兵派遣の事だった。


「私や妹も竜騎兵として戦地に赴くことが多いのです。ですから、貴族令嬢としての教育はあまり熱心に受けたとは言えず、あのように…」


ルビーナは、口いっぱいに食べ物を頬張って幸せそうにケーキを食べているマリーナを見てため息をついた。

エドワード、フィリップ、ジルの3人は、ルビーナの話を聞きながら、どこかで聞いたことのある話だな…と記憶を探っていた。


「『竜王の巫女姫~ドラゴンハート~』…」


ウィルがぼそりと呟く。

その瞬間、3人は思い出した。

あっ、これウィルが数年前に薦めてきた恋愛小説の内容にそっくりだ、と。

いや、そっくりかどうかは実はそんなに思い出せない。

なんか、勇敢な少女が竜に乗って人々を救って、最後には共に戦う中で愛を育んだ王子と結ばれるような感じの話だった気がする。

そして、思い出すと同時に嫌な予感がした。そしてその予感は的中する。


「ルビーナ嬢、マリー嬢、俺も竜騎士になれるだろうか?」


ほら~!!!

『愛きら』の王子の次は『ドラハ』の王子になろうとしてるよ~!


側近3人組が「無理だって!」と止める前に、ルビーナとマリーナはあっさりと言った。


「なれますよ」

「本当か?」

「ええ。ドラグーン領に来て竜を従えられたら誰でも竜騎兵になれますわ」

「竜を従える…?出来るのか?そんな事が」

「簡単ですよ。竜を倒せばいいだけですもん」


何てこと無いように言ってのけるルビーナとマリーナ。

いやいや、竜って、この大陸最強のモンスターでしょうが。

王都でぬくぬく平和に浸ってた王子様が倒せるわけがないでしょう。

側近達はそう思ったが、「そうか、それはシンプルだな」とか言ってやる気になってるウィルの手前、言い出すタイミングを逃した。


数日後、ウィルと、側近だからという理由で3人も一緒にドラグーン領に行くことになった。

王と王妃、兄王子達は可愛い末っ子とその側近達が男らしく旅立つのを誇らしそうに見送った。

いや、止めろよ。と3人は思った。


引くほど険しい断崖絶壁だらけのドラグーン領で、吐くほど厳しい試練を越えて、なんやかんやあって4人共仲良く竜騎兵になった。意外と素質があったようだ。


エドワードは、俺、文官なんだけど…と思いながら。

フィリップは、俺、次期公爵なんだけど…と思いながら。

ジルは、まぁ俺は護衛騎士だし、竜騎士の方が上級職っぽくてかっけぇからいっか、と思いながら。


そして、美人姉妹に振られたウィルは新たなロマンスを求めて、今日も隣国で戦いに明け暮れるのであった。

最後怒涛の展開過ぎて、書いた私も戸惑っています。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです! お母さまが生きてたところ吹きました。 ザ・エンターテイメントです。
[良い点] 上手いことお約束を外していること。 特に妹が野生児っぽいのは早い段階で察せられたんですが、 姉が猫被ってるだけなのは予想GUYでした。 [一言] >そして、美人姉妹に振られたウィルは新たな…
[良い点] 面白かったです! オタクな王子の影響で、側近達も色眼鏡がかかって見えてたんですね、きっと。 仲良し姉妹に、ホッコリしました!
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