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救われた世界、救われなかった村  作者: こまりさ


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最終話

 【——10年前——】


 「ここは? 君は誰?」

 「ここは学者都市オーパック。儂はラストラック=ウォーターバレー。この都市で第1級学者をしておる。お主は時を統べる魔王を討つべく召喚された」


 私、さっきまでなにしてたっけ?

 気づいたら見知らぬ部屋に立ち尽くしているんだけど……。


 仰々しい格好をした、少し気難しそうな若い男性がいたから尋ねてみたところ、返ってきた答えがこれ。

 

 「儂? 君は見たところまだ若そうだけど?」

 「儂はお前さんと同じ日本出身で、70歳の時にここに転生してきたからな。実年齢だと90歳以上だ」

 「ほえー、すごいねー」

 「で、状況は分かったのか?」

 「なんとかの魔王を倒すんでしょ? できるかどうか分からないけどやってみるよ」


 私の言葉にラストラックさんは溜め息をついてるけど、でも呼んだのはそっちでしょ? せっかくだから頑張るよ。


 「ところでお主の名前は?」

 「椎名ユリ、19歳だよ!青春真っ盛りの女の子を呼んだからには責任取ってもらうからね!」


 ***


 【——9年前——】


 「この村で採れた鉱石で作った武具を使えば、魔族に対抗できるらしいぞ」

 「なんでそんなことが分かるのさ」

 「それが儂のギフトだからな」

 「ずるーい!私もギフト使いたかった!」


 とある小さな村にわざわざやってきたのは、魔族に対抗するための武具を作るためだって。それよりも私もギフトを使いたいよ。

 

 「仕方なかろう。転移者のお主はエーテル自体を認識できんだろ? それを空気のように理解できんとギフトは使えん」

 「だってスエキチは使ってるじゃん!」

 「日本名で呼ぶなと言ってるだろ」


 だってラストラックとか呼びづらいし、最後の幸運なんて縁起悪そうだもん。それならスエキチのほうが親しみがあるよ。


 「分かった分かった、そのうちギフトを譲渡できる方法を考えるから、取り敢えず鉱石を取りに行くぞ。みんな先に行って待ってるぞ」

 「やったー!約束だからね!」


 ***


 【——8年前——】


 『お前みたいな小娘にやられるとは……』

 「そのために召喚されたからね、覚悟してね!」

 『まあ待て、最後にいいことを教えてやろう』

 「ユリ!耳を貸すな!早く討て!」

 「まあ、いいじゃん。もうこいつはどうしようもないんだから」


 遂に魔王を追い詰めた私たち。

 魔王は胸から流れる青い血を片手で押さえて膝をついている。因みにもう片腕はあっちの方に転がってる。


 きっとこのまま放っておいても助からない。時間の問題だ。すぐにとどめを刺そうと思ったけど、魔王が何か言い残したいことがあるみたい。


 いいんじゃない、言ってみれば。

 武士の情けだよ、最後に聞いてあげる。


 『我は我を討つ者とその関係者に時の呪いをかけた』

 「時の呪い?」

 『我の死をきっかけに発動するそれは、呪いの対象を時の牢獄に閉じ込める』

 「なんのためにそんなことを? 死ぬ前の嫌がらせなら随分悪趣味だね」


 こっちにはスエキチがいるんだ。きっとどんな呪いでも解析して解いてくれるはず。そう思ってスエキチをチラリと見ると、私の想いが伝わったのか、力強く頷いてくれる。


 『なんのため? そんなこと決まってるだろ。時の牢獄に閉じ込められた者から、我が戻ってくるためのエーテルを吸い上げるためだ』

 「どういうこと?」

 『今の我では貴様らや貴様らの持つ武具には勝てん。だから力を蓄えることにしたのだよ。さあ、我を討つがいい!しばしの眠りで力を蓄え、貴様らが寿命を迎えた未来に再び我がこの世界を蹂躙してくれようぞ!』

 「スエキチ……」


 私がスエキチの方を振り返ると同時に、彼の炎のギフトが魔王に向かって放たれた。


 魔王は断末魔をあげるまもなく、一瞬で灰になった。


 「……いずれにしても魔王を生かしておくわけにはいかんからな」


 ***


 【——7年前——】


 「どう?」

 「……あった」


 魔王を倒した後、私たちは自分たちに縁のある場所を巡っては、魔王の呪いの痕跡を調査して回った。


 ここまで、私たち以外に呪いを受けた人はいなかった。もしかして魔王のハッタリだったのかも。そう思わなくもなかったけど、私たちにはしっかり呪いがかかってたからね。


 他にも呪われてる人がいるかも……そう思いながら各地を巡り、魔王討伐から1年後。最後の縁の場所である鉱石が採れた村にやってきた。


 そしてそこで、私たち以外にかけられた、最初で最後となる魔王の呪いを見つけた。


 「解除……できる?」

 「できないとは言わないが……」

 「言わないが?」

 「時間がかかる」


 でもできるんだね、さすがスエキチ。


 「だが……」

 「どうしたの?」

 「呪いの範囲と効果自体はすぐ分かった。いや敢えて分かりやすいようにしておったのか……」

 「え?どんな効果?」


 スエキチから聞いた呪いの範囲と効果。


 範囲はこの村の住民を含む村全体。

 効果は私が召喚されてからぴったり10年後に、呪いの対象を10年前に戻すこと。しかし時は戻っても記憶は継続され、記憶以外はすべて元に戻る。


 呪いと言うからには、もっと苦しんだり傷つけられたりするものだと思っていた私は少し安堵してしまうが、それをスエキチに咎められる。


 「10年という時を繰り返し、しかもその記憶がいつまでも消えることなく残り続けるだなんて、文字どおり牢獄以外の何物でもない」

 「そうなの?」

 「作り上げたものは元に戻り、病に苦しむ人は治ることなく苦しみ続ける。赤子から少年になっても、また赤子に戻る。10年以内に死んだものは、また死ぬために蘇る。そして、そのすべての記憶を失うことなく持ち続けるんだ」


 私は私を殴りたくなった。

 なにが大した事ないだ、さすがは魔王の呪いだ。

 これはまさに時の牢獄という名前に相応しい。


 「スエキチ……」

 「しかもこの呪いは外からの干渉をほぼ受け付けないくらい強固にできておる。儂らは呪いを受けているからここにいれるが、呪いを解除したらここにいることさえできないかもしれん」


 やっぱりあの魔王、性格最悪だね。

その力をもっと違うことに使えばよかったのに。 


 「スエキチは私たちのかけられた呪いは解けるんだよね?」

 「ああ、一緒に旅してた仲間の呪いを解いたように、儂たちの呪いもやろうと思えばすぐに解ける」

 「それじゃなんでこの村の呪いを解くのには時間がかかるの?」

 「この村の呪いは人ではなく土地にかかってる。そうなると解析も解呪も、人にかけられたそれとは全然違う」

「そっか」


 私はスエキチの言葉を聞いて少し考えた。 

 魔王のこと、呪いのこと。

 なんでこの村が呪いの対象になったのかを。


 そしたら分かってしまった。


 そっか、なるほど。

 魔王の立場になって考えてみたら、すぐに分かった。

 そりゃ魔王もこの村を呪いたくもなるよね。


 でもそれって、呪いの解き方をおしえてくれてるようなもんだよ。魔王ともあろうやつが詰めが甘いな。


 「旅の間にギフトを譲渡できるようになったんでしょ?」

 「ああ、そうだが……それとこれに何の関係が……」

 「人の記憶を消すギフトってある?」

 「儂を誰だと思っとる」

 「それじゃ記憶したこと忘れないギフトと覚えたことを書き出すようなギフトは?」

 「記憶保護と外部出力か……ここにメモリなんてものはないから紙に書き出すことになるが、それでもよければ後でオリジンギフトを構築するが」

 「そっか、ありがと」

 「お主、なにを考えておる?」


 スエキチは私のやろうとしてることに勘づいたのかな?

 いくら止めても無駄だよ、もう決めたからね。


 「この呪いってさ、魔王を倒したここの鉱石があれば解除できると思うんだよね」

 「……そうだな、確かにそうかもしれんが、鉱石自体がこの村からしか採れん以上、研究のしようが……お主まさか!」

 「あれ? 気づいてなかったんだ」

 「お主は自ら時の牢獄に入るというのか?」

 「だってこれしか方法なくない?」

 「それは……」


 そんなに辛そうな顔しないでよ。

 時の牢獄も悪くはないよ。だって私、永遠に20代のままでいられるんだから。


 「記憶を消すギフトで、時が巻き戻る度に村人の記憶を消すよ。記憶を保護するギフトと出力するギフトがあれば、研究の成果だって次の時に引き継げる。そうやって研究を重ねていけば、いつかは呪いを解けるかもしれない」

 「バカな! それにはいったいどれだけの時を使うと思っとるんだ! それに村人は記憶を消すからいいかもしれんが、お前はどうなる?何十、何百、もしかしたらそれ以上の時を誰とも共有できず1人で過ごすことになるんだぞ!」

 「ま、仕方ないよね。魔王のしでかしたことだから責任取らないと……ね」


 私は魔王を討つべく召喚された、どこにでもいるただの女の子。でもそれなりに自覚と責任はあるつもりだ。


 「……どうしようもないバカだな、お前は。仕方ない……」

 「いや、スエキチはだめだよ」

 「なぜだ!」


 なんだよ、頭がいい人は肝心な時には考えが回らないんだね。


 「スエキチまで呪いで村に残ることになったら、誰が外から助けてくれるのさ」

 「外からって、お前……」

 「スエキチなら呪いを解除したあとでも手紙くらいならぱぱぱっと届けられるでしょ?」

 「しかしお前、この村の外と中では時間の概念が異なるんだぞ。儂が手紙を出した先が何回目のお前なのか、知る術もないんだぞ」

 「そんなのなんとかしてよ、スエキチでしょ!」


 ***


 【——?年前——】


 私は結局、私の主張どおり村に残ることになった。


 スエキチは記憶を消すギフトと記録の保護と出力するギフトを私に譲渡して、外の世界でできることをすると約束をしてくれた。


 私は村に移住してきた者として新たな暮らしをはじめた。性別を偽り、名前も椎名ユリではなくユーリ=シーナと名乗った。これは私が村の住民であることの主張だ。


 これで呪いが私を対象としてくれればいいけど……。


 ***


 【——10年前(2回目)——】

 

 10年が経ち、時が戻ると、私はこの村にいた。


 召喚された場所に戻るはずの私がこの村にいるということは、無事に住民として認められ、時の牢獄に囚われたようだ。これで安心して研究が続けられる。


 村人の記憶を消し、記憶した研究内容を出力する。

 さあここからは研究三昧だ、忙しくなるぞ。

 

 万が一、かつての私がこの村を訪ねてきても、名前と性別を変えてるから同一人物だとは気づかれないだろう。



 スエキチからは何通かの手紙をもらった。

 その中で鉱石研究をしている学者が呪いを解くヒントをくれるとあった。その人は呪いを解くヒントをくれるだけでなく、私にとって必要な存在になるらしい。


何のことかよく分からないけど、きっとスエキチがいつだったか自慢していた、色んなことが分かるギフトを使って分かったことなんだと思う。


それにしたって、その学者さんがスエキチ以上に必要になるなんて思えないけどね。


それともう一つ。


10年が終わる1週間前になると、呪いにわずかな綻びができることが分かったらしい。この時ならば、鉱物研究者を村に招き入れることが可能とのことだ。


さすがはスエキチ、すごく有益な情報だ。

わずか1週間とはいえ、専門家の力を借りることができるなら、こんなに心強いことはないよね。


***


 【——?回目——】

 

 この手紙は毎回送られてくる。毎回ほとんど同じ文面にだから、外の世界では最初の10年のまま、この村だけが同じ10年を何度も繰り返しているのだろう。


 綻びの時期を利用して、来てもらった鉱石研究学者ノラ=ノーマンには何回も、何十回も、何百回もかけて、少しずつ鉱石のことを教えてもらっている。


 これで何度目の10年なんだろう。

 あと何回繰り返せば辿り着くのだろう。


 私はすでにそれを数えるのをやめていた。

 

 村人の記憶を消し、記憶を外部に写し、スエキチからいつもと同じ文面の手紙を受け取る。


 そんな変わらない日々の中で、10年間の最後の日にやってくるノラとの会話だけが楽しみだった。


 ***


 【——現在——】


 「今回もダメそうだな……」


 私は力なく呟く。

 見た目は20代だけど、中身は一体いくつなんだろう。


 もうすぐまた10年目がやってくる。


 時計を見つめる。




 5


 4


 3


 2


 1





 私は目をつぶる。

 そして——。

 

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― 新着の感想 ―
バッドエンド・・・なのかな? 読了後に、この後どうなるのかな、次は上手くいくのかな? ダメなら何度でもやればいいよね!! って、勝手にポジティブにとらえてました! 最後に救いを持たせてくれた『優しさ』…
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